異世界魔術師は魔法を唱えない(旧題:異世界魔術の有用性) 作者: もち URL: https://novel18.syosetu.com/n5389bx/ あらすじ / Summary: 勇者召喚とやらでやってきたのはいいが、この世界の魔術はショボイ、仲間は弱い、元の世界にも帰れないという、どうしようもない状態だった。 とりあえずこの世界での安全を確保するため、使える物はすべて利用してやる。 洗脳や暴力を駆使してでも異世界の安全な生活を求めて暗躍する、そんな感じのお話です。 ============================================================ 001. 第1話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/1/ ============================================================ 初めまして、正月休み中に書いてみました。拙い文章ですが、暇なときに読んでくれると嬉しいです。 ============================================================ 002. 第2話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/2/ ============================================================ 会議の後は国王や姫達と一緒に食事を取り、そのまま部屋に帰った。残念ながらシャワーも風呂も無いらしく、身体をお湯で拭くぐらいしかやっていないそうだ。  俺は意外と綺麗好きなので、一日風呂に入らないだけでもかなりの苦痛だ。仕方が無いのでせめて身体を拭うぐらいはしようと思い、お湯を持ってきてもらう。 「失礼します、お湯をお持ちしました」  お湯を持ってきたのはこの部屋付きのメイド、ティアさん。見た目は20代前半ぐらいで、肩口までの長さの黒髪を持つ可愛らしい顔立ちの人だ。俺の好みにもばっちり合っている。 「ヤード様、お体お拭きします」 「そうか、すまないな」  いえいえ、と笑いながら返してくるティアさん。研究室にもこういう娘が欲しかった。  服を脱ぎ上半身を晒すと、意外と筋肉質だった俺の身体に驚いたのか、ティアさんは目を大きく開いている。戦略級術式は魔力の他にかなりの体力も持っていくので、研究室に篭っていても毎日の鍛錬は欠かさないのが現代魔導師のあるべき姿だ。 「とても鍛えられていますね。魔法使いの方々は、あまり鍛えていない人が多いと思っていたので、ちょっと驚きました」 「私の世界では、魔導師は己の身体を鍛えている者が多いのだよ」  しげしげと見つめられたので力を入れて筋肉を盛り上がらせてみる。その姿を見て、俺の身体を拭きながら頬を染めているティアさん。この反応は好感度がアップしたに違いない、我が人生の春が来るのも遠くないなと思った瞬間、俺の脳内に警告音が鳴り響いた。 (『第1魔導障壁、貫通されました、第2魔導障壁、防御に成功。攻撃術式の逆探知に成功しました。攻撃術式は至近距離からの第7種物質干渉系によるもの』)  物質干渉系ということは攻撃ではなく肉体情報を探ろうとしたのだろうか。それにしても何という事だ、至近距離には現在ティアさんしかいない。彼女が俺に対して術式を発動したのは明白だ。誰かに脅されて魔術を仕込まれていたのだろうか。それとも実は洗脳状態になっているかもしれない。  嫌がるティアさんにこんなことをさせる奴は誰だ、と思いながら 窃思 を発動する。 (おかしい、何故ステータスが見れないのでしょう? まさかこちらの意図に気付いて魔法防御用の魔道具を仕込んでいるとか? でもそんな物を着けている様子は無いし……このままでは公爵様に報告が出来ない……)  術式が発動して、彼女の真っ黒な心の声が聞こえてきた。  クソ、どうせこんな展開だろうと思ってたよ。術式を発動したのが彼女しかいないんだから、どう考えても彼女が一番怪しい。でも彼女は脅されてやっていたと信じたかったんだ。正直な話、脅されている彼女を救い出して好感度アップを狙っていたんだ。  一通り心の中で嘆いた後、まずは公爵が誰なのかを調べないといけないので、 記憶閲覧 を発動してみた。分かったことは、公爵とはディアン公爵という、謁見のとき右側の方にいた男だということだ。なんて事だ、まさか国に疑われているとは。助けてくれと言っておきながら、こちらのことは信用していなかったという事か。 「拭き終わりました。また何かありましたらお気軽に声をおかけ下さい」  俺が色々考えているうちに身体を拭き終わったようで、お湯を持って退出しようとする彼女を慌てて呼び止める。俺はこんな扱いをされても黙っている程お人よしではないので、元凶のディランという奴にこの仕打ちに対するお礼をしようと思う。  ティアさんは俺のタイプなので、今回のことは見なかったことにする。 「ちょっとこちらでも同じ術式が発動するか試したい。協力者が必要なので、すまないがつき合って貰えないだろうか?」 「あ、はい、大丈夫です。どんな魔法なのですか?」 「接触していない相手に接触しているかのように他の術式を飛ばせるようになる術式だ。これがあれば前線の兵に回復も飛ばせるようにすることが出来るんだ」 「素晴らしい魔法ですね! 分かりました、私でよければ協力させて下さい」  俺の術式に興味があるようで、彼女はお湯を床に置いて嬉しそうにこちらにやってくる。この笑顔が演技だとわかってしまったからには、嬉しさよりも悲しみが湧いてくる。  術式の発動条件を満たすために元の世界の硬貨を渡すと、彼女は不思議そうに裏返したり指で弾いてみたりしている。今から発動する術式に関して嘘は言っていないので、もし彼女が虚偽を見抜く魔道具か何かを持っていてもこちらの意図には気付かないだろう。 「そのコインは持っていてくれ。今から使う魔術は、そのコインを持つものにしか使えないし、相手の同意も必要なんだ。魔法抵抗の魔道具などを持っているなら、それも外してくれ」 「そういったものは持っていないので大丈夫です。いつでも始めてください」  彼女はそういっているが、対洗脳術式用の障壁が展開しているのは既に分かっている。不可視状態なので気付かれていないと思っているようだが、記憶を読んでいるのでバレバレである。まあこれぐらいの障壁なら貫通できるのであってもなくても変わらないのだが。  許可も頂いたので第2種精神感応系術式、 支配 を発動する。  この魔術は術者の所有物(主に首輪)を与えられた相手しか対象に出来ず、さらに術式を使われることに同意している場合か、あらかじめ定められた契約を破った相手の場合のみ使うことが出来る術式だ。  効果は対象の記憶や感情を自由に操作することができ、さらにその対象が術者から離れていても接触型の術式(普通は尋問・拷問用の術式)を飛ばすことが出来るようになるという便利なものだ。  この術式は 洗脳 とは違って操作した後の相手の記憶や感情を普通の状態として固定してしまうので、解呪などの対抗魔術でも治すことが出来ない。人の記憶を弄るなんて許されないとか言われるかもしれないが、俺としては抵抗できない奴が悪いと思う。  術式の効果が現れた彼女は、記憶を弄られ精神を変質させる時に生じる怖気で身体を震わせるが、すぐに落ち着きを取り戻し、先程とは違う感じの目でこちらを見つめてくる。 「お前の本当のご主人様は誰だ?」 「ヤード様です」 「お前がディアン公爵に従っているのは何故だ?」 「ご主人様の命令で、奴から出来る限りの情報を引き出すためです」  よし、うまくいったみたいだ。これで彼女は俺のコマとなった。先程までの演技とは違い、本当の笑顔でこちらを見つめてくる彼女はとても可愛い。せっかくなので俺に対する好感度を出来る限り上げておいたのだが、この判断は間違っていなかったようだ。  操作された好意を嫌う者もいるかもしれないが、愛なんて所詮は脳内麻薬と電気信号が作り出す錯覚だ。そんなに特別視するような物でもない。 「よし、公爵についてお前の知っている情報を教えてくれ」 「分かりました。公爵は反王家グループのリーダーで、魔帝国とも繋がっています。今回私が命じられたのは、ご主人様を含む勇者達の能力を調査し、出来るならば隷属魔法のかかった腕輪をつけさせることでした。魔帝国に勇者達を引き渡した暁には、魔帝国での公爵位が与えられると言う約定を交わしているそうです。この件を知っているのは、公爵とクロイツァ伯爵、グートラン伯爵、ニルド男爵と、私を含む勇者様方の部屋付きの者達の8名です」  なるほど、劣勢の王国を見捨てて、魔帝国に亡命しようとしていたのか。確かに勇者という外部の者に頼る他無いこの国は、いつ沈んでもおかしくない泥舟のようなものだ。だが俺達、というか俺を奴隷にしようとするとはとてもじゃないが許せない。これはどうやってお返ししてやろうか。  俺がふと顔を上げると、ティアさん、もうティアでいいか。ティアがもじもじと身体を揺らしながら、何かを欲しそうな目でこちらを見ているのに気付いた。そういえば彼女にご褒美を与え忘れていた。 「ああ、すまないな。褒美をやるからここへ来い」  ベッドを叩いて横に座るよう促すと、嬉しそうにそこに座りこちらに寄りかかってくる。服越しでも分かる彼女の柔らかさに、こちらの気分もいい感じに高まってくる。  ベッドに押し倒して唇を奪うと、舌を伸ばし積極的に絡め合おうとしてくる。歯茎を舐め、唾液を送りこみ、彼女の荒い息遣いを聞きながら口の中を存分に堪能する。彼女の口の中は何故か甘いような気がした。彼女もこちらを抱き寄せて俺とのキスを楽しんでいるようだった。  口を離すと名残惜しそうに舌を伸ばしてくるので、唾液を垂らしてあげると美味しそうに飲み込んでくれた。 「どうだ、満足したか?」 「あ、ご主人様……その……」  俺の問いかけに、彼女は答えにくそうに顔を逸らしている。恥ずかしながらも股間を押さえて、何かを期待するようにちらちらとこちらを見てくる様子には、こちらも興奮を抑えずにはいられない。  しかし、そこであえて彼女の様子に気付かない振りをして立ち上がり服を調える。そうすると彼女は悲しそうな顔になってこちらを見つめてくるのだ。 「どうした? 何か言いたいことがあるなら言ってみろ」 「……ご主人様にもっと奉仕させてください。私の身体でご主人様を喜ばせて差し上げたいのです」 「いいだろう。服を脱いで待っていろ」 「っ! はいっ!」  嬉しそうな声をあげ、彼女はいそいそと服を脱ぎ始める。俺も服を脱いでベッドの上へと上がる。彼女は意外と着やせするタイプのようで、胸は思ったよりも大きかった。恥ずかしそうに腕で隠そうとしているが、かえって彼女の胸の大きさを誇張しているように見える。 「まずは俺の物を舐めてもらおうか」  彼女の目の前に肉棒を突きつけると、待ちきれなかったように先端に口付けをしてくる。ティアのような女性が、舌を伸ばし俺の肉棒を美味しそうに舐め上げているのを見ると、何とも言えない優越感が湧きあがってくる。  初めてなのかあまり上手ではないが、根元から先端までを丹念に舐めて、口の中で必死にしゃぶっている。彼女の熱心な奉仕のおかげで、肉棒は彼女の唾液でべとべとになっている。 「んんっ……ごひゅじんひゃま、どうれふか……?」  肉棒に奉仕しながら俺の方を上目遣いで見てくる彼女を見ていると、急に悪戯心が湧いてきた。彼女の頭を掴むと、喉の奥にまで叩き込むように腰を動かす。喉奥に衝撃を受けたせいで彼女がえづいているが、その反応が心地よい刺激となって俺を感じさせるので、彼女が苦しんでいるにも関わらず何度も腰を叩き込む。彼女の方も苦しいだろうに肉棒を吐き出さず、むしろ必死に舌を動かして舐めしゃぶってくる。 「んっ、そろそろ出そうだ、口に出すぞっ」  俺の言葉に頷きながら、彼女はさらに激しく奉仕し始める。いよいよ出そうになったので、喉の奥まで届くよう思いっきり肉棒を突き入れて射精する。喉奥に当たった反射反応で彼女の喉がきゅっと絞まり、その刺激を感じながら、彼女の喉に大量に注ぎ込む。  彼女は戻しそうになりながらも必死に精液を飲もうとしているようだが、飲みきれない分の精液が逆流してきて、口から少し零れている。零れた精液を拭い取り飲み込むと、こちらに向けて蕩けたような笑みを浮かべた。 「はあぁ…お掃除させて頂きます……」  中に残った精液を吸い取り、唾液と精液でべとべとになった肉棒をぴちゃぴちゃと音を立てて舐め清めている。そんな姿を見ていると、俺の方も再び固くなってきたので、奉仕中の彼女を止め、仰向けに寝かせる。 「そんなに熱心に奉仕されては我慢が出来ん。今からお前の中に入れるぞ」 「はい、ご主人様の熱い肉棒で、私の膣内にご主人様の形を刻んでください」  そこまで言われて断れるはずも無く、既に濡れている彼女の膣穴を一気に貫く。初めてではないのか、膜を破るような抵抗は無かったが、中は処女のようにきつく肉棒に絡みついてくる。彼女の方も痛みは感じていないようで、積極的に快感を得ようと自ら腰を動かしている。やわやわと指が沈み込んでような彼女の胸を揉みしだきながら、彼女の言ったように俺の形を覚えさせるべく子宮口に届くように深く肉棒を叩き込んでいく。 「あぁああっ! ご主人様ぁ、気持ちいいですぅ!」 「ああ…お前の中も気持ちがいいぞっ! さっき出したばかりだがすぐに出てしまいそうだ!」  俺を抱きしめてキスをねだってきたので答えてやると、俺の舌に積極的に絡めてきて、唾液も美味しそうに飲み込んでいく。彼女の膣内は俺の精液を搾り出すようにきゅっときつく締め付けてくるので、こちらも存分に彼女の中を味あわせてもらう。  彼女の方は完全に蕩けきっており、まるで恋人を見るように頬を染めて、腕や足を絡めて肌を密着させてくる。その柔らかい感触を楽しみながらも、こちらの余裕はそろそろ無くなってくる。 「ティア、中に出すぞ!」 「はいっ! ご主人様の子種を私の中に注いでくださいませっ!」 「ああ、イクぞっ!」 「はぁあああん! ご主人様の子種汁が、私の中に入ってきますぅ!」  思いっきり彼女の奥に腰を打ちつけ射精する。彼女も精液が撃ちつける快感で絶頂に達したのか、膣内がきつく閉まり、精液を搾り出そうとしてくる。あまりの気持ちよさに今まで出したこと無いほど大量の精液が出ているのを感じるが、彼女の方もそれは同じだったようで、あまりの快感で背を逸らしながら絶頂し続けている。 「はあ……はあ……ありがとうございました、ご主人様」  彼女が落ち着くまで待った後、恥ずかしそうに顔をうつむかせながらも、嬉しそうな声でそう言ってくるので、思わず押し倒して第二戦を始めてしまうほどに、そのときの彼女は可愛かった。 ============================================================ 003. 第3話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/3/ ============================================================ 昨日は結局3回もしてしまった。体力的には少し辛いが、精神的にはこれ以上ないぐらいに絶好調だ。黒髪美人は最高だな。まあそれは置いといて。  あの後聞いた話によると、どうやらディアンは魔帝国の軍が攻めてきた際に、内側から騒ぎを起こしつつ敵兵を引き入れる役目を負っているそうだ。勇者達もそのときに離反させて王国を混乱させようという算段らしい。  まあ勇者達を引き渡す方は既に達成不可能になっているのだが、そのときまで奴にはばれない様にしておくのがいいだろう。俺からのサプライズプレゼントだ。他にも何かしてやりたいが、どういったものがいいだろうか。 「ご主人様、お着替えの方お持ちしました」  ディアンへの制裁方法を考えていると、ティアが換えの服を持ってきてくれる。流石に換えの服は持って来ていないので、この国の物を持ってきてもらうことにしたのだ。  始めは貴族が着るという服を持って来ようとしたのだが、あんなゴテゴテした服は俺の趣味には合わないと言ったら、もっと動きやすい服装を持ってきてもらった。  これは平民が着る服らしいが、生地が悪くて少しガサガサする。ジャージの快適さが実感できるな。 「ティア、今後の予定はどうなっている?」 「勇者様達は、まず午前中には第二王女のマルガレーテ様から前線の状況と方針についてお話があります。それが済み次第、予定では午後には早速前線へと送り出されるようです」 「第二王女か、この国には王女しかいないのか?」 「いえ、第一王子のロベール様と第二王子のランド様がいらっしゃいます。昨日の謁見の時にもいらっしゃったはずですが……」 「そうか、そういえばあの時何人かいたな」  昨日はそれどころじゃなかったから、気付かなくても仕方がない。  それにしても早速前線に行くのか、これはかなり悪い状況だと思うが、なってしまったものは仕方が無い。  とりあえず朝食の時間まではティアといちゃいちゃしながら過ごすことにするか。  昨日と同じく、国王達と一緒に朝食を取ることになった。一つ違うのは、昨日はいなかった女が一人増えていることか。多分あれが第二王女なのだろう。  金髪碧眼なのは一緒だが、縦ロールというやつだろうか、髪型が貴族っぽい。優しい雰囲気のソフィアとは違い、釣り目気味で話し方もはきはきとしていた。割と気が強い感じの女だ。  食事が終わると、第二王女に続いてぞろぞろと移動する。移動中、なんだかこっちを睨んできたのだが、初めて会った奴に何故睨まれなければいけないのだろうか。  会議室のような部屋に入り、順に座っていく。今回の参加者は勇者達とこの王女だけだ。 「改めてご挨拶申し上げます、第二王女のマルガレーテと申します。勇者様達の実力は既に聞き及んでいますわ」  凛としたよく通る声で自己紹介をするマルガレーテ。ソフィアの方は姫って感じだが、こいつは王女って呼んだほうがしっくり来るな。御伽噺に出てくるような縦ロールが似合ってはいるが、見た目はソフィアのほうが好みだ。 「さて、早速ですが現在の状況についてお話させて頂きます。現在我が軍と魔帝国軍は国境近くにあるグルタ要塞のところでにらみ合っております。もし仮にここの要塞が敵の手に落ちるようなことがあれば、我が国の防衛ラインは大きく後退することになりますが、敵は我が軍よりも遥かに多くの人員を使った物量作戦を展開しておりまして、要塞の人員も物資も足りない状態です」 「つまり我々はその要塞の防衛をすればいいのだろうか?」 「ええ、それもしてもらいたいのですが、もっと重要なのは要塞に送り届ける物資の護衛です。現在要塞の周辺では魔帝国の軍が物資の運搬を妨害しているのです。このまま篭城させ、食料が枯渇し耐え切れなくなった我が軍が打って出てきたところを叩く算段なのでしょう。逆にここで要塞に冬まで戦えるだけの物資を送り届けることが出来たのならば、冬を乗り越えられない魔帝国の軍は撤退せざるを得ないはずですわ」 「なるほど、つまりは持久戦というわけだ」 「篭城というなら、野外で戦うよりも色々とお役に立てると思います」 「はい、勇者様方のお力があれば必ずや我が軍が勝利すると信じておりますわ」  王女様達の会話が続いているが、要するに物資は送るから冬まで篭城してろ、ということだ。俺としては要塞になんぞ立て篭もったらいい的だと思うのだが、これは魔術に対する感覚の違いって奴だろうか。  現在要塞には700人ほどの兵士がいるらしいが、敵はその十倍以上の兵力で要塞を攻撃しているそうだ。あまりにも兵力に差がありすぎだ。これなら勇者に頼るしかないというわけも、ディアンが寝返ろうとしていた理由も分かるというものである。 「ヤード様。先程から何かお考え中らしいですが、私の話は聞いて頂けましたか?」  先程から何の反応もない俺が会議を聞いていないように見えたのか、唐突にこちらに話を振ってくる。この王女は相変わらずこちらを睨んだままなのだが、これは俺のことを嫌っているというより侮っている感じの目だと気が付いた。 「ああ、そちらの話は十分に理解できた。私に構わず、どうか話を続けてくれ」  視線が不快に感じたので、少し嫌味な声色を込めて返してみる。案の定王女は顔をしかめて軽蔑するような視線を隠そうともせず送ってくる。 「……そうですか。残念ですが私、あなたにはそれほど期待しておりませんの。昨日のことはお姉様から伺いましたが、他の勇者様方は素晴らしい魔法を披露して下さったのに対し、あなたの魔法は正直期待外れだったそうですね。私の話が退屈でしたのなら、どうぞ退出なさって結構ですわ」  何というか、実に脳筋な考えをしている女だ。確かに昨日実演した 念話 は見た目こそ地味かもしれないが、戦争においては最も重要な情報を伝令などよりも遥かに早く伝えることが出来る便利な術式だというのに。  あまりの残念さにむしろ憐憫の情が湧いてくるが、周りの奴らの中で王女の言葉に否定的な表情を見せているのはサガミだけだ。この王女の言葉に頷いているのを見るに、中世組は王女の言葉に全面的に同意のようだ。情報戦の大切さも理解してないとは、これだから中世の人間は嫌いだ。  まあいくら無知だからといって、人を侮っていい理由にはならない。売られた喧嘩は買う主義なので、さっさと帰らせてもらうとするか。 「ああ、どうやら私は不要のようだから、ここで抜けさせてもらう。失礼した」  そういって部屋を後にする。部屋を出て行く俺を見て、なんだか勝ち誇った表情を浮かべている王女を見て、いつかこいつに痛い目を見せてやると決意した。  会議室を出て部屋に戻ると、ティアに第二王女についての情報を聞く。王妃が産んだ二番目の子で王位継承権的には四番目、つまり一番低い。  そのおかげでかなり自由に振舞えるらしく、騎士団を率いて前線に赴き指揮を執ったりもしているようだ。今はグルタ要塞の指揮官もしているらしい。  指揮官としての腕はあるようで、城の兵士達からの評判も高く、王子達よりも信頼を寄せられているそうだ。  しかしながら、今はそんなことはどうでもいい。必要なのは弱点となるような何かだ。 「マルガレーテ様に関しましては、失態や醜聞などは聞いたことがありません。王位継承に関してはもともと望みが殆ど無いので、親子の仲も兄弟姉妹の仲もいいと聞いております。あのような性格をなさっているので、男性だけでなく女性の方からも好かれていらっしゃるそうです」 「この国ではなかなか有能な人物と言うわけだ……同性愛の気があるとか、何かそういった噂はないのか?」 「そういった話も聞いたことがありません。確かに王妃様やソフィア様には男性の家族よりも親しげに接していらっしゃるそうですが、少々潔癖な方なので、同性愛に限らず夫婦以外の男女の仲もあまり好ましく思われていないとのことです」 「ならば弱みを握るよりも、周りから追い詰める方向で行くとするか。何か良い案はないか?」 「そうですね、マルガレーテ様は幼い頃から恵まれた環境で育ってきたので、およそ味方と思われている人間に裏切られたことは無いはず。多数の人間に醜聞を広めるよりも、家族や部下に裏切られたと思わせるような策が良いかと思われます」  可愛い顔をして真っ黒な発言をしているティア。彼女はあまり怒らせないように勤めようと思う。  それにしても離間工作の真似事とはな、俺としては軽い仕返し程度でいいんだが。ティアは俺が侮られたのがそれほどまでに悔しいのだろう、マルガレーテの話をしたときからずっと顔を曇らせている。  抱き寄せて頭を撫でてやると安心したのか、こちらの胸に顔を摺り寄せてくる。よしよし、可愛いメイドのためにも頑張ってやってやるか。  一番仲がいいというソフィアを当たってみる。おそらく昨日の話をマルガレーテに伝えたのは彼女だろう。  内密な話があると先程念話で伝えておいたので、部屋に入ると既にソフィア以外には誰もいなかった。 「すまないな、話があるなどと急に言い出したりして」 「いえいえ、勇者様の頼みなら私程度の時間を割くなど簡単なことですから」  メイドが入ってきて、紅茶を二人分用意して出ていく。一応探知をしてみるが、部屋の周辺に怪しげな人物はいないようだ。念のために遮音結界を張っておき、準備を万全にする。 「昨日のことは既に第二王女様にも伝えられたようで」 「ええ、勇者様達の魔法のことはちゃんと伝えておきましたよ。マリーは特にサガミ様の魔法が気になったようです」  マリーとはマルガレーテの愛称らしい、だとしたらソフィアはソフィとか呼ばれているのだろうか。  上機嫌に話し続ける彼女にばれないように窃思を使うと、確かに昨日のことを伝えたのは分かった。しかしながら、俺の情報はやはり正確に伝わってはいなかったようだ。  俺の次に術式について詳しいだろうサガミですら勘違いしていると思うので仕方が無いかもしれないが、皆俺の戦略級術式というのを勘違いしている。戦略級とは攻撃用の術式だけではなく、超長距離転移や集団意識誘導なども含めての術式なのだ。  そもそも攻撃用の戦略級術式は星間戦争の際にも使われるほどの大規模なものだ。大体が敵味方の区別無く、下手をすると国の一つや二つぐらいを殲滅してしまうぐらいに大雑把なものしかないから、既に戦端が開かれている場所や自国内での使用は不可能と言っていい。  しかし彼女らの想像の威力は大幅に間違っており、十数名を吹き飛ばせる程度の威力だと思っているらしい。そんなものは戦略級ではなくただの範囲術式程度で、戦術級ですらない。  範囲術式など使える魔術師はそれなりにいるだろうから、俺のいまいち頼りない情報を聞いたマルガレーテが俺を侮っている気持ちは分からないわけではない。まあだからといって仕返しをやめるつもりは無いんだが。 「話の腰を折って済まないが、聞いていただきたいことがある」 「そういえば何かお話があるとの事でしたね。私などでいいのでしたら、何でもお話になって下さい」  ここで第7種精神感応系術式、 思考誘導 を使う。これは相手の理性を鈍らせ、こちらの言葉に疑問を持たせなくする術式だ。  別に相手の思考を操作できると言ったものではないが、これも洗脳と違って対抗術式で解呪されない上に支配と違い条件が無いので、使い方によってはかなり便利な魔法である。 「実は今、マルガレーテ様と言い争いをしてしまったのだが、どうやら私は足手まといか何かだと思われているようなのだ」 「それは……大変失礼を致しました、妹に代わって謝罪させて頂きます。お気分を害されたでしょうが、きっと妹も勘違いをしているだけだと思うのです。どうか寛大な心で許してあげて下さい」 「ああ、大丈夫だ。こちらの態度にも非があったのだから、彼女が悪いと言っているわけではないんだ。恥ずかしながら会議室を飛び出してきてしまったのでな、ただ彼女と和解できるように協力して欲しいのだ」 「そうですか。それならばぜひとも私にも協力させて下さい」  ニコリと笑っている彼女を見ていると、本当に妹との仲が良さそうなことが分かる。これなら予定通りにいけそうだな。 「ありがたい。あなたと彼女はとても姉妹仲がいいと聞いているので、あなたと私が仲良くしている所を見せたなら、彼女の誤解も解け、和解できるようになると思うのだが、どうだろうか?」 「素晴らしい考えですね。私もそれがいいと思います」  既に話がおかしくなっているのだが、彼女は気付いた様子もなく俺の意見に賛同している。マルガレーテの性格を聞いた限りでは、俺とソフィアが仲良くしているのを見たらさらに仲が悪くなりそうだと気付くのが普通だと思うが、俺のかけた思考誘導のせいでそんな疑問も湧いてこないのだろう。  さて、まだまだ作戦は始まったばかりだ。席を立つと彼女の近くへと行き、きょとんとしている彼女の手をとる。 「実は先程までの話、今からあなたに伝える言葉を言いたいが為でもあったのだ」  彼女の目をしっかりと見つめながら、一呼吸おいてその言葉を告げる。 「ソフィア様、一人の男としてあなたを愛している」  言葉と共に魔術を発動。  第7種精神感応系術式、 楽園 。効果は対象を幸せな気持ちにするだけ。精神感応系術式の中で最も簡単な術だ。  ついでに 狂化 もかける。こっちは本来の効果で使えば相手の理性を剥ぎ取り興奮状態にさせるものだが、あえて効果を落として少し興奮する程度にしてある。  この二つの術式を受けた彼女は、どう考えても唐突で怪しい俺の告白を素直に信じてしまう。一瞬驚きで固まっていたのだが、はっと意識を取り戻すと頬を赤らめて顔を逸らした。 「ご、ご冗談はお止め下さい。私達はまだ出会ったばかりではありませんか……」 「一目惚れという言葉もある通り、時間は関係ない。私のことは嫌いなのだろうか?」 「決して嫌いなどではありません! あっ、その、いえ……」  恥ずかしがりながらもちらちらとこちらを見ているのは、期待していると考えていいのだろうか。今彼女の中では、俺の告白と同時に感じた多幸感と興奮で、まるで恋をしたような錯覚にとらわれているはずだ。  理性が抑制され上手く働かないので、王族である彼女と俺のような得体の知れない人間とはそもそも付き合えないといったことは思いつきもしないようだ。  俺に対しどう反応していいか迷っている彼女を軽く引き、鼻が触れそうな位置まで近づけさせる。真っ赤になっている表情は、ティアほどではないが可愛いと思う。 「ソフィア様、私の愛を受け取ってもらえないだろうか?」  自分で言うのもなんだが、気持ち悪いな俺。ともあれここでダメ押しにもう一発の楽園を発動。身体の緊張が解け、とろんとした表情になる。これはもう大丈夫だな。 「はい、ヤード様。私もあなたのことを愛しております」  とても綺麗な笑顔で返事をしてくるソフィア。お互いに見つめあい、自然と唇が触れ合う。初めてなので軽くに留めておいて唇を離す。 「ソフィア様……」 「ソフィと呼んで下さい……」 「ソフィ、愛している」 「私も愛しております、ヤード様」  腰を抱いてぎゅっと引き寄せると、彼女もこちらの頬に手を添えてきた。  そのまま二度目の口付けをする。こちらから舌を伸ばし、彼女の可愛らしい唇を押しのけて口腔内へと入る。彼女の方もおずおずと舌を伸ばしてきたので、優しく舐め上げてみる。何度か試すうちに彼女の方からも舌を絡めようとしてきたので、お互いの熱さを感じながら舌を絡ませる。  初めてのキスで上手く呼吸が出来なかったのだろう、口を離すと下を向き胸に手を当て少し息を弾ませている彼女。  そんな様子を見ているとまたキスしたくなってしまったので、彼女の頬に手を当ててこちらを振り向かせて口を付ける。まだ息が整っていなかったので、荒い吐息が当たるのを感じながら彼女の口の中を思う存分堪能する。  彼女の方も俺の口の中まで舌を伸ばしてきた。口の中と舌が触れ合った場所がなんとなく気持ちよく感じる。  俺達はお互いの唾液を混ぜ合い、舌の感覚がなくなるかと思う程に濃厚な口付けを、城の者が昼食の時間を告げに来るまで交わし続けた。  よし、これでマルガレーテに仕返しをする準備は整ったということだ。 ============================================================ 004. 第4話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/4/ ============================================================ 昼食のあとの兵達が出発の準備で慌しく動き回っている中、ソフィの協力でマルガレーテを呼び出すことにした。ソフィの部屋で二人がくるのを一人待っていると、二人分の足音が聞こえた。こちらも身なりを整えておく。 「お待たせしましたヤード様。お願いされた通りマリーを呼んで参りました」 「済まないな。この忙しい中、時間を割いて頂いて」  笑顔でこちらに話しかけてくるソフィとは対照的に、マルガレーテの方はいかにも不本意だと言わんばかりの不機嫌な表情を浮かべている。目が合うと敵意に満ちた視線を送られたのだが、こちらはいかにも真面目な顔で受け流す。  二人とも席に着く。俺とマルガレーテは正面で向かい合う形となっている。ソフィはマルガレーテを先に座らせたあと、俺の隣に座ってきた。それを見てマルガレーテはさらに顔を顰める。 「お姉様。どうしてその男がここにいるのです? 急ぎ私に話したいことがあると言うから来たのですが……」 「ええ、マリー。その話というのは、あなたとヤード様の不仲についてなのです。私が二人の仲を取り持つ機会は、この出発前のわずかな時間しかなかったのでしたから」  ソフィの言葉にこちらを睨み付けてくるマルガレーテ。どうやら俺が彼女に何か吹き込んだとでも思われているらしい。実際その通りなのだが。 「済まない。私が彼女にお願いして場を用意してもらったのだ。マルガレーテ様、先程のことはこちらの非協力的な態度が原因だったと反省している。無礼な態度を取ってしまった事をお詫び申し上げたい」  マルガレーテが何かを言う前に先手を取って謝罪する。予想外だったのか、彼女は目を数回瞬かせてため息をついた。再びこちらを見てくるが、先程までの睨み付ける様な眼差しは送ってこない。 「いえ、私も先程は言い過ぎましたわ。こちらこそ、勇者様を侮るような発言をしてしまって申し訳ありませんでした」  根はいい奴だったようで、こちらの謝罪を素直に受け入れてきた。立ち上がり手を伸ばしてきたので、こちらも立ち上がって握手をする。  俺達の様子をみていたソフィは、安心したようにニッコリと微笑み、俺に寄りかかってくる。姉の突然の行動に、マルガレーテは驚愕の表情を浮かべた。 「お姉様、一体何をなさっているのですか! 家族以外の殿方にしな垂れかかるなど、はしたない真似はお止め下さい!」 「いいのですマリー、私はヤード様をお慕いしているのです。意中の殿方と寄り添い合いたいと願うのは、女ならば当然の感情なのですよ」 「お、お慕い!? 自分が何を言っているのか分かっているのですか! とにかく離れて下さい!」  姉の豹変振りに着いていけないマルガレーテは慌てて俺とソフィを引き離そうとするが、ソフィも振り放されまいと俺の腕を掴んで抵抗している。そのおかげでソフィの豊かな胸が俺の腕に押し付けられて、その柔らかさを十分に楽しませてもらえた。  流石に力では負けないようで、俺の腕からソフィを引き離すことに成功したマルガレーテは、彼女の腕を引っ張って自分の隣へと座らせた。 「ヤード様、これは一体どういうことなのですか? お姉様はこのようなことをされる方ではありません。もしや、あなたはお姉さまに、何かよからぬことをしたのでは……?」 「いや、私は「ヤード様が何をしたというのですか! いくらマリーが私のためを思っているからと言って、この方を疑うなど許しません!」」  俺が何か言う前に、ソフィが凄い勢いで妹に食いついた。いやあ、俺愛されてるね。  ソフィは姉からの怒鳴り声に身を竦ませていたマルガレーテを放って、こちらへと抱きつき唇を重ねてきた。ぎゅっとしがみ付いてこられたので、俺も彼女の腰に腕を回し抱きしめた。  お互いの愛情を確かめるような口付けを交わした後、彼女はそっと離れて照れ笑いのような表情を浮かべてこちらを見てきた。 「マリー、私は自らの意思でヤード様を愛しているのです。誰が何と言おうと、この気持ちを変えることはありません」  妹に向かって堂々と宣言するソフィ。マルガレーテは姉の告白を聞くとうろたえて辺りを見回し、縋りつくような目線をこちらに送ってきた。 「あなたには残念な話かもしれないが、私もソフィを愛している。もちろん冗談などではない」  俺の言葉に決定打を打たれたマルガレーテは、糸が切れたように椅子に倒れこむ。よほどショックだったようだ。そんな様子を見ていると、俺の心も爽快感で溢れてくる。せいぜい俺に喧嘩を売ったことを悔やむがいい。  急に用事を思い出したといって、マルガレーテは逃げるように退出していった。後に残された俺とソフィは、既に彼女の事を忘れて出発前の最後の口付けを楽しんだ。  補給物資の積み込みも終わり、遂に出発の時間がやってきた。国王を始め、城の多くの者達が見送りに来ている。勇者達には、国王や王子達が次々と激励の言葉を述べていく。  勇者達の腕にはしっかりと腕輪がはまっていた。あれが例の腕輪か、ということは既に勇者達は操られていると言うことだ。何と情けない奴らだろうか。  俺はというと涙を流して別れを惜しんでいるソフィの相手をしている。王女を泣かせているということで、周りからの注目が凄い。人目のあるところではあまり目立つようなことはしないで欲しかったのだが、彼女は俺の心配に気付くことはなかった。 「勇者様方よ、どうか我らの国を救って下さるようお願い申し上げる」 「それでは行って参ります! 必ずや魔帝国の兵達を撃退して見せましょう!」  アレクが俺達を代表して言ってくれる。馬車が城門を出て行く姿を見送る人々の中にティアの姿を見かけた。彼女は俺に付いて来たがったのだが、残念ながら今回の輸送任務には入れなかったようだ。出発の準備をしている間、俺に抱き付いて離れなかったほどだ。ちょっと好感度上げ過ぎたかもしれない。  城下の人々も俺達に声援を送ってくるので、手を振ってそれに応える。見た目は完璧なアレクには黄色い声援が飛んでいるが、平民服の俺は周りの人々からお付きの者とでも思われているのか、全く視線を感じない。このぐらい目立たない方が良いんだ。  町を抜けて郊外の森に入った。目的の要塞までは4日ほど掛かるらしい。それまではいくつかの町や村を通りながら、比較的安全な道を通っていくらしいので、2日ほどは出番がないだろうと言われた。時間が掛かっても、安全ならそれでいい。  一応安全を守るためにサガミが先頭の馬車に乗っているが、それ以外の勇者は列の中央にいる馬車の中だ。既に勇者達の腕輪にかけられた術式は解除してある。いきなり襲われるのは御免だからな。  中世組とは話し辛いし、一緒に乗っているマルガレーテは先程の件で落ち込んでおり話しかけるのも躊躇われる様な雰囲気なので、現在の馬車の中はとても居心地が悪い。フェアリスは勇敢にも彼女に話しかけているが、反応は無いようだ。  原因を作った俺が言うのも何だが、重い空気に耐えられず隅に縮こまっていると、アレクが近くに寄ってきた。お前もこの重い空気に耐えられなくなったのか。 「ヤード殿、マルガレーテ様が気を落としている理由を知らないか? 朝の時点では王族に相応しい気迫を放っているような御仁だったのだが、あそこまで彼女の気を滅入らせるものは一体何なのだろうか?」 「すまないな、私にも分からない」 「そうか、何とかフェアリス殿が立ち直らせてくれればいいのだが……」  諦めろ。元凶の俺がソフィとの関係は嘘だったとでも言わない限り、そう簡単には立ち直らないだろう。フェアリスにもそろそろ諦めろと言って来たほうがいいのだろうか。  試しに 楽園 を発動してみると、生気が戻らないままの表情で口元だけはニヤついている。かなり不気味な光景に、流石のフェアリスも引いていた。術式を解除しても彼女の笑みは消えなかった。試さない方がよかったな。 「そ、そうです! ヤード様、お願いがあるのですが!」  とうとうフェアリスもこちらに逃げてきた。間近であれを見たせいか、若干顔が青褪めている。 「お願い?」 「はい。ヤード様は魔法に詳しいとの事。出来れば私に魔法を教えて頂きたいのです」  ふむ、確かにこの空気のまま過ごすぐらいなら、術式の講義でもやっていた方がマシだろう。しかし問題はこいつらにも分かるような講義が出来るかどうか分からないということである。 「あなたは術式を発動するとき、どういった手順を取るのだろうか?」 「そうですね……神に祈りと魔力を捧げることで力のようなものが与えられ、それを身体の外に出そうとすることで魔法が発動します。威力は神への信仰心によって変わります」  こいつは一体何を言っているんだ。こいつの信じる神とやらはこの世界にいないのに、誰が何を与えてくれているというのか。  そもそも魔法という言い方をしているから駄目なんだ。魔導技術はれっきとした技術なので、万人が同じ術式を使えば同じ効果が出るものだということを分からせないといけない。  次の町に着くまで術式の基礎を徹底的に講義したが、結局中世組は理解してくれなかった。もうこいつらに術式を教えるのはやめよう。  今日はこの町の外側で野営をするらしい。  一応俺達は町の宿で寝られるように手配されていたが、兵達に外で寝させておきながら自分達だけ宿に泊まることなど出来ない、とご丁寧にアレクが断ってしまった。  せめて見張りは自分達だけで、と兵達に言われたので、現在サガミの張ったテントでゴロゴロしている。やはりサガミはなかなかやる男だ。  しばらくはそうしていたが、暇を潰せるような物など何も無いので町に行くことにする。酒でも買ってこないとやってられない。  お小遣いはティアに貰っているので、何とかなるだろう。  しばらく経った後、俺は路地裏で彷徨っていた。  適当に歩いて酒場を探そうとしていたのだが、なんとどの店も看板を出していなかった。そのことに気付いたときにはもう路地裏で迷子だったのだ。  こんなことなら人に聞けばよかったと思いながら歩いていると、奥の方で声がするのでそちらに向かってみた。  するとそこには1人の女性を襲っている2人の男達がいたのだ。何も警戒せずに来たのでもちろん気付かれた。 「お願いします! 助けてください!」  女の方は服がボロボロになっており、暴行された跡が見受けられた。まだ下着が残っているので犯されてはいないようだ。  男達の方は全員皮鎧を着けているので、流れの傭兵か何かだろう。股間が立っているのが気持ち悪い。 「なんだてめぇ? この女を助けに来たってのか?」 「ぶっ殺されたくなけりゃ、とっととどっかに行け!」  急に怒鳴られると驚くじゃないか。別にこの女を助けに来たわけではないが、イラッときたので 恐怖 を放つ。  術式を受けた男達はぶっ倒れて泡を吹いている。きっと心が壊れそうなほどの恐怖を味わっているのだろう。  女は自分を襲っていた男達が突然倒れたことに驚いていたが、俺がやったと気付いたのか、こちらに顔を向けてきた。  さっきは気付かなかったが、赤髪のなかなか可愛い娘だ。服が破れて下着や肌が見えている。胸も服の上から分かるほどには大きい。劣情を催してしまうではないか。  ふと周りを見ると、先程まで彼女を襲っていた男達がいる。目の前には素敵な女性が半裸でこちらを見つめている。周りに人影は無し。よし、やるか。 「あ、あの、ありがとうございます……」  お礼を言ってきたが、無視して 遮音結界 を貼る。これで叫び声ももれないようになった。  謎の作業をしている様子を不思議そうに見ている彼女に襲い掛かる。ソフィとはやってなかったので色々溜まっているのだ。これは不可抗力という奴だ。  自分を救ってくれたと思っていた男が実は別の強姦魔だっただけだと気付き、慌てて逃げようとする彼女を押し倒す。 「いやっ、止めてっ! 放してっ!」  嫌がる女性の声は、これはこれでいいものであると実感した。  暴れる彼女を抑えながら服を剥ぎ取る。形のいい胸が外気に晒され、ちょうどいい位の大きさである乳首が現れる。  さっそく頂こうとするのだが、彼女の抵抗が思いのほか激しくて面倒だ。 「大人しくしないと奴らのようになるぞ」  男達は傍目には死んだようにも見えるので、脅しの効果は抜群だったようである。  とたんに抵抗をやめた彼女の身体を撫であげながら、最後の下着を取り去ると、なかなか男好きのするスタイルであることが分かった。  ガタガタと震えながら怯える目でこちらを見られると、嗜虐心が湧きあがってくる。 「こんないやらしい胸をして、男を誘っていたのだろう?」 「ち、違っ! ひゃあっ!?」  乳首を指で摘んでくりくりと弄ってやると、驚きながらも抵抗するような様子は無い。  意外と反応がよかったので、今度はその大きな胸を揉みしだきながら、少しだけ硬くなった乳首を舌で舐め上げる。  喘ぎ声を抑えているのか、荒い呼吸になりながらも必死に口を噤んでいる彼女。舌の感触に慣れてきて少し表情が和らいだ瞬間を狙って乳首を甘噛みする。 「っあぁああ! それダメぇ!」 「ふぅ、何がダメなんだ? ちゃんと言ってくれないと分からないな」 「乳首噛まないで、お願いします!」  噛まないでと言われて止めるわけが無いので、もう片方の胸を手で弄りながら、乳首を噛み、吸い付いた。先程までの余裕が無くなったのか、彼女の喘ぎ声が止まらない。  それにしても、母乳が出ているわけでもないのに、乳首を吸っていると甘いような感じがする。ティアもそうだったが、不思議だ。 「どうした、胸を弄っているだけで感じてしまったのか?」 「違う、感じてなんかないのぉ……」 「そうか、なら調べてやろう」  彼女の太股の間に手を突っ込んで開き、膣穴に指を突っ込んでみる。どうやら処女のようだ。 「やっ、そこは止めて下さい……」 「感じてないと言ったが、お前の股間は濡れているようだな」  愛液で濡れた指を見せ付けると、顔を逸らしてしまった。恥ずかしいなら強がらなければいいのに、馬鹿な女だ。 「ほら、こっちを向け」  頬を引っぱたいてこっちを向けさせる。 「あまり素直にならないなら暴力を使うしかないのだが」 「すっ、済みませんでしたっ! 言うこと聞くから殴らないでっ!」 「そうだ、大人しくしているなら手荒な真似はしないんだ。分かったな?」  俺の言葉に頷く彼女。ようやく大人しくなったので、俺も下を脱ぎ肉棒を取り出す。初めて見たのか、顔を逸らしてはいるが、気になるようでちらちらと見ている。  肉棒を膣穴にあてがうと、覚悟を決めて目を閉じている彼女。そんな反応をされると虐めたくなってしまうではないか。 「お前、何と言う名前だ?」 「え? み、ミラ、です……」 「そうか、なかなかいい名前だ、お前の姿にも合っている」 「は、はい。ありがとうござっ……!?」  会話をして気を逸らした瞬間にぶち込んだ。痛みで言葉も出ないのか、ぱくぱくと魚のように口を動かしている。  一気に子宮口まで貫いたのだが、かなり狭いようだ。ただでさえ処女なので狭いというのに、痛みのせいで膣が痙攣を起こしたらしく、千切れそうなほどの締め付けで、気持ちいいを通り越して痛い。信じられないほど痛い。 「ぐっ、これはヤバイ!」  本当に千切れる位に締まってきたので、慌てて楽園を使う。多幸感で痛みが和らいだのか、締め付けが緩んで程よい狭さになった。  彼女の方は術式の影響で気持ち良さそうな顔を浮かべているが、肉棒を動かすとまた痛みが襲ってきたのか、表情が苦痛で歪んでいる。 「ちょうどいい締りだ、お前の中は気持ちがいいぞ!」 「あっ、ありがとっ……ございますっ! あんっ!」 「ほらっ、処女のくせに感じているとはっ! お前はとんでもない淫乱だな!」 「私っ、淫乱じゃ、あんっ! 何でっ、何で感じるのぉっ!?」  快感と痛みの両方が襲ってきて、顔をぐちゃぐちゃにしながら喘いでいる様子を見ながら、そろそろ俺も限界に近付いていた。 「喜べっ! お前の中に出してやるっ」 「っ! いやっ、それだけは許してぇっ!」 「そろそろイクぞ! 俺の精液を受け取れぇっ!」 「あぁあああああ! ダメぇええええ!」  必死に逃れようとする彼女を押さえつけて、思いっきり奥まで叩き込んで射精する。  精液が膣内に打ち付けているのが分かるのか、絶望した声を上げながら絶頂する彼女。膣が締め付けてくる快感を感じながら、彼女の中に全て吐き出す。  肉棒を抜くと、精液が垂れてきて彼女の股間を汚す。動く力すらないのか、俺が離れたと言うのに逃げ出そうともしない。  とてもすっきりした。さて、後片付けをしようか。  まだ倒れている彼女に恐怖を発動して昏倒させたあと、男達の服を脱がして金を抜き取り、3人に 記憶抽出 を発動する。これは記憶をオーブの形で抜き取る術式だ。  俺とであった瞬間から今までの記憶を抜き取って3つのオーブを手に入れると、直に地面に叩きつける。オーブは粉々に割れ、欠片は溶けるように消えていった。  最後に彼女の上に男の1人を乗せる。これで俺が襲った証拠はないな。どう見ても奴らが襲ったようにしか見えない。  遮音結界を解除し、裏路地を後にする。  帰りに酒を買って帰ったのだが、なんと既に立ち直っていたマルガレーテに見つかってしまい、説教されて酒も没収されてしまった。残念だ。 ============================================================ 005. 第5話 ※グロ注意 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/5/ ============================================================ サブタイトルの所にも書きましたが、グロテスクな表現があります。 ============================================================ 006. 第6話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/6/ ============================================================ 本日2つめの投稿となっていますので、ご注意を。 ============================================================ 007. 第7話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/7/ ============================================================ 要塞に着いてから二週間が経った。  魔帝国はちまちまとした攻撃を続けてはいたが、支援物資が届いた要塞の守りはその程度の攻撃ではびくともしなかった。  そんなわけで勇者が出撃するほど強い敵が来ていないが、ここ二週間俺達勇者達は暇だったわけではない。  アレクは兵士達を鍛えていたし、サガミは何人かの兵を与えられて、諜報員としての訓練をさせている。フェアリスは負傷者の回復をやっているうちに兵士達から女神のように崇められていた。本人は恥ずかしがって必死に否定していたが。  俺はと言うと、エルの特訓をしている時間以外は壊れた壁の補修をしていた。元々は無くなった北の監視塔を新しく立て直すだけのつもりだったのだが、おかげで工作兵達からは人気者だ。他の兵からは一番知名度が低いが。  エルの特訓は概ね順調だ。始めのうちはこの世界の常識に囚われていたが、魔法の記憶を抜いてやると途端に術式への理解が早まった。既に戦術級術式を発動出来るだけの知識は覚えたので、後は魔力量を増やすのと魔力操作の精度を上げるだけだ。  あの夜からエルは俺に対してスキンシップが増えた。とはいってもあの時のような過剰な物ではなく、腕に抱きついてくる程度なので許している。  冬が近付いてきたせいで、外は上着を羽織らないと駄目な寒さになっている。今の時期でこれだから、冬に戦闘を行えない理由がよく分かる。あと一月も待てば冬に入るので、そこまで耐えればティアやソフィの待つ城へ帰る事が出来る。  しかし、何事もそう上手くはいかないことは今までの人生でよく分かっている。きっと何かが起こるはずだ。その考えは間違っていなかったようだ。 「大変です! 魔帝国の方に動きがありました!」  その伝令が伝えられたのは、ちょうど朝食を取っている時だった。  緊急の会議が開かれ、当然ながら俺もそこに呼ばれた。いつかの夜のように緊張感の漂う部屋の中で、兵士が慌しく地図を準備している。 「先程北の監視塔から連絡が来ました。遂に魔帝国の軍がやってきたそうです。軍の規模からして、冬に入る前に圧倒的な兵力差で決着をつけようという算段でしょう」 「敵の戦力は前回の襲撃と同じぐらいですか?」 「いえ、確認しただけでも前回の戦力よりも多いことは間違いないとのことです」 「まさか、そんなに兵がいるわけが……」 「兵の数はあまり変わっていないそうですが、従えている魔物の数が予想よりも遥かに増えているようです。本気でここを落とすつもりなのでしょう」  会議を聞きながら、俺はどうやって他の勇者達を目立たせようかと考えていた。  今までの働きではちょっと弱いので、もっと人々の心を奪わせる、物語の英雄のような行動をさせなくては。しかしこいつらの実力では魔物を大量に狩るのは難しいし、一体どうしたらいいのか。 「会議の途中失礼します!」  伝令兵が扉を開けて入ってきた。マルガレーテに近寄り耳打ちをすると、今まで険しい顔をしていた彼女が一気に青褪めた。 「な、何てこと…」  どうやらかなりヤバイ情報のようで、頭を抑えてテーブルに突っ伏す彼女。 「奴ら、よりにもよってドラゴンを従えていたらしいわ」  丁寧なしゃべり方を忘れるほど、ドラゴンは強敵なのか。周りの人間の様子を見るに、その見解で間違いなさそうだ。 「しかし、我らには勇者様方がいるではないですか」 「ただのドラゴンなら大丈夫でしょうが……『紅鱗』だそうです……」 「まさか! どうやってあの化け物を従わせたと言うのですか!」  勇者達以外の人間があまりにうろたえているので、どんな化け物か聞いてみる。  『紅鱗』とは、名前の通り鮮やかな紅の鱗を持つドラゴンらしく、魔帝国北部の山脈に生息しており、たまに麓まで下りてきて辺りの獲物を襲うのだという。普通のドラゴン一匹でも大きな町を落とせるぐらいの強さらしいが、その『紅鱗』は他のドラゴンを餌に出来るほどの強さを持っているのだそうだ。  もたらされた絶望的な情報に、会議室の雰囲気が最悪になっている。まあ普通はそうだよな。  しかし、俺にとって見ればまたとないチャンスだ。これを利用すれば、一気にこいつらの名声を上げられる。英雄になってもらうのはアレクがいいだろう。多分一番調子に乗ってくれる。フェアリスは既に人気だからいいとして、俺とサガミもそれなりの役割があった方がいいな。  勇者だけで少し話がしたいと言って、3人を会議室から連れ出す。 「それで、話というのは何だろうか?」 「ああ、私たちの力で『紅鱗』というドラゴンを倒そう」 「しかし、皆様のお話ではそのドラゴンはとても強大だということですが……」  困惑した表情で俺を見てくる3人に 思考誘導 を発動する。そのドラゴンを倒してもらわなければ、俺が困るんだよ。 「私の見立てでは、そのドラゴンを倒すことが出来そうなのは、アレク、あなただけだ」 「私か? しかし私の力では、そのドラゴンを倒せるとは思わないのだが」 「いや、倒せる。あなたの剣には隠された力がある。それに気付いたからこそ言っているのだ」 「そうなのか、まさか私の剣にそのような力が……」  よし、信じた。いい調子だ。お前なら簡単に信じてくれると、俺は信じていたよ。 「他の魔物には構わずに、一直線に例のドラゴンに向かってくれ。おそらく攻撃した瞬間に秘めたる力が解放されるはずだ。魔物の相手は私とサガミ殿がしよう。サガミ殿もそれでいいだろうか?」 「ああ、任せてくれ」 「あの、私は何をすればよろしいのでしょうか……?」 「あなたには兵達の鼓舞をお願いする。おそらく『紅鱗』が倒されるまでは怯えて戦いにもならないだろうが、そこを何とか勇気付けてやって欲しい。これは兵達に人気のあるあなたにしか出来ないことだ」 「分かりました。危険な役割を担っている皆様には及びませんが、精一杯頑張らせて頂きます」  勇者達がやる気になった。これで準備は出来た。後は俺が術式を発動させるタイミングを間違えなければ、アレクは英雄になれるだろう。 「全員聞いて欲しい! 『紅鱗』は私達が必ず倒す! どうか怯えずに、持てる力を出し切って戦って欲しい!」  現在、出陣前に要塞のほぼ全員が集まっている。既にマルガレーテが作戦について語り終わった後で、今はアレクが勇者を代表して喋っている。  『紅鱗』が出てきているのは皆知っているようで、兵達の間には動揺が広がっている。俺は横で聞いているフリをして、貰った杖で地面に魔法陣を描いている。  第4種戦術級術式、 集団鼓舞 。これは範囲内の特定の人間(今回は味方のみ)の恐怖を和らげ、興奮状態にし、精神攻撃に耐性を与える術式だ。術式が発動し、動揺していた兵達の表情が引き締まる。 「よし、皆覚悟は出来ているな! 行くぞ!」  アレクの言葉と共に出陣の合図が出て、兵達はそれぞれの持ち場へと向かっていった。俺も他の勇者達に合流しようとしたところで腕を引っ張られる。見るとエルが不安そうな表情をしていた。 「マスター、本当に大丈夫なのですか?」 「ああ、アレクがやる気になっているし、余程の事が無い限りは大丈夫だろう」 「でも、万が一のことがあったら……」 「安心しろ、何があっても戻ってくると約束しよう。それともお前に心配されるほど、私は弱いと思っているのか?」 「い、いえ! マスターはとても強いです!」 「ならば大丈夫だ。心配することなど何も無い」  頭をぽんぽんと叩き、彼女の傍を離れる。振り返ると、安心したように笑顔の彼女がいたので、軽く手を上げてから勇者達の下に向かった。今のは少しカッコよかったと思った。  敵の中に攻城用に使われる魔物が多数存在したので、俺を含む勇者3人とサガミが鍛えた部隊は、要塞から離れた高台の上で待機していた。  既に別の場所では戦いの音がしているのが聞き取れる。ここで戦線が開かれるのも時間の問題だ。  すると我が軍の右から敵の部隊が奇襲を仕掛けてきた。突然の出来事に右側の部隊は瞬く間に崩壊していった。  遅れて近くの兵達が援軍に向かい、何とか戦線を維持しているといった状況だ。  右側は当初俺達の部隊が配属される予定だったが、朝になっていきなり、マルガレーテが配置を変更した。おそらく内通者がいて情報が漏れていると考えたのだろうが、その予想は的中してしまったようだ。  魔物の咆哮や敵兵の掛け声が上がっているのを聞いて、アレクや部隊の奴らもそちらに向かおうとしているのを止める。  ここで俺達が向かえば作戦は台無しになってしまう。俺達の仕事はあくまでも敵の本隊と『紅鱗』を倒すことだ。  しかし戦力差は絶望的か……これは予定よりも派手な術式で『紅鱗』を瞬殺して、敵の士気を挫くしかないな。  右側の戦闘が始まって少しすると、正面から敵の本隊が見えてきた。  多数の魔物とそれを従えている兵達がいて、そいつらの上には紅色のトカゲが飛んでいた。50メートルぐらいある。あれが例のドラゴンだろう。  ドラゴンの姿を見ると、今までやる気に満ち溢れていた兵達がうろたえ始める。まあ俺もあれは怖いし、仕方ないと思う。  怖気づく王国軍に向かって術式や魔物が放たれる。術式の方は事前に張っておいた 魔力減退陣 のおかげでこちらに届く前に消えているが、魔物の方はどんどんとこちらに迫ってくる。  なかでも恐ろしいのは『紅鱗』だ。あれがこちらに向かってくるのを見て逃げ出さない王国兵達は意外と根性がある。もし俺が術式を使えなかったら一目散に逃げ出す自信があるね。  アレクも剣を構えてはいるが、わずかに剣先がブレている。自信を失くすなよ。ここで止められたら計画が台無しになってしまう。何とかせねば。  ふと思いついて、試しに『紅鱗』に 狂化 をかけると、見事に効いてしまった。突然制御を振り切って暴れだし、周りの兵や魔物を襲い始めるドラゴンに、敵の軍は混乱し、魔物達の統率も乱れている。  アレクはこの惨状を見て好機だと思ったのか、大きく息を吐くとこちらの方を向いた。表情には自信に満ち溢れた様子が見て取れる。うまくいったようだ。 「チャンスだ! 二人とも、行くぞ!」 「「了解!」」  掛け声と共に走り出すアレクと、それについていくサガミ。俺は後衛だ。アレクの前に飛び出してきた敵を、サガミと協力して正確に排除していく。ついでにこっそりと魔法陣を描き始める。  とうとうアレクが『紅鱗』の元へとたどり着く。一度立ち止まり、『紅鱗』と対峙しているアレク。だが『紅鱗』はアレクの方を見ていない、というか気付いてもいないだろう。 「剣よ! この魔物を倒す力を貸してくれ!」  真実を知ったら確実に黒歴史になるだろう台詞を吐いて、アレクが切りかかった。剣が当たりそうになった瞬間、こっそり描いていた魔法陣を発動する。  アレクの剣の先から『紅鱗』を丸ごと包めるほど巨大な光線が発射される。途切れることなくどこまでも伸びていき、地平線の彼方まで一気に走った光線が消えると、後に残ったのは身体の殆どを失った『紅鱗』の残骸だった。  これが第4種戦略級術式、 極光 の威力である。この術式は相手の術式抵抗や耐術式障壁を無効化する特殊な高強度レーザーを放つ。熱や光に耐性があろうが、当たった物をプラズマ化するので物理的な防御も不可能である。ちなみに有効射程は大体2000万キロメートルだ。  一瞬で息絶え、飛ぶための魔力を失って地面に叩きつけられたドラゴンの残骸を見て、両軍の兵士達が驚き固まっている。レーザーの拡散光と熱気で肌や目を焼かれ、のた打ち回っている敵兵の呻き声だけが響いていた。 「『紅鱗』は倒した! 王国の兵達よ、我らの後に続け!」  アレクは剣を振り上げると戦場に響き渡るような大きな声で叫んだ。同時に要塞には俺の方からアレクの手によって『紅鱗』が倒されたことを伝えた。  途端に王国軍からは歓声と共に兵達が突撃を開始する。切り札を一瞬で殺された魔帝国の兵達はもはや軍としての形を保てないほどに混乱していたので、次々と王国兵に倒されていった。  後は残党狩りのようなものだ。俺はこっそりと兵達の手には負えないような魔物を狙っていき、最後まで逃げ出さずに戦っていた敵兵は二人の勇者と兵達によって狩りつくされた。  驚くほどあっけない幕引きとなったが、こちらの死者は100名程度に対し、相手の方は全体の半数にも上った。元々の戦力差が10倍以上なのだから、王国にとってこの勝利は奇跡のようなものだ。  要塞に戻ると大きな歓声が鳴り響いた。少し前まで死にそうな表情を浮かべていた奴らも、今では笑っていた。  アレクは大勢の人に囲まれて質問攻めに遭っている。全員があのときの光についての質問をしているが、アレクすら原理が分かっていないのを説明するのは無理だろう。今も「大精霊様の力のおかげ」としか言ってない。  俺とサガミの所にもそれなりに多くの人が集まっていたが、人に囲まれるのが苦手な俺は、エルの近くに避難することにした。今だにエルが敵の仲間だと思っている奴もいる程なので、殆どの人間が近寄ってこなくなった。  エルは俺が無事に帰ってきたことですっかり機嫌も直り、ニコニコと笑いながら給仕をしてくれている。 「マスター、あちらの方へ行かなくてもいいのですか?」 「騒がしいのは苦手なのでな」 「……私はご一緒させて頂いても宜しかったのでしょうか?」 「何を言っている。お前は私の弟子だろう? 傍にいた所で文句など言うはずがない」 「っ! はい!」  俺の言葉に喜びを隠そうともせずに返事をする。ちょうど酒が切れたので、追加の酒を取ってきてもらう。 「……主賓がこんな端にいるとは。ヤード様、皆あなたの武勇伝を聞きたがっておりますよ?」  俺が端にいるのが気になったのか、マルガレーテがこちらにやってきた。わざわざ指揮官が呼びに来ることも無いだろうに。 「本日の主役はアレク殿だろう。私の活躍など彼に比べればどうと言うほどのことでもないものだ」 「あら、ご謙遜を。多くの魔物を倒したことは聞き及んでおりますわ。それに皆と勝利の喜びを分かち合ってみてもよろしいのでは?」 「今回の戦いは一時しのぎにしか過ぎないのだがね。冬が終わり寒さが和らげばまた大軍で攻めてくるだろう。私は魔帝国との戦争が終わる時まで喜ぶのは止めておこう」 「……無粋なお方。たとえそうだとしても、大軍を相手に大勝を得たならば、喜びの言葉の一つも言って然るべきでしょう。やはり私はあなたのことが嫌いですわ」 「そうか、それは残念だ」  俺の返事を待たずに彼女は戻っていこうとしたが、少し歩いた所で立ち止まり、こちらに振り返った。 「そうそう、突然ですが勇者様方は一足先に王城へと戻っていただきます。出発は明日なので今夜のうちに準備をしておいて下さい。あと、あの娘を連れて行っても構いませんが、それによって起こる厄介事はご自身の手で何とかして下さいね」  それを伝えると、今度こそ彼女は戻っていった。  明日帰ることができるのはいいのだが、当初の予定では冬まで守り続けるのではなかったのか。いくら敵の大軍を追い返したと言っても、安全が確保出来るまでは残すのが普通ではないのか。  もしかして城の方で何か起こっているのだろうか。  そこまで考えて、考えすぎだと思いなおす。きっと勝利に気が緩んでいるだけだろう。  むしろこのお祭り騒ぎを明日にまで引きずらないよう努める方が大切なことだろうと思い、自室へと引き返した。 ============================================================ 008. 第8話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/8/ ============================================================ 帰りの道中は何事もなく進み、予定よりも1日早い3日で城までたどり着いた。城に入るとすぐに謁見の間に呼ばれ、国王からお褒めの言葉を貰った。今回の働きにより、俺達には褒賞が与えられるらしい。 「先日の戦いは実に見事なものであったと聞いておる。その栄誉を称え褒章を送ると共に、我が国の更なる発展を願い、アレク・ギルフレイアに男爵の爵位を、サガミ・リョウヘイ、ヤード・ウェルナーの2名には準男爵の爵位を与える。フェアリス殿には、後日教会の方からアンリエント東部の協働司教の座が与えられるそうだ」  いきなりの展開に驚いているが、何とか顔には出さないように努める。どういった反応をすればいいのか分からなかったので、サガミと同じようにしておく。そしてアレクが代表して前に出た。 「我ら一同国王陛下の臣下となり、この剣を国のため民のために振るうことを誓います」 「うむ、そなたらの力があれば、必ずや憎き魔帝国を打ち倒せると信じておる。これからも我が王国に尽くしてくれることを期待しておるぞ」  周りの人々から拍手が起こる。どうやら受け取りは拒否できないらしい。まあ今回は拒否する理由も無いからいいんだが。爵位があったほうがいざという時役に立つかもしれないからな。準男爵がどれほどのものかは知らないんだが。  ふと視線を感じ周りを見回すと、何やらこちらに向かって睨んでいる奴がいる。あれがディアンか。なるほど、見るからに悪役面をしている。きっと予定ではあの要塞は落とされていたのだろうが、俺達の戦力が予想以上だったので計画が崩れたと言うわけだ。  奴の計画は割といい線いっていたとは思うが、唯一の誤算は俺というオーバースペックな人間がいたことだ。せいぜい俺に喧嘩を売ったことを後悔するがいい。 「ヤード様!」  謁見の間から出ると、ソフィがこちらにやってきた。人目があるので抱きついたりはしないが、こちらの手を両手で包み、潤んだ瞳で見つめてくる。 「必ず無事で帰ってきてくれると信じていました」 「ああ、あの程度の敵では私達を倒すことは出来んよ」 「この後は何もありませんよね? よろしければ一緒にお茶がしたいのですが、どうでしょうか?」 「是非、と言いたいのだが、この後少しやることがあってな……それからでも構わないか?」 「そうですか、では都合のいいときでいいですから、いつでもお越し下さいね」  少し残念そうにそういう彼女に謝りながら別れる。ソフィに付き合うのもいいんだが、それよりもティアの優先度の方が高い。エルはフェアリスの部屋に行かせてあるので、久しぶりのティアに二人きりで会うため、急いで部屋に向かう。  部屋に入ると、ティアの姿は無く、代わりに別のメイドが一人いた。腰まで届く長さの金髪をうなじの部分で一本に縛っている。胸は実に残念だ。あれは何と言うんだったか。彼女はこちらに気付くとお辞儀をしてきた。 「始めまして、準男爵様。少し前よりこの部屋付きとなったロザリーと申します」 「代わったとは聞いていなかったが、前の部屋付きの者はどうした?」 「以前の者は部屋付きを外されました。その後どうなったかは聞いておりません」  妙な話だな、代えられるなら一言ぐらい言ってもいいと思うんだが。急いでティアに念話を送る。 (ティア聞こえるか?) (ご主人様ですか?) (ああ、今どこにいる?) (今は……どこかの地下牢だと思います。任務をこなせなかった為に部屋付きの4人全員が懲罰を受けています)  何ということだ、これは完全に俺のミスだ。彼女のことを気に掛けなければいけなかったのだ。早く助け出さねば。しかし、このメイドに見られるわけには行かない。 「済まない、身体を拭きたいので湯を持ってきてもらえるか?」 「はい、少しお待ち下さい」  彼女が部屋を出て行ったのを確認すると、急いで魔法陣を描き始める。メイドが帰ってくる前に事を終わらせなければ。 (以前渡したコインは持っているな?) (はい。……これで何かをするのでしょうか?) (いや、それを持っていてくれるだけでいい)  場所は把握した。凄まじいペン速で魔法陣を描き上げ、起動する。  第4種時空間跳躍系術式、 上級他者転移 。特定の人物や物体を誤差無しで転移させる術式だ。  術式を発動させると同時に魔法陣が輝き、光が収まるとそこにはボロボロの服を着たティアの姿があった。彼女は何が起こったのか分からない様子できょとんとしている。  彼女に抱きつき頭を撫でる。幻ではないことに気付いた彼女も俺の後ろに腕を回し抱きついてくるが、自分の姿を見ると慌てて俺の腕から逃れて離れる。 「す、済みません。数日牢に入れられて汚れていますので、私を抱きしめられたらご主人様まで汚れてしまいます……」 「そんなことは気にするな。それよりもお前が無事で良かった」 「ご主人様……」  感極まって涙目になる彼女を引き寄せて口付けをする。彼女の方から舌を入れてきたので、こちらもそれに応え舌を絡ませ合う。久しぶりの彼女との口付けに思わず最後までしたくなる感情を抑えて、ゆっくりと口を離す。唾液が糸を引いているのが何とも淫靡な光景だ。 「ティア、湯を取りに行かせている者が帰ってくるので、どこかに隠れてくれ」 「は、はい」  とはいっても隠れるような場所など机とベッドの下ぐらいしかないので、仕方なくベッドの下に入ってもらう。  彼女が隠れた後すぐに、ロザリーが帰ってきた。かなりギリギリのタイミングだったようだ。 「準男爵様、湯をお持ち致しました」 「ああ、そこに置いてくれ。後は私が自分でやる」 「いえ、準男爵様のお身体をお拭きしますのも部屋付きの仕事ですので」 「これは命令だ。自分でやるのでお前は部屋を出て行ってくれ」 「ですが……」  命令だと言っても何故か食いついてくるこいつの態度に不信感を感じ、 窃思 を発動した。 (服を脱ぐなんて、隷属魔法をかけられるまたとない好機じゃない。ご主人様からも出来るだけ早く連れて来いって言われてるし、これを逃すわけにはいかないわ。)  誰かの回し者だったのか。それにしても隷属魔法か。他の勇者達の腕輪に細工を仕掛けていて良かった。こんなこともあろうかと奴らの腕輪に 解呪 を永続化してかけておいたのだ。ここで奴らに消えられては困るからな。  まあ俺を隷属させようなんて言うなら容赦はしなくていいな。好きにやらせてもらおう。 「……そこまで言うなら仕方ない。やはりお前が拭いてくれ」 「はい、分かりました」 (やった、これでこいつを手に入れたも同然ね。ご主人様に逆らうなんて馬鹿な奴)  服を脱ぎ奴に背を向ける。身体を拭くフリをしてこっそりと魔道具を取り出しているのはバレバレである。俺の首に腕を回し、締め上げながら魔道具である腕輪をつけている。 「『神の桎梏よ、この者を縛り、捉え、この惨めな存在に、主の威光を知らしめよ』!」  彼女が面倒くさい呪文を唱え、術式が発動する。途端に俺の頭の中に警告音が響き渡る。 (『第1魔導障壁、貫通されました。第2魔導障壁、貫通されました。第3魔導障壁、防御に成功。攻撃術式の逆探知に成功しました。至近距離からの精神感応系術式によるもの。反撃します。 対抗術式 検索。 催眠 を発動します』)  俺の術式防御に呪文を阻まれ、逆に術式を受けてしまう彼女。術式の効果で身体の自由を失い、ボーっとした表情になる。催眠とは字の通りの効果で、相手を催眠状態に出来る。効果の方は完全に支配の劣化型だ。  彼女が動かなくなったのを見て、服を着直し付けられた腕輪を外す。サイズが小さかったせいで腕が赤くなってしまった。 「お前は今から俺の言うことを聞くんだ。分かったな?」 「はい」 「よし、俺が手を叩くと普段のお前に戻る。お前が俺に催眠をかけられたことも覚えている。ただし俺の言うことには逆らえず、その場から一歩も動くことが出来ない。そして俺が再び手を叩くと催眠状態に戻る」 「はい、分かりました」  手を叩くと、目に生気が戻ってくる。自分が催眠をかけられたことは分かっているので、こちらを睨んでくる。 「っ! な、何であんたが操ってんのよ!」 「説明する必要はないな。それより何故俺を襲ったのか、詳しく聞かせてもらおうか」 「……ご主人様にそう命じられたからよ。あんた達がご主人様の計画を邪魔したせいで、状況が悪くなったって言ってたわ」 「お前の主人は誰だ? 主人は誰と繋がっているんだ?」 「ディアン公爵様よ。ご主人様は誰とも繋がっていないわ」  そうだとは思っていたが、やはりディアンか。これは何とかしなければ、このまま放っておくと俺よりもティアが危ない。なんて執念深い奴なんだ。  それにこいつのこともある。ティアほどディアンには信用されていなかったようだが、奴と繋がっていたことだけでも許しがたい。どんな報復をしてやろうか。  どうしようかと悩んでいると、ベッドの下からごそごそと言う音を聞いた。そういえばもうティアを出しても大丈夫だ。呼び出すとベッドの下から這い出てくる彼女の姿を見てロザリーの表情が驚愕に歪んだ。 「何であなたがここにいるの? 懲罰を受けている最中じゃ……?」 「ああ、やはりロザリーでしたか。ご主人様、彼女は私の後輩に当たる関係です」 「あなた公爵様を裏切ったの!? 恥を知りなさいよ!」 「……このように先輩達にも生意気な態度を取っていまして、何とか直そうと努力もしましたが結局このままでした。ここはご主人様に躾けてもらうのがよろしいかと」 「そうか、それでいいのか?」 「はい」  ティアがこんな提案をしてくるとは予想外だ。余程彼女の態度に対して鬱憤が溜まっていたのだろうか。まあいいか。手を叩いて催眠状態にする。 「俺が止めるように言うまで、お前は俺に反抗的な態度を取り続ける。しかしお前が反抗的な態度を取るたびにお前は発情してマンコが疼いてしまい、イく事も自分で慰めることも出来ない。今言ったことは目が覚めると覚えていないからな」 「はい」  手を鳴らすと、我に返ってこちらをまた睨みつけてくる。だが早速発情したのだろう、股間を押さえて、顔を歪めている。心なしか顔が赤い。 「どうした、股間など押さえて。もしや催したのか?」 「あんたには関係ない……っ!?」  もう立っていられなくなったのか、彼女は股間を押さえてその場に蹲ってしまう。たった二回でもうこれとは、彼女は快感に弱いのか。なんだか面白くなってきた。 「何かお願いがあるなら聞いてやらんこともないぞ?」 「い、嫌よっ、んっ……誰があんたに何か、っ!?」  どんどんと墓穴を掘っていく彼女を見ていると実に気分がいい。やはり仕返しと言うものは素晴らしい。ティアの方を見ると無表情に彼女を見下ろしていたが、こちらの視線に気付くと首を振る。どうやらまだ足りないご様子だ。  何回か言葉を投げかけたが全て反抗的な態度を取られ、もう限界なのか彼女は目を見開きながら口を閉じることもままならなくなっている。太股の内側までぐっしょりと濡れ、床に小さな水溜りが出来ている。  そろそろかと思いもう一度ティアの方を伺うが、またもや首を振られる。ティアはかなりの鬼畜だな。 「どうした? 今ならどんなお願いでも聞いてやるぞ? 隷属魔法をかけるんだろ?」 「あ……あ……」  とうとう返事も出来なくなってしまった。この分だと呼吸も危ないな。流石に殺す気はないのでこの辺にしておこう。  ティアに確認を取るため振り向くと、彼女も仕方がないといった風に頷いた。まだやる気だったのか。 「ああ、もう素直になっていいぞ。ただし自慰はするなよ?」  許可を出すと同時にこちらに飛び掛り、股間をこちらの物に押し当ててくる。えらい変わり様だな。 「お願い、入れて! このままじゃ気が狂っちゃうのぉ!」 「そうだな、俺の物はまだ固くなってないから、入れて欲しいならまずはここに奉仕してもらおうか」  俺の言葉を聞き彼女は俺の下を脱がして下半身を露出させる。そしてベッドに座る俺の前に跪いて、股間に顔を埋めてくる。 「ん、んぅ……」  よほど俺の肉棒を入れて欲しいのか、喉奥まで咥え込み、根元から先までを慣れた舌使いで包み込むように舐め上げている。幼い顔をして、中身はとんだ淫乱のようだ。俺の肉棒も彼女の奉仕で硬くなってくる。 「んっ、んんぅ、ふ……んぅ……」 「随分とご執心だな。そんなに味わいたければこちらから動かしてやる」  そう言ってこちらからも腰を動かすと、舌を絡ませ頬を痩けさせながら激しくしゃぶってくる。そこまで熱心にやっているのを見ると、早く射精して欲しいといっているように思えてくる。だがまだ出してやるわけにはいかない。  頭を掴み彼女の喉をオナホールのように使う。彼女の顔が苦しげに歪むがお構い無しだ。口の端から毀れた唾液が飛び散り、彼女の口の周りと俺の股間を濡らしていく。  射精寸前になると彼女を股間から引き剥がし、そのまま彼女の顔に向かって射精する。彼女の顔は精液でべとべとになり、とても卑猥な雰囲気を醸し出している。  こちらが命じるよりも先に、自分から精液を拭い取り口に含んでいく。ご丁寧に、飲み込んだ後こちらに向かって口を開いて飲み込んだのを見せ付けてきた。どうしようもなく淫乱な奴だ。 「イッたんだから、これ入れて……お願い……」  あちらはまだイッていないので、股間を押さえながら俺の物を舐めて綺麗にした後、愛液でぐちょぐちょに濡れたマンコを肉棒に擦りつけてくる。俺も一度イッたぐらいでは萎えないので、連戦でも大丈夫だ。  一応ティアの方を確認したが、彼女はいつもと変わらぬ笑顔で続きをどうぞと手で示してくる。こちらも大丈夫そうだ。 「後ろを向いて四つん這いで尻を突き出せ」 「あ、うん……」  俺の言葉に素直に従うロザリー。きっと興奮しすぎで俺の言葉に強がって反抗することが出来ないのだろう。  四つん這いになった彼女の膣穴に俺の肉棒を当て、ゆっくりと沈めていく。それだけで軽くイッたようで、膣内が締まってくる。  いい反応を返してくるので、子宮口に届くぐらいに奥深くまで入れる。ゆっくりと入れているのに彼女は少し動くたびにイきまくっている。  彼女は小柄なので俺の肉棒は根元まで埋まらない。子宮口を押し上げながら彼女の中の感触を味わっている。 「どうだ、今子宮口に当たっているのが分かるか?」 「わ、分かるからっ! やめっ、あっ! あ、あ、あ、そこグリグリしないでぇ!」 「止めてと言いながら、俺の物を締め付けてくるのは何故なんだ?」 「きっ、気持ちいいからっ、んぅっ! 気持ちいいからですぅ! ふぁああ!」  自分に逆らっていた女を組み敷いて喘がせるのは実に気分がいい。俺が彼女の奥を突くたびに善がり声を上げ、俺の物を締め付けてくる。彼女の身体は男に媚びる為の訓練でもしていたのかと思うほど気持ちがいい。胸は実に残念だが。 「最後は一番奥に出してやろう。俺の精液が欲しいか?」 「う、うん、奥で出して!」 「素直になったな、そろそろイクぞ!」  腰を打ちつけ根元まで入れる。先端が子宮口へとめり込んだのを感じながら彼女の子宮内に射精する。 「あぁあああああぁ! イッちゃうぅううう!」  彼女も俺と同時にイッたようだ。俺の精液が彼女の子宮内に吐き出され、絶頂が続いているのか、膣内がビクビクと波打つように動いている。  彼女の中から肉棒を抜くと、彼女が倒れこむ。どうやら気絶したようだ。まあ元々ギリギリの状態だったからな。  精液と愛液で濡れた肉棒を拭こうと何かないか探していると、ティアが俺の股間に顔を埋め、口の中で綺麗に舐め取ってくれた。しかし綺麗になったはずの肉棒をまだ舐め続けている。どうやら彼女も欲しいようだ。 「ティア、お前も抱いてやろうか?」 「あ、いえ、私は汚れていますので……」  そういえばそうだった。しかし彼女と久しぶりに会ったのだから、正直俺の方が彼女を抱きたいと思っている。 「ならば身体を拭いてやろう。服を脱いでくれ」 「はい、ご主人様」  彼女が服を脱いでいる間にロザリーを動けないように縛って転がしておく。邪魔なので喋れないよう猿轡もかましておく。こいつの相手もそれなりだったが、お楽しみはこれからだ。 ============================================================ 009. 第9話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/9/ ============================================================ ティアに脱げと言っておいて悪いのだが、持ってきてもらった湯が冷めていたので暖め直している。彼女にはベッドの上でシーツに包まってもらっているので寒さとかは大丈夫のはずだ。  お湯がいい温度になると、こちらに呼ぶ。小さな傷がいくつかついていたので、傷一つ残さないよう 上級治癒 で直す。後は拭くだけだ。  最初は自分でやろうとしたので、何とか説得して拭かせてもらうことにする。存分に楽しませてもらおう。  まずは両腕からだ。折れてしまうのではないかと思うほど細い腕だが、ちゃんと柔らかさは感じられる。こう見えて力も結構あるから侮れない。肩、首元と拭いていく。ここまでは彼女も恥ずかしがっているだけだ。  次は背中を拭いていく。自分からは見えない位置であるのに、シミ一つ無い完璧な肌だ。擦ったりしないようにゆっくりと拭っていく。 「ん……気持ちいいです、ご主人様」  彼女もそんなことを言ってくるが、楽しませてもらっているのは俺も同じだ。脇を拭くとちょっとくすぐったそうに身を竦めるが、綺麗にするのが第一なので構わず拭き続ける。  さて、次はお楽しみの胸だ。この世界の女性の平均よりも明らかに大きいバストをお持ちなので、ここはちゃんと綺麗にしておかないと大変だろう。  胸に触れると程よい弾力を感じさせる。先に上半球を拭いていき、続いて下半球を持ち上げながら拭く。手にはなかなかの重量が掛かってきた。大きい胸を持つのも大変そうだ。  胸の谷間も汗が溜まるので綺麗に拭いておく。左右からかかる圧力を感じ、ここの間を使いたがる男達の気持ちがなんとなく分かった気がした。  胸の頂点はあえて擦れる程度の強さで拭いてある。触れるたびに身体を硬くさせて、快感に耐えている様子を見ていると、こちらももう少し悪戯をしたくなってくる。  まずは拭き残しのチェックだ。胸をじっくりと見て、さらに揉んで確かめる。下から持ち上げ揉みしだくと、柔らかな感触が指を包み込んで、手が埋まるような錯覚さえ覚えた。 「ご主人様……どうでしょうか?」 「ふむ、とても綺麗な肌だ。だが一箇所だけ問題があるな。ここだ」 「ひゃう!」  乳首を突っつくと、可愛らしい声を上げる。拭いているだけなのに、乳首を立たせてしまうとは。これはお仕置きだな。乳首を摘み、くりくりと捏ね繰り回す。 「ふぅっ……んんっ……」  眉を顰めて口を押さえているティア。別に声を出したっていいのに。  ティアに声を出させたくなって、乳首を口に含んで舌で転がす。まだ彼女の甘い匂いが残っているような気がした。 「ん、ご主人様、そこはっ……」  彼女も乳首で感じてきたようで、声にも艶が混じっている。  とりあえず先に身体を拭き終わろう。お楽しみはそれからでも遅くない。  腹と尻を拭き、足を片方ずつ拭いていく。指の間まで丁寧に拭くと、あまり触られない場所を触られたので敏感に反応していた。  さて、最後は股を拭かなくては。少し濡れている股間を綺麗に拭き、布を戻す。中は布で拭くと傷がつくかもしれないからな。ティアも分かっているようで、自分で広げている。膣穴がはっきりと見えた。  雌の匂いを漂わせているそこを舌で軽く突くと、膣穴が締まるのが見える。その反応が面白くて何度か繰り返すと、ティアが頭を押さえてきた。 「ご、ご主人様。焦らすなんて酷いです……」 「済まないな。お前の反応が面白くて調子に乗ってしまった」  今度は全体的に舐めてやる。少し尿の臭いがしたが、ティアのならばその位のことは耐えておこう。  膣穴の中にも舌を入れて、中をねっとりと嘗め回す。膣穴が舌を締めつけてくるがお構い無しだ。どんどん愛液が溢れてくるので、俺の口の周りもべたべたになってしまった。  これで身体は拭き終わったな。彼女の方は既に出来上がっており、俺も彼女の身体を拭き終わる前から硬くなっている。 「ティア、俺も我慢が出来そうにない。お前を抱いてもいいか?」 「はい、ご主人様。私でよければ」  俺を見て微笑みながらそう返すティアの姿に辛抱溜まらず、彼女に飛び掛った。既に前戯は済ませたようなものなので、最初から彼女の膣穴に挿入する。  彼女の中は熱く、俺の肉棒をやわやわと締め付けくる。やはり彼女が一番だ。 「ああ、ご主人様の肉棒が入っています!」 「久しぶりに抱いたが、やはりお前は素晴らしい。まるで俺の為に作られたように相性がいいぞ」 「ご主人様に使って頂けて、とても嬉しいです」  嬉しさのあまり俺に抱きついてくるティア。こちらも抱き返しながら腰を打ち付ける。 「あっ、ん、あんっ! いい、んっ、いいですぅ!」 「お前の中も最高だぞ! もっと俺を感じさせてくれ!」 「は、はいっ! あ、はぁんっ!」  喘ぎ声を出している彼女に口付けをして口を塞ぐ。舌を絡ませあい、お互いの口の中を隅々まで嘗め回し、唾液を混ぜ合わせる。彼女の方も積極的に動いてくるので、こちらも負けじといつもより激しくなっている。  しかし、久しぶりの彼女の魅力にやられたのか、2回目だというのにすぐに射精感が沸きあがってくる。何とか彼女を喜ばせようと、腰を激しく突き入れ、彼女の膣内をかき回したが、とうとう限界が迫ってきた。  口付けをしたまま射精する。彼女も出された瞬間同時に絶頂し、俺の物を締め付けてくる。口を塞がれている為声は出ていないが、その代わりにぎゅっと抱きしめられる。  彼女の中に出し終わると、肉棒を引き抜く。膣からは精液が垂れてきた。 「ありがとうございました、ご主人様」 「いや、俺の方から誘ったのだから、こちらの方こそ礼をいう」  三回戦目はしなかった。正確にはやろうとした所で、床でもぞもぞと動いているロザリーの存在に気付いたからである。  途中で起きて暴れていたのだろう。彼女はまたもや発情しており、股間の下の床が濡れてしまっている。掃除の手間を増やすのは感心しないな。  とりあえず彼女の拘束を解き、手を叩いて催眠状態に戻す。催眠状態でも身体を跳ねさせているのは、さすが淫乱なだけはある。 「次に手を叩くとお前はいつものように戻る。しかし、俺達には危害を加えられないし、手を出そうとする奴がいるならそいつを倒せ。ご主人様とやらには、ここで起こったことは伝えずに、「この阿呆が」とでも言っておけ」 「はい」  手を叩くと、彼女の様子は元に戻る。発情してしまった身体は戻しようが無いが、とりあえず動けるほどにはなっているようだ。彼女は服を調えるとこちらを睨みつけてきた。 「何だ? 用がないならこの部屋を出て行ってくれないか?」 「言われなくても出てってやるわよ!」 「ロザリー、仕える者に暴言を吐くなどいけませんよ」 「っ! 申し訳ありませんでした!」  彼女は扉を乱暴に閉めて出て行った。煩いのが消えたのでやっと二人きりになれる。ティアの方を向くと何故か困った顔をしていた。 「どうした?」 「ロザリーを帰してよかったのですか? あのようなことをされては、ますます公爵はご主人様を狙ってくると思います」 「ああ、それが狙いだ。注意を俺に向けさせることで、お前へ加えられる危害を減らす。奴の手駒では俺をどうにかするなど出来そうにも無いと分かったからな」 「ですが、それでは何も問題が解決していません。ご命令さえ頂ければ、私が公爵を暗殺してきます」 「それこそ問題は解決しない。奴には関係者共々まとめて落ちていってもらわなくては。それに暗殺では公爵に復讐したとは到底言えないからな」  仮にディアンを殺したところで他にも魔帝国と繋がっている奴がいる以上、俺の安全が確保されたとは言えない。ここは逃げられない状況で社会的な制裁を加えて、芋づる式に他の奴らも巻き込んでもらうのがいい。  おそらくロザリーからディアンにあの言葉を伝えたら、これ以上あのような手を使ってくることはないだろう。2度も計画を妨害された奴は、他の勇者達を手に入れるためには、まずは俺をどうにかしようと考えるのが普通だ。そこを利用させてもらう。 「お前にも手伝ってもらう。おそらく奴は近々動き出すだろうから、早めに手をうたなくてはな」 「ご主人様は何か考えがお有りなのですね」 「作戦と言うほどの物でもないがな。それにいざとなったら別の国にでも逃げればいいだけだ」  俺の返答は得心のいかないものだったようで、少し困った顔をしてこっちを見てきた。彼女にはあのように言ったが、勝算が無いわけではない。  奴が俺に対してしてくるのは直接的な暗殺か俺を犯罪者につるし上げるといった所だろう。前者は力技でどうとでも出来るので、俺が次に対策すべきなのは後者だ。  一番ありえそうなのは魔帝国との内通だな。ちょうど俺にはエルと言う弱点がある。ダークエルフという一目で敵国の住人だと分かる姿を隠していないので、公爵の耳にも既に入っていることだろう。  俺の弟子だということも周りに伝えてあるので、俺と、魔帝国との繋がりを主張するにはうってつけの人間だ。ついでに元敵兵だったということも少し調べれば分かるだろう。  まあ俺を犯罪者に仕立て上げるまでは、彼女の生存はある程度保障されているだろう。その他のことは俺の知るところではない。彼女との約束では、彼女が犯されようが構わないのだ。  それよりも先にティアの安全だ。ここはソフィアに協力してもらうついでに、ティアも匿ってもらう。多分引き受けてくれるだろう。念話を起動し、ソフィアに呼びかけてみる。頼みたいことがあるから話がしたいと念話で了承を取ったので、ティアには再び隠れてもらい、一人でソフィの部屋へと向かった。 「いらっしゃいませ。今日ヤード様とお茶を飲めるとは思ってもいませんでした」  中に入ると今回もお茶の準備がされており、言われるままに席に着いた。先程彼女と話したときには今日は用事があると伝えておきながら、頼みたいことがあるとは馬鹿にしたような話なのだが、彼女の方はそれを気にした様子は無い。  こちらに微笑みかけている彼女の様子は、純粋に俺と話が出来ることを喜んでいるようであったが、残念ながら雑談をするよりも先に話すことがある。 「ソフィ、先程念話で伝えたが、今日は頼みがある」 「私に出来ることであれば喜んでお手伝いさせて下さい。それで、どんな頼みごとなのでしょうか?」 「ああ、実は密かに匿ってもらいたい人間がいる」  俺は彼女にティアのことを話し、続いてディアンの所から脱走して追われていること、ディアンが魔帝国と繋がっている可能性が高いことを話した。  彼女はディアンのことを聞いてだいぶ驚いたようだ。彼女の中でのディアンの印象は、彼女に時折妙な視線を送ってくること以外は、国政にも真面目に参加してくれている貴族といった感じらしい。特に魔帝国との戦争に関してはいろいろと協力をしてくれているそうで、戦略会議にも加わっている程国王からの信頼も高いらしい。  傍から聞いていると別人のような評価だ。だがこちらの情報源は確かなものだ。何と言ってもその公爵子飼いの部下からの情報だからな。ソフィは俺の話と自分の考えのどちらを信じるのか決めるために、部屋に連れてきて欲しいと頼まれた。 「済みません、ヤード様のことを信用していない訳ではないのですが……」 「いや、下手をすれば王国を揺るがしかねない問題だ。慎重になり過ぎるぐらいの方がいい。では早速呼ぼう」  先程使った 上級他者転移 を書いた紙を使い、ティアをこの部屋に呼び出す。ソフィはいきなり現れたティアに口元を押さえて驚いているが、二回目だというのにもう転移に慣れた様子のティアは、こちらの姿を見つけると礼をしてくる。 「ご主人様、何か御用でしょうか?」 「ああ、お前をソフィに紹介しようと思ってな。ソフィ、彼女がティアだ。元部屋付きで現在公爵から逃亡中だ」 「王女殿下に置かれましてはご機嫌麗しく。ただいまご紹介に預かりましたティアと申します」 「え、ええ。始めまして、私はアンリエント王国第一王女ソフィア・ル・アンリエントと申します。あなたがヤード様のお話になっていたティアさんですね」 「王女殿下、私のような者にそのような言葉遣いをなさらないで下さい。私はただの平民ですから」 「いいえ、ヤード様が自らを危険に晒しても助けたいと思う方ならば、私も出来る限りあなたを助けてあげたいと思うのです。ですから遠慮は無用です、私のことはソフィとでも呼んで下さい」  ソフィとの会話に緊張で身体が強張っていたティアも親しみやすさを感じたのか、次第に緊張もほぐれ話が弾んでいるようだ。これならば匿ってもらうのも大丈夫だろう。  そう思っていると、ソフィがふと何かに気付いたようにティアに近付いた。彼女の匂いを嗅いでいるのかと思っていると、途端に困ったような顔になった。 「ティアさんからヤード様の匂いがします……これは一体どういうことなのでしょうか? もしかして、お二人は既に愛し合っているのでしょうか……?」  ソフィの放った予想外の言葉に思考が停止した。そういえばやった後は軽く拭いただけで、臭いなどは取れなくてもおかしくは無い。しかし何故俺のだと分かるんだ。  何とか言い訳を考えたが、咄嗟に思いつかなかったのでティアに目線で頼んでみる。少し不思議そうに眉を顰めた後、こちらの意図を理解してくれたのか軽く頷いた。頼む、何とか誤魔化してくれ。 「実は身体が汚れていたので拭う為に服を脱いだのはいいですが、まだ湯の準備が出来ていなかったため、先程までご主人様のベッドシーツに包まっていたのです。匂いはその時に付いたものかと。決して殿下とご主人様の仲を裂こうとは思っておりません」 「あ、そ、そうなのですか……済みません、お二人の関係を疑ったりして……」  ソフィが彼女から離れる。何とか誤魔化せたか。  俺達の関係を誤解したと思い、恥ずかしそうに赤くなった顔を抑えている。実際はやっているのだが、教えると機嫌を損ねるばかりか、下手をすると反逆罪にされかねないからな。 「ソフィ、急がせて悪いが結論を聞かせてくれないか?」 「あ、そうでした。ティアさん、一つだけ質問をしたいと思います」 「はい、何でしょうか?」  ソフィはティアに向き直ると彼女のほわほわした雰囲気が急に変わり、マルガレーテと比較しても劣ることの無い威厳のようなものが感じられた。やはり彼女は普段は頼りなさそうに見えても王族だということが実感できる。 「あなたは決してヤード様に対して嘘偽りをつかず、どんな事があっても彼を裏切らないと誓えますか?」 「はい、私の命が無くなろうともご主人様を裏切るような真似は決してしないと、誓います」 「そうですか。では私もあなたを信じることにしましょう。ヤード様のお力になってあげて下さいね」  緊張感のある雰囲気が霧散し、またいつもの優しそうな雰囲気に戻るソフィ。これで一応ティアは安全か、次はエルを確保してこないと。  しかし、ソフィが一緒にお茶の時間を楽しみましょうと強く誘ってきたので、仕方なく付き合ってあげた。給仕はティアにやってもらった。  少し余計に時間が経ってしまったが、そろそろエルを迎えにいかなくてはならないので、少し満足した様子のソフィとティアを置いて部屋を出る。エルはフェアリスの部屋に行っているはずだ。  フェアリスの所へ向かう途中で、何か焦っている様子のフェアリスが向こう側からやってきた。彼女は一人だけで、当然ながらエルの姿はない。こちらの姿を見つけると、急いでこちらの方へ近付いてきた。 「や、ヤード様、どこに行っていたのですか! お部屋にいないので随分探してしまったではないですか!」 「それは済まない事をした。それで、そこまで慌てて俺を探しているということは、エルに何かあったのか?」 「そ、そうなのです! エルマイアさんがこちらの部屋に来られていたのですが、突然騎士の方々が入ってきまして、エルマイアさんを魔帝国との内通者だと言って連れ去ってしまったのです! 私も何かの間違いだと止めたのですが、彼らには届かなかったようで……」 「事情は分かったが、問題ない。少々早いが予定通りだ」 「予定? 予定とは何でしょうか?」  俺の言葉が分からないといった風に首を捻っているフェアリス。彼女にしてみれば仲良くしていた相手が無実の罪で連れ去られたので、何とか見つけ出して冤罪を証明したいのだろうが、もう少し待ってもらわなくては。 「この国の腐敗を取り除くため、私達の安全を確保するために彼女は捕まったのだよ。それに報いる働きをするのが彼女への恩返しだ」 「エルマイアさんは私達を何者かから守るために、自分が捕まってみせる必要があったということですか?」 「概ねその解釈で合っている」  違うのはエル自身にはそんな考えなど全くない、ただの被害者だということだが、別に教えてやる必要もない。それよりも今は公爵達を逆に陥れることだ。絶頂からどん底に叩き落される公爵をあざ笑ってやるのだ。  押さえきれずニヤリと口を曲げるのをフェアリスに見られた。そのときの彼女の視線はとても冷たかった。 ============================================================ 010. 第10話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/10/ ============================================================ ただ今俺は謁見の間にいる。  いつもと違うのは、俺の手には枷がはめられており、周りを武装した騎士達に囲まれているということだろう。俺の部屋に入ってきた騎士が、俺に枷をつけて連れてきたのは先程のことだ。どうやら罪人として連れてこられたらしい。 「それではディアン公爵、彼の者の罪状を述べよ。一体如何なる罪で彼を裁くというのか?」  国王が正面の玉座に座っており、斜め前に例の公爵がいる。弁護士も弁護人もいないこの状況は、ひたすら俺に不利な証拠を挙げていくだけの場だ。国王は、まだ決めかねているという所か。公爵の肩を持つわけではないなら構わない。  国王の言葉を受けてディアンが前に出た。こちらの方を向いて意地の悪い笑みを浮かべている。 「それでは申し上げます。今回の罪人ヤード・ウェルナーは国王陛下の信頼を裏切り、あろうことかダーロ魔帝国と繋がりこちらの情報を流していたという罪があります」  ディアンの発言に周囲からはどよめきが起こる。俺は予想通りの展開なので驚きもしないが、国王も驚いている様子はなかった。この反応はどう見るべきなのだろうか。 「ふむ、ウェルナー準男爵よ、これは真実であるか?」 「私が密偵の真似事とはなかなか面白い冗談だとは思うが、あいにく私は国王陛下や第一王女殿下を見捨てるような真似をした覚えはない。これに関しては公爵のでっち上げだろう」 「なっ!? 貴様、陛下に対してその言葉は無礼であろう!」 「その文句は勇者召喚をした人間に言え。私も好きでこんな言葉を使っているのではない」  ディアンは怒りで顔が真っ赤になっている。はは、タコみたいだな。  他の貴族達も概ね同じ反応のようだ。無礼も何も、勇者召喚のおまけで付いてきた言語を翻訳してくれる能力が発動しているから、こんな口調に聞こえるだけだ。俺はこの国の言葉を喋っているわけではない。  どうやら敬語関係の言葉はこちらの世界の基準に合わせて翻訳されているようで、フェアリス以外の勇者の口調が割りと無礼に聞こえるのはそのせいだ。 「ではそなたはこの件に関しては無実であると、そう申すのだな?」 「その通りだ。私は漏らすような機密情報など持っていないし、仮に持っていたとしてもわざわざ魔帝国に教えようとも思わない。何故行った事もないような国に協力しなければならないのだろうか?」 「だがしかし、貴様が魔帝国と通じていたことを証明する者がいるのだ! おい、連れてこい!」  後ろの扉が開き入ってきたのは、両腕を拘束され猿轡を噛まされているエルだった。何故か捕まる前の服装ではなく、ボロボロの貫頭衣になっている。これはもしかしなくても何かされたようだな。一応洗脳の類にはかかってないようだが。  こちらを見つけると、青褪めていた彼女の表情に赤みが差した。知り合いを見つけて少し安心したのだろう。だが騎士達に引っ張られ、こちらを通り過ぎてディアンの前まで運ばれていった。 「陛下、この者がその証拠でございます。準男爵はこの者の師匠と名乗っていると聞き及んでおります。この者は元魔帝国の兵士だったようで、勇者達により返り討ちにされ準男爵に助けられたそうです。そのときより連れているそうですが、要塞や王宮の中で敵兵を連れ歩くなど、まさに売国奴の行いではないでしょうか!」 「彼女は記憶を失っていると伝えてあるはずだ。それにもし私がスパイならば、彼女を堂々と連れ歩かずに、どこか人目につかない場所に隠している方が、疑われなくて済むと思うのだがね」 「そういって誤魔化そうとしても無駄だ、この者の記憶が元に戻らぬ保障がどこにある。戻らないと言っているのは、どうせ苦し紛れについた言い訳か何かであろう。神ならぬ身にして、未来のことが分かる訳もない」  エルは必死に首を振って否定しているが、ディアンは彼女のことを意図的に無視している。まあ普通はそうするよな。敵国の人間の証言など、自分に都合のいいものしか拾わないのは当然だ。  国王は俺達の話に入ってくる様子は無く、黙って一部始終を聞くつもりのようだ。エルのことはあえて無視しているようだが、記憶が無くなっていると言っても自分の国民を殺した敵国の人間なので、仕方がないといえばその通りだ。 「記憶が戻らないのは確かだ。彼女の記憶はとあるオーブに封じ込められている。もしそのオーブを使ったからといって、彼女の失われた分の記憶は元に戻らず、永遠に失われるだけだ」 「何!? そのオーブとやらはどこにある!」 「私の荷物の中にあったはずだが、調べていなかったのか?」 「くっ! おい、お前達、この者の部屋から荷物を全て持って来い!」  ディアンの命令で騎士達が俺の部屋から荷物の入った袋を持ってきた。ひっくり返して中身を出すと、要塞からの帰りで買ったお土産がボロボロと零れてくる。大概は見られても用途が分からないのでいいのだが、出てきたある品を見て何人かが絶句している。 「これは隷属の腕輪ではないか! どこでこのような物を手に入れた!」  ディアンが腕輪を取って全員に見えるように掲げている。そういえばロザリーに着けられた後、解呪して別の呪文をつけておいたのがあったはずだ。もはや隷属の腕輪ではないのだが、この世界の魔道具は全て同じ形でもしているのだろうか。 「陛下、準男爵はこの腕輪を使っていたに違いありません! 禁忌とされている隷属魔法を使うなどこの国の人間がすることではないでしょう。この者が魔帝国と繋がりのある確かな証拠ではないでしょうか?」  ディアンの言葉に少しばかり考えて、ため息を吐く国王。おそらくこれは出来過ぎだとでも考えているのだろう。はっきり言って、この世界に来たばかりの俺が、禁忌とされている魔道具をホイホイ手に入れられるはずが無いのだ。 「ウェルナー準男爵よ、この腕輪は王国内では製造も使用も禁止された品である。どこでこれを手に入れたのであろうか?」 「国王陛下、その腕輪を詳しく調べれば分かることだが、それは隷属の腕輪とやらとは別のものだ。 解呪 という、肉体や精神の変化、呪い、術式の効果による麻痺や眠りなどの状態異常を消す術式を、それをつけた者に常時かけ続ける魔術が付与された腕輪だ」 「何を馬鹿な、この魔道具に刻まれた刻印は確かに隷属魔法のものだ。魔道具というのはそんなに簡単に作れるものではない」 「魔道具とは言っていない。それは元々かかっていた術式を解除して、解呪を一定期間持つようにさせたものを付与しただけだ。魔道具ではないから効果は 術式消去 で消せる。術式抵抗も消してあるから試してみるといい」  散々迷ったが、結局ディアンは魔導師を呼び出した。魔導師が術式消去を唱えると、腕輪からは魔力が感じられなくなった。完全に効果が消え去ったようだ。魔道具の場合、術式消去を受けても機能が一時停止するだけで魔力自体は消えない。  魔導師のほうも分かったようで、ディアンを見ると首を振っていた。ディアンは信じられない物を見るような目で腕輪を見ている。そもそも本当に隷属がかかっているなら無造作に袋に突っ込んだりはしないし、荷物を取りに行けとも言うわけがないだろう。 「……なるほど。これはもはや隷属の腕輪ではないとして、一体これをどこで手に入れたのだ? 元々かかっていたのは隷属魔法だったはずだ」 「私を狙ってきた相手だ。刻印が隠されていたが、他の勇者達も同じ腕輪をつけられていたので同様の処理をした。誰の差し金なのか分からなかったので国王陛下にも黙っていたが、それは謝罪させてもらう」  俺の返答に国王が少し顔を顰める。要塞へ行く前から勇者達は腕輪をつけていたのだ。俺がスパイだというなら、俺にその腕輪を渡した者がいるということである。  ディアンは悔しそうに舌打ちをした後、当初の目的であるオーブを手に取った。 「これが先程言っていた物でいいのだな?」 「そうだ。その中に彼女の失われた記憶が入っている」  ディアンはオーブを手に取ると中を覗き込んだり、振ってみたりしている。記憶を見るには術式を使わなければいけないのだが、面白いので黙っている。しばらくするとこちらにやってきた。色々試してみたが全て失敗に終わったらしい。 「このオーブはどうやって中の記憶を見るのだ」 「術式を使う。とはいってもそこにいる魔導師では使えない代物だ。見たい記憶があるなら取り出すが、どうする?」 「お前が真実を隠し、嘘の情報を見せるような術式を使うかもしれないのにか?」 「その時はそこにいる魔導師にでも見破ってもらえ。そのような姑息な真似をしなくても、私が無実であることは変わらないからな」 「ふん! その中にある記憶がその者のものだと分かるような記憶を出せ」 「では彼女が最後に勇者達と戦った時の記憶でいいな」 排出 を発動し、国王とディアンに直接中の情報を送る。一回使った記憶は消えてしまうので、魔帝国軍の情報は既に入っていない。  彼女の記憶は国を出発したところから勇者達に出会って倒されるまでのものだ。当然これ以前に俺と彼女が会うことは時間的に不可能と言っていいだろう。国王は情報を確認して納得したのか、こちらを見て頷いてくる。ディアンも悔しそうに睨みつけてくるので、どうやら反論の余地がないようだ。 「私は記憶を失う以前の彼女に会っていないことは分かってもらえただろうか? 記憶を失った後に帝国軍との接触は無いことは、第二王女殿下も認めてくれるはずだ」 「ふむ、どうやらそなたの言う通りのようだ。そなたが間諜だと言うには少々証拠が少ない」  国王は俺の疑いは晴れたとばかりに、俺の発言に同意してくれる。だがディアンはまだ諦めていないようだ。騎士に命じて何かを持ってこさせている。 「記憶が無くとも、手紙の仲介くらいは出来てもおかしくない。聞けば要塞では二人部屋で魔法の修行などしていたそうではないか。以前の知り合いのフリをして近付き、中の情報を書き留めて渡すなど簡単ではないのか?」 「何が言いたい?」  ディアンは俺に向かって何かの文章を差し出してきた。そこに書かれた筆跡からエルの書いた文字だと分かった。なるほど、エルを監禁していたのはいざという時の証拠をでっち上げるためだったのか。 「これを見ろ。これはあの者が隠し持っていた文書である。見るからに王国の文字ではないし、軍の使用する暗号でもない。おそらく魔帝国の暗号で書かれているので、内容は把握できていないが、王国の軍備に関する情報が書かれていると思っている。彼女が間諜であることはこの手紙が証明してくれる。もちろんそんな人間を引き入れた者も同罪だろう」 「それを何故彼女が書いた物だと決め付けられるのだろうか?」 「筆跡の鑑定をしたからだ。確かに同じ字の癖があったから間違いない」 「……くっ」 「どうした? やっと真実を話す気になったのか?」 「くっ、はははははっ! それが証拠だと!?」  あまりにも間抜けなのでつい笑いを堪えきれなくなってしまう。俺が突然笑い出したのを呆然と眺めているディアンだったが、馬鹿にされていると気付いて顔を真っ赤にさせて詰め寄ってくる。 「何がおかしい! お前が手引きをしたと言うことはこの文書が証明しているのだぞ!」 「公爵殿、私を犯人にしたいのは分かるが、その文書はあまりにも愚かな手段だったな」 「何だと! 罪を逃れようと適当なことを言うな!」 「実に馬鹿馬鹿しいことだが、そこまで言うなら教えてやろう。彼女は帝国の言葉を話すことも、帝国の文字を書くことも出来ない。もちろん暗号も含めてだ」 「なっ!?」 「試しに聞いてみるといい。彼女はここで一度も話をしなかっただろうから分からないかもしれないが、彼女が私達と話している言葉はエルフ語だ。エルフ語には文字が存在しないらしいが、どうやって暗号を書くのだろうか?」  彼女が勇者以外と話をしなかった理由はここにある。彼女がどうしても他の人間と話したがらなかったので無理やり聞いたのだが、要するに王国の人々が何を言っているか分からなかったから、怖がって近寄れなかったのだ。  勇者は召喚された際に、相手の話す言語を理解し、自分の話す言語を相手の話す言語に翻訳する能力をつけられているので会話できる。しかし他の人間はエルフ語を喋らないため、彼女にしてみれば、いきなり言葉の通じない外国にいるようなものだ。  記憶を抜いた後はエルフに会う機会も無く、かといって王国の言葉を覚えるだけの時間も無く、従って会話が出来る俺やフェアリスの近くにずっといたわけである。 「しかし、これはあの者が書いた文書だと分かっている! 王国語でもエルフ語でも帝国語でもないのなら、これが暗号で無いとどうやって証明するのだ!」 「それも簡単だ。そこに書かれているのは確かに彼女の字だが、それは機密文書などではなく、一種の魔法陣だ。文字のみなので構成は甘いが魔力を流せば発動するだろう」 「なっ!?」  ディアンは手紙をまじまじと見つめているが、奴にあの文字は読めないだろう。知識のある魔導師なら朧げながら何の術式が書いてあるかは判断できるだろうが、奴の手駒にそこまでの人材はいなかったようである。 「不思議な話だな。何故これを彼女が書いたと知っている? この魔法陣は私の世界の文字で書かれているし、その文字を知っている者は私と彼女しかいない。これを見ても彼女が書いたとは分からないはずだ」 「そ、それはっ、あの者が持っていたのだから、本人が書いたと考えても不思議ではあるまい!」 「さらに教えておくが、この魔法陣の術式は書いた者の記憶や周りの状況を記録し、再生できるようにするものだ。これを使えば彼女がこの魔法陣を書いた時の状況が分かると思うのだが、本当に発動してもいいのだな?」 「そ、それは……」  観念したようにガクリと膝を折るディアン。一応魔法陣を起動すると、地下室らしき場所でこの魔法陣を書いている彼女と、何人かの人間が写っている立体映像が現れた。その中には当然ながらディアンもいる。  だがしかし、俺を陥れようとした復讐はこんなもので終わるわけがない。 「ディアン公爵、そなたは勇者であり、我が国のために力を貸してくれたウェルナー準男爵にあらぬ罪を着せ、彼の者を反逆者として陥れようとした。このことに間違いはないな?」 「いえ陛下、私はこの国のためを思ってやったのです。敵兵を弟子とし、第一王女殿下を誑かし、果てはこの国を乗っ取らんとする簒奪者に裁きを下してやりたかったのです。決して陛下を欺こうとした訳ではありません!」  ディアンの話を聞き流しながら、念話でソフィに連絡する。そろそろ彼女が到着してもいい頃だと思う。 (ソフィ、探し物は見つかったか?) (はい、今城に戻りましたので、もう少しお待ち下さいね。そちらはどのような状況でしょうか?) (ああ、こちらは公爵が必死に言い訳をしているところだ) (そうですか、では急ぎますね)  念話を切ると、ディアンはまだ国王に言い訳を続けていた。二人に近寄っていくと、こちらに気付いたようで、二人ともこちらの方を向いてきた。 「どうしたのだ? ああ、手枷ならばすぐに外そう。おい、ウェルナー準男爵の手枷を外してやってくれ。彼の無実は明らかとなった」 「それよりも国王陛下、ディアン公爵がこのような真似を行った本当の理由を私は調べていたのだが、聞いてもらえないだろうか?」 「お前っ、口から出任せをっ!」 「それは真か。よし、話してみよ」 「彼が私を罪人に仕立て上げようとした理由、それは私が彼の計画の妨げになっているからだ」 「ほう、その計画とは?」 「公爵が魔帝国と内通し、勇者達を魔帝国へと引き渡す計画だ。見返りに公爵は魔帝国での地位を約束されている」 「そのようなことはありません! 国王陛下、こやつの言うことを信じてはなりません!」 「ディアン公爵、少し黙っておれ」  ディアンが必死に食い下がっているが、既に国王は奴への関心を失ったようだ。  ちょうどそのとき部屋の扉が開き、ソフィ達が入ってくる。 「おお、ソフィアか。一体どうしたのだ?」 「公爵様の行っていた悪事の証拠と、公爵様が勇者様達に隷属魔法をかけようとしたことを知っている人物を届けに参りました」  彼女がそう言って手で示したのは彼女の後ろに着いてきたティアだ。国王の前なので頭を下げたままの状態となっている。僅かに身体が震えているのは緊張しているということだろう。 「そなたがソフィアの言う人物か。面を上げよ」 「はっ!」 「お父様、私の方から紹介させていただきます。彼女はティアといい、私の命でディアン公爵の手駒の一人として潜り込み、公爵の調査をしていました。証拠の在処も彼女の情報で分かったのです」 「そうか、ティアと言ったな。感謝する」 「いえ、国のために尽くすのは当然の義務です!」  ソフィが持ってきた魔帝国とのやり取りが書かれた手紙や、ティアの証言と隷属の腕輪から公爵が犯人であることは一目瞭然だ。奴は地面に手をつきガクガクと震えている。まさか自分が陥れられるとは思ってもいなかったのだろう。国王の命令で騎士達が公爵を連れていった。  この後、公爵が自棄になって共犯者を吐いていったおかげで、3人の爵位持ちが関係していることが分かり、全員爵位を取り上げられ幽閉されたそうだ。  公爵の子飼いの者達も全員秘密裏に処刑されたので、今回の事件の関係者で捕まっていないのはティアだけだ。ロザリーはティアが何かしたそうなのだが、詳しいことは知らない。  しかしこれで俺を狙っていた奴はいなくなった。前よりは安全になったことだろう。俺は大体満足したのでこれ以上何かする気はないのだが、協力してくれたソフィとティアが不満そうだ。どうやって彼女達の機嫌を取ろうか、また頭を悩ませることになった。 ============================================================ 011. 第11話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/11/ ============================================================ 「屋敷を買おうと思う」  俺の放った突然の言葉に、ティアはどう反応していいか分からなくて目を瞬かせている。  この世界に転移してきて一月が経ったが、未だに俺は城の中で世話なっていた。日常の生活に不自由はないが、出来ることも限られてくる。そろそろ自分の居場所の一つも持っていいだろう。  本音を言えば、研究室と保管庫が欲しい。今までは荷物袋の中に入れていたが、サンプルを手に入れてきても、それを置いておく場所がないのだ。 「屋敷ですか、それはいい考えですね。貴族の皆様は地方にある屋敷とは別に王都に屋敷を持っていますし、ご主人様も準男爵になられたのだから、屋敷を持っても特に反対は無いでしょう」 「ああ、いつまでもこの城で厄介になっている訳にはいかないし、この部屋ではこれ以上物を置いておくことも出来ないからな。しかし、屋敷を買うのはいいが、そんなに気安く買える物なのか?」 「そうですね、まず貴族の屋敷は貴族街にしか建てられませんし、爵位によって屋敷を建てる場所や屋敷の大きさも決められています。ご主人様の場合は準男爵ですので、屋敷を持てるのは東地区になりますね」  貴族街があるのは聞いていたが、爵位によって住める土地が変わるとは、何とも面倒くさい話だな。まあ貴族とはそういう体裁を大事にする人種だと割り切らないといけないと言うことか。 「あと、屋敷を建てるなら国王様の許可と他の貴族の方の紹介状が必要になります。中古の物件を買うにしても国王様の許可が必要なので、屋敷を買う気がおありならば、お早めに面会の方を申し込んでいた方がよろしいかと」 「そうか、やはり簡単には手に入らないのだな。しかし、面会か……今から頼んだとして、いつ頃になるか分かるか?」 「ご主人様の爵位ですと本来ならば1ヶ月程度の期間が掛かりますが、勇者様達は可能な限り優遇せよとのことですので、遅くても二日ほどで面会が叶うと思います」 「そうか、今まであまり恩恵がなかったが、それを聞くと勇者と言うのはやはり特別なんだという気がするな。まあそもそも勇者はこの世界に召喚される時点で断る選択肢がなかった分、優遇措置を取るのが当然の対応とも言えるがな」 「ご主人様はこの世界がお嫌いになったのでしょうか……?」  俺の言葉を聞いたティアが悲しそうな声でそう尋ねてきた。これは少し失言だった。 「召喚された事自体はあまりいい出来事ではないが、そのおかげでお前と出会えたことは幸運だと思っている。だからそんなに悲しそうな顔をしないでくれ」  これは本心だ。元の世界ではあまり人付き合いがいい方ではなかったので、信頼できる友人も少なかった。 「ご主人様……」  感動で目を潤ませながらこちらを見つめてくるティア。そんな姿を眺めているのもいいのだが、先ほどの話が途切れてしまったので続きを促す。 「ご主人様が屋敷を買うつもりならば、そう取り次いでくれるようにお願いしてきますが、どうしますか?」 「そうだな、とりあえずソフィに聞いてから考えることにしよう。もしかすると即時面会も可能になるかも知れんからな」  そう考えてソフィに聞きに言ったところ、面会どころか彼女の方から国王に許可を取り付けておくから、先に屋敷を選んでおいてくれと言われた。どうやら彼女も俺が屋敷を持っていないのは気になっていたらしい。  他の勇者の分も合わせて許可を貰いにいくから気にしないで欲しいと言われたが、流石に後でお礼を言っておいた方がいいだろう。  一国の王女を使い走りにするとは、勇者と言うのはどれだけ偉いのだと思ってしまうが、家が欲しいのも事実なので、ここは素直に彼女の好意に甘えさせて貰う。  早速屋敷を選びに行くため城を出る。お供には案内役の人とティアを連れてきた。エルも付いて来たがったのだが、彼女が街中を歩き回るのはまだ危険だろうし、貴族の屋敷の知識なども持ち合わせていなかったので、今回は留守番させることにした。  普通の貴族は馬車で移動するらしいが、馬車は乗り心地が最悪なので、妥協案としてあまり得意ではない馬に跨って行くことにした。  東地区は王宮からも見えていたので大まかな位置は知っている。城から歩いていけないこともないぐらいの距離だ。割と近くに平民街があるので貴族の人気はあまりないらしく、領地を持っていない騎士爵や俺のような準男爵ぐらいしか住んでいる者がいないそうだ。  現地に着くと早速屋敷選びをする。人気がないのは本当のようで、他の地区はもっと活気があったのに、ここはまるで人が住んでいないかのように静かだ。まあ静かなのはありがたいことだが。  東地区に入って少し進んだところにある屋敷の前で止まった。結構新しい印象を受けるが、どうやらここが空き物件のようだ。 「ここはどうでしょうか? 以前の持ち主が金策に困って売ってしまわれたのですが、建物自体は年月もあまり経っておらず、準男爵様の持てる最大規模の屋敷でもあります」  案内役がこの屋敷の説明をしてくれているのを聞きながら、俺は周囲の建物を観察するが、他も空き物件となっているようだ。人気がないのが分かるが、実に勿体ない話だ。  屋敷はそこまで王宮と離れていないので、いざというときに都合がいいだろう。庭は広いので何かに利用できそうな感じもある。後は屋敷自体がどうなっているかだ。 「地下室は付いているか?」 「ええと……はい、地下室も付いております。他にも使用人用の部屋の数も十分な数が揃っていますし、準男爵様の仰っていた研究とやらに使えそうな窓なしの部屋もございます」 「そうか、他にこれと同じような条件の物件はないのか?」 「この屋敷が一番の優良物件でして、他の屋敷はこれと比べると一段劣るような物しかございませんが……」  そうなのか、とティアに尋ねると、彼女の目から見ても確かにここの屋敷はとてもいい物件だそうだ。金額はこの前貰った報酬の半額程度だったので十分に払える額だ。  屋敷の値段は基準が分からないためティアに丸投げ状態だが、彼女も金額的にもお買い得で大丈夫だと言っていたから本当に大丈夫なのだろう。  中も入って一通り見せて貰ったが、埃が積もっている以外は特に悪いところもなく、掃除をしたら今にでも住めそうな感じだった。 「よし、ここにしよう」 「そうですか、では後の手続きはこちらの方でやっておきます。使用人の募集などはもうやって頂いて結構ですよ」 「ご主人様、使用人の方は私がそれなりの人材を選んでおきますので、町の中など回ってみてはいかがでしょう?」  なるほど、全て他人任せでも何とかなるものだな。それならば町を歩いて回ってくるとしようか。  城の中では買い食いなど出来なかったから、久しぶりにやってみようかと思い、ティアに馬を任せ、徒歩で平民街のほうへ向かった。 「あなた、ヤード・ウェルナーですわね?」  大通りに出ていた露店で買い食いをしながら町を歩いていると、いきなり一人の女に絡まれた。  平民服を着てはいるが肌や髪の状態から言って貴族か裕福な商人、それも結構上の身分の者だろう。間違っても平民ではない。  金髪碧眼の典型的な貴族の容姿だが、生憎顔に心当たりがない。歳は二十歳くらいだろうか、実に男受けしそうな服を着ているあたり、娼婦か何かに落ちぶれてしまった貴族だろうか。  こんな街中で俺に絡んでくるような人間には心当たりがある。まず間違いなくディアンの関係者だろう。他に恨まれる心当たりはない。  ディアンの件で復讐に来たと考えるのが妥当だろうが、それならば声を掛ける前に刺していると思うんだが、一体何なのだろうか?  彼女の言葉を無視して黙っている俺に業を煮やしたのか、こちらに詰め寄って来た。 「私はディアン公爵の側室だったルーシアと言います。あなたのせいでディアンが幽閉され、爵位も返上されてしまいました。実家に戻っても疫病神扱いで、とうとう追い出されてしまいましたわ。あなたにはこの責任を取ってもらいます」  いきなり現れて何を言っているんだ、この女は。ディアンが爵位を返上された切っ掛けを作ったのは俺だが、結局悪いのは奴が魔帝国と内通していたからで、間違っても俺のせいじゃない。何故そんな奴の身内を俺が助けなくてはいけないのだ。  とりあえず通行人の邪魔にならないよう路地の方へ移動する。この女は追いつめられていて何をしでかすか分かったものではない。人目に付くと厄介なことになりそうな予感がしたからだ。 「済まないが、公爵家が取り潰されたとに不満があるなら私ではなく国に言ってくれ。私はディアン元公爵にあらぬ罪を着せられかけた被害者で、彼が爵位を返上された件は自業自得だ」 「それでも貴方さえいなければ、あの人もあんな強硬手段に出ることはありませんでしたわ!」 「話が通じていないのか? 私に非がない以上、そちらの訴えに耳を貸す理由は何処にもない。そもそも彼は魔帝国と内通するという重罪を犯していた。ディアンが失脚したことで起こった不利益は、彼に直接取ってもらうといい」  これ以上話をするのも面倒なので俺が立ち去ろうとすると、彼女が前に回りこんで来た。何て鬱陶しい奴だ、ディアンの側室とは本当らしい。こういう所は奴によく似ている。 「あなたに構っている暇は無いのだがな。道を開けてくれないか?」 「私の話を聞いてくれないのであれば、ここで服を脱いで叫びます」  とうとう脅迫までしてきた。本当にやれるのか試してみてもいいのだが、こういう場合は女性の意見が有利になりそうなので止めておく。流石に無実の罪で訴えられるのはもう御免だ。 「私に一体どんな責任を取れと言うのだ?」 「私が不自由のない生活を送れるくらいの金額を都合して下さい。貴方のせいで生活が壊れたのだから、これは正当な要求ですわ」 「そこまでの金が欲しいのなら娼館に身売りでもするのだな。先ほども言ったが、私が貴女の面倒を見る理由はない。被害者面をしているのは勝手だが、こちらにそれを押し付けるのは止めて貰おう」 「しょ、娼館に身売りなどと、よくもそんな外道のようなことが言えますね!」  結局は生活費か。まあ公爵の側室に入れるぐらいだからそれなりの家の娘だったんだろうが、おかげで家を追い出されると自分で稼ぐことも出来ないような役立たず、と言う訳だ。  容姿は悪くないのだから娼婦になったなら人気も出ると思うのだが、彼女にはその覚悟すらない。挙句の果てに被害者の俺に見当外れの要求をしてくるというのか。救いようのない馬鹿である。  立ち去ろうとすると、後ろでごそごそと音がする。振り返ると彼女が服を脱いでいるところだった。まさか本当にやるとは、この根性があるなら十分普通の店で働いていけるだろうと余計なことを考えてしまう。  慌てて彼女を止めると、彼女は半裸のまま抱きついて来た。傍から見ると路地裏で発情しているカップルだが、現実はそんなに甘い状況ではない。 「離してくれ、人が来たら勘違いされるだろう」 「嫌です! 私を助けてくれると約束するまでは離しませんわ!」  何て面倒くさい女だ。ディアンもよくこいつを側室にしたものだ。少々鬱陶しくなってきたので 恐怖 を使おうとしたのだが、ふといい案を思いついた。  そうか、責任を取れと言うのならば取ってやろう。メイド兼実験用の素体というところか。丁度新しい屋敷を買うことだし、こんな馬鹿でも働き手は多い方がいいだろう。 「仕方がない、貴女を助けると言っても、私に提案出来るのは私の屋敷で働けるようにすることぐらいだ。元のような生活を送れることはないだろうが、それでもいいのか?」 「はい、それでも娼婦に落ちるよりいいです。お願いします」  俺の言葉を聞きいれ、ようやく離してくれた。働くといってもメイドとしてとは誰も言っていない。文字通り身体を使って実験の方を手伝ってもらうつもりだ。  彼女に服を着せると、金をいくらかと鍵を渡して屋敷の場所を伝え、ティアに挨拶をしておくように言って送り出す。  彼女が立ち去ったのを確認して、俺も城に戻っていった。  城に戻りソフィに屋敷の件を伝えると、既に許可は取り付けていたようで、国王からの書状を渡された。  屋敷について聞かれたので場所や覚えている特徴を伝えると、後日遊びに行きたいと言われたが、それは流石にお断りさせてもらった。婚約者でもない独身男性のところに王女が遊びに行くものではない。  次の日には屋敷の手続きが終わったと報告を受けたので、エルを連れて早速向かうことにした。ティアは使用人達の人選が終わったそうで、屋敷で先に待っているとのことだった。  屋敷に着くと、既に屋敷前の掃除が終わっていた。昨日の今日で早いことだと思いながら中に入ると、ティアや使用人らしき男女達が並んで待っていた。その中にはルーシアの姿もあった。 「お帰りなさいませ、ご主人様」 「ああ、使用人はこれで全員か?」 「はい、急ぎで集めたのですが、皆何処かの家で雇われていた者ばかりです。技量は確かなのでご安心下さい。紹介は必要ですか?」 「ああ、頼む」  執事のクルトを始め全員の紹介を受けたが、そんなに大勢の名前は覚えられなかった。紹介が終わるとそれぞれの仕事に戻ってもらったが、ルーシアだけ呼び止めた。 「何でしょうか?」 「お前には別の仕事を用意してある。とりあえず付いて来い」  訝しがるルーシアとエルを引き連れて地下室に向かう。ここの扉は分厚い金属で、防音もしっかりしている。この屋敷を作った人物がどんな趣味を持っていたのかは知らないが、ちょうどいいものを残しておいてくれた。  地下室には手足を拘束出来る台が置いてあり、周りには拷問用の器具が置いてあった。それを見たルーシアは表情を引きつらせて逃げ出そうとしたが、彼女の後ろに立っていたエルに捕まった。 「あ、貴方達、一体私に何をする気なの?」 「安心しろ、別にお前がディアンの側室で憎いから拷問してやるとか、そういう意図はない。ただ実験に協力して貰うためだ。この部屋を選んだのは、今からすることに丁度この台が便利だったからだな。エル、そいつの服を脱がせて台に固定しろ」  エルが指示通りに彼女を固定すると、今回使う道具を取り出す。何の変哲もない術式を書くための術式用インクと筆だ。これで彼女の身体に術式を書いていくのだ。  彼女は取り出された道具を見て何をするのか分かっていないようだ。まあ分かったところで既にどうにもならないのだが。 「エル、お前は下の方からやれ。大切な身体だから無茶はするなよ」 「はい、昨日聞いた通りにすればいいんですよね?」 「ああ、多分暴れるから慎重にな」 「ちょっと貴方達、こんな拘束までして、一体何をする気なの?」  彼女の言葉は無視して早速書き始める。まずは手からだな。指の先から肩の方に向かって魔力を収束させる術式を書き込んでいく。 「熱っ、何をしたんですか!? ねえ、ちょっと答え、あぐっ!」  ちなみに術式用インクは人の魔力と劇的に反応するため、触るとまるで熱湯のように感じられる。さらに皮膚に浸透してしまうため洗っても落ちないし、いくら拭いても滲む事すらない。塗られた部分を切り取るしか、このインクを落とす手段はない。 「マスター、爪の所はどうしますか?」 「爪はいいから他の部分を先に書け。先の方からだぞ」 「痛い痛い痛い! 止めて、お願い!」  ルーシアは痛がっているが、もちろん止める気はない。肩まで書き終わったので、次は反対の腕だ。エルの方はまだ片足の途中だが、気にせず進めることにする。 「あぎゃぁあああああ! やめでぇえええええ!」 「五月蝿いぞ、少しは静かにしていろ」  エルが太股の部分を書き始めると、激しく暴れて抵抗するので、頬を叩いて大人しくさせる。あまりの痛みで彼女は失禁してしまっている。濡れた部分を拭いて、再びどんどんと書き込んでいった。 「許じで、許じでぇええええ!」 「仕方ないな……エル、お前の分も私が書くから、こいつを抑えておいてくれ」 「はい、マスター」  しばらくは大声で泣き叫んでいた彼女だったが、そのうち彼女も抵抗を止め、ただ時折身体を跳ねさせるぐらいの反応になっていた。書きやすくなったので一気に仕上げていく。  腕と足を終わらせ、今度は顔を書いていく。悲鳴を上げる体力も尽きたのか、口から意味不明の呻き声を発している。胸から腹にかけて書き終わると、エルの方も下半身を書き終えていた。  ピクリとも動かなくなった彼女を裏返して、同じように書いていく。全く反応がなくなったので死んだかと思い状態を確認したが、心臓が動いているようなので安心して作業を続けた。  全身の施術が終わったのは二時間後だった。彼女に 体力回復 を施し、意識が戻るまで待つ。  しばらくして起きた彼女は、自分の身体を見て絶句していた。どうやら刺青のように見えるのが問題のようだ。後で知ったことだが、この国では刺青は娼婦や奴隷など下層民のする物らしく、中流階級以上の人間にとっては軽蔑の対象となっているらしい。 「こんな姿では、もう外を歩けませんわ……」 「心配しなくても、お前が外を歩き回ることはもう無い。お前のその姿を分かる奴に見られたら、少々厄介なことになるからな」 「え、どうして……?」 「どうしても何も、この国で人体実験など許されているとは思えない。特に元とは言え、この国の貴族を使っていると知られたら、まず間違いなく私は重罪人扱いだ」  こいつを屋敷の中で飼い殺しにするのは既に決まっている。彼女には外に出したくない別の理由もあるのだが、それは言わなかった。こいつの価値はこの世界だとかなりの物になったのだが、本人には詳しく教えない方がいいだろう。  それにしてもこの女、かなり痛みに強いようだ。一回ぐらいショック死するかと思っていたが、少々神経は図太いらしい。これならば他の実験にも耐えることが出来るだろう。  肉体的にはいくら死んでもらっても構わないが、精神が壊れると直すのにかなりの時間が掛かる。出来れば最期まで壊れないで欲しい。  まずは他種族で試してみるのがいいか。いきなり魔物はハードだろうしな。  この屋敷の問題が片付いたら、この国にもいるというエルフに会いに行ってみようか。それとも他の種族の方がいいか、なんてことを考えながら、これからの人生が、もはや自分のものでないことを察した彼女の、絶望に満ちた表情を眺め続けた。 ============================================================ 012. 第12話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/12/ ============================================================ 現在、俺はようやく手に入れた研究室で、机に突っ伏して呻いていた。周りには投げ捨てられた失敗作の魔道具が転がっており、足の踏み場も無いぐらいだ。 「付与魔術が此処まで難しいものだったとは……」  外では工事の音が響いている。屋敷を買ったのはよかったのだが、肝心なものが無かったのをすっかり忘れていたのだ。そう、風呂である。こちらの世界は貴族すら風呂を使っておらず、身体を拭く程度しかしていなかったのである。  この世界の衛生観念は意外と発達していた。しかしトイレや下水道などの設備は揃っていたのだが、身体を洗うために風呂を作るといった発想は流石に出てこなかったようである。  平民は、基本的に水は井戸汲みか川へ汲みに行くかの2択であって、魔道具で水を作るといったことはしていない。城や上級貴族の屋敷では魔道具を使っているらしいが、値段も維持コストもかなり掛かるそうなので、俺は買うことが出来ない。  だがそれは術式の使えない奴らの話である。魔道具で水が作れることが分かっているなら、後は自分で作ればいいではないかと考え、早速試作品をいくつか作ってみた。しかし作ってみたはいいのだが、実用に耐えうる物が一つも作れなかった。  現在躓いているのは、大量の水を出そうとすると簡単に壊れてしまうという点だ。少しずつ出していくのが関の山で、こんなものでは風呂を満たす量など到底賄えるものではない。  魔道具も術式の一つならば簡単に出来るだろうと思い取り組み始めてみたのだが、結果はご覧の有様である。いくら術式には自信があるからといって、専門でもない分野に無学で挑むのは間違っていた。ここはやはり現物の一つでも手に入れなくては話にならない。  幸いにして魔道具を扱っている店は聞き出してある。金は持ち合わせが無いが、これ以上風呂のない生活も耐えられないので、強硬手段で行くとする。  町の大通りに面した場所に目当ての魔道具店はあった。見た目は他の店とそう変わりはない造りだが、よく見るとご丁寧に防犯用の結界が張ってある。つまりはそれだけ高価な物が置いてある店ということである。  店内に入るとやはり魔道具店というのは伊達ではなく、数々の種類の魔道具が置いてあった。結界を張ることの出来るごつい魔道具や、アクセサリーのような小さい魔道具まで揃っている。  これを全部売ったとしたら上流貴族よりも金を持っているのではないか、と思われるほどの品揃えに感心するばかりである。  ただ今回の目当ては水を出す魔道具と水を温める魔道具なので、それらの品には用が無い。店内をふらふらと見て回り、お目当ての品を見つけた。  どちらの値段も俺の屋敷と同じぐらいの値段だ。これは高すぎる。安かったら買ってもいいかと思っていたが、この値段は流石にぼったくりなのではないか。  俺が魔道具の前で唸っているのを見つけたのか、店員らしき男が近付いてきた。 「ようこそいらっしゃいました。お目当てはその魔道具ですか?」 「ああ、この魔道具はどれ程の水を作り出せるのだ?」 「その魔道具でしたら、1時間に酒樽2つ分ぐらいの水が出せますね。これ程強力な効果の物は、多分他の店では買えないと思います」  酒樽2つ分ということは、大体1900リットルか。それぐらい出せればそこそこの広さの風呂ならば大丈夫だろうが、今作らせているのはそんな小さなものではないので、もっと強力な物が欲しい。 「そうか、これ以上の物は作られていないのか?」 「質の良い精霊石が手に入るならば作れると思いますが、それならばもっと人気の魔道具用に回されると思います」  精霊石とは元の世界では魔石と呼ばれていた物で、魔力溜まりと呼ばれる場所で生成される真球の塊だ。名前に石と付いているが別に鉱石の類ではなく、高濃度の魔力が結晶となった物である。  魔石はほぼ例外なく空気中の魔力を吸収する性質がある。そのおかげで半永久的な魔力供給源として使うことが出来、魔道具には欠かせない物となっている。  質が良いと言うのは魔力吸収率の良い魔石のことで、大体直径が3センチ以上の魔石のことを言う。こういった魔石は大体が高出力の魔道具に使われる。 「ん? お前がこの魔道具を作っているのか?」 「はい。申し遅れました、私はここの店主のロバートと申します」  店員かと思っていたが店主だった。他の人間が作っていると思いきや、ここは個人経営の店だったらしい。  魔道具を作れる店主が初見の客に近付いてくるとは何とも無用心ではあるが、これはチャンスだ。こいつの記憶を見れば魔道具の作り方も分かるはずだ。早速店主に向かって 記憶閲覧 をかけた。  しかし、パキッという術式の干渉し合う音が聞こえて、こちらの術式が防がれる。これは術式抵抗か。軍属の魔導師すら使っていなかった物を、まさか在野の魔導師が使うとは予想していなかった。  俺の術式を受けた店主は俺から離れ、こちらを牽制するように懐から出した杖を構えた。一瞬の怯みも無い様子から、かなり戦闘慣れしているものと思われる。 「一体何の真似でしょうか? 私も何回か強盗に襲われたことはありましたが、まさか勇者様に攻撃されるとは。事の次第によっては許されませんよ」  どうやら俺の顔は割れていたようだ。あまり事を荒立てたくは無かったのだが、こうなってしまっては仕方が無い。  それにしてもいくら油断していたからといって、俺の術式を完璧に防ぐとは驚いた。この店主はなかなかの魔導師だったようだ。  こういう奴を徴兵すれば軍の戦力も上がるのに、何故先に外部戦力に頼ってしまったのだろうか。この国はそこまで平民を使いたくないということか。 「いや、正直驚いた。そこまでの実力があるならば、魔道具店などやらずに、軍に入って戦功を上げたり、更なる魔導の研究に励んでみたりしようとは思わなかったのか?」 「私は魔道具を作っている方が性に合っているのですよ。そんな話をしても誤魔化されませんよ。まさか先程の魔法は間違いだったと言い出すつもりではありませんよね?」 「別に言い訳を言うつもりは無い。それ程の実力を腐らせているのは、ただ残念だと言うことを伝えたかっただけだ」 「そうですか、それでは大人しく捕まっていただきましょう。外でなら私も勝ち目は薄かったのでしょうが、ここは私の店の中です。魔法使いが自分の領域内で負けることは、決してありえないですからね」 「……お前程度の実力で私に勝てると? まさかそんな与太話を聞けるとは思ってもいなかったぞ。お前の蛮勇に免じて一つ忠告をしてやる。俺に何か術式を使うつもりなら、止めておいた方が良い」 「与太話などではないことを証明して差し上げましょう! 『天の光よ、神の名の下に、邪悪を貫く灼熱の槍となり、彼の者を討ち滅ぼし給え』!」  店主が杖を構え呪文を唱えると、杖の先に光が集まってきた。  いつも思うのだが、こいつらは何で術式を音声要素で発動させようとするのか。音声要素はかなり変換効率の悪い要素だ。戦場で使うには物質要素の方が手っ取り早く発動出来ると思うのだが。  奴の呪文から察するに、発動するのはレーザー系の術式だ。店の中だというのになんとも大胆なことだ。下手をすれば火事になると思うのだが、それほど自分の術式制御に自信があるらしい。ただこちらの忠告を無視したのは間違いだったな。 「っ! ぐあ……っ!」  店主が突然苦しみ始め、杖を取り落とす。今店主は想像を絶するような激痛が頭の中に起こっているはずだ。店主が無駄な会話をしている間に発動しておいた第7種精神感応系術式、 術式暴走 のせいである。  効果は対象が術式を発動しようとすると、その術式を無数に展開させる。自身の能力を遥かに超える術式を強制展開されるため、その負荷が術者の脳に凄まじい激痛となって現れるのだ。下手をすれば廃人になるぐらいだから、かなりの負荷が掛かることが分かる。  全ての術式に均等に魔力が注がれてしまうため、当然ながら発動に必要な魔力も足らなくなる。結果的に発動しようとしていた術式は失敗し、術者の魔力も根こそぎ奪われる。  結果的に激痛で精神的にも肉体的にも疲労し、魔力も枯渇した魔導師が一人出来上がると言うわけだ。一応忠告はしておいたのに、その忠告を全く聞かずに発動する奴が悪い。 「がっ、ぐぅううう……!」  痛みでのた打ち回っている店主にまた 記憶閲覧 を使う。魔力がなくなったことで術式防御も消えているので、問題なく魔道具の制作方法を読み取っていく。  欲しい情報は集まったので、術式を解除する。術式の暴走が収まって痛みが引いてきたのだろう、今にも倒れそうになりながらも立ち上がった。 「こんな事をして……ただで済むと、思っているのですか……? この事は、国に伝えますよ……」 「好きにしろ。ただし俺を倒してここから逃げられたらの話だが」  この世界の人間は狡賢さが足りないと言うか、変に素直な所があるな。せめて俺が立ち去った後に立ち上がればよかったのに。まあ素直に伝えに行かせるわけもないので、起き上がろうが倒れていようが関係ないのだが。 「くっ! その余裕が命取りになることを「そこまでだ」……ぎゃあああああ!?」  店主を 恐怖 で気絶させ、 記憶抽出 を使い、ここでの記憶を抜き取る。これで今回の目的は達したので、大人しく帰ることにする。  店主の知識により、魔道具は問題なく完成した。どうやら色々手を加えていたのが良くなかったらしい。  風呂が出来たと言うので、早速見に行く。  出来上がった風呂はちょっとした温泉ぐらいの広さがあった。土地は余っているのでこのぐらいの広さでも全然構わないが、残念なことに傾きが付いてないので水はけが悪そうだ。あとで溝でも彫るか。  ちなみに屋外ではない。移動のたびに外に出るのが嫌なので、屋敷に無理やり増設させた。露天風呂にしてもよかったのだが、この辺は冬が長く、川が凍りつくほど寒くなるそうなので止めておいた。  無事に完成させた魔道具をいくつか取り付ける。これで風呂の完成だ。早速起動してみると、問題なくお湯が出てきた。これでようやく風呂に入ることが出来るな。  風呂にお湯が入っていく様を見ていると、エルがやってきた。どうやらお湯の流れ込む音が気になってきたらしい。彼女も風呂は見たことがないのか、物珍しそうな顔で中を見回している。 「凄いですね、マスター。温泉を作ったのですか?」 「いや、これは風呂と言う人工的に作ったもので、勝手に湧き出ている温泉とは別物だ」  どうやら温泉はあるようだ。ただ熱すぎるため入浴などはしなかったそうだが。 「それにしてもこんなに大量の水を出すなんて、川から転移でもさせているんですか?」 「その方法は浄化が面倒だからな、水を直接精製している。それにしても温泉があるのだな。ならば何故誰も風呂を作ろうとしないのだろうか?」 「マスター、普通の人はこんなに大量の水を使う魔道具なんか手に入りません。これに付いている魔石を売ったなら、普通の人は一生生活に困らないどころか、お釣りが大量に貰えるぐらいです」 「そうか、それならば素直に魔石を売った金で買えばよかったな……いや、それだと何処で魔石を手に入れたのか聞かれるだろうし……」  俺が魔石を売れるかどうか悩んでいる隣では、エルがお湯に手を伸ばしたり引っ込めたりしている。どうやら記憶の中の温泉と同じぐらいの温度だと思っているようで、中に手を突っ込んで良いのかどうか迷っているようだ。  俺が手を突っ込んでみせると、自分も恐る恐る手を中に入れ、意外と熱くなかったことに驚きながらも、しばらくするとはしゃぎ始めた。 「マスター、これが風呂と言うものなのは分かりました。これは何に使うのですか?」 「身体を洗ったり、疲れを取ったりするためだな」 「身体を拭くのにこんなに大量の水を使ってしまうのですか? 何だか勿体無い気がします……」 「拭くためじゃない、中に入るんだ」 「え? でも汚れたまま中に入ったら、水が汚れちゃいますよ?」 「そのためにお湯を出し続けているんだろうが」  エルは風呂に入るということがあまり理解できないようだ。仕方が無いので風呂に入ってみるように指示をする。その場で脱ぎだしたので脱衣所まで戻らせてから、改めて風呂に入らせる。ちなみに俺は外に出た。もちろん入っていない。  気の抜けたような声が風呂の中から響いてきて、しばらくすると着替え終わったエルが出てきた。 「凄いです、マスター! 何だか気持ちよかったです!」 「ああ、ここで身体を洗えば布で拭くよりも清潔が保てるだろう。基本的には私が入るために作ったのだが、時間を決めて使用人達にも解放しておこうと思っている」 「それはいい考えですね。きっと皆気に入ってくれると思います」  ちなみにエルが既に敵国の人間でないことは使用人達に伝えてある。心の中ではどう思っているのか知らないが、表面上は俺の身内として接しているようだ。そこまでエルのことを気にしていないのは、彼女よりも嫌われている存在がいるからだろう。  現在この屋敷で最も嫌われているのはルーシアだ。顔にまで書き込んである術式刻印が、他の人間からは刺青にしか見えないらしく、さらに元々コネで入ってきたと思われていたのもあって他の使用人からは軽蔑されている。  彼女を嫌っていないのは事情を知っている俺とエルだけだ。他に彼女の味方となってくれる者はいない。使用人達に虐められるよりはましだと思ったのか、嫌われる原因となった二人を頼ってくる彼女の姿はとても滑稽だとしか言いようが無い。  俺としても大いに利用価値のある彼女を見放すようなことはしないが、境遇を改善してやろうと思うことも無い。  そもそもここに雇われたことからして、彼女の見通しの甘さは残念なレベルだと言うしかない。出会い頭のあんな態度では、遅くないうちに娼婦になっていたことだろうからな。 「ご主人様、夕食の準備が出来ました」  話をしていると、ルーシアが俺達を呼びに来た。髪で隠そうとはしているが、頬にまで書き込まれた刻印は誤魔化せそうにもない。もはや彼女が以前の暮らしを取り戻すのは不可能だろう。 「夕食ですって。マスター、行きましょう」 「ああ。ルーシアも呼びに来てくれて済まないな」  頭を撫でてやると、彼女は嬉しいような悔しいような、そんな顔をした。俺のことは憎いが、元々公爵の側室として周りからちやほやされていただろうから、他の奴らが嫌っている分だけ優しさに飢えているのだろう。  まあ彼女が俺のことをどう思っていようと、逃げ出さないのならいい。何と言ったって今の彼女はまさに金の卵を生む鶏だ。  それに大人しくしている分には可愛げがある。元々公爵の側室に入れるだけの美しさは持っているのだ。集られるのは御免だが、頼られる分には悪い気はしない。  ティアが一番なのは変わりそうにも無いが、エルとルーシアは他の奴らより優遇しておこうと思っている。  俺の手を振り払えずに大人しくしている彼女には、今後も頑張ってもらおうと思う。  ちなみに後日、他の勇者達に風呂を作ったことを教えたところ、サガミが是非とも入ってみたいといってきたので招待した。奴の世界にも風呂の文化があったらしい。 ============================================================ 013. 第13話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/13/ ============================================================ 冬季に入り、寒さが本格的に厳しくなってくる中で、久しぶりに城からの呼び出しがあった。  行ってみるとフェアリスを除く他の勇者達も呼ばれていたようで、皆呼ばれた理由については心当たりがないそうだ。戦闘能力ぐらいしかない勇者達を呼んだということは、魔帝国との戦いは一時的に止まっているようだし、別の国と揉めているのか? 「勇者達よ、よく来てくれた。そなた達に是非ともやって貰いたい仕事がある」 「仕事ですか、一体何でしょうか?」 「うむ、実はこの国の北西にあるレシアーナに赴き、エルフ達との同盟を結んできて欲しいのだ」  レシアーナというのは本来、エルフ達の国があるレシアーナ大森林地帯のことだ。エルフ達の国に名前はないらしく、しかしそれでは呼びにくいので、他の国からは土地の名前を借りてレシアーナと呼ばれている。  レシアーナのエルフ達はそれぞれが人間よりも強い魔力を持っているが、基本的に他の種族と係わり合いになろうとしない。それどころか森の奥へ入ろうとするエルフ以外の者は容赦なく殺してしまうらしい。  住んでいるのはウッドエルフとハイエルフで、そのうち人に姿を見せるのはウッドエルフだけだそうだ。どうして見たことも無いエルフを知っているかと言えば、この国のエルフが交易を行っているらしい。 「しかし、何故今頃になって同盟を結ぼうと考えたのだろうか? 魔帝国の脅威に備えると言うのであれば、もっと早いうちから同盟を打診していてもおかしくはないだろうに」 「それには事情があってな、レシアーナのエルフ達はエルフ語しか話さないのだ。エルフ達はエルフ語が人間に知られるのを嫌っているため、エルフ語が話せる人間がいなかったのだよ」 「そこで翻訳能力を持った私達勇者に行ってもらいたいというわけか」 「話が早くて助かるの。冬が終わったならば魔帝国は再び我が国を攻めてくるであろう。それまでに何としてもエルフ達の協力を得なくてはならん」 「分かりました、陛下。エルフ達も魔帝国の行いを知ればこちらに協力してくれることでしょう。どうか我らにその役目を引き受けさせて頂きたい」 「うむ、そう言ってくれると信じていたぞ、アレク男爵。他の二人もアレク殿と協力し、エルフとの同盟を結べるよう力を貸してくれ」 「御意に」  レシアーナか、どう考えても手を組んでくれるとは思えないが、色々なエルフを見る機会だと思えばそれほど悪くはないな。  欲を言えばいくつかサンプルとして持ち帰りたいぐらいだが、そんなことをしては国交断絶とかいう話では無くなるので、今回は止めておこう。  レシアーナへ出発するのは3日後と決まった。色々とエルフの事情について調べておいた方が、交渉も捗るだろうという判断だ。俺は現地についてからの方が、調査が捗るんだがな。  二人は書庫の方で調べ物をすると言うので、俺はエルに話を聞いてくると二人に断って、一足先に帰らせてもらうことにした。 「ヤード様!」  廊下を歩いていると、ソフィがなかなかの勢いで走ってきた。そのままの勢いで飛び込んできたので慌てて受け止めると、少し身体が仰け反った。最近運動をサボリがちになっていたので反省せねば。  彼女は息を切らせてこちらに抱きついてくる。他の奴が見てないか辺りを見回し、誰もいないことに安堵して、彼女をそっと引き離した。 「どうしたのだ、ソフィ? そこまで急いでいたと言うことは、何か深刻な話があるのか?」 「ヤード様が今度はレシアーナの方へ行かれると聞きました……まだこちらに帰ってきて一月も経っていないのに、またヤード様と離れ離れにならなくてはならないなんて……」 「ソフィ、これは国王の命なのだ。私も決して君と離れたくて行くのではない」 「それでも私は寂しいのです……」  再びこちらに抱きついてきたのだが、ここで振りほどいてもいいものかどうか迷ってしまう。思考誘導は支配と違って無理やり従わせることが出来ない以上、ここで嫌われてしまえば関係修復に無駄な労力を割かなくてはいけなくなる。  仕方なく彼女を抱きしめ返すと、彼女はこちらに寄りかかり、体重を預けてきた。傍から見ると恋人同士にしか見えないな。誰かに見られていないことを祈るしかない。 「ヤード様……」  彼女が潤んだ目でこちらを見つめてきたかと思うと、目を閉じて顔を寄せてきた。どう見ても口付けを待っているので、そっと唇を重ね、直ぐに離す。廊下で長々と出来るわけがない。  彼女の方もそれは分かっているようで、文句を言うこともなく俺から離れて微笑みを浮かべている。 「ヤード様、続きを私の部屋で……」 「貴様! そこで何をしているんだ!」  突然の声に振り向くと、そこには若い男が一人いた。金髪碧眼の典型的な貴族だが、知らない顔だ。  ソフィの方はこいつが誰か知っているようで、少し困ったような顔をして男の方を見ている。  男はこちらに近付いてくると、俺の方を無視してソフィと向き合い爽やかな笑顔を浮かべた。 「ソフィア様、このような所でお会い出来るとは思ってもいませんでした」 「あの、トーマス様もお元気そうで何よりです」  ソフィは若干引き気味に応えていた。そんな様子を気にすることも無く、彼女にいろいろと話しかけていた男だったが、彼女の視線がこちらを向くと、奴もこちらを見て詰め寄ってきた。 「貴様、勇者の一人の……ええと、何だったか……まあいい」  男はソフィを俺の視線から隠すように立ち、こちらに指を指してきた。 「貴様、ソフィア様は私と結ばれるべきお方なのだ! 貴様のような下賎な者が触れていい相手ではない!」 「あ、あの、ヤード様、これは違……」  ソフィの否定にも気付いていないのか、男は聞かれてもいないソフィと自分との関係について話し始めた。  こいつはトーマス・バークフィールドという名前で、バークフィールド伯爵の長子だそうだ。何でも社交界デビューした時に会ったソフィに一目惚れしたそうで、以来ずっと彼女に求愛しているのだという。  それだけやって断られているなら、多分脈は無いのだろうと思うのだが、彼は自分が伯爵を継ぐのを待ってくれていると都合よく解釈しているらしい。 「それなのに、嫌がるソフィア様に無理やり抱きつき、あまつさえ口付けを迫るなどと……貴様も貴族ならば恥を知りたまえ! いや、貴様が謝ろうとも彼女は許したりはしないし、私が絶対に許さない!」 「ならどうすればいいんだ……」 「決闘だ! 貴様が負けたのならば彼女にした事を悔い改め、二度と近付かないと誓うがいい!」 「トーマス様、勝手なことを仰らないで下さい!」 「いえ、いいのです、ソフィア様。あなたの気持ちは十分に理解しております。必ずやこの愚か者を倒して見せましょう」  どうやらこいつは人の話を聞かないタイプの人間のようだ。きっとこいつの頭の中では、彼女の言葉も自分を心配しての発言だと、都合よく解釈されているに違いない。  ソフィの方は完全に嫌がっているのだが、奴には彼女の表情が不安がっているようにでも見えたのか、彼女を抱き寄せ安心するように言っている。 「済まないが、私は調べ物があるので決闘などに割いている時間は無いのだが……」 「明日だ! 明日の早朝より、この城の訓練場で待っているぞ! もし約束を違えたならば、王族を侮辱した罪で裁いてやる! さあ、ソフィア様。このような者と一緒にいるなど害しかありません。お部屋にお送り致しましょう」 「や、止めてください! 私はヤード様とお話を……」  奴はそう言い残すと、ソフィを連れて足早にこの場を去っていった。何だか嵐のような奴だった。  さて、エルにレシアーナのエルフについて話を聞きにいくとするか。 「レシアーナですか? あんな所行っても仕方がないと思いますよ?」  レシアーナのことについて尋ねると、エルはそう応えた。  レシアーナのエルフ達は大の人間嫌いで、人間達の傍で暮らしているエルフ達すら軽蔑の対象なのだそうだ。この国と交易をしていると聞いたときもかなり驚きだったそうだ。  ハイエルフのことについて聞くと、彼らは森の中心にある魔力溜まりに住んでおり、他のエルフよりも遥かに強い魔力を持っているらしい。一部のウッドエルフしか会うことが出来ず、詳しいことは彼女も分からないそうだ。 「そうか、それは同盟を組むなんて不可能にしか思えないな……」 「あ、そういえばハイエルフについてはいろいろと面白い噂がありますよ。魔法は彼らの使うものが始まりだとか、森から出ると死んでしまうから出てこないのだとか。後は他のエルフと違って物凄く短命だとかですね」 「それが役に立つ情報とは思えんな。もっと交渉のきっかけになりそうなものは無いのか?」 「済みません、これ以上は知らないです……」  これ以上は聞き出せそうもないので、次は彼女の記憶を抜き出したオーブの方を見てみる。しかし分かったことは、魔帝国が彼らに接触を図っていることだけだった。もしかしたら既に魔帝国側になっているかもしれないな。 「そういえば、マスター。帰ってきたとき不機嫌そうでしたが、何かありました?」 「ああ、馬鹿に絡まれてな。色々と面倒ごとに巻き込まれてしまったわけだ」  次々と厄介ごとが舞い込んでくるな。勘弁して欲しいものだ。  この鬱憤は今晩ティアを可愛がることで解消しよう。  次の日、約束どおりに訓練場に行くと、既にトーマスが待っていた。他にも何人かの姿が見えるが、これは審判と観客ということか。今回の騒動の中心人物であるソフィの姿もある。  トーマスは騎士鎧を着て訓練用の剣を持っている。話に聞くところによると、彼は一応剣術大会で入賞出来るほどの腕前だそうだ。 「よく逃げずに来たな。まあソフィア様の前で恥をかくのとどちらがマシかと言われれば、あまり大差はないがな」 「御託はいいから早く始めてくれ。こちらはこんなことに時間を使うのも勿体無いぐらいだと思っているのだが」 「その余裕何時まで続くかな?」  見届け役の一人がこちらに剣を一振り渡してくる。まさか俺が剣を使うことになるとは思いもしなかったが、念のため昨日ティアに決闘の作法を聞いておいてよかった。  術式の発動は原則禁止で、魔道具の使用も不可。寸止めが基本だが、別に打ち込んでも反則ではない。事前に決められた武器、今回は剣以外の使用は不可。もちろん素手も不可。相手が参ったというまでか、武器を弾き飛ばすなどして戦闘不能にさせたら勝ちとなる。誤って殺してしまった場合も反則にはならない。  魔導師がやるようなルールではないが、決闘は普段騎士以外はしないので、その辺のルールも騎士に合わせたものとなっているらしい。  剣を振ってみるが、やはり訓練用とはいえ重い。これが命中したら骨折ぐらいはしそうだな。 「貴様、早く鎧を着けろ」 「いや、鎧は着けなくていい。早く始めようか」 「貴様、それで私が手加減するとでも思ったら大間違いだぞ!」  二人が構えたのを見て、見届け役も前に出る。両者の間に緊張が走っているように見えた周囲の人間は、固唾を呑んで見守っている。 「ではこれよりトーマス・バークフィールドとヤード・アル・ウェルナーの決闘を開始する。両者共に悔いの無いよう全力を尽くせ……始めっ!」 「もらったぁあああ!」  審判の合図と同時に突っ込んでくるトーマスに、俺は慌てず剣を、投げつけた。人間が投げたとは思えない速度で飛んでいった剣は、鎧を砕きトーマスの腹に直撃し、奴ごと壁まで飛んでいった。訓練用の剣でよかったな。真剣なら鎧ごと貫通して死んでいたぞ。  まさか俺が本当に正々堂々とやるわけが無い。そんなことをしても勝てないからな。今の投擲は事前にかけておいた 狙撃 の効果だ。対象の射撃や投擲の精度と威力を大幅に上昇させる術式だ。本来は狙撃用の術式だが、近距離で使っても十分な効果がある。  ズルズルと崩れ落ちるトーマス。一撃で動かなくなった奴を全員が驚きの表情で見ているが、見届け役が彼に近寄り意識が無いことを確認している。 「トーマス・バークフィールドは戦闘続行不能と判断し、ヤード・アル・ウェルナーを勝者とする!」  見届け役がそう告げると、何人かの人間が慌ててトーマスの下へ駆け寄る。頬を叩いたり揺さぶったりして意識を戻そうとしているが、そんなことをしても激痛でまた気絶してしまうんではないか?  近付いてみると、口から血を流しており、腹の辺りが奇妙に凹んでいる。どうやら内臓が破れた様だ。 上級治癒 をかけて元通りに直してやる。一応殺すのは可哀想だしな。 「ヤード様!」  奴から離れるとソフィが駆け寄ってきた。流石に大勢の人の前なので抱きついたりはしていないが、こちらに熱い視線を送ってきているのが分かる。 「必ず勝って下さると信じていました。私のために有り難うございます……」 「気にしなくていい。元々あなたは勝手に巻き込まれただけなのだからな」  今にも抱きついてきそうな様子のソフィをどうしようかと悩んでいると、トーマスの意識が戻ったようだ。腹を押さえながら立ち上がった奴は、こちらの方を見るとおぼつかない足取りで詰め寄ってきた。 「貴様、これで勝ったとは思うなよ。騎士の誇りである剣を投げるなど、神聖な決闘を侮辱する行為だ。この報いは必ず受けさせてやる」 「トーマス様! 決闘の勝者を侮辱するのは恥ずべき行為ですよ!」  ソフィが怒っているのが分かったのか、悔しそうに口を噤んでこちらを睨みつけてくるトーマス。反則をしていない俺を咎められる理由が他に思いつかないのか、舌打ちをして訓練場を出て行こうとする。 「待て、まだ私が勝利した報酬を決めていない」 「はっ、何かと思えばそんなことか。いいだろう、言ってみろ」 「では今後ソフィアに近付くことを禁じる。ついでに私に対して行った侮辱の数々を謝罪してもらおうか」 「っ!? 貴様っ!?」 「そちらが出した条件と大して変わらないはずだが、何か文句でもあるのか?」 「くっ、これまでの非礼は済まなかった。この通り謝罪させてもらう」  悔しそうな顔を隠しもせずに、謝罪してくるトーマス。どう見ても反省しているようには見えないが、予想通りの反応だったので仕方ないと思うことにする。  奴は顔をあげるとこちらを睨みつけ、そのまま立ち去っていった。  去り際の態度を見るに、何かやらかしそうな気配がする。一応念のために屋敷の結界を強化しておくか。  訓練場から出ると、ソフィに屋敷を見てみたいと言われたが、丁重にお断りした。こんな決闘の後で連れて行ったらどんな噂が立つか分かったものではない。  ソフィが悲しそうな表情をしているのを横目に見ながら、また彼女の機嫌取りに付き合うのかと思うと、頭が痛くなってくる気がした。 ============================================================ 014. 第14話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/14/ ============================================================ 一度レシアーナのエルフについて集まった情報を交換するため、俺含む勇者3人は書庫に集まった。  書物が大量においてあり、かつての研究室を思い出させる。あの頃はこんな世界に飛ばされるとは思っていなかったのに、どうしてこうなってしまったのか。 「どうだ、あの娘から何か情報は掴めたのか?」 「いや、それらしい情報は何も知らなかった。ハイエルフには都市伝説並みの噂があると言うことぐらいか」 「そうか、こちらも書庫の中にそれらしい記述のあった書物は見つからなかったんだ……」  俺と同様にアレクも何の情報も掴めていなかったようだ。これはサガミの方も期待できないなと思いながらそちらの方を向くと、何やら真面目な顔つきで俺達二人に頷いてきた。 「実は中の様子を知っているエルフと接触することが出来てな」 「何! それは本当か!」 「ああ、彼らの生活やルールについて教えてもらった。流石にハイエルフのことは知らないようだったが」  サガミが聞いた情報を俺達に伝えていく。生活は狩猟と採集が中心で、農業はしないらしい。  ルールに関しては、エルフ語以外の言語は使ってはいけないということ。交易に行く者以外のエルフは外に出てはいけないこと。森の木を無闇に切ってはいけないこと。ハイエルフに関する話を他の種族にしてはいけないこと。  色々と面倒屈そうな話ばかりだが、ハイエルフとはそんなにも重要な存在なのだろうか?  サガミの話が本当だとするならば、翻訳能力で話が通じるからといって安心は出来ない。俺達の話している言語はエルフ語ではないからな。 「後は、ハイエルフは非常に短命だと聞いた。このことは秘密らしいから、口外無用だ」 「短命とはどれぐらいだ? エルフの短命だから100年ぐらいか?」 「20年も持たないらしい」 「……それは本当にエルフなのか? ハーフでさえ100年以上は平気で生きているのがエルフという種族だぞ?」  どうやらハイエルフとは身体構造的に欠陥のある種族のようだ。でなければ20年で死ぬなど有り得ない。そもそも20年も生きられないのに、どうやって種を保っているのかすら分からない。魔力溜まりと何か関係があるのだろうか。 「そのエルフには会えないのか?」 「ああ、私に話したことは今回の件以外には使わないでくれと言っていた。私も、もうこの件で彼に近付かないように約束をした」 「そうか、それなら仕方ないな」  結局それ以上の情報もないので、今日の所は解散となった。二人とも引き続き調査をすると言っていたが、正直これ以上の情報が出るとは思わないので、俺は先に帰らせてもらった。  家に帰ると招待状が届いていた。差出人はサイモン・レイ・バークフィールド、トーマスの父親だ。  息子との決闘の件で何かお怒りなのだろうか? どう考えても決闘の事しか思い当たらないので行きたくないのだが、残念ながら爵位が上の者の誘いを断るのはマナー違反で村八分らしい。  仕方ないので夕食はいらないとティアに告げ、馬に乗って西地区のバークフィールド邸にまで向かった。  西地区に入って少し進んだ所に伯爵の屋敷はあった。流石に伯爵の屋敷は俺の屋敷とは大きさが全然違う。まず2倍以上はある。下手したらもっとあるかもしれない。  門の所で感心しながら屋敷を見ていると、使用人らしき男がやってきた。  男に促され付いて行くと、食事の準備がされたテーブルに、既にバークフィールド伯爵が座っていた。元は騎士らしいので、かなりガタイが良い。 「おお、よく来てくれましたな。さあ、どうぞ座って下さい」  席に座ると、料理が運ばれてくる。家で食べているのよりも高級そうな料理の数々だが、食事にさして興味のない俺は、いきなり招待してきた伯爵にずっと注意を向けている。  一通り料理を楽しんだ後、伯爵は満足そうな顔をしながらこちらに話しかけてきた。 「今日のことは済みませんでしたな。息子のトーマスは昔からソフィア殿下に夢中でして」 「いや、こちらにも非があったと思っている。しばらくしたら約束も撤回するつもりだった」 「そうですか。いやいや、良かった。私もこんなことでトーマスとソフィア殿下の仲が悪くなるのを心配していたのですよ。二人とも昔から仲睦まじい様子でしたので」 「ふむ、あの二人はそこまで仲が良かったのだな」  親馬鹿が過ぎるな。あれで仲がいいと言ったら、世界中のストーカー被害者が抗議してくることだろう。  それよりもトーマスが一向に姿を現さないのが気になる。奴のことだからこっそり料理に毒でも盛ってくるのかと思って、わざわざ解毒用の術式の準備もしてきたのに。  それともこれは帰り道に襲ってくるパターンか? 相手の出方が分からないので、一応聞いてみるか。 「そういえばトーマス殿はどうしたのだ? 先程から一度も姿を見ていないのだが」 「おお、トーマスは何やら用事があると言うことで、今は屋敷におりません」 「用事というのは?」 「さて、そこまでは聞いておりませんでしたので……」  こいつも怪しいな。夕食の時間にいなくなるなどありえないだろう。電灯も無いこの世界では、夜間は本当に真っ暗になってしまう。そんな中でやらなくてはいけない事など、急ぎの用か秘密にしたいような事ぐらいだ。  こいつが俺を食事に招待したのは足止めか。そうなると狙いはソフィの方か。 (トーマスめ、今頃上手くやっておるかな? こんな気味の悪い奴を足止めしろなどと無茶なことを言いおってからに……)  伯爵に 窃思 を発動すると、やはり思っていた通りのようだ。屋敷には結界が張ってあるので、万が一そちらが襲われても問題ない。それよりソフィだ。 「伯爵殿、済まないが急ぎの用を思い出したので、帰らせてもらう」 「もう少しゆっくりしていってもいいのですがな。急ぎの用とやらはそれほど大切な用事なのですかな?」 「ああ、これ以上ないぐらいにな」  喋っている合間に完成した魔法陣を起動する。魔法陣の放つ光に驚いている伯爵の顔を横目に見ながら、第4種空間跳躍系術式、 上級転移 が発動し、指定した座標、今回はソフィの部屋へと転移する。  転移した先で見たのは、ソフィの部屋のベッドに座っているトーマスと、奴に抱きかかえられているソフィの姿だった。  トーマスはいきなり現れた俺に驚いているが、直ぐに落ち着きを取り戻すと、こちらに向かって不敵な笑みを浮かべてくる。 「これはこれは、ウェルナー準男爵。こんな時間に王女の部屋に侵入するとは、不敬にも程があると思うぞ?」 「それはこちらの台詞だ、トーマス。こんな時間に王族の部屋に入っているとは、余程命知らずの者か、そうでなければただの馬鹿だな。一体どうやってこの部屋に忍び込んだ?」 「忍び込んだとは心外だな。メイドも兵士も快く通してくれたに決まっているではないか」 「……こんな奴に買収されるとは、この国の警備体制は最悪だな」 「何を言っているんだ。私はソフィアに誘われてここにいるのだ。そうだろう、ソフィア?」 「あぅ……あ、んんっ……はぃ、あっんぅ……」  話を振られたソフィは、焦点の合っていない眼でこちらを見ている。彼女は既に裸身を晒していて、股間からは愛液が滴っている。  奴が彼女の胸やクリトリスに指を這わせ、その度に彼女は気持ち良さそうな声を上げている。どうやら薬か何か盛られたようだ。 「見ろ、彼女も私の愛撫を受け入れて気持ち良さそうにしているではないか! 今からお前に私達が結ばれるところを見せてやろう! ソフィア、ここに欲しいのだろう!」 「あ……ほ、欲しぃ……ですぅ……」  別にソフィは俺の物と言ったつもりは無いが、それでもこのように見せ付けてくると、腹立たしさが込み上げてくる。奴は優越感に浸りたいのか、こちらの方に見せ付けるようにしながら、自身の肉棒を彼女の股間に擦り付けている。  俺に復讐したかったというのならソフィを手篭めにしようとするのは分かるが、それは自身の破滅を意味する行為だ。奴は魔導師と約束を交わすという事の重大さが微塵も理解できていない。  魔導師の交わす約束は一種の術式のような物で、破った者は破られた相手への術式に抵抗することが出来なくなる。知識の無い者は簡単に考えているようだが、少しでも魔導を知った者ならば、それがどういう結果をもたらすのかが容易に理解できる。 「そうか、その前にこれを受け取ってくれないか?」  奴に向かってコインを放り投げると、律儀にそれを受け取った。奴は受け取ったコインを裏返したりして確かめているが、何の変哲も無いコインだと分かると、こちらに顔を向けて笑った。 「何だ、これは? 餞別のつもりなら受け取ってやってもいいが」 「残念だったな。恨むなら、私との約束を破った自分の愚かさを恨んでくれ」 「何を言っているんだ?」 支配 を発動。即座に奴は魂の抜けたような表情になったが、直ぐに元の顔に戻ると、こちらを見てきた。 「……ん? 何故私はこんな所にいるのだろうか?」 「気にするな。それより彼女を離してやれ。お前に抱えられていては落ち着いて休めないだろう」 「ん? ああ、済まない」  彼女をそっとベッドに横たえると、奴は全裸のまま立ち上がった。正直見たくも無いので視線を下に向けないように気をつける。 「よし、お前はもう帰っていいぞ。彼女に構っているよりも大切な用事があるのだろう?」 「ああ、そうだった! 待っていて下さい、今行きます!」  全裸のまま部屋を飛び出していくトーマス。明日の朝には城中で人気者になっているに違いない。何処へ行ったかはもちろん言わない方がいいだろう。  それよりもソフィだ。彼女に近付くと、身体の疼きが収まらないのか、勝手に自慰を始めていた。胸や股間を触りながら、虚ろな目で笑っている。妹に続いて姉のこんな表情を見てしまうとは、運がいいのか悪いのか分からないな。  準備しておいたが使うことの無かった 解毒 を発動するが、彼女に使われた薬が思いのほか強力だったようで、身体の疼きが完全には止まっていないようだ。まあ意識を回復できるぐらいには効いたのでよしとする。  少ししてソフィが目を覚ました。寝ぼけているようで、可愛く欠伸をしながら辺りを見回している。 「……ふぇ? ヤード様……?」 「こんばんは、ソフィ」 「こんばんは……」  俺がいることに気付いたソフィはお辞儀をした後ボーっと俺の方を見ていたが、やがて意識が覚醒してくると、今自分の置かれている状況に気付いた。  あわててシーツで身体を隠し、眼から上だけを出してこちらの様子を伺ってくる。叫び声を上げないところは流石彼女も王族だと思った。 「あ、あの、どうしてこの部屋にヤード様が……?」 「ああ、バークフィールド伯爵の屋敷に招待されたのだが、トーマスがいなかったので、これはソフィの身が危ないと思ってな」 「トーマス様ですか? ……あ……っ!?」  先程の痴態を思い出したのか、こちらに背を向けて頭からシーツを被ってしまう。何と声をかけていいか迷っていると、彼女のすすり泣く声が聞こえてきた。  こういった状況は非常に苦手だ。俺の人生経験からすると、ここは黙って彼女の話を聞くのがいいと思うのだが、果たして本当にそれで合っているのか。 「ヤード様、私はもうあなたに会わす顔が在りません……あんな人に弄られたのに感じてしまい、自分から求めるような言葉を吐いて……」  ここはひとまず彼女を安心させた方がいいな。安易に彼女の言葉を肯定しては、彼女を手駒として使えなくなってしまう。 「ソフィ、こちらを向いてくれ」 「嫌です……お願いですから……」 「ソフィ!」  俺の声にビクッと身体を跳ねさせ、恐る恐るこちらを向いてくる。そんな彼女の顎を掴み、こちらの方から強引に口付けをする。  始めのうちは彼女も離れようと抵抗していたのだが、開いた腕で離さないよう身体を抱きしめ口付けを続けているうちに、彼女の方が折れて舌を伸ばしてきた。そのまま二人で舌を絡ませあい、彼女が身体を預けてくるまで続けた。 「ヤード様……」 「ソフィ、これだけは言っておこう。私はどんな事があろうとも、私は君を愛している」 「あ……! わ、私も愛しています! どんな事があっても、ヤード様を愛し続けます!」  彼女が感極まって抱きついてくる。シーツが落ちて彼女の裸身が晒されるが、そんなことはお構いなしにこちらに肌を擦り付けている。落ち着いてよく見ると、彼女の肌は赤くなっていて、薬の効果がまだ残っていることが分かる。  彼女の方もそれが分かっているようで、こちらの足を太股で挟みこんで、股間で擦ってくる。熱いため息を吐きながらこちらを見つめてくる彼女の姿は、いつもの清楚な彼女とはまた違った良さがある。  しかしここで彼女と最後までしてしまったら、物理的に誤魔化すことができなくなる。そのままソフィとの結婚へ行ってしまうか、不敬罪で捕まるかの二択だ。どちらの場合も俺の望む生活から遠ざかってしまうので、彼女の誘惑には乗らないよう努める。  そんな風に思っていたが、ふとある考えを思いついた。前は駄目でも後ろなら大丈夫じゃないか?  そう考えると、目の前で俺を誘ってくる彼女を拒絶しなくてもいいような気がする。そうと決まれば行動あるのみだ。 「ソフィ、君の身体を綺麗にするために、まずは私の屋敷へ行こう」 「ヤード様の屋敷ですか? でも、こんな時間に外出は出来ませんよ?」 「それは大丈夫だ」  魔法陣を一瞬で描き上げる。第4種戦術級術式、 上級集団転移 を発動し、我が家へと戻る。  俺の部屋に転移したのだが、部屋にはティアがいたようで、いきなり現れた俺達に目を瞬かせている。それでもすぐに我に返った彼女が近付いてきた。 「お帰りなさいませ、ご主人様。それに……ソフィア様ですね。一体どうかなされたのですか?」 「説明は無しだ。とりあえず彼女の着る物と、あと風呂を沸かしてくれ」 「畏まりました」  ティアが出て行くのを確認して、ソフィのほうを見る。彼女はメイドに身体を見られるのは慣れているのか、ティアに見られたことには何の反応も無かったが、こちらの視線に気が付くと身体を抱くようにしてしゃがみこんだ。何となく悪い気がしたので、ローブを渡した。  しばらくしてティアが予備のメイド服を持ってきたので、それに着替えたソフィを連れて風呂へと行く。 「ヤード様、風呂とはどういう所なのでしょう?」 「温泉は分かるか?」 「いえ、分かりません」 「そうか、風呂はとてもいい所だぞ。人肌より少し高いぐらいの温度の水を張った入れ物だ。身体を休め、清めるのには丁度いい」  俺の漠然とした説明では風呂というものが全く理解できなかったようで、不思議そうな顔をしてこちらを見てくる。まあ説明するよりも実際に見た方が早いので、多少急ぎ足になりながら風呂へと向かった。 ============================================================ 015. 第15話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/15/ ============================================================ 前話を読んだら分かりますが、後ろを使います。 多少ぼかしていますが、嫌いな方は注意して下さい。 ============================================================ 016. 第16話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/16/ ============================================================ レシアーナへの出発は、まだ日も出切っていない早朝からだった。  今回は見送りの人間はあまりいない。まあ身内だけの方が気楽でいいから問題ない。それよりも昨日の夜の方が大変だった。  今回連れて行くのはエルだけにしようと思ったのだが、念のためルーシアも連れて行くことにした。本人にしてみれば自分の味方が一人もいなくなる状況が続くのが耐えられなかったのだろう、連れて行くと伝えると素直に頷いていた。  しかしルーシアを連れて行くことにティアが反対し始めたのだ。どうやら新参者が付いていき、自分が留守番なのが許せないようだった。俺としては留守にする屋敷には一番信頼できるティアを置いておきたかったのだが、どうしても意見を変える様子が無かった。  結局彼女が満足するまでベッドの上で攻め続けたのだが、おかげで今日は寝不足だ。  前回と違い、今回のメンバーは勇者3人、エルとルーシア、アレクについて来たメイド、後は案内役兼御者の7人だ。あまり目立たないようにするため、一つの馬車に雑魚乗りしている。そのおかげでかなり狭い。  護衛の騎士も付けた方が良いと言われたのだが、あまり大人数で行くと相手に威圧感を与えてしまうというのと、そもそも勇者よりも弱い護衛を連れて行った所で大して役には立たないだろうと言って、今回は遠慮してもらった。  相手が魔導師の場合、多人数は有利に働かない。範囲攻撃をくらった場合に中央付近の奴らは逃げられないからである。そして襲ってくるような実力の魔導師は大体が範囲の術式を使うことが出来るので、やはり護衛はいらないということだ。  俺の術式が相手に効かない場合も想定すると、大勢でエルフの所に行った場合、向こうが敵対的だったのなら全員無事に逃がせる保証がない。準備無しでいきなり逃げろと言われて逃がせるのは20人ぐらいが限界だ。  レシアーナのエルフ達が魔帝国側についていないことを祈るばかりである。 「マスター、今日泊まる予定の町が見えてきましたよ」  前の方の景色を見ていたエルがそう報告してくるが、俺は興味が無いので適当に手を振って返しておく。今日泊まる町は村に毛が生えた程度の規模の町らしいので、あまり宿の質にも期待できそうにない。  予想の通り宿は寂れており、粗末なベッドが付いているだけで、サービスもクソも無い様な殺風景極まりない部屋である。ついでに窓も塞がれているせいで暗い。  仕方ないので酒か何か買って来ようと一人で町に向かったのだが、まだ昼間だというのに何故か酒屋が閉まっている。よく見ると他の店も同じように閉まっているのが殆どである。  これは何か厄介事が起こっている予感がする。部屋の中で大人しくしていようと宿に戻ろうとした俺に、一人の老人が近付いてきた。 「旅のお方、もしかして魔法使いの方ですかな?」  老人は俺の格好から魔導師であることを見抜いて話しかけてきたようだ。こんなことなら平民服でも着ていればよかったと思う。 「ああ、そうだが、私に何か用か?」 「おお、やはりそうでしたか! 神よ、この出会いに感謝致します!」  俺の返答に嬉しそうな表情を浮かべて神に祈り始めた老人を見て、また何時ものパターンかと内心ため息をつきながら、次の言葉を待った。  正直な所、こんな人間は放っておいて逃げ出したいのだが、王都以外の人間にも顔が割れていることが判明しているので、迂闊な行動が出来ない。まあいざとなったら記憶を消せばいいのだが、何処で誰が見ているかも分からないからな。 「魔法使い様、どうかこの町を救ってくだされ!」 「……とりあえず話を聞こうか」 「有り難うございます。実は以前よりこの町はたびたび盗賊団に襲われていました。それでもこれまでは反撃して追い返すことの出来る程度の集団だったので、襲われているといってもあまり大きな被害は出ていませんでした。しかし最近盗賊団に魔法使いが入り、今までよりも大規模な襲撃を仕掛けてくるようになったのです」 「つまりそいつがいるから盗賊団に勝てなくなったというわけか? それなら町の外から別の魔導師を雇ってくればいいのではないか?」 「そう思い何人かを王都まで向かわせましたが、騎士団も傭兵も一向にやってこないのです。おそらく使いに出した者達は途中で襲われたらしく……」 「なるほど、だから偶々やってきた私に声を掛けたと言う訳か。それで、何処に盗賊団の拠点があるのかは分かっているのか?」 「いえ、それは分かっておりません。南の方角からやってくることぐらいしか……」 「……残念だが、私は今別の仕事を引き受けている。片手間に終わらせられないような仕事は引き受けられない。他を当たってくれ」 「そんな! そんなことを仰らず、どうかお願いします! 報酬ならいくらでもお払いしますから!」  老人は地面に額を何度も叩きつけてお願いをしてくる。これを断ったら外道認定されそうだ。周りを確認すると何人かの人間がこちらを見ている。どうやら先程からの様子は全て見られていたらしい。最悪だ、これは逃げられそうも無い。 「……ご老人、顔を上げてくれ」 「ま、魔法使い様……」 「そこまで頼まれては仕方ない。その頼みは引き受けよう」 「本当ですか! よかった、これでこの町も救われる!」  俺達の様子を見ていた周囲の人間も、老人の言葉を聞いて喜んでいる。報酬も聞いていないのだが、これは割に合わない額でも引き下がる訳にはいかなさそうだ。  いつもこのように巻き込まれてしまうのは、もはや呪いか何かなのか、そう思わずにはいられなかった。  ちなみに報酬は予想通りに雀の涙ほどの額を提示された。もう少し上げさせようとしたのだが、老人がまた泣き叫ぶので、泣く泣くその額で引き受けることとなった。  宿に帰ってアレク達に盗賊の討伐の件を話した。するとサガミは賛成だったが、アレクは反対だった。どうやら王命を無視して他の事をするのは許せないらしい。  どうしても手伝ってはくれなさそうなので、サガミに後のフォローとルーシアの護衛を任せて、エルと共に森へ向かった。  薄暗く道も無い森の中は歩きにくく、かなりの体力を消耗したが、エルはまるで平地でも歩いているかのように軽い足取りで進んでいた。改めてエルがエルフであることを認識させられる。 「マスター、人が通った跡を見つけました」  前を行くエルがそう声をかけてきたので、エルの示す場所を確認するが、人の跡どころか、一体何故分かったのかと言いたくなるほどに、周りの景色と変わりが無い。  その跡を辿って行くエルに付いていきながら、連れてきて正解だったと何度も思う。先程から獣の気配を察知したり、危なそうな場所を避けて歩いたりしてくれている。これもエルフの能力なのだろうか。  エルの後に続いてしばらくすると、洞窟らしき場所が見えてきた。周りにはいかにも盗賊といった格好の男が立っている。あれはどうやら見張りのようだ。 「どうしますか、マスター?」 「入り口を塞いでしまえば終わりなのだが、一応中を確認しないと他にも拠点があるかも知れないからな……」 「あの入り口の奴を捕まえて、あとは生き埋めということでいいのでは?」 「過激だな……だが中に生存者がいるかも知れないから、その案は却下だ」  いい案が思い浮かばず、その場でもたもたしていると、俺達が草むらでこそこそ会話しているのに見張りの男が気付いたようだ。中に応援を呼び、こちらに向かってくる。 「仕方ない、実践訓練だ。エル、お前が全員やれ」 「はい、マスター」  エルは杖を取り地面に魔法陣を描き始めた。それと同時に 氷像 を放ち、先頭の何人かを氷の中に閉じ込めた。  盗賊達は相手が魔導師だと分かり、何人かは逃げ出し、また何人かは洞窟の中へ入って行った。おそらく魔導師を呼んでくるつもりなのだろう。  半数程度に減った盗賊達は恐れずに突っ込んでくるが、前の氷が邪魔をして思うように進めていない。その間にエルの魔法陣が完成したようだ。  盗賊達の足元が揺れ、地面から夥しい量の水が吹き上げてきた。全員直撃したようで、一瞬のうちに天高く飛ばされている。あれでは万に一つも助からないだろう。  エルが発動したのは第4種自然操作系術式、 間欠泉 だ。地下水脈を根こそぎ引っ張ってくるこの術式は、大量の水が噴出すのに加え、地盤沈下という二次被害まで出してしまう。  地面が激しく揺れ、水が噴出した辺りの地面から急速に沈んでいく。洞窟の入り口は崩れていないが、中はおそらく無事で済んでいないだろう。言いつけを守らない奴だ、後で説教だな。  その後大量の水と共に、飛ばされていた盗賊達が落ちてきた。皆見るも無残な姿になってしまっているので、思わず同情してしまう。息のある者は一人もいなかったが、当然の結果だろう。 「誰だ! 私の家を襲っている奴は!」  怒鳴り声と共に、中から女が一人飛び出してきた。盗賊達とは違い、土に塗れた三角帽子と魔導師用のローブを身につけている。おそらくあれが例の魔導師なのだろう。顔立ちが人間よりも細長いのを見ると、どうやら彼女はエルフらしい。 「お前達か! よくも、死んで詫びろ! 『風よ、切り裂け』!」  彼女はこちらに気付き、すぐに術式を発動した。  聞いている限りでは風の刃を飛ばす術式のようだ。目には見えないが、おそらく飛んできているのだろう。エルが慌てて回避したので、全弾俺に命中した。 (『第1魔導障壁、防御に成功。攻撃術式の逆探知に成功しました。近距離からの第1種自然操作系によるもの』)  全て最初の障壁で無効化されたので無傷だったが、エルにはもう少し回りを見て戦うように注意しなくては。  それにしてもあの魔導師は意外と優秀なようだ。短縮詠唱を使える魔導師には初めて会った。無詠唱ではないのが残念だが、そもそも無詠唱が出来る奴は俺とエルぐらいしか知らないので仕方が無い。  あの女魔導師は俺が無傷なことに一瞬驚いていたが、直ぐに元の表情に戻った。 「お前達、さては北の町の奴らに雇われた魔法使いだね? 私が竜殺しの魔法使いアドリアナなのは知っているだろうに、全く馬鹿な奴らもいたもんだよ」  アドリアナと名乗っている女魔導師には悪いが、全く知らなかった。名前すら聞いたことが無い。エルは言葉が分からないので何の反応もしていない。俺達が何も喋らないのを、自分を恐れているのだと勘違いした彼女は、高笑いをしている。 「あの、あなたが南の町を襲った魔導師なんですよね?」 「なんだ、お前ダークエルフか。そうだよ、あの町の人間ときたら、こっちが金目の物を全て寄越せといったのに歯向かって来やがったんだ。お返しに何人か殺したら皆黙りこくっちまったけどね」 「そうですか。よく分かりました」  エルが警告も無しに氷像を発動し、油断していたアドリアナはそれを避けられずに直撃した。しかし彼女は腕が少し凍っただけだった。どうやら術式抵抗は高いらしい。 「なんて奴だ! まだ勝負を始めてもいないだろ!」 「これは勝負ではなく殺し合いです。油断する方が悪いのです」 「小賢しい! これだからダークエルフは! 正面から戦う度胸も無いくせに、言い訳ばかりしやがって!」 「では、今から始めです」 「っ! 『風よ、押し潰せ』!」  エルが氷像を何発も叩き込む。流石に抵抗を抜いたのか、アドリアナの片腕は凍りつき、使い物にならなくなっている。  ただアドリアナも黙って受けていたわけではない。エルの真上から突風が巻き起こり、彼女は地面に叩きつけられた。どうやら術式の強度は相手の方が上らしい。見た目は20にもなっていないように見えるが、かなりの修練を積み重ねた魔導師なのだろう。  急いで立ち上がろうとしたエルに、おそらく追撃の風の刃が飛んで来る。無理な体勢のまま地面を転がり回避すると、エルのいた地面が大きく爆ぜる。何故あんなものが来るのが分かるのだろうか。 「『風よ、切り裂け』! ほらほら、どうしたんだい!」 「くっ! ワイルドエルフの分際で!」  どうやらアドリアナはワイルドエルフとかいうエルフらしい。名前からして荒野に住んでいるエルフだろうか。でもここ森の中だよな。  くだらないことを考えていると、アドリアナの動きが止まっている。足元には氷で出来た茨が巻きついていた。どうやらエルが 氷縛茨 で足を凍らせたようだ。どんどんと身体を這い上がり、あっという間に腰の所まで来ている。  アドリアナは足を抜こうと思い切り足を引っ張っているが、そんな程度で抜ける術式ではない。エルの方もようやく風の刃が止まり、立ち上がって土を払っている。 「いやらしい術を使いやがって、これだからダークエルフは嫌なんだよ!」 「単純に風をぶつけてくるだけのあなたには言われたくないです」  頭を残して身体が凍ってしまったアドリアナは、悔しそうにエルを睨みつけている。  エルの方は相手の動きを封じたので余裕を見せている。しかし、魔導師の戦いにおいて身体を封じただけでは全く安心できない。あれも後で説教だな。 「馬鹿が、引っかかったな! 『烈風よ、彼の者に裁きを』!」  近付いてくるエルを見て、突然ニヤリと笑ったアドリアナは、風の刃で地面に彫られた魔法陣を発動させた。  エルは慌てて回避を試みるが、少しばかり遅かった。足元から発生した竜巻に巻き込まれ、あっという間に姿が見えなくなるエル。おそらく中では風の刃が彼女を切り刻んでいるのだろう。  少しして風が止むと、全身をズタズタに切り裂かれ、夥しい量の血を流しているエルの姿があった。 「す、済みませ……マス……タ……」  最期の力を振り絞りこちらを向いてそう呟くと、地面に倒れこむ。流れ出る血の量は、彼女の命が尽きたことを如実に語っていた。 「ダークエルフの分際で、この私に楯突いた報いだよ。さて、次はお前の番だね」  エルを一瞥して、こちらの方を向いてくるアドリアナ。先程から俺が加勢をしなかったのを、俺が足手まといだと思っているのか、余裕の表情を浮かべている。どうやら先程の無効化の件は忘れているらしいな。 「アドリアナと言ったか。余裕を見せるのは結構だが、私の弟子を殺したぐらいでいい気になられては困る」 「はん! あんたこいつの師匠だったのか! こいつが弱いのはあんたのせいだったってわけだね!」 「確かに彼女はまだ修行中の身だったからな。実践不足なのが足を引っ張っていたようだ」 「あんたなら勝てるってのか? 馬鹿を言うんじゃないよ! 『風よ、切り裂け』!」  俺に向かって風の刃を飛ばしてきた。警告が来るので何かが障壁に当たっているのは分かるが、やはり風は見えない。あの術式は意外と便利だな。 「ちっ! どうやらあいつより強いのは本当らしいね。ならこれでどうだ! 『風よ、押し潰せ』!」  俺を中心に足元の草が一斉に吹き飛ばされた。だが肝心の俺が全く動いていないのを見て、アドリアナは苦虫を噛み潰したような表情を見せている。  いくつもの攻撃を放ってきたが、全て俺の障壁に無効化されている。先程から大技を撃てるようにこちらからの攻撃は控えているのだが、エルに放ったような術式を使ってこない。  それにしてももう少し術式の種類が豊富だと思っていたが、どうやらあまり多くの術式は使えないらしいな。この様子だとそろそろこちらの番だろうか。 「さっきから動かないようだけど、守ることしか出来ないのか!」 「何だ、もう動いていいのか?」  予想よりも少し早かったが、問題ない。それでは今度はこちらから攻めさせてもらおう。 ============================================================ 017. 第17話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/17/ ============================================================ 手早く地面に魔法陣を描き、即座に起動する。第4種精神感応系術式、 精神次元転移 が発動し、一面が白だけで出来た空間に転移する。この場に存在するのは俺とアドリアナだけだ。 「これは……? お前、一体何をしたんだ!」 「ここは精神世界という、元の世界とは少し位相がずれた世界だ。肉体は元の世界に残して、精神と魔力だけをここに持ってきたという訳だ。ここでの肉体的な死は存在しないが、ここで死んだら元の世界では廃人になる」 「馬鹿な、空間跳躍は不可能と証明されている魔法のはずだ!」 「お前の常識に当てはめられても困るんだがな。実際出来ているのだから、少しは現実を直視しろ。ああ、ここでも元の世界と同じように術式を発動できるぞ」 「っ! 馬鹿にしやがって! 『風よ、切り裂け』!」  風の刃が飛んでくるが、魔導障壁も元の世界と同じなので、問題なく全て無効化した。いい加減実力の差が分かってきたのか、汗を垂らしながら真剣な表情でこちらを睨みつけてくる。 「お前のことは割と気に入ったから、色々と試させてもらうことにした。勝てばここから出してやるし、お前のことを襲わないと約束しよう」 「それは本当か?」 「ああ、魔導師の交わす約束だ。お前にも分かるだろう?」 「分かった。それで、ルールは何だ?」  彼女がこちらの提案に乗ってきたので、まずは 上級治癒 で彼女を回復させる。こちらの行動を訝しがっている彼女だが、回復には素直に応じてきた。  こちらとしても彼女の状態が悪いとあまり楽しめないからな。弱った相手を倒しても何の面白みも無い。 「さて、今からやってもらうのは簡単だ。今から私が召喚する魔物を全て倒してくれ。全部で2回召喚を行うが、間には回復もしてやる。敗北の条件はそちらが死んでしまう事だ」 「分かった。早速始めてくれ」  さて、彼女も準備が出来たようだし、精神世界だけで使える術式を試すことにする。第8種物質生成系術式、 精神召喚 。発動と共に十数匹の黒狼が現れる。  黒狼の召喚に驚きの表情を隠せない彼女。まあ召喚は普通、呼び出す対象と契約を交わさないと無理だが、この術式は召喚といっても呼び出すのではなく作り出す術式なので問題ない。  呼び出されるや否や、アドリアナに向かって飛び掛っていく黒狼達に、彼女は咄嗟に反応し風の刃を飛ばしていく。  普通の魔導師ならば一体でも辛い敵のはずだが、それを十数匹相手にしても一歩も引いていない。流石は竜殺しといったところか。  四方から襲い掛かる黒狼に風の刃を当てつつ、危ないときは自分を中心に突風を吹き上げることで、たまに掠る程度で黒狼の接近を許さない。  的確に一匹ずつ倒していき、とうとう最後の一匹が倒される。彼女もそれなりに魔力と体力を使ったようなので、 復元 で失った魔力と体力を完全回復させる。俺の魔力が殆ど減っていないので、彼女の魔力量もあまりたいしたことがないようだ。 「まず一回目はクリアだな。おめでとうと言っておこうか」 「御託はいいから、次のを早く出せ!」 「慌てるな、次はお前の大好きなドラゴンでも出してやろう」 「はっ、私にドラゴンとは。どれだけ来てもさっきの黒狼と変わらないよ! 勝ちが見えてるんじゃないのか?」 「たいした自信だな。それではその実力を見せてもらおうか」  先程の魔法陣とほぼ同じ物を描き、起動する。 精神召喚 が発動し、二匹のドラゴンが現れる。どちらも同じ個体だが、それを見たアドリアナの表情が一瞬で引きつる。  俺が出したドラゴンは以前見たことのある『紅鱗』だ。一匹だけでも他のドラゴンとは格が違うらしいが、それが二匹。彼女の表情が引きつってしまうのも無理は無い。  二匹のドラゴンは出てきた瞬間から彼女に襲い掛かった。慌てて風の刃で応戦するが、並みのドラゴンの鱗は切り裂けても、『紅鱗』の鱗は切り裂くことが出来なかった。  二匹は彼女に向かって炎を吐き、爪や尾で彼女を切り裂き、叩き伏せようと猛攻を加えており、彼女は必死に避けるだけとなっている。 「無理だ! いくら私でも『紅鱗』二匹なんて誰も勝てるわけが無い! 負けを認めるから許してくれ!」 「情けないことを言うな。勇者はこいつを一撃で倒した。お前ももうちょっと頑張れば、傷ぐらい与えられるかも知れんぞ?」 「何でもするから許して! このままじゃ本当に死んじまう!」 「魔導師が何でもするなんて、軽々しく口にするな。こいつらと死ぬまで戦えと言ったっていいんだが?」 「クソ、この悪魔め! 死んでしまえ!」  二匹の攻撃を避けながら、器用にもこちらに攻撃を飛ばしてくるアドリアナ。  まさかこの二匹を作り出した俺が、こいつらよりも弱いとでも思っているのだろうか。彼女の攻撃は全て無効化され、俺に傷一つ与えられない。  あまりの状況に、彼女の表情は絶望で歪んでいる。見栄を張らなければ一匹で済ましてやろうと思ったのだが、あんな台詞を吐かれたので、ついつい二匹にしてしまった。まあ彼女の自業自得だ。  もう少しは頑張ってくれるかと思ったが、彼女の態度に一瞬で興が冷めた。 「……っ! しまっ!」  それなりに長い戦いの末、一瞬だけ彼女の気が緩んだ。そこを二匹のドラゴンが見逃すはずも無かった。二匹の爪により、彼女の身体はバラバラに引き裂かれ四散した。ここでの死んでも元の世界で死にはしないが、これで元の世界の彼女は廃人となってしまった。  この世界であった中では一番強いと思われた彼女でも、『紅鱗』二匹には勝てなかった。この世界の住人はやはりまだまだのようだ。エルにはこいつらを瞬殺出来るぐらいの実力を付けようと思った。  勝敗が着いたので 精神次元転移 を解除し、元の世界へと戻る。そこには先程までの戦いの後が残っており、エルの死体もちゃんと残っている。  エルに近付き 蘇生 を発動する。どうやら頭部はちゃんと守っていたようで、呻き声を上げて起き上がった。 「……済みませんでした、マスター」 「ああ、後で説教だ。覚悟しておけ」  彼女は大丈夫なようだったので、次は中空を見つめてよだれを垂らしているアドリアナの方へ向かう。エルフは総じて人間よりも美形なのだが、こうなってしまうと元が美人なだけにかなり残念な光景だ。  一応彼女の目の前で手を振ってみるが、反応は無い。残念ながら完全に廃人となってしまったようだ。一応他の盗賊がいないか確かめるために 記憶抽出 を使ったが、どうやらこれで全員だったようだ。  さて、証拠に彼女を連れ帰るため、第7種精神感応系術式、 擬似人格 を発動し、彼女に擬似人格を植え付ける。殆ど機械的な応答しか出来ないが、無いよりはマシだ。 「さて、俺の言葉が聞こえるか?」 「はい」 「お前の名前は?」 「名前はまだ設定されていません、設定をお願いします」 「アドリアナ。お前の名前はアドリアナだ」 「アドリアナ、記憶しました。私の名前はアドリアナです」  大体がこの調子なので面倒くさい。アドリアナはエルに任せて、俺は洞窟の中を調べることにした。  中はエルの発動した術式のせいでガタガタになっており、所々天井や床が崩れている。奴の記憶では何人か捕まえられた者がいるらしいので、そちらの方へ向かった。  牢屋のような場所にたどり着くと、鎖に繋がれた人間達とエルフがいた。ちなみに殆ど女で、男は一人しかいない。彼女達の身体には暴行を受けた跡が見える。男達は殺されるか売られるかしたんだろう。  男の方を叩いてみると気が付いたようだ。こちらを睨みつけていたが、助けに来たと名乗ると、態度を一変させた。 「助けに来てくれたのですね! 有り難うございます!」 「女達は酷い有様だが、お前は無事の様だな」 「いえ、そうではないのですが……」  男が鎖に繋がれた手で後ろを押さえているのを見て、全てを悟った。この話題は出さないようにしよう。  部屋の外にあった鍵で鎖を外してやると、男は久しぶりに自由に動くことが出来るのを嬉しがり、はしゃいでいる。 「よし、お前も鎖を外すのを手伝ってくれ」 「分かりました!」  女達の鎖も外していく。彼女達はしばらく目が覚めなかったが、こいつのように頑丈ではなかったと言うことだろう。  やがて何人かの意識が戻ってくるのを確認したので、一応今の状況を説明しようと近付いた瞬間、何人かの女達に飛び掛られた。彼女達は俺の服を脱がせようと手をかけてきたり、服の上から舐めようとしてきたりしている。 「私のオマンコ、ぐちゃぐちゃに掻き回してぇ!」 「ダメよ! 私の中にいっぱいザーメン出してもらうんだからぁ!」 「んぅ……早くオチンポ様を清めさせて下さい……」  彼女達は既に正気を失っているようだ。無理やり引き剥がし隣を見ると、奴も同じ目に会っているのだが、奴は嬉しそうな表情で襲ってくる女達と遊んでいた。  正気を保っている女はいないかと探したが、どうやら全滅らしい。精神力の高いはずのエルフまでもが正気を失っているのだから、当然かもしれない。  ここまで彼女達の正気を失わせるのはかなりの薬でも使わない限り不可能だろう。解毒用の準備は一人分しかないので、とりあえずエルフに 解毒 を使う。  術式の効果が現れ、彼女は正気を取り戻した。あちこちに張り付いた精液が、彼女がここでされたことを雄弁に語っている。  体力が戻っていないにも関わらず、ふらつく足で立ち上がり、こちらを警戒して下がっている。ここまでの辱めを受けながらも心が折れていなかったようだ。流石はエルフといった所か。 「安心しろ。ここの盗賊は全て倒した。私はお前達を助けに来た者だ」 「あなた、人間なのにエルフ語が話せるの……?」 「エルフ語が話せる訳ではないのだが、まあエルフ語も理解できると思ってくれ」 「何かの魔法かしら? 便利な物ね……」  俺の言葉が通じたので、警戒をしながらも話しかけてくる。どうやら彼女はエルフ語しか話せないようだ。ということは、彼女はレシアーナのエルフなのかもしれない。  女達が群がってくるのを全て男の方に押し付け、彼女と向き合う。 「人間に助けられるとは思わなかったけど……一応感謝はするわ」 「気にするな、助けたのはついでだ。お前達はレシアーナのエルフか?」 「ええ、夫もいたはずなんだけど、どこにいるのか知らない?」 「他にもいたのか。残念ながら、この洞窟には他に捕まっている者はいないようだ」 「そう……」  アドリアナの記憶によると、彼女以外のエルフは全て売り払うか殺してしまったようだ。売られた奴らの所持品が残っていればまだ探す方法もあるのだが、何も無いのでどうしようもない。  気丈に振舞っているが、よく見ると肩が震えている。夫がどうなったのか分からないのはさぞかし悔しいだろうが、悲しみを堪えている様子の彼女には、慰めの言葉を掛けるのは間違っているだろう。 「とりあえずここを早く出たい。一人で帰るのが無理ならレシアーナまで送っていくが、どうする?」 「そこまで私に便宜を図ってくれる理由は?」 「もともとレシアーナには行く予定だったから、ついでにどうかと誘っているだけだ」 「……そうね、良かったら一緒に連れて行ってもらえないかしら?」  彼女は色々と考えを巡らせていたようだが、一人で帰るのは危険だと判断したようだ。盗賊に捕まったせいで、一人で森へと帰ることが怖かったのだろう。言葉では強がっているが、見るからにほっとしている。 「そうか、それでは短い間だが宜しく。私の名前はヤード・アル・ウェルナーと言う」 「私はナタリアよ、よろしく」  そういえばレシアーナのエルフ達は大の人間嫌いだと言っていたが、ナタリアの反応は人間を嫌っているようには見えない。彼女が変わっているのだろうか。  彼女に着ていたローブを渡し、未だに犯され続けている男を蹴り上げ叩き起こし、女達を引き連れて外に出る。アドリアナの方も一通り設定が終わったようで、エルと共に俺が出てくるのを待っていた。 「っ! 何故こいつがいるの!?」  ナタリアはアドリアナの姿を目にした瞬間に俺から離れて戦闘態勢を取った。そういえば説明するのを忘れていた。 「そこまで警戒しなくていい。アドリアナの精神はもう死んだ。あれは彼女の肉体を操っているに過ぎない。」 「っ! あのアドリアナを倒したって言うの? てっきり彼女の隙を見て助けに来たのだと思っていたけど、まさか彼女を倒していたなんて……」 「そこのウッドエルフ、マスターをこの程度の者と比べるとは、無礼にも限度という物があります」 「エル、喧嘩腰になるのは止めろ。皆助かったばかりで憔悴しているのだからな」 「分かりました、マスター」  エルの態度を見て驚いた表情で俺の方を見てくるナタリア。そうか、ダークエルフが人間を師匠扱いしていることに驚いているのか。  他の奴らは大丈夫だったかと後ろを振り返ると、あの男は女達に抱きつかれてそれどころではないらしく、だらしなく顔を歪ませながら、彼女達のなすがままになっている。こちらのことはあまり気にしていないようだ。  さて、この人数を連れて森を歩くのはかなり危険なので、ここは素直に術式を使うことにする。  地面に魔法陣を描き、魔法陣の中に皆を入れて起動する。 上級集団転移 の効果で、一瞬にして町に着いた。  他の連中もこれには驚きだったようで、きょろきょろと辺りを見回しているが、俺達が帰ってきたことに気付いた町の人々が、こちらへと駆け寄ってくる。どうやら彼らの知り合いを見つけたようだ。  ナタリアはエルに任せて、先に宿の方に行ってもらった。宿泊客が一人増えるぐらい何とかなるだろう。  アドリアナを連れて例の老人を探したところ、奴はこの町の町長だったらしい。まあそんな気はしていたが、わざわざあんな芝居をしてまで俺に頼んできた礼に、報酬の額を上乗せさせてやった。  現在、アドリアナは町の中央で手足を縛られている。これから行われるのは私刑だ。彼女や盗賊達に殺された人間の家族が寄って集って彼女に石を投げつける。避けることも出来ないで、色々な所に石が当たり血を流している。  主に石を投げているのは、家族を殺された子供や老人、それも女達が多い。男達の方は憎憎しげに彼女を睨みつけているが、石を投げつけている者の他に、彼女を下心に満ちた目で見ている者もいる。  あの様子だと、この後彼女は男達に犯されるな。彼女もエルフなので、普通の人間女性よりも遥かに整った美しい顔をしているし、割とスレンダーなエルフに似合わず、男好きのする体つきをしているから無理も無い。  そんな現場を見ていようとも思わないので、連れ帰ってきた他の人間のことは町長に任せ、俺は早々にその場を立ち去った。  宿に帰ってきたのはそろそろ夜になろうかという時間帯だった。既に眠気が頂点に達していたので、晩飯を食べた後は自分の部屋に戻りベッドに倒れこんだ。  しかし、このまま寝ようと思っていると、不意に部屋のドアが叩かれた。人が眠ろうとしているのに邪魔をする奴は誰だと思いながら扉を開けると、そこにはナタリアがいた。  彼女はなにやら困ったような表情を浮かべている。顔を逸らしているのだが、時折ちらちらとこちらの表情を伺ってくる。 「何か用か?」 「……寝ている所を起こして御免なさい。でもあなたに頼みがあって……」 「ん? 直ぐに終わるなら聞いてもいいが……」  俺の言葉が終わる前に抱き付いてくる。こちらに自分の身体を擦りつけながら熱っぽい息を吐いていた。頬を紅潮させ、こちらに擦り寄ってくる様子は、どう見ても発情している。 どこかで見た反応だと思いながら、呆れた目で彼女を見ると、こちらの視線に気付いて見つめ返してくる。 「頼みというのは、私を抱いて欲しいの。お願い、身体が疼いてしまって……」 「残念だが、今日はかなり疲れている。今日の所はお引取り願おう」  彼女を引き剥がし、扉を閉めて 施錠 をかける。外では彼女が何やら言っているが、流石に寝不足で彼女の相手をしているような体力は無い。  エルフ達が強い異性に発情するのは完全に忘れていたが、夫がいるはずのナタリアまでお構い無しにこちらにやってくるとは。少しは夫に悪いと思ったりはしないのだろうか。  外が五月蝿いので 遮音結界 を張り、静かになった所で今度こそ眠りについた。  翌朝、出発前にアドリアナの所に行ってみると、そこには身体中を血と精液で汚しながら息絶えた彼女の姿があった。  盗賊団などやらずに魔導師として軍に入ればよかっただろうに、人に恨まれるようなことをして調子に乗った結果がこれだ。あまりにも惨めな姿だが、全て彼女の行った行為の報いなので同情はしなかった。 ============================================================ 018. 第18話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/18/ ============================================================ 盗賊団を倒してからレシアーナ大森林地帯に着くまでの3日間、延々と狭い馬車の中で気まずい思いをしていた。馬車の中には7人も乗っていたのだが、その内の俺を含めた4人は俺の関係者なので、狭い空間の半分以上を占めていた訳である。  しかもナタリアは俺以外の人間を警戒しており、エルは俺に近付いているナタリアを睨んでいたり、ルーシアは勇者3人以外の者達に冷たい目で見られていたり、とにかく殺伐とした人間関係が馬車の雰囲気を最悪なものにしていた。一時は御者の隣に避難しようと思ったほどだ。 「そういえば、レシアーナに着いた後はどうするのですか?」 「知らん。今まで誰も辿りついた人間がいないから、その場で対応していくしかないだろう」 「国の使者だというのに、何とも適当な話ですね……」  エルがため息混じりに呟くが、そういうことは国王に言ってくれ。俺は既にナタリアというウッドエルフを見ているので、目的の半分は達成しているといっても良いだろう。  まあハイエルフも見てみたい気持ちはある。エルフを名乗っているのに短命な理由とかを調べてみるのも面白そうだ。  それにレシアーナには周辺の地脈が集まっているので、おそらく相当な規模になっているはずの魔力溜まりも一度見てみたい。ハイエルフとも関係があるに違いないしな。 「レシアーナでは人間は歓迎されないと思うけど、気を悪くしないでね?」 「人間は殺されると噂に聞いているが、実際はどうなのだろうか?」 「勝手に入った人間はそうなるけど、ちゃんと正規の入り口から入れば殺されることは無いわ。ただ人間の町のように宿がある訳ではないから、そこだけは注意してね? もし野宿が嫌だったら、あなただけでも家に来ると良いわ」  ナタリアは嬉しそうな声で俺に提案してくる。しかし俺だけで彼女の家に泊まったら、確実に彼女に襲われるだろう。せめてエルだけでも入れたいが、険悪な雰囲気を出している彼女を泊めて問題でも起こされたら、それこそ任務に差し障りが出る。 「……考えておこう」 「ええ、あなたなら大歓迎よ」  夫が生きているかもしれないのに、人妻が軽々しく男を誘うなよ。内心でそう突っ込みを入れる。  昨日はお預けをくらったせいで、彼女はやたらくっ付いてくる。もし彼女の部屋に泊まることになったらどうしようか。  レシアーナの手前で馬車を止めた。ここからは馬車が入れないため、歩きで進んでいく。御者は近くの町で俺達の帰りを待っていてくれるそうだ。  馬車が立ち去るのを見送ると、早速レシアーナの中へ入ろうと進み始めようとするが、ナタリアに手を掴まれて立ち止まった。 「待って、そこから入ると撃たれるわ。入り口はこっちよ、ついてきて」  ナタリアに引っ張られるままについていき、しばらく歩いた所で彼女が止まった。しかし入り口らしき物は何も無い。 「ここが入り口よ。私達の住んでいる集落まで案内するから、後からついてきてね。道を外れたりしては駄目よ?」  入り口と言われても、先程の場所とどう違うのかが分からない。こういうのはサガミなら分かるかもしれないと思い、そちらの方を見てみるが、奴も首を振っている。他の人間も同じ反応をしている。  困惑する俺達に構わず、ナタリアが森の中に入っていき、その後をエルがついていった。彼女を見失わないように慌てて追いかけるが、道が無いので歩きにくいことこの上ない。エルフ達は普通の道を歩くようにすいすい進んでいるのに、こちらは追いつくのが精一杯だ。 「マスター、大丈夫ですか?」 「大丈夫ではない。何故こんな場所を平然と歩いていられるのだ……」 「何故と言われても……エルフは足場の状態が多少悪くても、普通に歩けますから」 「何とも羨ましい能力だな……」  後ろに下がってきて、俺のペースに合わせて併走しているエルを見ていると、その平然とした様子に少し苛立ちを感じる。エルフは色々と便利すぎるだろう。  ふと後ろを見ると、ルーシアがかなり遅れていた。お嬢様育ちの彼女には、足場の悪い森の中は厳しかったようだ。このままだとたどり着く前に倒れてしまうと思い、彼女の傍に行く。 「かなり辛いだろうが、大丈夫そうか?」 「は、はい……大丈夫です……はぁっ、はぁっ……」  どう見ても大丈夫には見えないので、彼女を背中に担いでいくことにする。いくら彼女の体重が軽い方だといっても、人間一人分の体重はかなり辛い。大量の汗を垂らしながら、必死の思いで何とかついていった。  森の中をハイペースで進み続け、しばらくすると森が少し開けた場所に出た。どうやらここが集落らしい。そこには木で作られた小屋が何件かあり、何人かのエルフの姿も見える。  俺達が現れたのを見て、エルフ達は警戒を露にしている。いきなり襲ってくるようなことは無いが、こちらを憎んでいるかのように睨みつけてくる。何とも近寄りがたい雰囲気だ。  微妙な緊張感の漂う中、ナタリアが彼らの方へと走っていく。エルフ達は予想外の人物が現れたことに驚いていたが、直ぐに喜びの声を上げて彼女を迎え入れた。 「皆、ただいま」 「よかった、無事だったのか!」 「他の奴らはどうした?」 「分からないわ。私の捕まっていた場所にはもう誰もいなかったから……」 「そうか……そういえば、レヴィンはどうした?」 「それも分からないの。売られたのかもしれないし、死んでしまったかもしれないわ……」  エルフ達は色々と情報を交換している。こちらに聞こえてくる話を纏めると、どうやらナタリアと夫のレヴィン、他数人のエルフは交易の隊商に参加していたのだが、そこでアドリアナ達に襲われて、何人かのエルフが捕まってしまったらしい。  そのおかげで人間への敵愾心が高まり、交易を現在中止しているらしい。入り口から入ってきた俺達を即座に殺すようなことはしなかったが、いつでも殺せるように何人かのエルフが森に入ったときからついてきていたらしい。  見張りには全く気付かなかったが、森の中であそこまで身軽に動けたなら、隠密行動も簡単に出来るだろうな。もう少し警戒しておこう。  エルフ達の話が終わったようで、彼らの何人かがこちらに近付いてきた。全員武器を構えているのは、もしものときの用心だと思いたい。  アレクやサガミもイザという時に直ぐ戦えるよう、自分の得物に手をかけている。 「待って、あの人間達は私をここまで運んできてくれたの。それにあの魔導師はアドリアナを倒して私を救ってくれた恩人なの。彼らは私達に危害を加えに来た訳じゃないわ」 「済まない、挨拶もまだしていなかったな。私はアンリエント王国で男爵位を受け賜った、アレク・ロイ・ギルフレイアと言う。後ろにいる者達は私の仲間だ。ここに住むエルフ達と同盟を結びに、ここレシアーナにやってきたのだ」 「人間と我らが同盟だと? あまり夢は見ない方がいいと思うがな」 「魔帝国に勝つためならば、夢のような話でも実現してみせる。この森を治めている者と話がしたいのだが、案内してはくれないだろうか?」 「そちらが勝手に来たのだ。探すのも自分達でやればいいだろう。ただし揉め事は起こさないでくれよ」  アレクの頼みを断ったエルフ達は、そのまま離れていった。どうやら戦いにはならなかったようだが、ここのエルフ達には決定的に嫌われてしまったらしい。 記憶閲覧 をこっそり使ってみたが、なんとこの中の誰も、ハイエルフの居場所を知らなかった。一応他の集落の場所は記憶しておいたので、手当たり次第に探っていくしかない。  そろそろ日が暮れるので、寝床を確保しなくてはいけないが、俺達を泊めてくれそうなエルフがいない。この森の夜はかなり冷え込むらしいので、仕方なくナタリアに泊めてもらうように交渉した。 「寝室は一つしかないけど、居間に二人と炊事場に一人は寝られると思うわ。あとは倉庫ね。嫌なら野宿してなさい」 「それなら私とサガミ殿とヤード殿が居間と炊事場を使い、女性達には倉庫を使ってもらうというのでどうだろうか?」 「何馬鹿なことを言っているの? 男なら男らしく倉庫に入ってなさいよ。家の中は女の子達に譲りなさい」 「理不尽な……」 「まあ、アレク殿。ここは婦女子に譲ってやるのが紳士の行いだと思うぞ」  結局アレクのメイドとエルが居間に、ルーシアが炊事場に、残りは倉庫ということになった。アレクは納得のいかない顔をしているが、サガミは倉庫でも良いようだ。  夕食はナタリアがご馳走してくれた。しかし調味料が殆ど使われていないせいか、味がしなかった。まるで生の野菜を齧っているかのような料理を平らげて、倉庫へと向かった。  倉庫といっても扉は閉められるので、寒さはかなり和らげられている。ただ、毛布がない。藁を敷いて、藁に包まって寝るしかないのだが、そのせいでアレクの機嫌は最高に悪い。  サガミはこんな事態にも慣れているのか、藁で寝床を作っている。やはり軍人はこういった所がスマートだな。  俺も寝床を作ろうとすると、ナタリアが呼びに来た。 「ヤード、あなたはこっちじゃないわよ?」 「ん? どういう意味だ?」 「どういう意味って……まあいいわ、付いてきて」 「いや、私はここでいいのだが」 「ここは私の家よ? いいから付いてきて」  ここで意地を張っても彼女は引かないだろうと判断し、大人しく彼女に付いていき家の中に入る。女性陣は毛布を一枚提供されているので、倉庫よりも数段暖かそうだった。  彼女達を横切って寝室に入る。中にはベッドが一つ置いてあるだけで、他に寝床は無かった。扉を閉めた彼女は、既に興奮して頬を紅く染めている。こちらの胸に手を添えて、そっともたれかかってきた。 「ここまで来てくれたってことは、期待してもいいのよね……?」  気分的にはここで彼女の誘いに乗ってもいいのだが、今彼女としてしまうとエルや勇者二人の心象が悪くなる気がする。特にエルは駄目そうだ。  あと彼女の夫の生死が分かるまで不貞は止めた方がいいだろう。人の恨みとは恐ろしい物だからな。いつ刺されるか分かないようなリスクを背負ってまで手を出すほどの価値は、残念ながら彼女には無い。 「お前は夫がいる身だろう。私を誘ってくれるのは嬉しいが、それは一時の感情に流されているだけだ」 「そんなこと言わないで、私を抱いて」 「悪いが、私も遊びでここに来たわけではない。無駄なリスクを背負うような真似はしたくない」 「……そう、分かったわ」  俺からすっと離れると、そのままベッドの方へと倒れこむ。顔を押し付けているが、肩が震えている所からすると泣いているようだ。 「御免なさい、顔を見られたくないから出て行って……」  こちらの方を見ないで言った言葉に頷くと、彼女の寝室を出る。扉を閉めると我慢するのを止めたのか、彼女の泣き声が聞こえてきた。  俺に断られたからといってそこまでするとは、もし彼女の夫が生きていたらかなりの修羅場になりそうだな。まだ見ぬその男には悪いが、生きていないことを願う。  ふと視線を感じてそちらの方を見ると、エルとメイドがこちらの方をまじまじと見つめていた。俺が入ってすぐ出てきたと思ったら、今度はナタリアの泣き声が聞こえたので、これはナタリアが振られたなと思っているようだ。  メイドの俺を見る目は、まるで女の敵を見るような侮蔑に満ちた視線だったが、エルの方は何となく嬉しそうな視線だ。俺が彼女の誘いに乗らないと信じていたのだろうか。  二人の視線に晒された俺は、逃げるように倉庫へと向かった。俺が帰ってきたのをみたアレクが俺に同情するような視線を向けてきたので、心外だと言わんばかりに不機嫌な顔を見せて先程作った寝床に横になった。  次の日、早朝から出発することになったのだが、なんとナタリアも着いてくると言い出した。 「私が付いていった方が、他のエルフ達に誤解されなくてすむと思うの」 「何を言っているんだ! 人間達に便宜を図る必要が何処にある!」 「そうだ、ナタリア、こんな奴らと一緒に行くなど許されることではない!」 「レヴィンに悪いとは思わないのか!」  案の定他のエルフ達には大反対を喰らっているが、彼女は何処吹く風で彼らの言葉を聞き流している。  こちらとしては付いてきてもらった方が、何かと都合がいいような気がするのだが、若干名彼女の同行に反対している者もいる。エルは当然反対してくるとは思っていたが、なんとサガミも反対らしい。  別に彼女を嫌っているとかそういう素振りは全く見えなかったのだが、何か都合の悪いことでもあったのだろうかと思い、こっそりとサガミに話しかけた。 「何故反対なのだ? 彼女がいた方がこの森では安全だ。当然賛成してくれるものだと思っていたのだが」 「ふむ、ヤード殿には教えておこう。彼女が付いてくるべきではないとする理由は、あなたと彼女の仲を疑っているからだ」 「……そのことか。確かに彼女に誘われたが、あれはエルフの習性のようなものだ。それに私は今回の任務中、彼女とそういった仲になることはないと伝えた」 「そちらが良くても彼女の方が問題なのだ。エルフの発情は知っているが、理性で押さえることが難しいほどだと聞いている。何かあってからでは遅いとは思わないか? それに、彼女の夫は、おそらくまだ生きている」 「……何だと?」 「このことは他の者にも伝えないようにしてくれ。私がレシアーナのことについて話を聞いたエルフの名前だが、彼女の夫と同じ、レヴィンと言う名前だった。どうして王都にいたのかは知らないが、生きている可能性がある以上、不貞を働くのを黙って見過ごすわけにもいかない」 「確かに。売られたエルフもいるのだから、王都に彼女の夫がいてもおかしくはないな」  なんという偶然だ。もし本当に彼女の夫だとしたら、俺は不倫一歩手前の所までいっていたのか。やはりその場の雰囲気に流されなくて良かった。  しかしこうなると、彼女を連れて行くのは色々とまずいな。俺は手を出す気は無くなったが、いつかのエルのように寝込みを襲われては抵抗出来ないかもしれない。他の人間もいるからなどという貞操観念に期待できるとも思わないしな。 「命の恩人を見捨てるなんて私には出来ないわ! いいから私のことは放っておいて!」  サガミと話している間に、あちらの方もそろそろ終わりに近付いているようだ。  ナタリアは大声を上げた後、森の中へと走っていってしまった。何人かのエルフ達が追いかけていったが、ナタリアの足の速さに追いつけていないので、その内逃げ切られてしまうだろう。  俺達は彼女が戻ってくる前に出発することにした。彼女には悪いが、サガミの話を聞いた後では俺も彼女が付いてくる事には反対だ。エルフの精神力は人間よりも高いが、こと発情中に関しては全く信用出来ないからな。 ============================================================ 019. 第19話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/19/ ============================================================ 現在、森の中で野宿中である。  あれから集落を見つける度に泊めてくれるよう交渉をしたが、泊めてくれるどころか、門前払いをされたり、集落に入ろうとしただけで攻撃されたりしていた。  最初の集落の反応は、ナタリアがいたおかげだということが良く分かったが、彼女を置いていくように出発したのでどうしようもない。  迂闊に寝たら死んでしまうかもしれない寒さなので、エルと交互に防寒用の結界を張っているのだが、おかげで満足に睡眠も取れない。一度焚き火で暖を取ろうとしたら、エルフ達が襲ってきたので、火も使えない。  他の連中が寝ている所を見ると殴ってしまいそうになるのを必死に耐えながら、そろそろ交代の時間なのでエルを起こす。 「あ……交代ですね……」  エルも連日の疲れで目にクマが出来ている。どう考えても睡眠時間が足りていない。あと二、三日ほど探してもハイエルフの場所が分からなかったら、こいつらを置いて三人で帰ってやろうか。  今にも倒れそうな表情で結界を張ろうとしているが、上手く張れていないようだ。俺の結界は解除してあるので先程から外の寒さが吹き込んできている。他の連中も寒そうにしているが、そんなことは気にしないようにしている。 「ご主人様、これをどうぞ」  俺と共に起きていたルーシアが水と保存食を渡してくる。火が使えないので術式で直接水を温めているのだが、睡眠が足りないので魔力が回復していないのと、結界を張っている魔力消費が馬鹿にならないので、あまり術式を使うことも出来ない。 「疲れが溜まっているようですが、大丈夫ですか?」 「あまり大丈夫ではないな。流石に二人だけで結界を張り続けるのは辛い」 「そういった魔道具を作ればいいのではないですか?」 「魔石があっても他の素材が無いから作れないのだ」 「そうですか……」  残念そうな表情を浮かべているルーシアを見ていると、最初からこういう態度を取っていれば良かったのにと思ってしまう。大人しくしている分には、育ちの良さが分かるお嬢様だったのだ。今では全身に刺青を入れた、どこの部族だと思ってしまうような姿になってしまったが。 「マスター、ちょっといいですか?」  エルが俺を呼んでいるので、そちらへ近付く。先程から結界の制御が上手くいっていないようだが、何か問題でも起こったのだろうか。 「どうした、魔力が切れそうなのか?」 「いえ、魔力はいいのですが、さっきから結界を張ろうとしても上手くいかなくて……」  困った顔でこちらを見てくるエル。顔立ちはいいのだが、クマのせいでかなり歳を取ったように見える。  しかし結界が上手く張れないのか。原因は三つ考えられる。  まず魔力不足の場合、結界を維持するのに必要な魔力が足りなくて、結界に穴が出来たり、消滅してしまったりする。  次に他の術式の干渉を受けた場合、これは発動自体が失敗するので違う。  そこまで考えて、彼女が結界を上手く張れない理由に思い当たる。最期の一つ、空間に漂う魔力が多すぎて、術式の制御が不安定になっているのだ。  俺のような魔導師になると、その辺の制御は息をするように出来るので分からないが、エルぐらいの魔導師は、術式が空間に漂う魔力にまで干渉してしまい、上手く制御が出来なくなってしまうのだという。  つまりは近くにかなりの魔力を発する何かがあるということだ。誰かが馬鹿みたいに大量の魔力を開放していないならば、近くに魔力溜まりがあるということだ。  ルーシアをよくよく観察してみると、彼女の頬が少し紅くなっている。彼女にした術式刻印は、空間に漂う魔力を胎内に吸収し溜め込むというものだ。一応オンオフは出来るのだが、いつもは勝手に切らないようにといってあるおかげで此処の魔力を吸収しすぎたらしい。  ちなみに人間は大量の魔力が身体を流れると快感を覚えてしまうので、彼女の様子からしても、ここの空間に大量の魔力があることが分かる。  やっとハイエルフの居場所らしき場所に着いたという事か。これは明日にも会えるかもしれない。 「あの、ご主人様……」  ルーシアがこちらの腕を軽く引っ張ってきた。どうやら彼女もそろそろ限界らしい。 「ああ、分かった。もう吸収の方は止めておいていい。エル、一度結界を解除してくれ」 「はい、そろそろなんですね」  エルもルーシアの事情が分かっているので、ナタリアの時のような反応はせず、素直に結界を解除してくれる。  エル達から見えない場所までルーシアを連れて行く。寝ていると分かっていても、いつ起きるかは分からないからな。彼女も人に見られるのは嫌がるので見えない方が都合がいい。  完全に見えない所までくると、彼女は少し躊躇いながらもスカート部分を持ち上げる。既に興奮しているようで、下着の股間に当たっている部分は湿っている。 「ご主人様、お願いします……」  顔を背けながらそう言ってくる。彼女の処理が出来るのは俺しかいないので、嫌々ながらも俺に頼むしかないのだ。別に俺の趣味のためにやっているのではなく、あくまで実験の為だったのだが、彼女にはそんなことは関係ないだろうからな。  彼女の下着をずらし、膣穴に指を入れる。既に濡れているそこは、俺の指を難なく飲み込んでいく。 「んっ……んぅ……」  片手で口を押さえて声が漏れないようにしているが、俺の指に反応して締め付けてしまうので、本人の意思とは関係なく感じてしまうのだろう。  手が入ってしまうぐらいにかなり深くまで指を突っ込み、彼女の子宮口に指を届かせて、彼女に掛けた封印の解除を行う。そのあとは指を抜き、足を震わせながら立っている彼女を見る。 「もう出していいぞ」 「はい、ふっ……んんっ……」  彼女が下腹部に力を込めると、少しして丸い珠が落ちてくる。これは彼女の胎内で生成された人工魔石だ。封印はこれが一定の大きさになるまで落ちないようにするためのものである。  今回出てきた魔石は直径3センチ程の物だ。かなり上質な魔石だと言っていい。これが店で売ればかなりの金になるのだから、この世界はまだまだ魔導技術が発達していないと言える。 「ルーシア、もういいぞ」 「は、はい……」  いそいそと服装を整えるルーシアを見る。元々は魔物や他種族の子を孕ませてみようと思っていたのだが、まさかの資金源になったので今のままで放置している。実験がしたくなったなら、彼女以外に都合のいい女体を手に入れればいいと思う。  彼女に情が湧いたと言われれば、そうなのかもしれない。ただそれはペットとかに対する物と同じだ。彼女を抱きたいかと言われれば、それは違うと断言できる。  俺も女なら誰でもいけると言った嗜好ではないので、全身刺青の女はあまり抱きたいとは思わない。現に彼女の裸身を見ても全く欲情しないのだ。 「ありがとうございました、ご主人様」 「気にするな。また出来たら言ってくれ」 「……はい」  彼女の方もそれが分かっているのか、俺に見られていても素直に従うようになった。ただ彼女の自尊心は傷つけられているようで、魔石を取り出す際に、彼女の身体を見ても俺が全く興奮しないので、いつも悔しそうな顔をしている。  ちなみに俺とエル以外の人間は今の彼女の身体を見たことが無いが、多分見たら彼女を化け物か何かだと思うだろう。普通刺青は背中や身体の一部に入れるだけで、彼女のように全身に広がるような物はしない。  エル達の所に帰り、次の交代時間が来るまで眠ることにする。結局エルは結界を上手く張れないままで、俺が交代したときには結界内がかなり冷えてしまっていた。  次の日、近くに魔力溜まりがありそうなことを皆に告げ、付近の捜索を開始する。安全のため何組かに分け、それぞれに決めた方角を調べ始めた。俺はルーシアと、アレクはメイドと、後の二人は単独行動だ。  皆別の方向に進んでいったのだが、しばらくすると俺達の方向にサガミがやってきた。奴は俺達とは正反対の方向に行ったはずなのだが。 「サガミ殿、何故こちらに来ているのだ?」 「いや、私は真っ直ぐに進んでいたはずなのだが……」  ふむ、サガミはこういった森の中での行動も慣れているはずなので、まさか方角を間違えたりはしないだろう。ということは奴でも気付かなかった仕掛けがあるに違いない。  サガミが本来行くはずだった方向に進んでいく。少し歩いていても特に何の変化も無いと思っていたが、不意に頭の中で警告音が響いた。 (『第1魔導障壁、貫通されました。第二魔導障壁、貫通されました。第3魔導障壁、貫通されました。第4魔導障壁、貫通されました。最終魔導障壁、抵抗に成功。術式効果を減少させます。攻撃術式の逆探知に失敗。撤退を推奨します』)  障壁が全て突破されたようだ。まさかの事態に少し焦る。  俺の魔導障壁を全て突破するなら、戦略級の術式並の威力が必要なはずだ。つまりはそれ程の術式を使える奴がこの辺りにいるということでもある。急いで戦闘用の強化障壁に切り替えたが、既に通してしまった術式には効果が無い。  後ろに下がろうとするが、何故か真っ直ぐ後ろに下がることが出来ない。それどころか正面を向いているはずなのに、まるで横を向いているかのような感覚に襲われる。どうやら方向感覚や場所の認識を狂わせる術式のようだ。  この術式には心当たりがある。第4種戦略級術式、 異界反転 だ。大体星一つ分ぐらいにまで範囲を広げられる術式だが、範囲を狭めれば狭めるほど効果が上がる。  今回は魔力溜まりの周辺だけのようだから、その効果は計り知れないものとなっているはずだ。俺の魔導障壁が抜かれるのも頷ける。これは油断していた。  すぐさまこちらも魔法陣を描く。第4種戦略級術式、 上級無効化結界 を発動する。これも範囲を狭めれば効果が劇的に上昇する術式だ。効果は術者以外の使った全ての術式効果を無効化する。  範囲を俺の周辺のみにすることで、異界反転を無効化することが出来た。ふと他の二人を見ると、それぞれ別の方向に進んでいる。近寄って止めると、自分が全く見当外れの方向に進んでいたことが分かったようだ。 「まさかこれほどの範囲を対象に出来る魔法があるとは……私には見当もつかない」 「凄い魔法ですね、ご主人様は掛からなかったのでしょうか?」 「いや、私も危ない所だった。今後はもっと用心しなくてはな」  ここにこのような術式が掛かっているのを見ると、どうやらハイエルフがいるのはここで間違いないようだ。俺の術式はそこまで時間が持たないので、早く皆を連れて向かった方が良さそうだ。  他の人間も呼び寄せて、俺の結界の効果範囲に入れて先程の方角へ向かう。木だけしかなかった森の景色は少しずつ変化し、発光している謎の浮遊物体や、時々落ちている魔石など、魔力溜まりで見られるような景色へとなっている。  魔力溜まりでは空間内の魔力が多すぎて、普通の生物は長くいられないのだ。一時間もすれば普通の人間は魔力に当てられて発狂するだろう。常人より遥かに耐性のあるはずの魔導師でも一週間もいられない。  現在は俺の結界のおかげで効果と一緒に魔力も消しているが、これを解いたらまず間違いなくアレクとメイドが倒れるだろう。刻印を起動させていない今のルーシアも危ない。  こんな所で住んでいるハイエルフという生き物は、本当にエルフなのだろうか?  しばらく歩いていくと、正面に神殿のような建物が見えた。どうやらあそこがハイエルフの住処のようだ。  門番もいないので勝手に中に入らせてもらう。中は広い空間があり、奥に通路がいくつかある。あまり奥に入っていってもいいのだろうか考えていると、正面の通路から一人のエルフが歩いてきた。 「本当に辿りつくとは思いませんでしたが、ようこそいらっしゃいました。あの方がお待ちですので、こちらの方へどうぞ」 「ああ、私達は王国の……」 「ええ、そちらの事情は全て分かっておりますよ、アレク様。同盟に関しては、まずはあの方の話をお聞き下さい」 「っ! ……分かった。早速案内してくれ」  こちらの事情も知られている。どこかで監視でもされていたのか?  こちらの事を知っている事といい、先程の術式といい、どうも主人とやらはこの世界の魔導技術を遥かに上回っているようだ。同盟を組めればかなりの戦力になることが期待できるが、果たしてそんな奴が王国に協力するだろうか。 「どうぞ、こちらの部屋です」  ある部屋の前で止まると、俺達に中に入るよう促してくる。アレクから順に入っていくと、長い机を挟んだ奥に一人の人物が座っており、それを見た全員が絶句した。  そこにはエルフよりも整った美しい容姿をした女の姿があった。もはや人形といっていいほどに完璧な姿に、アレク達は息をするのも忘れて見入っている。 「ようこそ、お客人方。私がこの屋敷の主、エレインです」 「あ、ああ、私はアンリエント王国の、アレク・ロイ・ギルフレイアと申します。この度はこのレシアーナに住む者達と同盟を結びたくやって参りました」 「ええ、存じております。ですが、あなたの望む応えは得られないでしょう」 「……ということは、我らと手を取り合うのは不可能だということでしょうか?」 「レシアーナに住む者達は争いを望んでいないでしょう。攻めてくる者がいれば武器を取り戦うのは理解できますが、自らの力で守れないものならば、それは滅びるべきなのではないでしょうか?」 「魔帝国という脅威がありながら、黙って見過ごすのは道義に反する行いではないのですか?」 「魔帝国も王国も同じことです。相手が仕掛けてきたわけでもないのに、わざわざ他国に攻め入る理由は無いと思いますよ」 「こちらと組めば、もし魔帝国が攻めてきてもレシアーナの安全は保障する、といってもですか?」 「それこそ無意味な提案でしょう。森を守るのに、彼らが他人の力など借りるとは思えません」  どうやらエレインは全く譲る気がないようだ。まああれほどの術式を使えたのなら、魔帝国に滅ぼされるようなことは起こらないか。 「ではそちらが同盟を結んでくれる条件を教えてもらえませんか?」 「……ありませんね。レシアーナのエルフは平穏を最も好んでいます。誰も好き好んで戦渦に巻き込まれようとは思わないでしょう」 「そうですか……」  一瞬だが彼女の言葉が詰まった。つまりは何か望みがあるが、それは言えないということだ。ここで 記憶閲覧 を使いたいが、彼女に抵抗される可能性があるので却下だ。  しかし、先程からの話を聞いて、一つ思い当たったことがある。アレクには悪いが、こいつでは同盟を組んでくれるとは思えないので、ここからは俺が交渉しよう。 「済まないが、これ以上結界を張り続けるのは厳しい。魔力溜まりの外で話をしたいのだが」 「そうですか、しかしそちらの都合は私に関係がありません。ここから出て行きたいのであれば彼に送らせますが、どうしますか?」  エレインは俺達を案内してきたエルフを指してそう言った。そういえばこいつもこの中で平然と動いているな。こいつもかなりの実力者のようだ。 「アレク殿、後の交渉は私に任せてくれないか? 手柄はそちらの物で構わない」 「そうか、あまりそちらに負担を強いるのも良くないからな。ここは大人しく出て行こう。後は頼んだぞ」  俺を残して他の奴らは退出していった。後に残った俺とエレインが対峙する。さあ、交渉はこれからだ。 ============================================================ 020. 第20話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/20/ ============================================================ 「さて、次の交渉役はあなたということでいいのでしょうか?」 「ああ、私はヤード・アル・ウェルナーと言う」 「ええ、存じております。アレク様ほどではありませんが、なかなかお強いと聞きました」 「言われるほどたいした事はしていない」  エレインはどうやら俺がやったことについてはあまり知らないようだ。術式で直接見ていたわけではなさそうだな。森の外のエルフから話を聞いたのかもしれないが、こちらの事をあまり知らないのは好都合だ。 「さて、話を始める前に一つだけ言っておきたいことがある」 「何でしょうか?」 「王国はレシアーナと同盟を結ぶつもりでいるが、私としては最悪ウッドエルフとは同盟関係にならなくても構わないと思っている」 「……仰っている意味が分かりかねます。王国はレシアーナのエルフ達と同盟を結ぼうとしているのではありませんでしたか?」 「アレク殿はそうだったが、私個人の考えでそれは違うと判断した。王国はレシアーナに住んでいるエルフをまとめて一つの勢力だと考えているが、ハイエルフとウッドエルフ達が共存しているようには見えない」  先程まで俺が感じた彼女の態度と、ウッドエルフの誰一人としてハイエルフの詳しい居場所を知らなかったということを考えると、ハイエルフがウッドエルフを治めているようには見えない。むしろウッドエルフが一方的にハイエルフを慕っているだけに見える。 「なるほど、面白い考えですね。続けてください」 「外にあった結界といい、先程からの他人事のような態度といい、ハイエルフはウッドエルフ達を率いている訳ではないということだ。それにも拘らず、ウッドエルフ達がハイエルフの秘密を守り続けているように、何故かウッドエルフはハイエルフに便宜を図っている」 「……」 「ハイエルフとウッドエルフの関係は共存でも支配でもない、ウッドエルフからの一方的な関係だ。神とその信者のような関係が近いか。交易をしている者達が盗賊に襲われたのに抗議も無かったということは、ハイエルフは彼らに対して特に思う所は無いということだ」 「そんなことはありませんよ。彼らも大切な森の一部です」 「森の一部とは枝葉が折れた程度の感覚なのだろう? ハイエルフを指導者とした一つの国として考えるなら、国民たるエルフが襲われているのに静観するなど有り得ないことだ。それこそ彼らのことを気に掛けていない証拠ではないか?」 「……」 「であれば、まずはハイエルフとだけ同盟を結ぶ。最悪ウッドエルフ達の協力が得られなくても構わないが、おそらく彼らは何も言わずにハイエルフについていくだろう。過去に何があったかは知らないが」  彼女は顔色一つ変えずに俺の話を最後まで聞いていた。失敗だったかと一瞬考え訂正しようとしたが、それより早く彼女がため息をついたので、何とか思いとどまる。 「とりあえず合格といった所でしょうか。確かに彼らは我々のことを崇めているようです。幾度か森を守りましたから我々を森の守護神だとでも思っているのでしょう。しかし、それが分かった所で今度はどんな条件を提示してくれるのでしょうか?」 「いや、それならば随分と楽になる。ウッドエルフに変な義理を感じているのであれば交渉も難しかっただろうが、ハイエルフの望みを満たせばいいだけならば、これほど簡単なこともない」 「既に私達の望みが分かっていると? ならばお聞かせ願いましょう」 「ああ、お前達のような存在が最も欲しているものなど大体同じだ。永遠の生に朽ちることの無い身体、不滅の精神。こんな所だろう」 「……私達がそのようなものを強く望んでいると、何故言えるのです? それは生物ならば誰しも一度は望むものではないでしょうか?」 「誤魔化さなくていい。出来損ないの精霊は皆同じものを欲している。完全な存在になるためにな」 「っ!」  俺の言葉に初めて彼女の表情が揺らいだ。バレていないとでも思っていたのだろうが、こんな場所に住んでいる連中が生身を持つ生物であるはずが無い。だとすれば霊体か精霊かどちらかなのだが、霊体が魔力溜まりに入ったら、まず間違いなく消し飛ぶ。つまり消去法で精霊の方だ。  ハイエルフなどと名乗ってはいたが、彼女は生物ではなく魔力体、つまり神や精霊といった類のもので、それも不完全な状態で生き続けているという出来損ないの存在だろう。  普通の精霊は核があり、身体を維持している魔力が流出しないようにしているのだが、彼女のような精霊は、核がないため魔力が常に拡散し続ける。寿命が短いのも、魔力溜まりから出ないのも、全てはこのためだ。  魔力溜まりでは空間に存在する魔力が他の場所より遥かに多いので、魔力が拡散しにくくなる。それでも完全に止めることはできないが、普通の状態では長くても1年も持たないことを考えると、遥かに長時間の生存が可能になる。  だが所詮は出来損ないだ。完全な状態ならばこんな森の中でひっそりと暮らしていなくても大丈夫なのだ。魔力の拡散による死の恐怖とは無縁の存在なのが本来の精霊なのである。  俺の提案が予想外だったのか、先程まで全く変化の無かった表情が崩れ、うろたえている。 「……よく私達の正体が分かりましたね。確かに私達は精霊と呼ばれる存在です」 「魔導の道を極めようとする者なら、これぐらいは分かって当然だろう」 「しかしこちらの望みが分かった所で、永遠の生など手に入るはずもありません。こちらも色々と試しましたが、結局全て失敗に終わりました」 「出来ないのならば条件になど出さない。精霊に核を入れる術式など、遥か昔に出来ている」 「っ! それは本当なのでしょうか!?」  先程までの冷静な態度が一変している。俺の提示した対価に惹かれているようだ。こちらの返事を待ちきれないようにそわそわと身体を揺らしている姿は、先程と同じ人物とは思えない。  こちらとしても、不完全とはいえ精霊という珍しい存在と会えただけで十分良いものが見られたので、もう少し条件を上乗せしても大丈夫だと思っていた。何せ教本に載っていただけで使う機会が全く無かった術式だ。惜しくも何ともない。 「無論だ。もし同盟を組むというのなら、ハイエルフ全員にその術式を施してもいい」 「是非お願いします! その条件ならば、もちろん同盟の話は引き受けましょう」 「有り難い。ここまでやってきた甲斐があったというものだ」 「でもその前に一つ確かめさせて下さい。あなたが本当にその手段を持っているのかどうかを」 「あいにくと必要な物は持って帰ってもらった荷物の中に入っている。証明は明日でいいか?」 「ええ、そちらの都合の良い時で構いません」  こうしてひとまずの交渉は終わった。明日また持ってくるとして、今日の所は皆の所に戻ることにする。そろそろ魔力も切れそうなことだしな。必要な物の数をそろえないといけないので、ハイエルフの人数を聞いておいた。全員で7名だそうだ。  無事に交渉も終わり皆の所に戻ってくると、そこにはナタリアがいた。先日逃げ出してから見ていなかったのだが、どうやらあの後から俺達の後を追っていたらしい。  エルは話し相手が勇者しかいなかったので、同性の彼女とは表面上は仲良さそうに話していた。何事もなかったかのように他の連中に混じって話しているが、彼女を見ると先日の件を思い出して微妙な気分になる。 「皆泊まる所に困っていると思ったから、私がちょうどいい所を借りておいたわ。私の家よりも広いから、皆の分の部屋はあるわよ」 「そうか、それは有り難いな」  ナタリアに案内されて付いていったそこは、彼女の家よりも大きく、全員泊まれる広さはあった。これでもう野宿をしなくてもいい。  ちなみに皆を送ってくれたエルフはもういなかった。聞いた所によると、彼は神官のような立場だそうだ。神官と言ってもハイエルフは存在しているので、仕事は主にハイエルフの世話だそうだが。  アレク達には今日の話を伝え、明日またあちらの方に行くことを伝えておいた。まだ正式には決まっていないがほぼ確実だということを知り、アレク達もほっとしている。 「しかし、陛下の命ではレシアーナ全体と同盟を結べとのことだったが、本当にいいのだろうか?」 「ハイエルフがこちら側についたのなら、まず間違いなくウッドエルフもこちら側につく」 「そうか、それならば大丈夫だろう」  味気の無い夕食を済ませ、魔力を回復させる為に、今日の所は寝ることにする。一応防犯用に、敵意を感知する魔道具を起動しておくと、ベッドに飛び込んでそのまま眠りに落ちていった。  微睡みの中で不意に口に何かが当たったような気がした。それが唇を開き、俺の口腔内へと入ってくる。甘ったるい匂いと味に舌を伸ばし舐めると、それはこちらの動きに合わせて絡まってきた。  目を少し開けると、ぼんやりとした視界いっぱいにナタリアの顔があった。積極的に俺の舌に絡まってきたのは、彼女の舌だったらしい。  彼女も俺が起きたことに気付き、嬉しそうに目を細めるとこちらに唾液を送ってきた。彼女の唾液は何故か甘く、本能のままに唾液を啜り、彼女の口腔内に舌を入れて、中の物も全て嘗め尽くすようにする。  やがてお互いに口を離すと、発情して紅くなった彼女の顔が目に入った。どうしてこんないい女を抱かなかったのだろうか、かつての俺はとんでもない馬鹿者だったようだ。 「ふふ、どうだった? もっとしたくなっちゃったでしょ?」  淫靡に微笑む彼女を見ていると、彼女を俺の物にしたいという征服欲が湧き上がってくる。そうだ、彼女が誘っているのだから、望み通りに彼女を抱いてやる。  そこまで考えて彼女を抱き寄せようとしたとき、自動発動に設定しておいた術式、 覚醒 が発動した。その瞬間頭の中に掛かった靄がすっきりと消え去り、現状を正しく認識できるようになった。  どうやら俺は何かをされて、彼女を抱こうとしていたようだ。流石に寝ぼけているからといって女を襲ったりするような夢遊癖は持っていない。まず間違いなく彼女に何かされたのだろう。  俺の目に理性が戻ったことが分かったナタリアは少し驚きを見せたが、すぐにニッコリと笑ってこちらの上に覆いかぶさってきた。 「おい、ナタリア。一体何をした?」 「あなたが抱いてくれなかったから、その気になるような薬を使ったの。まさか人間が理性を保っていられるとは思わなかったけど、これなら一緒に楽しめるわ」 「薬だと……?」 「エルフの媚薬よ。本当は性欲の少ないエルフ向けの薬でね、異性の匂いを嗅ぐと発情状態のエルフと同じような状態になるの。普通の人間なら理性を無くして襲ってくる所よ?」  つまりこの激しい身体の疼きは媚薬のせいだということか。こんな状態でも理性が保てるとは、エルフの精神力は化け物だな。  彼女は俺の股間の肉棒を擦りながら、こちらに身体を押し付けてくる。間近になった彼女の匂いに身体が反応している。既に俺の肉棒は臨戦態勢だ。  上手く意識が集中できないが、何とか 催眠 を発動させる。これでナタリアの動きを止められると思ったが、その瞬間、 解呪 の効果が発動し、一瞬で無効化されてしまった。  彼女も少し驚いた表情をしているが、こちらはもっと驚きだ。何故解呪が発動したのだと思いよく見ると、彼女の腕には見たことのある腕輪がはまっている。勇者達の腕に付けさせた物だ。彼女も俺の視線に気付いたようで、腕輪をこちらから隠すようにした。 「いきなり魔法を使ってくるなんて、ちょっとびっくりしちゃった」 「お前、その腕輪は……」 「これは借りてきたの。親切な人に効果も教えてもらったわ」  誰かと言われても、詳しい効果を知っているのはエルと勇者ぐらいしかいない。俺がハイエルフの所から帰ってきた時か。何故喋ってしまったんだ。 術式消去 で解除しようとしても、視界に入っていない対象を選ぶことが出来ないので、どうすることも出来ない。 「くっ、こんなことをして、どうなっても知らんぞ……」 「大丈夫よ、後悔なんてしないから」  こちらのものが硬くなったのに気付いた彼女は、下半身を曝け出し、俺のズボンや下着も脱がせてしまった。抵抗しようとしたのだが、発情中の彼女から感じられる雌の匂いを嗅ぐと、抵抗する意思を奪われてしまう。  下着を脱がされると、硬くなり反り返っている俺の肉棒が見える。俺の上に跨った彼女は、俺のものを自分の秘部に押し当て、ゆっくりと擦り始めた。滑らかな彼女の肌は、愛液のおかげでいっそう滑りやすくなっており、挿入するのとはまた違った快感を与えてくれる。 「どう、ヤード? 入れたくなってきた?」 「止めろ、今ならまだ間に合う……」 「もう、まだその気になってないの? しょうがないなぁ……」  彼女は媚薬らしき薬を口に含むと、こちらに口づけをしてきた。口を閉じようとしたが、あの甘い匂いに当てられて、彼女の舌を拒むことが出来なかった。そのまま彼女から送られてくる媚薬を飲んでしまう。  再び意識が朦朧としてくるが、それよりも身体の疼きが我慢できないほどになってきた。こちらに口を付けたままのナタリアの腰を持ち上げ、膣穴に肉棒を突き入れた。 「んっ! んんっ、んぅ!」  こちらと口づけをしているため叫べない彼女が、口の中で声を出しながらもこちらと舌を絡めてくる。上と下を同時に犯しているという事実に興奮を抑えられなかったので、もっと彼女を喘がせようと腰を動かす。  少し無理のある体勢だが、構わずに彼女の中を激しく掻き回す。彼女も媚薬のせいで興奮しているためか、膣内はまるで溶けてしまうのではないかと思う程に熱かった。こちらも媚薬のためにいつもよりも遥かに興奮しているのが分かる。  もはや理性の利かない状態で彼女を犯し、媚薬で高まった興奮のせいで、すぐに彼女の中に出してしまった。  肉棒を引き抜くと彼女の中から漏れ出てくる精液が見える。何とも卑猥な様子に、また俺の肉棒が反応し勃ってくる。 「精液が出てる……これであなたの子供が出来るのね……」  一発ではまだ出来ないかもしれないが、そんなことよりも今はこの性欲を何とかしなくては。まだまだ身体の疼きも収まっていないので、彼女には頑張ってもらわないといけない。早速彼女を持ち上げると、少し驚いたような顔をした。 「え、もうするの? ちょっと休ませて……」 「休んでいる暇があると思うか? 俺に薬を盛った責任は取ってもらおう」  俺の上から降りた彼女を持ち上げ、四つん這いの姿勢にする。そしてまだ精液が残っている彼女の膣穴に、後ろから一気に肉棒を突きこむ。 「あぁああああ! 入ってくる!」 「今からお前の中を掻き回して、孕むまで中出ししてやる」 「嬉しい、私のオマンコもっと突いて! あなたのオチンポで滅茶苦茶に掻き回して孕ませて!」  彼女を孕ませようと、奥まで抉り込むように叩き込むと、彼女もこちらの動きに合わせて腰を振ってくる。これも薬の効果か、彼女の身体は子を孕む準備が整っているかのように、子宮が降りてきて、子宮口に先端が当たっているのが分かる。 「夫のいる身で他の男を誘うなど、お前はどうしようもない淫売だな!」 「だってあの人よりもあなたの方がいい! あなたの子供産みたくなっちゃったの!」 「絶対に孕ませてやるから、覚悟しておけよ!」 「嬉しい! あなたの子供を産ませて!」  言葉のやり取りだけでも興奮してくるが、彼女の中は一回目よりも具合がよくなっているような気がする。こちらの肉棒に絡みつくような、やわやわと締め付けてくるような感覚に、早くも二回目の射精が近付いてくるのを感じる。 「ナタリア、また中に出すぞ!」 「来て、私の中にいっぱい注ぎこんでぇ!」  その言葉を聞いていよいよ我慢できなくなり、子宮口に先端を押し当てて勢いよく射精する。二回目だというのに、どこにこんな量の精液があったのだと思うほど、大量の精液が出ているのを感じる。  肉棒を引き抜くと、まだ残っていた精液が彼女の背中や尻にかかる。紅潮した肌に精液が付いているのは、何とも艶かしく見える。俺の肉棒もまだまだやれるというように硬さを保っている。  媚薬の効果が切れるまで彼女を何回も抱き、とうとう疲労で倒れてしまったのは、そろそろ夜も明けてくるという時間帯だった。  ナタリアも疲労困憊の様子で、俺の腕を枕にして一緒に寝てしまったのだが、俺を起こしに来たエルにナタリアと寝ている俺の姿をばっちりと見られてしまい、エルの機嫌を直すのに苦労する羽目になってしまった。 ============================================================ 021. 第21話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/21/ ============================================================ 現在俺とサガミ、ついでにナタリアだけで話をしている。  内容は当然ながら昨日の出来事についてだ。彼自身こうなるかもしれないことを予想していたというが、俺も薬まで使われるとは思っていなかったので、これは警戒が足りなかったと反省している。 「まったく、こんなことにならないよう警告したのだが、どうやら無駄だったようだ」  ナタリアはサガミの忠告も何処吹く風といった様子で、俺に寄りかかってニコニコとしている。昨日の出来事はそれほどまでに嬉しい出来事だったらしい。 「あ、そうそう。借りてたこれ、返すわ」  ナタリアが腕輪を渡すと、微妙に顔を顰めながら受け取るサガミ。腕輪は奴の物だったようだが、あの様子だとナタリアが勝手に取ったようだな。 「……何故か見つからないと思っていたが、ナタリア殿が盗っていたとはな」 「ええ、おかげでヤードと最後まで出来たわ。有り難うね」 「サガミ殿、何故腕輪を彼女に貸したのだ。それにその腕輪の効果も話したのか?」 「貸した覚えはないんだがな。腕輪の効果を話したのも私ではない」 「腕輪の効果はエルマイアから聞いたのよ」 「それよりナタリア殿、今の話を聞いていたのか? 元を辿ればそちらがヤード殿を誘惑しなければ、こんなことにもならなかったのだ」  腕輪をはめながらため息混じりに呟くサガミだが、ナタリアは全く反省の色を見せていない。最初に会ったときはもっとまともな性格だと思っていたのだが、俺の勘違いだったようだ。 「強い者に惹かれてしまうのはエルフの性よ? それにヤードだって私のことを受け入れてくれたんだから、あなたには関係ない話じゃない」 「エルフならば、本能に流されないほど強靭な精神力を持っているだろうに。それに夫のレヴィン殿には申し訳ないと思わないのか? 賊に襲われ生死も分からない状態だというのに、妻がこんな不貞を働いていると知ったら、彼はどう思うだろうか」 「あの人とは別れるわ。襲われたときも私を置いて逃げ出そうとした程度の男なのよ。そんな人よりもヤードの方が何倍も魅力のある男性に見えるんだから、もうあの人なんてどうでもいいの」  二人が言い争っているのをただ呆然とした顔で眺めているだけの俺。そもそも俺はナタリアの暴走に巻き込まれただけで、彼女としたのは不可抗力だ。夫と別れろとも言ってないし、彼女にアピールした記憶も無い。  ここは身を潜めて二人の争いが終わるのを待っていよう。そう思っていたのだが、こちらの方にも話が飛んできた。 「ヤード殿は今後どうするつもりなのだ? 不可抗力とはいえ彼女としてしまったのなら、それなりの責任を負うのが筋というものだ」 「そうね、あんなにされたらきっとヤードの子供も出来ちゃってるだろうし、ここはもうヤードに私を貰ってもらうしかないわね」 「……待ってくれ。確かに彼女としたのは事実だ。しかしあれは薬のせいで、俺自身望んだことではない。責任を取るにしても、まだしばらくの間考える時間をくれないか? 起きていきなりこんな話では、あまりにも早急だと思うが」  サガミは俺の言葉を聞いて渋々ながらも提案を受け入れてくれた。しかしナタリアの方は反対のようで、泣きそうな顔になって俺にしがみ付いてきた。 「そんな! あんなに激しく愛し合ったのに、あれは間違いだったって言うの!」 「落ち着け、ナタリア。どう考えてもあれは君の仕業だったろう?」 「あなただって、私を求めてきたじゃない!」  ナタリアは俺の言葉に涙声で返してくる。サガミはやれやれと首を振り、さっさと出て行ってしまった。どうせこんな痴話喧嘩に巻き込まれたくないからだろうが、自分が集めておいてそれは無いんじゃないかと思う。  それにしても面倒なことになった。既に他の連中にも昨日のことが伝わっているらしいので、ナタリアの記憶を消せばいいという問題では無くなった。仕方ないので。ナタリアに 思考誘導 をかける。 「ナタリア、聞いてくれ。別に君にしたことを否定しようとか、そういう訳で言ったのではない」 「なら、どういう意味で言ったの?」 「君にしたことについてはいつか責任を取る。だから少しの間待っていてくれないか?」 「本当に? 絶対に責任を取ってくれるの?」 「ああ、必ず」 「……分かったわ」  とりあえず彼女に関しては保留だ。もしかしたらうやむやに出来るかもしれないが、望みは薄そうだ。  彼女が落ち着いた後、自分の部屋に戻ってハイエルフ達に使う魔石を準備する。今回使用するのは直径7センチほどの巨大な物だ。天然の魔石は1センチ大きくなるのにも数百年から数千年の時が必要になる。なので、これ程の大きさの天然物を見つけるのはほぼ不可能である。  この世界では国宝になるぐらいの逸品であるが、人口魔石で作ろうと思ったら数時間で作れる代物なので、俺としてはまったく有り難みが無い。こんな魔石よりも、むしろそれを作っているルーシアの方が遥かに重要だ。  ハイエルフの人数は7人だそうだが、一応ここには10個の魔石がある。減った分はまたルーシアに作ってもらうことになりそうだ。これを一つ作るだけで、彼女にはかなりの負担がかかるのであまり量産が出来ない。これも何とかしたい所だ。そろそろ他の人間も捕まえてこないといけない。 「マスター、皆さん準備が出来たそうです」  エルが俺を呼びに来た。皆さんといっても行くのは勇者3人とエルだけである。エルが必要なのは、俺がハイエルフに術式を使う間の結界を担当してもらうためだ。正直アレクがいなければ連れて行く必要もないのだが、一応代表だから正式な契約を結ぶ際にいなくてはいけない。何とも面倒なことだ。 「分かった、すぐ向かうから待っていてくれ」 「分かりました」  エルは俺の部屋に入ってくると、ベッドに座った。既にシーツは取り替えられているので、昨日の痕跡はもう残っていないと思うが、彼女はどうも気に入らないようである。 「マスター、ナタリアさんについてなのですが……」 「どうした?」 「ここでの任務が終わった後、彼女を王都の屋敷に連れ帰るのですか?」  どうしようか。全く考えていなかった訳ではないが、このまま連れ帰るのもどうなのだろうか。一応旦那が生きている可能性が高いわけだし、王都まで来てもらうのも一つの案なのだが。 「とりあえず彼女の件は保留だ。あまり皆に言いふらすなよ」 「心配しなくても、私はエルフの人としか話せませんよ」  心配するなと言われても、前科があるので信用できない。  曖昧な答えだったが、彼女の方もこの場はそれで収めてくれるようだ。いざとなったら記憶を弄ることも考えている。別にナタリアに恨みは無いが、俺も厄介事はなるべく少ない方がいいからな。 「本日もようこそ。お待ちしておりました」  神殿の入り口で俺達を出迎えたのは、昨日のエルフではなくエレイン本人だった。本人はいたって無表情でいつもと変わらない様子だが、どれだけ待ち遠しかったのかがすぐに分かってしまう。  彼女はいつでもいいと言ったのに、翌日からここの主人が入り口で俺達を待っているのだ。これが期待していないといったら嘘になるだろう。  昨日と同じ部屋に案内された俺達は、エル以外が席についている。出してくれた飲み物を飲んでみたが、あまり美味しいものではない。エルフの食卓事情はあまり良くないようだ。 「エレイン殿、我らとの同盟を結んでくださるそうで。感謝します」 「ええ、ヤード様の出した条件が本当だったならの話ですが、彼が嘘を言っているとも思いませんからね」 「そうですか。ではヤード殿、頼んだぞ」  アレクが俺に話を振ってきたので、椅子にもたれかかっていた身体を起こし、割と真面目に見える表情を作った。寝不足で疲れているのだが、一応正式な使者なので、態度はそれなりに良くしておかなくては。 「その話なのだが、ここでやるには少し都合が悪い」 「何故だ? 何か隠さなくてはいけない技術でもあるのだろうか?」 「いや、肌を露出させなくてはいけないからな。ここで彼女の身体を無闇に晒すようなことはしてはいけないだろう」 「そ、そうなのですか……肌を……」 「ふむ、そんな事情があるのなら仕方がないな」  エレインは無表情ながらも恥らいを見せている。核を入れるのだから、胸部を何かで覆われていては話にならない。昨日話したと思っていたのだが、どうやら俺の思い違いだったようだ。 「別に疚しい気持ちは無い。私に肌を見られるのが嫌だというのなら、私の弟子が術式を使えるようになるまで待ってもらうことも出来るが。大体半年ぐらいで叶うだろう」 「いえ、大丈夫です。医者に身体を見せるようなものと思えば……」 「そうか、では他の部屋に移ろうか」 「はい、参りましょう」  エルにアレク達の結界維持を代わってもらった。俺はエレインに付いていき、近くの部屋に移動した。先程の部屋と同じような造りだ。  彼女は部屋に着くと早速服を脱ぎ始めようとした。それはいいのだが、脱いでもらう必要があるのは上半身の服だけで、下から脱ぎ始めた彼女は何か勘違いをしているのか。 「エレイン殿、胸の部分だけ脱いでくれれば結構だ。下は脱ぐ必要が無い」 「そ、そうなのですか。私としたことが勘違いを……」  彼女はほんの僅かに顔を赤らめながら、一度服を戻して改めて上を脱ぎ始めた。彼女の上半身が露になると、そこには見事というしかないほど素晴らしいバランスの胸があった。  しかしながら昨日搾り取られた俺は、今の彼女を見ても全く性欲が湧き上がってこない。変な誤解はされなくて済むが、これは幸運と言えるのだろうか。  魔石を取り出し、人間ならば心臓がある位置に魔石を押し当てる。彼女は使われる魔石の大きさに目を奪われていた。こんな物を使っていいのかと目が雄弁に語っているが、こちらとしてはタダで手に入れた物にそんな思い入れは無い。 「この魔石を核の基礎として入れるわけだが、身体に馴染むまで最長で10分ほど痛む可能性がある。死にはしないと思うが、覚悟しておいてくれ」 「はい、お願いします」 核化 と 適応 を組み合わせた第5種特殊物質生成系術式、 精霊核形成 を発動する。  彼女の肌にどんどんと魔石が沈んでいき、完全に身体の中に入った。途端に彼女の無表情な顔が崩れる。中では核を作り出す際の激しい痛みが彼女を襲っているはずだ。これは個人差があって、早い者なら数十秒で終わるが、遅い者は先程言ったように10分かけてようやく終わる者もいる。  彼女の場合は2分ほどで終わったようだ。彼女の身体を襲っていた痛みが消え、身体の調子も元に戻ったようだ。起き上がるとまずは服を着なおし、服に付いた埃を払っている。  これで彼女も核を得た完全な精霊となったわけだ。普通に立っているだけでも先程とはまるで違う存在感がある。出来損ないと完全な精霊は、その存在からして人形と人間ぐらいの差があるので当然だろう。 「どうだ、核を得た感想は?」 「……素晴らしいです。どうしても止められなかった魔力の流出が完全に止まっています。それどころか、周りから少しずつ魔力を吸収している感じがしますね」 「それはあなたを敬っているエルフ達の魔力だろう。普通の精霊は信者の祈りに込められた魔力を吸収することが出来るからな。今までは核が無かったせいで出来なかったようだが」 「これが……我々はこんなにも彼らに慕われていたのですね……」  まあ出来損ないの状態では信者の祈りなどそこら辺の石程度の価値しかなかったのだろう。魔力が得られず、流出も止まらないのだから当然といえば当然だ。 「これで私の条件が真実だと証明されただろう。先ほどの部屋に戻って、こちらの代表と話をつけて欲しい」 「そうでしたね、早速戻りましょう」  アレク達の部屋に戻る。彼女とアレク達が同盟の条件を細かく決めているのを見ながら、俺は寝不足で倒れそうになるのを堪えるのが精一杯だった。  無事に同盟を結んだので、早速王都へと帰ることにしようと思いながらルーシア達の待っている小屋に向かうと、そこには二人のダークエルフがいた。どちらも魔導師のローブに身を包んでいることから、ここに住むエルフではないことが分かる。  彼らは俺達を珍しそうに見ていたが、エルを見かけると驚いたように眼を見開き、こちらに近寄ってきた。 「エルマイア、生きていたのか。襲撃が失敗して殺されたとばかり思っていたよ」 「本当に良かった! あの後レシアーナにまで来ていたのね」  親しげな様子でエルに話しかけてくる二人組。どうやらエルの仲間だった奴ららしい。魔帝国の記憶が一切無いエルは、二人が話しかけてくるのを困った顔で聞いていた。意味が分かっていない所からすると、どうやら魔帝国の言葉で話しかけられているらしい。 「なんだ、お前達は。いきなり近付いてきて挨拶も無しとは」 「その言葉、魔帝国の者ではないな。しかしエルフ語とも違う……」 「王国の勇者ね? たしか翻訳能力があったはずよ」  アレクが話しかけたせいで、一瞬でこちらの身元が割れてしまった。勇者だと分かっているのにこの余裕に満ちた態度は、こちらなど簡単に倒せるということなのだろうか。  アレクとサガミは一歩下がって武器を取り出している。こちらはやる気のようだ。だが相手は勇者と分かった上で構えていないのだから、何か対抗策があるかもしれない。無闇に戦闘を仕掛けるのは間違っている気がする。 「王国の者は野蛮ね。敵を見たらすぐに切りかかろうとするんだから」 「それが普通の反応だ。敵を見て構えもしないお前達が腰抜けなだけではないか?」  お互い一触即発の雰囲気を醸し出しているので、俺は離れた所で見ていることにしよう。こんな所で戦ったらエルフ達が飛び掛ってくるに決まっている。今も気配は感じないが、どうせどこかで俺達のことを見張っているはずだからな。 「おい、そこのお前! 仲間が戦おうとしているのに、何故逃げようとしているんだ!」 「少しは考えろ。私はお前達と戦いに来たわけではない。無駄な戦闘をして何になる?」 「そちらに戦う気がなくても、こちらとしては勇者を倒せればこれ以上の収穫はないわ。この二人を倒したなら、次はあなたよ」  ああそうか、最近勇者らしいことをしていなかったから、自分達の重要性をいまいち理解していなかった。要塞での戦闘でかなりの活躍を見せたアレクは、ここで倒しておきたい相手なのだろう。  こちらは構えてもいないのに、いきなり切りかかってきた。残念ながら戦闘用に張ってある障壁に阻まれて攻撃は届かなかったが、すこし驚いた。おかげで眠気が覚めたが、寝不足のせいで急速に苛立ちが募ってきた。 「エル、やれ」 「はい、マスター」  俺の合図でエルが 氷像 を発動した。まさか仲間から攻撃されるとは思っていなかったのか、二人は全く避けられずに氷の中に閉じ込められた。  一瞬で無力化された二人を見て、アレクは驚き固まっている。サガミは少し驚いていたが、すぐに状況を把握して武装を構え直した。こういった見た目が派手な術式は、やはり魔導師以外には衝撃が強いな。 「無力化しました」 「いや、動けなくても使える術式はある。この前の失敗で学ばなかったのか?」  予想通り少しずつ氷が薄くなっている。中で氷を溶かすような術式でも発動したのだろう。氷の表面に罅が入り、中から氷を突き破って二人が出てくる。 「エルマイア! どうしてそんな奴の言うことを聞いているんだ!」 「待って、さっきもエルは帝国語が分かっていなかった様子だったわ。多分前の襲撃のせいで記憶を失っているんだと思う」 「察しがいいな。彼女を連れ帰ったときには、既に以前の記憶は無かったぞ」  消したのは俺だが、そこまで伝える必要も無い。俺の言葉ですぐにエルの状態を把握した二人は、俺をまず倒そうとしているのか、こちらに向けて術式を発動しようとしている。こいつらも無詠唱は出来ないようだ。アドリアナを引き渡してしまったのは勿体無かったか。 「『神よ、浄化の炎で、目の前の敵を、焼き尽くし給え』!」 「『神よ、我が手の中に、咎人を滅す断罪の刃を、与え給え』!」  二人の術式が発動した。こちらに向けて炎の塊を飛ばしてくる男と、光の剣を出して切りかかってくる女。しかし俺に攻撃が届く前に、二人の身体を何本もの矢が貫いた。  矢の飛んできた方を見ると、弓を構えたエルフが何人かいた。やはり俺達を見張っていたようだ。彼らは倒れた二人を一瞥すると、再び森の中に消えていった。 「まさかエルフ達が近くで見張っていたとは……」 「この森で火を使うのは、やはり危険なようだな……」  アレクとサガミも突然の出来事に対応できず、呆気に取られている。エルフ達は去っていったが、その後の処理はどうするつもりなんだろうか。  ふと倒れた二人を見ると、胸の辺りが動いている。どうやら二人とも生きているようだ。全身を射抜かれているが、死んでいないのなら何とでもなる。  とんだ幕引きだったが、まずはこいつらがこの森に来た理由を調べよう。  立ち上がれないほどの痛みで呻く二人を気絶させ、小屋の隣にある倉庫の方に移すことにした。 ============================================================ 022. 第22話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/22/ ============================================================ 一部拷問描写がありますので、嫌いな方は注意願います。 ============================================================ 023. 第23話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/23/ ============================================================ 夕食後、エルと共に倉庫へと向かった。中は先程のままの状態なので生臭く、拘束された裸の男女が倒れている。意識を失って動かない彼らの周りには、先程の精液や愛液が飛び散っていた。  エルは嫌なものを見るように顔を顰めながらも中に入ってきた。なるべく足元に気をつけながら歩いている。俺は靴が汚れる程度、そこまで気にしないので普通に歩いているが、彼女はどうしても踏みたくないようだ。 「マスター、ここで一体何をするつもりなんですか?」 「先程言っただろう。お前の魔力を一時的に引き上げる。こいつらを使ってな」  視線で男女を示す。既に喧嘩を売ってきた報いは受けさせたし、エレインにも好きにしろと言われたので、その通りにさせてもらうのだ。  エルに今から使う術式を説明する。初めて使う物だが、難易度はそこまで高くないので多分大丈夫だろう。エルも理解したようで頷いている。  エルは倒れている二人に近付き魔法陣を描き上げると、二人の頭に手を当てて術式を発動した。第4種精神感応術式、 魔力掌握 の効果により、彼らの持っている魔力が全てエルの方へと移っていく。  奪った魔力の分だけ保有魔力量とその最大値を増やせるのがこの術式の効果だが、効果時間は一日ほどで、さらに魔力を奪われた側の人間は、奪われた分だけ永久に魔力が失われる。  彼らもそこそこの魔導師だったかもしれないが、これからはもう魔導師としては生きていけなくなってしまった。任務中に俺達に絡んできたのが悪いのだが、彼らも運が悪かったと思う。 「マスター、全て取り終わりました」  どうやら終わったようだ。二人を見ても見た目に変化は無いが、起きたとき魔力が全てなくなっていることに気付いて絶望するだろう。俺だったら死んだ方がマシだと思う。 「凄いですね、魔力が倍以上になってます」 「お前の魔力がまだ低い証拠だ。これからも訓練を怠るなよ」 「はい、マスター」  もはや二人は魔法が使えないので 術式封印 も解除した。結界と施錠だけしておけばいいだろう。用が済んだのでエレインの元へ向かおう。  日も落ちて辺りが暗くなった頃、エルを連れてエレインの待つ神殿へと着いた。既に出撃の用意をしていたエレインは、こちらに向けて微笑みを浮かべている。随分と人間らしくなったものだ。 「お待ちしておりました。早速ですが冒険者達の所へと向かいたいと思います」 「それは良いが、ここからだと全力で走ってもたどり着く頃には夜が明けるぞ」 「その点は心配ありません」  そう言ったエレインは、無詠唱で術式を発動した。目の前に空間の亀裂が走り、向こう側には別の景色が覗いていた。  無詠唱が使えることにも驚いたが、何よりこの世界の魔導技術では不可能だと思っていた空間歪曲をやって見せたことに驚きを隠せない。こんなことが出来るとは、流石は精霊だな。  俺が驚いているのを王国の脅威になりそうな術式を見たせいだと思ったのか、エレインはパタパタと手を振って否定してきた。 「空間に魔力が満ちていないと駄目ですから、この魔力溜まりの近くまでしか使えませんよ」 「いや、流石はハイエルフといった所だな。想像以上だ」  早速亀裂を通って向こう側に行く。近くでは集団で騒いでいるような声が聞こえる。十中八九冒険者達だろう。火を使っているようなので、明かりの方へ見える所まで近付いてみると、目当ての奴らがいた。  火を囲んで騒いでいる奴らを見ていると、近くにウッドエルフがいることに気がついた。大方彼らが森の中に入ろうとしたら撃つつもりだったのだろうが、一人だというのに勇敢なことである。  エレインはエルフに下がるよう指示を出した。ハイエルフなど見たこともないだろうに、エレインがハイエルフだと一発で気付いた彼は、指示に従って森の奥へと去っていった。 「どうしましょうか?」 「マスター、私に任せてもらっても良いでしょうか?」  エルがやる気に満ちた表情で言ってきた。先程の多重発動の問題は解決したのだろうか。本番で失敗されても困るので、今回は俺の方も手伝うことにする。  第7種精神感応系術式、 多重術式演算 を使ってやる。これは 術式暴走 と似たような効果で、術式を発動した際、設定した数まで術式を複製する。これにより多重発動にかかる術式制御がいらなくなるというものだ。  そもそも術式暴走は、これを作っている際に出来た失敗作だったのだが、無力化用の術式としては思いの外出来が良かったので、ついでに術式として最適化したものだ。 「マスター、これはどういう効果なのでしょうか?」 「単体魔術を一発だけ撃ってみろ。今回は200に設定してあるから、199発分の術式が複製される」 「……こんな便利な術式があるなら、先に教えてくれても良かったのではないでしょうか」 「この術式は自分に掛けられないから、言ったとしても意味が無かったのでな」 「お二人とも、お話に割り込んで申し訳ありませんが、そろそろ動かれてはどうでしょうか?」  エレインが会話をしている横から話しかけてきたので、そろそろ動くことにする。エルの方を見ると彼女も頷き返し、少し冒険者達の方に近付いて術式を発動させた。  瞬間、冒険者達は凍りつき、さらに氷が震え始めて一斉に砕けた。あれは 氷像 と 破砕 を合成した術式だな。殆どの冒険者は今の攻撃で死んだはずだ。  粉々に砕けた冒険者達だが、完全に凍らなかった術式抵抗の高い奴らが残っていた。だがそいつらも殆どは腕や足が砕けて動けないようだ。立ち上がることが出来たのは僅かに3人だけである。 「そこの奴、隠れてないで出てこい!」  どうやら居場所がばれたらしい。エルにかけた術式を解除して森の中から出る。剣士らしい姿の男が二人と魔導師のローブを着た者が一人だ。アドリアナさえ凍ったエルの氷像が全く効いていないのが二人、どうやらこいつらが竜殺しらしい。 「いきなり襲ってくるとは驚いた。レシアーナの者は随分と卑劣な考えをお持ちの様だな」 「冒険者ならいつ死んでもいいという覚悟ぐらいしているだろう。それに私も今の攻撃をした者もレシアーナの人間ではない」 「ということは王国の人間か。レシアーナが既に王国側だったとは、魔帝国としては残念だろう。こうなったのならもはやレシアーナを倒すしか無さそうだ」 「冒険者3人でレシアーナを落とせるとでも思っているのか?」  相手は帝国語で話しているのか、エルもエレインも黙って相手を見ているだけである。締まらない光景だが、相手は竜殺しなので油断は禁物だろう。 「エレイン殿、そちらには今話している男を任せる。エル、お前は残りの二人だ」 「分かりました」 「はい、マスター」  男がまだ何か言っているが、無視して攻撃を開始する二人。流石に2対1は厳しいので、一人目を倒し終わるまでは、もう片方は俺が止めておくことにする。  エルは魔導師風の奴に突っ込んでいった。観戦していたいが、残りの一人がこっちに向かってきたので仕方なく相手に向き合う。どうやら軽戦士タイプのようで、皮鎧を着けていた。 「俺の相手はお前らしいな。魔導師しかいないとは言え、よくも俺達の前に立ちふさがったものだ」 「何だ、魔導師相手には自信でもあるのか?」 「ああ、魔導師がどんなに早く詠唱をしようとも、俺の剣速の前では唱えきる前に真っ二つにされる。つまり近付いた時点でお前に勝ち目は無いということだ!」 「自己紹介は結構だ。やるなら早くやってみたらどうだ?」  こいつが色々喋っている間に 幻惑 を発動する。途端にボーっとなって立ち尽くす男。これでエルの方を見ても大丈夫だろう。先にエレインの方を見ると、相手は何本もの木の根に貫かれて絶命していた。彼女は涼しい顔をしているが、実力の差があるから当然の結果だろう。  エルの方を見るとなかなか善戦しているようだ。相手は主に火を使うようで、律儀に森を守っているエルは攻撃を避けずに相殺していた。  相手はアドリアナのように戦闘経験が豊富なわけでは無さそうだ。エルと術式の数で真っ向勝負を挑んでいるようだが、無詠唱を使えない奴がエルに手数で挑むのは間違っている。案の定どんどんと押されていき、最期は氷の槍に貫かれて死んだ。 「エル、次はこいつだ」  彼女が休む暇も与えずに次の相手を示す。息が多少上がっているが、まあ大丈夫だろう。エルが近付いてきたので、男から離れて術式を解く。我に返った男はきょろきょろと周りを見回し俺の姿を探しているが、エルが来たのを見るとそちらの方へ構える。 「先程の男は口だけのようだな。まさか戦わずに逃げ出すとは」 「……何を言っているのか分かりません」 「お前、ダークエルフの癖に王国側につくとは、恥を知れ」 「分からないと言っているんですが、仕方が無いですね」  エルに話しかける男にいきなり 氷槍 を放つと、男は予想以上に速い動きでこれを回避した。そのままエルの方へ突っ込んで、切りかかってくる。これを氷の壁を作って防ぐと、お返しに 氷像 を発動するエル。  いい勝負なのだが、エルの方が一枚上手のようだ。相手が回避するのを前提で術式を撃ち込んで、地面に魔法陣を描いている。アドリアナの真似をしているようだ。  描いている術式を見て、エレインの手を取って森の中に避難する。あまり表情に変化は出ていないが、僅かに不思議そうな顔を浮かべついてくるエレイン。どうやらエルは戦闘中は周りが見えなくなるタイプらしい。  そして遂にエルの魔法陣が完成する。即座にこれを起動するエル。第4種物質生成系術式、 凍獄 が発動し、魔法陣を覆うように激しい吹雪が発生する。周りにあった死体ごと男を覆いつくした雪は、即座に固まって動きを封じてくる。やがて全身が雪と氷に覆われた男のオブジェが出来上がった。  感心した様子で彼女を見ているエレインだが、俺としては何故一人に対してこんな範囲術式を使うのか理解出来ない。集団相手には単体術式の多重発動がいいと言うし、彼女にはなにかこだわりでもあるのだろうか。 破砕 を使い、男のオブジェを粉々に砕いたエルがこちらへと走ってきた。 「どうでしたか? 前よりも上手に戦えたと思うのですが」 「もう少し回りの被害を考えろ。あのままあそこにいたら私達まで巻き込まれていた」 「……済みませんでした」  反省はしているようだ。教訓として生かしてもらわなくては意味がいないので、今後に期待する。さて、ここでの用事も済んだことだし、小屋に戻ることにしよう。  翌朝、何事もなく起床出来た俺は、皆が起きる前にエルを起こした。先に倉庫の女、リリーといったか、彼女と共に転移で屋敷へと戻ってもらうためである。他の奴らには先に帰らせたとでも言っておけばいい。  倉庫を開けると、昨日と殆ど変わらない状態で二人が倒れていた。違うのは、昨日は重なっていた二人が、今日は離れていることだろうか。元凶である俺が言うのも何だが、どうやら仲違いしたようだ。 「では、この女はルーシアと同じ処置をしておけばいいのですね?」 「ああ、終わったら地下倉庫にでも放り込んでおいてくれ。一応彼女のことはティアだけに伝えておいてくれ。多分上手くやってくれるだろう」  手短に彼女の扱いを伝えると、魔法陣を起動する。転移が終わり彼女達の姿が消えると、転移時の光で目が覚めた男がこちらを見ていた。昨日までの反抗的な視線は鳴りを潜めている。 「……彼女をどうするつもりだ」 「良くて実験用の母体だな。敵に負けた魔導師の扱いなんてこんなものだろう」 「……」 「まあしばらくすれば、彼女もお前と同じ所へやってくるだろう。それまで暫しの辛抱だ。ではな」  話しながら描いていた魔法陣を起動させ、男は 分解 で塵となって消えた。そういえば男の精液ぐらいは採取しておけばよかったと今になって考えたが、ダークエルフなど後でいくらでも手に入るだろう。  それよりも早く王都に戻って、ナタリアの旦那を探し出さねば。そう考えると胃が痛くなってくるが、これも自分が撒いた種だと思うことにしよう。最近では厄介事に巻き込まれ過ぎていると思う。  倉庫を片付けて、出た後には、男の塵も飛ばされて無くなっていた。  魔石をそろえてエレインの所へ行き、残っていた他のハイエルフたちにも核を入れてやった。皆美形揃いのハイエルフ達に囲まれているのは威圧感があったが、彼女達の裸体を見れたので良しとする。  ハイエルフは精霊なので、生物のように子供を作るのではなく、株分けのように一つの個体から似たような個体を魔力で作り出す。それ故彼女達もエレインと同じ女性型しかいなかった。元々全て一つの個体から生み出されたので当然といえば当然だ。  ここでの用事が全て終わり、後は帰るだけとなった。アレクなどはようやく帰れることに喜びを隠せないようだ。貴族暮らしに慣れている奴には、ここでの暮らしはさぞかし辛かったのだろう。  ハイエルフが総出で送りにきてくれたので、他のエルフ達は遠くから見守るだけになっていた。彼女達の姿など見たことが無いだろうに、何故すぐに分かるのだろうか。やはり雰囲気なのか。  ここでナタリアがまたも俺達についてくると言い出した。そんな気はしていたのだが、やはりこの森に残ってはくれないらしい。 「絶対についていくわ。あれだけ私を求めてくれたんだから、置いていくなんてそんな酷いことしないわよね?」 「……エレイン殿、ここのエルフが森を出るのは掟破りではないのか?」 「そうですね、あなたと一緒ということなら大丈夫でしょう。私達を敵に回してまで秘密を喋るとは思えませんし。彼女のことは任せましたよ」 「……ああ、分かったよ」 「そう言ってくれると思ってたわ! ヤードの屋敷、どんな感じか楽しみね」  笑顔で言ってくるナタリア。エレインが駄目と言ってくれたなら良かったのだが、どうやら彼女は俺達の仲を勘違いしているようだ。最後の希望も消えたので、諦めてナタリアを連れ帰ることにした。  昼食を食べたあとに近くの町の方向へと出発した。わざわざエレインが町の近くまでの道を開けてくれたので、町へはすぐにたどり着くことが出来た。御者と合流し、王都までのんびりと揺られながら帰っていく。  後日改めて褒美を出すということで国王への報告も終わり、アレク達と別れてルーシアとナタリアを連れて城を出た。  色々あったが久しぶりに風呂に入れることを楽しみにしつつ屋敷に戻ると、何故か我が家では俺が無類のエルフ好きということになった。わざわざエルを弟子にし、リリーを送ってきた事に続き、ナタリアまで連れ帰ってきたせいだ。  ティアなどはエルフの真似をした長い耳をつけてきたので、止めるように言っておいた。誤解もいい所なので否定しておいたのだが、本人が言った所で説得力がなかったのか、噂はどんどんと広がってしまった。  後日、ソフィにもそのことを涙目で聞かれた。勘弁して欲しい。 ============================================================ 024. 第24話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/24/ ============================================================ レシアーナの件で王の間に呼ばれた俺達は、報酬の金貨を貰った。前回よりも多いのはやはり国王も同盟が結べるとは思っていなかったからなのか。 「よくやってくれた。そなた達のおかげで、王国も魔帝国の脅威に怯えるばかりではなくなるだろう」 「勿体ないお言葉です」 「うむ、出発前に伝えられなかったが、そなた達にはレシアーナへと行く際に、新たな爵位を与えようと考えていたのだ。さらに同盟を結んだ事実を踏まえて、ギルフレイア男爵には伯爵位を、ウェルナー準男爵には子爵位を、サガミ準男爵は男爵位を与えるものとする」 「はっ、アンリエント王国と陛下には、更なる忠誠を捧げます」 「期待しておるぞ」  一応の体裁として俺達が出発する前に爵位を貰ったことになっている。これは同盟を結びに行った代表のアレクが男爵では、相手を侮っていると取られかねないと思ったからだろう。確かに伯爵ならばかろうじて代表として面目が立つ。  しかし俺が2つも爵位を上げられたのは何故だろうか。今回の交渉の手柄は全てアレクに譲るように、エレインにも頼んでおいたのだが。 「おお、ウェルナー子爵。そちらには別の件でレシアーナ代表のハイエルフから感謝状が届いておる。何でもハイエルフの危機を救ってくれたとか。これで早速あちらに貸しが出来た。よくやってくれた」  あれは主に俺とエルのためだったのだが、相手が感謝してくる分は素直に受け取っておく。しかし一気に二つも爵位が上がると、屋敷やその他色々な所を変える必要があるのだろうか。後で聞いておくことにする。  国王との謁見も終わり、今はナタリアを連れてとある所へ向かっている。顔バレを防ぐため、今回は二人とも変装をしていた。  サガミから聞き出した情報を元に、目的の場所にたどり着く。ついた建物は、誰がどう見ても娼館だ。現在は昼なので営業はしていないが、女を連れて入るのには抵抗があるな。しかしながら用事を済ますためには入らざるを得ないので、仕方なく扉を叩く。  少しして、中から男が一人出てきた。格好からして従業員では無さそうだ。ここの支配人とかオーナーだろうか。 「済みません、ただ今営業時間外なんですよ」 「分かっている。ここにレヴィンとかいうエルフがいると聞いてやってきたのだが」 「……ああ、奴ですか。この前来た男の知り合いで?」 「まあそんな所だ。会わせてもらえるか?」 「はあ、まあいいですが。寝てる奴もいるんで、あんまり騒がないで下さいよ」  俺とナタリアを見て、一瞬で痴話喧嘩の類だと見抜いた男は、うんざりした顔で返してきた。他にもこう言って殴りこんでくる奴がいるのだろう。  ともあれ許可を得たので、ナタリアを連れて娼館の中に入った。娼館など入った事も無い彼女は、珍しそうにきょろきょろと周りを見回している。  営業時間ではないので、中は掃除をしている者がいるぐらいだった。目が合うと訝しげな表情をされた後に、同情されたような視線が来る。時間外に女連れで来ている奴の目的など一つぐらいしか考えられないから、当然の反応な気もする。  レヴィンの場所を尋ね、教えてもらった部屋へと行く。ノックはしなくていいということなので、ナタリアを部屋の外に待たせてそのまま入ると、中は一人部屋だったようで、エルフが一人寝ていた。一人部屋とは売れっ子なのだろうか。一瞬そう頭の中をよぎったが、それ以上考えるのは止めた。 「起きろ」 「……ん、まだ休憩時間中だと思うんだけど」  男は寝ぼけながら起き上がった。少しやつれてはいるが、エルフだけあって今でも十分に美形だった。こいつがナタリアの夫らしい。 「それは済まなかったな。お前にナタリアのことで話があるのだが」 「ナタリア? もしかして彼女の知り合い?」 「ああ、先日盗賊に捕まっていた彼女を助けた。今は普通に暮らしている」 「それ本当? もう少し早く助けに来てくれたら、俺も助かったんだけど。何でもっと早く来てくれなかったんだよ」 「盗賊を倒したのは偶然だ。本当ならば通り過ぎる所だったのだからな」 「じゃあ彼女に伝えてよ。俺はここにいるから助けてくれってさ」  何だこいつは。意外と軽いというか、人を舐めているような態度だ。ナタリアがどうしてこんな奴と結婚する気になったのか気になる所だ。 「まあその話は伝えておこう。だが今日来たのは別の用件だ」 「何?」 「夫がいることを知っていながら、彼女と一晩寝てしまった。申し訳ない」  頭を下げながら謝罪する。一発殴られるぐらいなら覚悟しておこうと思ったのだが、全く動きが無かったことを疑問に思い顔を上げた。奴は平然とした顔で俺を見ていた。 「そう、じゃああんたが彼女の替わりに俺の身請け金を払ってくれよ。それでチャラってことで」 「……それで良いのか?」 「いいよ、元々彼女とはあんまり上手くいってなかったしね。でも不倫されたなら、それなりの金を貰わないと納得出来ないしさ」  人のことはあまり言えないが、こいつはかなりのクズのようだ。まあ金で解決出来るならそれに越したことは無いが。  そう思っていると、扉を勢いよく開けてナタリアが入ってきた。怒りに満ちた表情で奴を見ている。どうやら聞き耳を立てていたらしい。  奴も彼女が突然入ってきたことに戸惑いを隠せないようだ。俺と彼女の顔を交互に比べて、事態を把握しようとしている。 「レヴィン! あなたがそこまで下種な奴だったとは思いもしなかったわ!」 「や、やあ、ナタリア。今の話はちょっと誤解があると思うんだ。ちゃんと話し合おう」 「話すことなんか何も無いわ! 最低! あなたとなんか、もう離婚よ!」 「待ってくれ、そう、君の事は心配していたんだ。でもこんな生活を続けていたから、ちょっと魔が差して……」 「五月蝿い、このクズ! ヤード、行きましょ! こんな奴、一生ここで働いていれば良いんだわ!」  ナタリアはそのまま部屋を飛び出していった。人のことを放っておいて飛び出していくのは、彼女の癖か何かなのだろうか。後に残った俺は、呆然とするやつの方を見て、肩を叩いた。 「とりあえずここから出るための金は払おう。彼女の件はそれから……」 「え、本当にくれるの? 有り難う! お礼に、もう彼女のことは君に任せるよ!」 「……そんな適当に決めていい事ではないと思うのだが」 「いいって、それよりここではエルフってだけでレシアーナよりもモテるからさ、ナタリアに構ってる暇はあんまりないんだよ」  なるほど、下種とはまさにこういう奴を言うんだろうな。まあ奴が納得しているならそれでいい。ナタリアはこいつと仲直りをするつもりもなさそうだし、この件はこれでお仕舞いだろう。  帰り際に先程の支配人らしき男に身受けの金を払って開放してやるように言っておいた。予想していたよりもあっけない幕切れだったが、まあいい。  ナタリアを探したが見つからなかったので、先に屋敷へと帰ることにした。家の前まで来ると、門の前に見知った顔がいるのが見える。フェアリスだ。 「フェアリス殿、何か用か?」 「ああ、探しました。ヤード様、近頃流れている噂は本当でしょうか?」 「噂?」 「ええ、何でもヤード様は何人ものエルフを囲って遊び呆けているという……」 「全くの誤解だ。そのような信憑性のない噂に踊らされない方が良いぞ」 「しかし、その噂を聞きつけた教会の方が、ヤード様を異端の罪で裁くという話が出ていまして……」  まさかの話に頭痛がしてくる。エルフの知り合いが割と多いのは事実だが、別にエルフが好きなわけじゃない。好みの度合で言えば、ナタリアよりもティアの方がいいに決まっている。  話を聞くと、最近の噂を聞いた教会の誰かが俺を異端だと言い始めたらしい。そもそも教会に入信した記憶はないのだが、この世界では優秀な魔導師ほど敬虔な神の信徒であると信じられているので、教会からすれば俺はとても敬虔な信徒であるらしい。  それにしてもまだナタリアを連れ帰って間もないのに、どうして噂が広まるのがここまで早いのか。屋敷の人間が情報を洩らしているだけとは思えない。 「済みません、エルマイアさんとずっと一緒にいても手を出さなかったので、ヤード様はそんな無節操な人ではないと分かっているつもりだったのですが……」 「いや、もしかすると噂が流れたからそれに便乗しただけで、元々私を陥れようとしていたのかもしれない。何とか件の人物に話をつけることは出来ないだろうか?」 「今日明日で会う事は出来ないと思います。皆さん忙しそうですから」 「そうか、それまでは何処で身を隠していようか……」  この件は早急に調べてもらった方がいいな。フェアリスと分かれ、ティアにこの件についての情報を集めてくるように頼んだ。本気で俺を異端扱いしている可能性も無い訳ではないが、噂の広まる速度が速すぎることを考えると、教会の手引きがあったと見るのが妥当だろう。  ふとナタリアのことが気になった。もしかすると、教会が彼女の方にも手を伸ばしているかもしれない。そう考え来た道を引き返した。  通りには彼女を見た人間がいなかったので、裏路地の方を探している。昼間だというのに何やら怪しげな人間が多く、あまり雰囲気は良くない。王都だというのに治安が良くないのは問題だと思う。  遠くの方で聞き覚えのある叫び声が聞こえた。急いでそちらに向かうと、ナタリアと男達が争っていた。普通の冒険者以上には戦える彼女だが、広くも無い路地で複数人に襲われては、流石に敵わなかったらしい。地面に組み伏せられた彼女の顔は、既に殴られたような痕がある。 恐怖 で男達を昏倒させ、彼女の元に近寄る。俺が来たことに気付いた彼女は、全身をボロボロにした状態で立ち上がった。顔だけでなく全身を暴行されたようだ。  急いで彼女に 上級治癒 を掛ける。徐々に血色が良くなり全身の傷跡も消えて、服以外は元通りになった。俺が来ていたローブを掛けてやると、彼女は嬉しそうに俺に抱きついて頬に口づけをしてきた。 「あなたならきっと来てくれるって信じてたわ」 「済まないな、すぐに探しに来るべきだった。それよりどうして君を襲ってきたのか分かるか?」 「心当たりは無いわ。歩いていたら突然襲ってきたんだもの」  動きからしてただのごろつきでないことは確かなので、 記憶抽出 で記憶を抜き出す。結果分かったことは、こいつらは教会の回し者だということと、命令を出したのは司教のフィルポットという男だということだ。何故俺を狙っているのかは分からなかった。 「つまりこいつらは、私とヤードが結婚するのが気に食わないのね?」 「おい、ちょっと待ってくれ。まだ一度も結婚するなど言っていないだろう」 「責任とってくれるって言ったじゃない」 「そもそもレヴィンの対応が予想以上に酷かったのだ、あんなに簡単に別れるとは思っていなかった……」 「あんな奴とヤードを比べるなんてとんでもないわ。さっきも私が襲われている所に颯爽と現れて助けてくれたし……」  結婚するならティアとしたい。しかしながらソフィにもそれらしいことを言ってしまったので、ソフィを娶ることになったら正妻に選ばなくてはいけないだろう。王族を差し置いてメイドやエルフが第一夫人などまず有り得ない。  彼女を妻にするにしても第三婦人がいいところだろう。第二は当然ティアだ。  襲われたことはもうどうでもいいのか、勝手に妄想の世界へと入り込んだナタリアを連れて屋敷に戻った。  屋敷にはまだフェアリスがいた。エルが招き入れたらしいが、人の家で勝手をするなと言いたい。まあ彼女には聞きたいことがあったので、今回は大目に見よう。 「あら、ヤード様、お邪魔しています。それにそちらはナタリアさんですね。初めまして、教会の方でお世話になっています、フェアリスです」 「ナタリア、彼女も勇者の一人だ」 「……ああ、あなたも勇者なのね。ナタリアよ、よろしく」  ナタリアはいきなり話しかけてきたフェアリスに警戒しているようだったが、勇者と分かると警戒を解いた。  フェアリスは俺を待っていたそうなので、エルには席を外してもらった。ナタリアと話しながら立ち去っていくエルを見送った後、フェアリスと向き合う形で席につく。 「フェアリス殿、いきなりで悪いのだが、フィルポットという男を知っているか?」 「ええ、司教のフィルポット様の事ですね。彼は確か、ヤード殿が異端だという噂には否定的だったはずです。あの方がどうかしましたか?」 「つい最近名前を聞いたので、ついでに尋ねさせてもらっただけだ」 「そうですか。あの方なら、ヤード様の無実を証明する手助けをしてくれるかもしれませんね。一度尋ねてみてはどうでしょうか?」  フェアリスの提案は割といい案だと思う。彼女の考えとは違うだろうが、今回の目的を直接調べた方が早いだろう。人を襲っておいて例の噂には否定的な立場を取っているなど、どう考えても裏がある。 「そうだな、フェアリス殿から頼んでくれないか? 私の関係者だと教会に入れるかどうかかさえも分からないからな」 「いいですよ。では私の方から伝えておきますので、また面会の日付が決まったらお知らせしますね」 「済まないな」 「いえ。それでは長居をしてしまいましたので、この辺りでお暇させてもらいますね」  フェアリスは席から立ち上がり、メイドに案内されて部屋を出て行った。彼女が屋敷から出て行ったことを確認すると、ティアを呼んだ。 「何か御用でしょうか」 「フィルポット司教とやらについて、何か知っている情報はあるか?」 「フィルポット司教ですか。フェアリス様が協同司教を勤めている教会の司教をしている男です。元は異端審問官などもやっていたそうです。周りからは誠実な人物と評価されています」 「何か以前に失敗したとか、担当する地域で事件が起こっていたりとかはないのか?」 「司教自身にも、担当する教会や教区にも悪い噂はありません。他の地域より治安も比較的良く、敬虔な教徒が多いようです」  思っていたよりも真面目な人物だった。では何故俺達を襲ってきたのか。襲撃者達が、雇い主とフィルポットとを勘違いしていた可能性もあるが、そうなると首謀者が誰か分からなくなるな。  こんなことなら襲撃者の一人でも連れてくるべきだった。雇い主の名前が簡単に出たことで油断していたようだ。 「フィルポット司教の周りには、誰か怪しい人物が近付いていたりしないのか?」 「そこまでは分かりません。すぐに調査してきます」 「調査か、別に必要ない気も……いや、やっておいてくれ」 「分かりました。では明日までには調べて参ります」  ティアが部屋を出て行くのを見送りつつ、今後の予定を考える。とりあえずほとぼりが冷めるまで、庭に秘密の地下室でも作っておこうか。あまり居心地が良さそうではないが、まあ仕方ない。  早速庭に出て適当な広さの場所を選んで地下室を作った。強度は魔道具で無理やり高めているので、地震が来ても崩れるような心配はない。家具を持ち込むと秘密基地のようで、子供の頃に戻ったようにテンションが上がってきた。  そんな子供じみた事をやっていた俺に、また事態を悪化させる知らせが届いた。  フェアリスが異端者に便宜を図っているという咎で幽閉されたらしい。これはまた面倒くさい展開になってきたな。 ============================================================ 025. 第25話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/25/ ============================================================ このアンリエント王国では、並の貴族よりも教会の権威が強い。アンリエントの東部に、世界を作った神が眠っているという伝説のある霊峰があり、この世界の人間は大体その神を信じているせいだ。  おかげで国王といえども教会を意のままに従わせることは出来ず、結果として俺とフェアリスに異端の罪が掛かっても、おいそれと手出しが出来ないでいるのだ。  そもそも何故俺が異端かというと、俺が魔導師なのにエルフを妻に迎え入れようとしていると思われているからだ。  この世界の術式は神に祈る形で発動させるため、必然的に魔導師は教会に集まってくる。  強い魔導師はそれだけ敬虔な信徒であると見做されるのだ。ただしそれは人間だけで、エルフなどの他種族はたとえ魔導師といえども、神の信徒とは思われない。  レシアーナでもそうだったのだが、人間の国に所属していないエルフは基本的に独自の神や精霊を信仰している。精霊を信仰しているエルフ達は異教の徒として認識されているが、それ自体が異端な訳ではない。  問題は異教徒と婚約をしていると思われている俺の方だ。王国の教会の教えでは、異教徒と結婚するのは異端とされているので、俺は教会から見ればまごう事なき異端者であるというわけだ。  ちなみにフェアリスは俺と親密な仲であるという疑いで幽閉されている。異端を庇うのはそれだけで罪になるからだ。他の勇者達も、保身のため俺とは関わらないようにしている。  現在俺は屋敷の庭にある隠し部屋に身を隠しているし、フェアリスは何処かの教会に幽閉中だ。ティアに聞いたところによると、フェアリスが教会へと戻って司教に俺の面会について尋ねた所、待ち構えていたように教会の守衛達が彼女を捕らえたのだという。  フェアリスは信用出来ると言っていたが、この分だとフィルポット司教は黒だろう。 「何か司教についての情報は分かったか?」 「ええ、あまり噂になるような人物ではありませんね。少々出世欲が強いとのことです」 「例えば俺とフェアリスを異端の罪で裁いたとして、奴の評価が上がるものなのか?」 「それはないでしょう。ご主人様が異端であると言い出したのは彼ではありませんし、既に異端審問に関わる身でもないでしょうから」 「そうなると、奴と繋がっている奴がいるのかもしれないな……」  しかし俺とフェアリスを陥れて得をする奴など、悪いが他に心当たりが無い。ディアンやバークフィールドの復讐の線で考えるにしても、フェアリスまで巻き込む必要性がないからな。  魔帝国という線も考えられるが、流石に他国の間者と会っているなら、一介の司教がティアの諜報能力を掻い潜れるとも思えない。今は俺の所でメイドをやっているが、これでも彼女は元々優秀な密偵だったのだ。 「そういえば屋敷の人間はどうしている?」 「特に変わりはありませんが、エルマイア様とナタリア様はお部屋から出さないよう伝えておきました」 「そうか。まあこの屋敷にいる間は大丈夫だろうが、万が一のためには必要な事だ」  それにしても暇だ。フェアリスと連絡を取ろうにも、結界の中に閉じ込められているのか、彼女に渡した腕輪の場所すら認識出来ない。こうなったら自分の足で捜しに行くか。 「ご主人様、あの……」  ティアが声を掛けてきたので彼女の顔を見ると、申し訳無さそうな表情をしていた。なるほど、ご褒美が欲しいというのか。  彼女を抱き寄せると、抵抗無くこちらの胸に身体を預けてきた。レシアーナに行っている間は彼女に構うことも出来なかったからな。夜には存分に可愛がってやるとして、今は口付けだけしてやろう。  日も落ちてきたので、そろそろ行動を開始するか。一応保険に 隠密 を使い、気配察知や術式の探知には引っかからないようにする。  司教がいるという教会に 上級転移 で行こうとしたが、教会自体に結界が張ってあるらしく、仕方ないので近くまで跳んでから歩くことにした。  堅牢な石造りの建物がそびえ立っている様は、ちょっとした城のような威圧感を感じる。  教会に張り巡らされた結界は外からの術式を遮断する効果だったので、普通に通り抜けることが出来た。中に入ると俺の魔力反応が感じられる。試しにフェアリスに念話を送ってみると、繋がった。どうやらここに閉じ込められているようだ。 (フェアリス殿、聞こえるか? ヤード・ラス・ウェルナーだ) (ヤード様ですか? 済みません、捕まってしまいました……) (それは分かっている。司教の居場所を知っていたら教えてくれ) (司教様ですか。先程まで私と話していましたが、今はおそらく自室に戻られていると思います) (そうか、ではその自室の場所を教えてくれ)  曖昧な説明だが、何とか司教の部屋の場所を理解した俺は、フェアリスに礼を言って念話を切った。二階の端の部屋に司教がいる可能性が高いので、早速向かうことにする。  日が落ちているので、周りには人気が無く、時々見回りに来る人間がいるぐらいだ。中は思ったよりも入り組んでおり、たびたび行き止まりに当たってしまったが、物陰に隠れながら慎重に進み、目的の部屋までやってきた。少し扉を開けて中の様子をうかがうと、40代程度の男がいるのが見える。あれがフィルポットか。  奴は机に向かって何やらやっている。こちらには気付いていないようなので、ギリギリ術式の効果範囲に入るよう身を乗り出して、 窃思 を使った。 (……まだ捉えたばかりだから仕方ない。最悪既成事実さえ作ってしまえば、後はこちらのものなのだ。まだあの男を捕らえてもいないし……)  あの男とはおそらく俺のことだろう。 記憶閲覧 を使うには少々距離が足りないが、これ以上近付けば視界の端に入ってしまうかもしれないので仕方が無い。一度扉を閉め、再びフェアリスに念話を送る。 (フェアリス殿、一つ質問があるのだが。先程司教と何を話した?) (あの話ですか……無実を証明するための手段を教えてもらっただけです) (ふむ、何かの取引か?) (いえ、ヤード様と親密でないことを証明するために、司教様と婚姻を結んではどうか、という話でした。敬虔な信徒同士で婚姻を結べば、異端の疑いは晴らされるだろう、と)  まさかの話に頭痛がする。まさか今回の件、そんなくだらない理由で起こしたのか。流石に他の目的もあると信じたい。何故毎度こんな下らない事件に巻き込まれなくてはいけないのだ。結婚したいなら勝手に告白でもしておけばいいだろう。 (……それで、そちらはその提案を呑んだのか?) (まさか。異端の疑いを晴らすために婚姻を結ぶなど、そんな破廉恥なことは出来ません) (まあそうだろう。だがあの司教はそちらを諦めてはいないぞ) (そうなのですか……)  念話越しでも分かるほど疲れた様子のフェアリス。まあ確かに年齢的に倍はある相手との結婚は、お互い好き合ってでもいないと出来ないだろう。それにあちらは下心が透けて見えている。  フェアリスを逃がしてやった方がいいのではないかと思ったが、ここであまり目立つような行動をしても危ないと考え、今回は彼女を置いていくことにした。  そのとき司教の部屋から誰かが出てくる音が聞こえた。慌てて念話を切って廊下の角に隠れると、中から司教が出てきた。向かった先は腕輪の反応がある方向だ。おそらくフェアリスの所に行ったのだろう。  夜に婦女子の部屋へ赴くということと先程の思考から考えて、何となく司教の目的が察せてしまう。流石にここで知り合いを見捨てるのはいかがなものか。幸い奴も人目につかないよう移動しているようだし、同じ勇者仲間として彼女を助けに行ってやろう。  しかし考え事をしている間に奴を見失い、何処へ行ったか分からなくなった。腕輪の反応を頼りにうろついているが、それらしい場所に部屋が無い。一体どういうことだ。  フェアリスに念話を送ってみたが、全く反応が無い。念話に出られないのは意識が別の物に向いていたり集中したりしている時なので、既に司教が部屋に着いてしまったようだ。  これ程探しても見つからないということは、隠し部屋か何かがあるに違いない。そう思ったとき、微かに悲鳴のような声が聞こえた。そちらの方へ行ってみるが、ただの壁だ。一応叩いたり押してみたりしたが、反応がない。  仕方が無いので最終手段を使うことにした。手早く魔法陣を二つ描き上げ、まずは壁に向けて 分解 を撃つ。一瞬で分厚い壁が塵と化し、その奥には部屋があった。  遮音用の結界が張ってあるその部屋には、服を破られて裸のフェアリスと、彼女を組み敷いている司教がいた。二人ともいきなり壁が消えたので驚きのあまり固まっている。  隙だらけの司教にもう一つの魔法陣を起動し、 窒息 を放って気絶させた。 恐怖 の場合はトラウマが残る可能性があるが、こちらは脳に後遺症が残る可能性がある。まあこんな事をするような奴には、もしそうなったとしても罪悪感は覚えないのだが。  本当に何も無い部屋だったようで、当然彼女の換えの服も無さそうだ。まだ呆然としているフェアリスに俺のローブをかけてやると、自分が助かったことに気付いて涙を流し始めた。 「や、ヤード様、有り難うございます……」 「礼は後でしろ。誰かが来る前に急いでここを離れるぞ」 「は、はい」  見張りに見つからないように彼女にも 隠密 をかけ、司教に 記憶抽出 を使ってここでの出来事を抜き出す。これで俺が下手人だとは分からなくなった。  フェアリスの手を取り急いで脱出する。分解した壁は 修復 で見た目だけでも戻しておく。壁が分厚いので完全には治せないが見た目は全く違和感が無いので、これで誤魔化しは利くだろう。  結界の範囲外まで逃げてくると、彼女を当て身で気絶させ、 上級転移 で屋敷まで戻った。  とりあえず地下の隠し部屋に連れてくる。ここならば見つかる可能性はかなり低いだろう。  いざという時のために用意しておいた簡易ベッドを出し、フェアリスをその上に寝かせていると、俺が戻ってきたことを何処で見ていたのかは知らないが、すぐにティアが入ってきた。 「お帰りなさいませ、ご主人様」 「ああ、とある事情でフェアリスを匿おうと思っている。食事は一人分多めに用意しておいてくれ。あと、彼女に替えの服と毛布を持ってきてやってくれないか?」 「分かりました」  すぐに替えの服と毛布を持って来てくれたので、とりあえずフェアリスの近くに服を置き、毛布をかけておく。彼女はまだ目が覚める気配が無い。そんなに強くした覚えは無かったのだが。  しかしフェアリスの裸を散々見たせいで、こちらも少しムラムラとした感情が出てくる。いつもは特に何も感じていないが、フェアリスもそれなりにいい女だ。あの司教が襲いたくなる程度の美貌と身体は持っている。  興奮してきたので、まだ帰っていなかったティアをベッドへと押し倒す。彼女の方も期待していたのか、フェアリスが寝ているというのに抵抗もしない。  胸に顔を埋めると、彼女の甘い匂いがした。そのまま彼女の豊かな双丘を服の上から揉みしだく。服越しでも分かる柔らかな感触を味わっていると、彼女が俺の手を取った。 「ご主人様、ここも……」  彼女は俺の手を自分の秘部へと導き、物欲しそうな目で見つめてきた。スカートの中に手を入れてみると、下着は既に湿っており、彼女が興奮していることが分かった。 「もう濡らしているとは、そんなに私の物が欲しかったのか」 「はい、ご主人様の物で貫いて欲しいです……」  甘えるような声で言ってくるので、当然その言葉に応えてやる。足を持ち上げ、彼女の下着を脱がせると、俺もズボンと下着を脱いで、肉棒を取り出す。  そのまま正常位で彼女の膣穴に肉棒を当てて貫こうとした所で、ふと視線を感じフェアリスの方を見た。  慌てて顔を背けて寝ているフリをし始めたが、こちらの様子を伺っていたのには気付いた。彼女のことだから、俺達を見たら止めに入るか叫ぶか、どちらかだと思っていたのだが、面白い展開になってきた。 「ティア、入れて欲しかったら精一杯いやらしく誘ってみろ」 「はい……ご主人様の熱く滾っているその肉棒で、私のいやらしい雌穴を突いて、中を掻き回して下さい……」 「ああ、存分に味わえ」  彼女の膣内を一気に貫き、そのまま激しく突きまわし始めた。フェアリスが近くで寝ているため、彼女はあまり大きな声を出していないし、今も口を閉じて必死に声を押し殺している。  だがそれでは面白くない。彼女を持ち上げ、結合部がフェアリスにも良く見えるようにして、下から彼女の膣穴を貫く。淫靡な水音をたてながらもこちらの物を貪欲にくわえ込んでくる彼女の様子を、ちらちらと見ているのが分かる。 「ほら、自分が今どうなっているのか説明してみろ」 「ご、ご主人様の物でっ……私の中が突き上げられています……んんっ」 「ちゃんと声を出せ。喘ぎ声も出ていないぞ」 「申し訳ありませっ、ああっ! それいいですっ、子宮がガンガン突き上げられてぇっ!」  腰を掴んで深く刺さるように押し込んでやると、途端に声を上げて喘ぎ始めた。こちらを向いて舌を伸ばしてきたので、俺も舌を伸ばして彼女の物と絡ませる。もちろん腰を動かすのを止めたりはしない。 「そうか、これが良いのか。もっと突いてやろう」 「あぅんっ! 有りがとっ、ございますっ! ああ、奥まで来るぅ!」  肉がぶつかり合いパンパンと小気味の良い音を鳴らしながら、激しく腰を振ってお互いに快楽を味わう。膣内は俺の肉棒をいい具合に締め付け、こちらの射精感を煽ってくる。  久しぶりの彼女の肉体はとても刺激的で、俺もすぐに絶頂の時が近づいてくるのが分かる。 「くっ、ティア、そろそろ出すぞ!」 「はいっ、私の子宮にっ、熱い精液たっぷり注ぎこんでぇ!」 「だ、出すぞ、くぅっ!」 「あぁあああっ! ご主人様のが入ってきますぅ!」  ティアの腰を押し付けて、膣内に精液を注ぎこむ。彼女の中は俺の物を全て搾り取るかのように蠢き、いつも以上に大量の精液が出された気さえする。  たっぷりと彼女の中に出し終わって肉棒を抜くと、ティアはすぐに俺の物を口に咥え、残った精液を吸い出し、いやらしく音を立てながら掃除をしてくれた。  フェアリスの方を伺うと、顔を背けながらも頬が赤くなっている。起きるなら今のうちだと思ったが、彼女が寝たフリをやめる気配が無かったので、二回戦を始めることにした。 ============================================================ 026. 第26話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/26/ ============================================================ ティアと二回やった後、彼女は屋敷の方へと戻っていった。この部屋に残っているのは俺と寝たフリを続けているフェアリスだけだ。ティアが出て行っても起き上がる気配が無いので、彼女は俺達の情事に気付かなかったということにしたいらしい。  まあ文句を言われるよりは良いので、俺も彼女のことは放っておいて寝ることにした。  そろそろ意識が遠のいてきた時、フェアリスがもぞもぞと動いている気配がした。気付かれないようにそっと伺うと、やはり彼女はごそごそと動いていた。  寝相が悪いのかと思ったが、なにやら粘着質な水音がする。改めて彼女を見ると、少しばかり息が荒くなっており、頬も赤く染まっている。どうやら自慰をしているようだ。俺とティアの情事に当てられたのか、まさかそんなことをするような奴だとは思わなかった。  真面目な神官であった彼女も、所詮は若い女ということか。普段は真面目で清楚な人物なので、知らず知らずのうちに身体を持て余しているのも無理は無い。 「……ん……んぅ……」  何か小声で呟いている気もするが、ここからだと聞き取れない。これ以上彼女の自慰を見ていても仕方が無いので、さっさと寝ることにする。 「んっ……あぅ……」  少し声が大きくなって、動きを止めた。どうやらイったようだ。毛布を整えて、彼女も眠りの体勢に入った。結局最後まで聞いてしまったが、俺も早く寝ることにしよう。  目が覚めると、既にフェアリスも起きていた。いつもの修道服のような服ではなく、横に置いていた替えの服に着替えているので、いつもと印象が違った。  彼女は自分の寝ていた場所を見ながらため息をついていた。いい年をしておいて、何か粗相でもしたのだろうか。  俺の視線に気付いた彼女は慌てて毛布を上にかけ、ぎこちない笑みを浮かべながらこちらの方を向いてきた。 「お、おはようございます、ヤード様」 「こんな地下では、今が朝かどうか分からないと思うが」 「そうでした、ここは一体何処なのでしょうか?」 「私の屋敷にある地下室だ。教会の目から逃れるには十分だろう」 「あ、そのことですが、昨日は危ない所を助けて頂いて有り難うございました」 「気にするな。司教を調べに行ったついでだ」  とりあえず彼女が何か知っているか確かめるために、昨日司教から読み取った考えを彼女に教える。だが彼女は何も知らなかったようで、力なく首を振った。  司教の目的が彼女だと言うことは分かったが、俺を捕らえる方にも力を入れているとなると、他にも何か目的があるのだろうか。  しまったな、あそこで急がずにそのあたりの記憶も抜いてくればよかった。あの時は焦っていたので、そんなことにまで気が回らなかった。 「あの、済みません……」 「ん? どうした?」  彼女が声をかけてきたので、一時思考を中断して彼女の方を見た。もじもじと股を擦り合わせているのを見て、すぐに事情を察した。 「用を足すならあそこでしてくれ」  俺が指差した方向には、風呂場についているのと同じ穴がある。穴の繋がっている所も一緒だ。一応仕切りもついているが、元々一人で隠れるように作った場所なので、音を遮れるほどの効果はないだろう。  当然ながら彼女も聞かれるのは嫌に決まっているので、困った顔でこちらを見てくる。仕方ないのでティアを呼ぶことにした。  念話で呼び出すとすぐに駆けつけた彼女に、フェアリスを風呂の隣に設置してあるトイレに連れて行くよう頼む。この地下室から脱衣所の方には直通で行けるようにしたので、そちらの方でしてもらえばいい。ついでに風呂で身体を洗ってやるように伝えておいた。  彼女達が風呂に行ったのを見て、こちらも出した寝具を片付けることにした。毛布を剥ぎ取ると、ベッドにシミが出来ていた。昨日の自慰のせいか。何とも言えない微妙な気分になったが、洗って乾かしておいた。  風呂から戻ってきたフェアリスは、自分の寝ていたベッドのシーツが剥がされているのを見て、慌てた様子でこちらに近寄ってきた。 「や、ヤード様、私の寝ていたシーツはどうしたのですか?」 「ああ、それなら片付けた。気にすることは無い」 「うう……あ、有り難うございます……」  羞恥で顔を真っ赤に染めてしゃがみ込んでしまったフェアリスを横目で見ながら、ティアがこちらに近寄ってきた。 「ご主人様、お手紙が届いております」 「誰からだ?」 「はい、ソフィア様からです」  ソフィからの手紙か。封を切って手紙を読んでみる。今夜彼女の部屋に来て欲しいということが書いてあった。俺が屋敷にいるのは彼女も知らないはずなのだが、よく手紙を出そうと思ったな。ティアならば俺の居場所に届けてくれるとでも信じていたのだろうか。  とりあえず今晩お邪魔することにしよう。もちろん正面からではなく、転移を使って直接入るのだが。  夜になるまでは暇なので、新術式の研究でもすることにした。  俺がやっている所を興味深そうに見ているフェアリスだが、彼女の使う術式としての形式が違いすぎるので、全く理解できていないことだろう。  しばらくはこちらの作業を見ていたが、やがて傍を離れていった。そして元々の日課だったのか飽きたのかは分からないが、神への祈りを始めた。  まあこの部屋でやることが無いというのは分かるので、好きにさせておくことにした。  夜になり、ソフィとの約束のために城へ行く準備をする。フェアリスはここで大人しくしていてもらうことにして、彼女のお守りをティアに任せた。フェアリス一人だと何かと不安だからな。  フェアリスに見られないよう風呂場へ移動し、 上級転移 を使う。ソフィの部屋へ移動すると、彼女は俺が転移で来るのを分かっていたかのように、こちらの方を向いていた。 「いらっしゃいませ、ヤード様」  椅子を引きながらこちらに挨拶をしてくるソフィの姿は、以前よりも艶めいて見える。あの夜の一件からぐっと魅力が上がったと思う。 「ああ、失礼する。それで、今日私を呼んだ理由は何なのだろうか?」 「はい、最近ヤード様が教会の方から異端の疑いがあると知らせを受けまして、疑いを晴らして差し上げたいと思ったのです」 「なるほど、それは有り難いが、どうやってその疑いを晴らすのだろうか?」 「ええ、とても良い方法が」  彼女は自信有り気に返してきたので、教会にコネでも持っているのかもしれない。続きを聞こうとした所で、部屋の扉が叩かれた。どうやら俺以外にも客が来たらしい。しかし、入ってきた人物は予想外の人間だった。 「ソフィア、邪魔するぞ」 「ええ、急なお願いを聞いてくださって有り難うございます、お父様」  入ってきたのは国王だった。突然の事に面食らったが、すぐに椅子から立ち上がり必死に言い訳を探す。夜なのに娘の部屋にいる男を、親がどう思うかなど一つしかない。 「国王陛下。これには訳が……」 「よい、ウェルナー子爵。そなたがいることは娘より聞いておった。楽にしてくれ」 「有り難い……」  一瞬駄目かも知れないと思ったが、国王の方は俺がいることをあまり気にしていないようだ。ソフィは俺が慌てている姿を見て、声を押し殺して笑っている。こんなサプライズはいらなかった。 「さて、ソフィアよ。こんな時間にしたい話とは何だ?」  国王が厳しい視線を送っているのだが、彼女は微笑を崩さずに俺の方を手で示した。 「ヤード様との婚姻の許可を頂きたいのです」 「なっ!」  いきなりの発言に驚いたのは俺の方だ。彼女がそう思っているのは知っているが、まさか父親に向かっていきなりそれを言うとは思わなかった。  国王の様子をうかがったが、彼はあまり驚いた様子も無く、娘に厳しい視線を送り続けていた。 「……ソフィアよ、何故今なのだ。まずはその理由を聞かせてもらおうか」 「はい。以前よりヤード様とは婚姻の約束をしておりました。彼は然るべき地位を手に入れるまで待っていて欲しいと言われていましたが、今の教会の暴走を止めるために、私達の仲を公にするのがいいと思いまして」 「……そうか、別に王族が恋愛結婚をしてはならんなどと言うつもりは無い。しかしウェルナー子爵がお前を娶るには、少々爵位が足らん。それは分かっているのか?」 「ええ、ですからお父様をこの場に招いたのです。どうかヤード様の爵位を上げるようご助力願えませんか?」 「……」  国王は娘の頼みに目を瞑って唸っている。娘に協力してやるかどうかを考えているのだろうか。しかしそのとき俺が考えていたのは、この件を無かったことに出来るかどうかだった。  まさかいきなり父親と面会とは思わなかった。もっと男女の仲はゆっくり進むものではないのかという、どうでもいい考えが頭の中を駆け巡っていた。 「……うむ、良いだろう。子爵が爵位を上げるに相応しい手柄を得る機会を与えればよいのだな?」 「はい」 「では、以前から難攻不落と言われておる、イストリアの砦を攻略してきて貰おうではないか」 「イストリアですか? それは流石に難しいと思うのですが……」 「娘をくれてやるのだ、それ位の才は見せてもらわねば困る。という訳だ、子爵」 「ん? ああ、了解した」  考えに夢中であまり話を聞いていなかったが、国王に尋ねられて咄嗟に返事をしてしまった。何とか砦とか言っていた気がしたが。 「では明日正式な命令として伝えるとしよう。それでいいな、ソフィア?」 「はい、有り難うございます」 「では、私はこれで立ち去るとしよう。子爵よ、我が娘ソフィアを妻としたいのならば、娘の期待に見事応えてみせよ」  国王はそれを言うと部屋を出て行った。国王は結婚自体には反対していなかった。その可能性は十分にあると思っていたのだろう。これはソフィに上手く逃げ道を塞がれていたようだ。彼女も伊達に貴族達の中で生きてはいないということか。  まあソフィとの結婚自体はする可能性があると思っていたので、無理に抵抗するようなものではない。今は話に上がった砦が落とせるかどうかだけを考えるべきだ。 「あの、ヤード様……」 「ん? どうした?」 「ヤード様の意思も聞かずに婚姻の話を持ち出したこと、済みませんでした」 「ああ、そのことなら気にしなくていい。いずれはそうなるだろうと考えていたからな。それよりもその砦というのはそれほど落とすのが厳しい場所なのか?」 「ええ、魔帝国の攻撃拠点となっている場所です。あそこを押さえることが出来れば、魔帝国も以前のように大軍で攻め入ることが難しくなるでしょう。ですが、あちらもそのことは分かっているので、その砦にかなりの戦力を集めています」 「なるほど、王族を娶るだけの爵位が欲しいなら、それ相応の厳しさはあって然るべきということか」 「あそこは地形的に攻めにくくなっているそうなので、騎士や兵士だけでは厳しいでしょう。おそらく少しは魔導師を付けてくれると思いますが、ヤード様の方でも数を揃えておいた方がいいと思います」 「その助言は参考にしたいが、他の魔導師へのツテが無い。まあエルを連れて行けば、後は兵士だけでも大丈夫だろう」 「そうですか。ヤード様がそう仰るのなら、きっと大丈夫なのでしょうね」  流石にその考えはどうかと思ったが、彼女が納得している以上余計なことは言わない方がいいだろう。  詳しい話は明日するそうなので、今夜は帰ることにした。ソフィは少し寂しそうにこちらを見ていたが、早めに帰らないと国王に変な誤解をされかねない。  屋敷の地下に戻ると、既にフェアリスは寝ていた。何故か自分のベッドではなく俺のベッドの上で毛布に包まって寝ている姿を見て、叩き落してやろうかと思った。  翌日、国王に正式な命令を貰うために、再び王宮へ行った。教会の関係者ははじき出してくれたようで、俺を捕まえようとしてくる者はいなかった。 「ウェルナー子爵、そなたにはイストリア砦の攻略を頼みたい」 「了解した。必ずや彼の砦を落として見せよう」 「うむ、よくぞ言ってくれた。そなたには砦攻略のための兵を付けよう。どれ程の人数が必要か?」  今日の朝ティアに聞いたところ、以前その砦を攻略しようと1000人の大部隊で掛かったが敵の猛反撃に会い、敢え無く撤退したそうだ。おそらく今回は、それ以上の兵でも大丈夫だと言われたが、あまり数が多いのは有利ではない。むしろデメリットになるだろう。 「100名もいれば十分だろう」 「あの難攻不落の砦をたった100名の兵で攻略するだと? それも今は冬で、速攻で砦を落とせなければならぬというのに、馬鹿なことを言うな!」  今俺に突っかかってきているのは、ソフィの兄であるロベール第一王子だ。前回のイストリア攻略の軍を指揮していた人物でもある。奴からしてみれば到底信じられない数字だろうが、そもそも敵を殲滅するだけなら俺一人でも出来るのだから、数はあまり関係ない。  それに奴が言っていたように、今の季節に野外で行動するのは厳しい。やるなら奴の言うように速攻で落とす必要があるので、大軍で移動するのは無理なのだ。 「前回は優秀な魔導師がいなかったのが敗因だ。一定以上の実力を持つ魔導師にとっては、的の動かない攻城戦は簡単だ。なにせ敵が一箇所に固まっているのだからな」 「だが相手にも魔導師は多数いるはずだ。それほどの数の魔導師を、一体どうやって揃えるというのだ?」 「それも必要ない。参加する魔導師は、私と弟子のエルマイアの二人だけだ。それ以上いても意味が無い」 「冗談は止めておけ。いくらお前とその弟子が優秀な魔導師だとしても、何倍もの数の魔導師を相手に出来るはずがない」  奴は要塞での戦いを見ていなかったので分からないかもしれないが、たとえアドリアナクラスの魔導師が何人も出てきた所で、俺の脅威になるようなことは無い。エルも事前の準備さえ出来ていれば、数人相手だろうが圧勝できるだろう。  これ以上奴と会話するのも無駄なので、国王の方を向いておく。俺が露骨に視線を外したのを見た奴は、怒りで顔を真っ赤にしている。 「国王陛下、兵を100名借りさせてもらっても良いだろうか?」 「うむ、余程の自信があるようだな。ではその自信がただの見栄でないことを期待しておるぞ」 「有り難い」  その後の話し合いで、出立は三日後と決まった。それまでは英気を養っておくように言われたのだが、教会から逃げ回っている最中なのに、そんな余裕があると思っているのか。  話し合いが終わり、さっさと屋敷の方へ戻ろうとしていると、ロベールがやってきた。先程無視したことでも言いに来たのか? 「ウェルナー子爵、少し話があるから付き合え」 「ふむ、こちらは構わないが」  こちらの返事を待たずに先に進んでいく奴に付いていき、奴の自室と思われる部屋に着いた。中は殆ど調度品が無く、まるで王族らしくない部屋だ。この世界の貴族にしては珍しい。  ロベールは俺を促し、椅子へと座らせた。これも実用性重視なのか、全く装飾の類が施されていない椅子だ。  奴は何かの地図を持ってきて、机に広げた。何処の地図か分からなかったが、中央の建物を中心に、割と詳細な地形図が描かれている。もしやこれはイストリア砦の周辺図か。 「さて、ウェルナー子爵。以前の物で申し訳ないが、これはあの砦付近の地形を纏めた地図だ。私が攻めた時はこの辺りから攻め込んだのだが、少数で行くならばこちらの場所からでも大丈夫なはずだ」  地図を指しながら、俺に攻めやすい場所や逆に敵から見える危険な場所を教えてくれている。どうやら先程の件は無関係のようだ。 「情報は有り難いが、何故私に教えてくれるのだろうか? こう言っては失礼なのだが、私とそちらはあまり仲が良くないと思っていた」 「当然だ、私もお前のような奴は好きではない。だがお前が死ねば、妹がどれほど悲しむのか分かったものではない。いいか、絶対に生きて戻れ。たとえ砦が落とせなくても、お前は生きてここに戻ってくるのだ。惚れた女の願いも果たせない男には、妹を任せることは出来ん」  国王もマルガレーテもそうだったが、こいつもソフィには甘いらしい。王妃も同じような感じなのかもしれない。  一通り地図の説明を終えると、こちらを睨んでくるロベールに礼を言って部屋を出ようとした。 「決して妹を泣かせるような真似はするなよ」 「ああ、大丈夫だ。必ず生きて帰ってくると誓おう」  奴とそう言葉を交わして部屋を出た。  死ぬつもりは無いが、万全を期すためにエルにも新しい術式を教えておこうと思う。先程の情報で、予定していた術式の射程内で、砦を収めているような場所も把握できた。  残る問題はエルの術式と戦闘時の甘さだな。後者は言っても直らないのでどうしようもないが。 ============================================================ 027. 第27話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/27/ ============================================================ 城から屋敷に戻ると、地下室に行く前にエルの所に行った。目的は今度の任務で必要な術式を教えるのと、訓練の監督だ。  エルの部屋に入ると、丁度術式の訓練をしていた所のようだ。床に蹲り口を押さえている。彼女の周囲には術式の構成が現れては消えるのを繰り返し、その度に彼女は全身を震わせて耐えている。  レシアーナから戻ったときから、彼女はずっと魔力量増大のための訓練をしている。出来るだけ短時間で増やしたいと言ってきたので、一番ハードだが効率のいい方法を教えていた。  魔力を切らした状態で術式を発動させ続けるというものだが、こうすると術式を発動させるために、身体が外部から無理にでも魔力を取り込もうとしてしまう。その際に最大魔力量がほんの少し増えるのだが、代わりに全身の激痛と嘔吐感が襲ってくる。  これを一日5時間で一ヶ月続けたら、個人差はあるが最大魔力量は大体4割程度増える。一年で50倍から60倍ほどだ。実際にはある時期から途端に上がりにくくなるので、この方法だと精々30倍までにしかならないのだが。 「エル、今日の修行はそこまでにしておけ。お前に覚えてもらいたい術式がある」 「あ……マスター……」  訓練のせいでこちらに気付いていなかったようで、焦点の合わない目でこちらを見てきた。汗やら何やらの液でベタベタになっているので、とりあえず顔を洗うように言った。  近くに合った入れ物に水を出して彼女に手渡す。それを使って彼女が顔を洗っている間に、 魔力譲渡 で彼女の魔力を回復させる。普通のエルフよりも遥かに最大値が高いが、俺から見れば大して変わらない量なので、完全に回復させてもまだ余裕だ。 「有り難うございます。それで、覚える術式とは何でしょうか?」 「ああ、精神感応系の 白昼夢 という術式だ。今度イストリア砦という所を攻略しなくてはならなくなってな、その際兵士達に使う予定だ」 「なるほど、どのような効果なのですか?」 「心理的な無防備状態を作ると同時に、幻覚を見せる。足止めや扇動用の術式だな」 「それを覚えればいいのですね、分かりました」  エルに見せるため、魔力を込めない見本用の魔法陣を描く。術式を理解していない者が見たら一瞬で覚えるのを諦める程の複雑な物だが、エルはしばらく眺めていただけで大体理解したようだ。  床に魔法陣を描き始めたが、実際に発動する前にまず先に空撃ちをして発動するかを確かめるのだが、やはり初めてなので失敗してしまう。それでも何回か試みて、何回かの挑戦を経て成功するようになった。後は術式の精度を上げていくだけだ。  試行錯誤しながら何回も繰り返し発動しているのを眺めていると、急に魔法陣を描くのを止め、何か不満げな表情でこちらを向いてきた。 「あの、マスター……」 「何だ、何かおかしい所でもあるのか?」 「いえ、何故この時期に砦の攻略などするんでしょうか? どうしてもしなくてはならなかった訳でもあるのですか?」 「ああ、例の噂を払拭するためだそうだ」 「……もしかして、ソフィア様と結婚されるのですか?」  彼女に伝えたはずはないのだが、どうやら僅かな情報だけで推測したようだ。 「ソフィの提案だが、現状ではそれが一番効果的だと思ったからだ。実際、あの司教をどうにかした所で、私がエルフ好きだという噂は収まらん」  ディアンやバークフィールドの場合、本人をどうにかすれば収まるような事態だったが、今回は教会や噂をする者達が相手なので、一つずつ潰していくといった方法が取れない。  確かに教会の連中を説得するよりも、俺とソフィが仲睦まじいということを示した方が、色々と話が早い。本当はソフィの策に嵌っただけとも言えるのだが。  エルは俺の話を聞いて俯いたが、少しして顔をあげると、こちらに向かって真剣な表情をしてきた。 「ヤード様、私も妾としてヤード様の傍に置いて貰えないでしょうか?」 「無理だ、何のためにソフィとの婚姻をすると思っているのだ。お前を妾にしては何の意味も無いだろう。ナタリアにも言えることだが、しばらく他の女を迎え入れる気はない」 「そうですか……では噂が消えた時ならどうでしょうか?」 「今の所お前と師弟の情はあるが、そういった感情は抱いていない」 「……はい」  エルは先程よりも落ち込んだ様子で訓練を再開した。俺が断ればこうなるのは分かっていたが、エルよりもまずは自分の事の方が大切だ。  エルが安定して魔法陣を描けるようになったので、今日の所はこれぐらいにしておいた。心構えの方はまた明日でもいいだろう。  エルの部屋を出て地下室に戻ろうとしたとき、ティアが急いだ様子でこちらにやってきた。 「良かった、ここにいたのですね」 「どうした?」 「今教会の人間がやって来ています。門で止めていますが、いつ入られるか分かりません。見つからない内に地下室の方へお戻り下さい」 「分かった、すぐに戻ろう。お前は奴らを引き止めて……」  言いかけたところで、誰かがこちらに近づいてくる気配がした。急いで近くの角に身を隠すと、向こう側からやってきたのは教会の人間だった。 「ここはウェルナー子爵の屋敷です! お待ち下さいと申したはずなのに、勝手な真似はお止め下さい!」 「子爵が身を隠す時間を稼ぐ算段だったのだろうが、そうはいかん。屋敷の中を改めさせてもらうぞ」  そう言って、奴らは一番近くにあったエルの部屋に入っていった。何やら中で揉めている様な声が聞こえ、しばらくすると教会の人間が出てきた。  奴の顔には恍惚とした表情が浮かんでおり、端的に言って気持ち悪い。そのままふらふらとした足取りで歩き出し、やって来た方へと戻っていった。  奴が去っていったタイミングで、エルが部屋の中から顔を出し、辺りをきょろきょろと眺めている。ティアに気付くと、何かを渡して部屋に戻った。  ティアは受けとった物をしばらく眺めていたが、それを持ったまま俺の方へとやってきた。 「ご主人様、先程の者がこれを落としていったようです」  そう言って手渡されたのは、教会の奴らが着けている十字架だった。別に変わった物ではないのでどうしたのかと思ったが、よく見ると少し意匠が違う。 「それは魔帝国の方で信仰されている宗教の物です」 「つまり先程の奴は魔帝国と繋がりがあると言うことか?」 「いえ、これ自体は珍しいものではありません。おそらくこれをこの屋敷で見つけたと言い張って、ご主人様が魔帝国と繋がっている、とあらぬ罪を擦り付けようとしたのでしょう」  何とも卑怯な奴らだ。まあ入った部屋が悪かったので失敗に終わったが、勝手に人の屋敷に入ってくるとはどういうつもりなのだろうか。正門以外には不法侵入者用の結界が張ってあるが、今度からは入り口にも張っておかなくてはいけないな。  地下室に戻ると、フェアリスは変わらずに祈りを続けていた。こうして見ている限りでは他の連中が言っている「聖女」という称号が相応しいと思うのだが、ここ数日の様子を見るに、普通の女と変わらないとしか思えない。  こちらが帰ってきたことに気付いたのか、祈るのをやめてこちらの方を向いてきた。 「お帰りなさいませ。お城の方はどんな様子でしたか?」 「普段と一緒だ。それより俺は三日後からしばらくの間ここを留守にする。ここにいても構わないが、そちらはどうする?」 「……お言葉に甘えさせてもらっても構わないでしょうか? 今戻っても司教様と婚約を結ばされそうですので」  てっきり戻って司教を説得しますとか言うと思ったのだが違った。初めのうちの印象は、聖職者にありがちな夢見る乙女のような奴だと思っていたが、実際は、割と現実が見えている奴だったようだ。 「好きにしろ。何かあったらティアを頼れ」 「有り難うございます。無実を証明出来たなら、このお礼は必ずいたします」  そうか、と適当に返事をして、暇つぶしの魔道具製作に取り掛かる。彼女もまた祈るのに戻ったようだ。何ともお互いに無関心なことだが、俺は人付き合いが得意ではないので、むしろ有り難い。  眠くなってくるまでずっとこうやって過ごした。外の様子が分からないのは少々窮屈だが、何時もとやっていることが同じなので不便に思うことはなかった。  そうやって出立の日まで時間を潰そうと考えていたのだが、夜になってナタリアが尋ねてきた。部屋に篭りっきりの生活は、彼女には耐えられないようである。  しかしながら彼女にはフェアリスのことを伝えていなかったため、俺と同じ部屋にいる彼女を見て、ナタリアの機嫌が一気に悪くなってしまった。 「私のことは遠ざけておいて、何で他の女と一緒にいるの?」 「お前を避けたのは噂の払拭のためだ。彼女がここにいるのは、俺と同じく教会に追われているため、一時的に避難させているだけだ」 「それなら私もここにいるわ。いいでしょう?」 「駄目だ。お前までいなくなったら、俺とお前が駆け落ちしたとでも流されるに決まっている」 「それなら、今晩だけでいいから泊まらせて。朝になったら自分の部屋に戻るから。それでいいでしょう?」 「……フェアリスもここにいるのだから、少しは自重してくれ」  ナタリアは俺の言葉を聞いて、フェアリスを睨み付けた。話が振られるとは思っていなかったフェアリスは、ナタリアの射殺されるような視線に怯えて頷いていた。 「ほら、彼女もここにいて良いって言ってるわ。これで何も問題はないわよね?」 「……好きにしろ」  結局ナタリアは一晩ここに泊まっていくことになった。夕食を届けにやってきたティアは、ナタリアがいるのを見て少し眉を吊り上げたが、すぐに冷静な表情に戻って追加の夕食を持ってきてくれた。  寝るときも場所がないので俺のベッドで一緒に寝る破目になった。俺はそのつもりは無かったが、ナタリアとしてはベッドに誘ってくれた時点で抱いてくれると思っていたらしく、フェアリスが眠ったのを見てこちらに身体を摺り寄せてきた。 「ねえ、ヤード。早くしましょうよ」 「今日は勘弁してくれ。フェアリスもいるのだぞ?」 「彼女は寝てるから問題ないわ。それよりもう我慢できないの……」  フェアリスの方を伺ってみると、確かに寝ているように見えるが、僅かに頬が赤くなっている。今回も寝たフリで通すようだ。  ナタリアはこちらの足に自分の足を絡みつかせて、身体をこちらに押し付けてきた。興奮しているのか、少し体温が高いような気がする。  片手をこちらの服の中に手を入れて、肌を直接撫でてきた。もう片方の手は、こちらの手を取って、彼女の割れ目に導いてきた。 「ヤード……」  こちらの名前を呼びながら、俺の手を使って自慰を始めてしまった。彼女の股間はすぐに濡れてきて、指を簡単に飲み込んでいく。いやらしい水音が響いて、こちらも興奮してしまう。  その痴態を聞いているフェアリスも顔を真っ赤にしながら、こちらの様子をちらちらと伺い始めた。気付かれていないと思っているようだが完全にばれている。  結局その後、しつこく誘ってくるナタリアに負けて一回やってしまった。フェアリスもこちらの行為をバッチリ聞いていたようで、終わった頃にもう一度彼女を確認すると、呼吸が少し荒くなっていた。  その日以降は何事もなく過ぎて、出立の日になった。防寒具に身を包んだ兵士達が忙しく馬車の準備をしているのを眺めながら待っていると、見送りをする者達が来た。  今回見送りに来た知り合いはソフィとロベールだけだった。ソフィの方は心配しているのを全く隠せていない様子で、こちらの無事を祈ってきた。信頼されていない訳ではないと思うが、彼女もかなりの心配性なのだろう。  ロベールは相変わらず真面目な顔を不機嫌そうに歪めていた。あまり会話をしたくないのか、こちらから話しかけなかったらそのまま見送るだけとなっていたようだが、後で聞いた話だと、教会の者が城に来ないよう手配していてくれたのはこいつだったようだ。  二人とその他城の者に見送られつつ出発した。今回は知り合いがエルだけなので、随分と無茶が出来そうな気がする。  王都を出てからは大体要塞と同じ方向なので、以前も通った道を行っている。しかし以前と同じくやることが無いので、エルに術式を教えるぐらいしか暇を潰せない。  そのエルも、俺がナタリアと寝たことを知ったのか、あの日以来機嫌が悪くなっており、正直同じ空間内にいたくない。それでも一緒の馬車にいる以上はある程度話しかけなくては間が持たない。 「エル、術式の方は制御出来るようになったか?」 「……ええ、マスターが他の女の子達と遊んでいる間に」 「……そうか」  皮肉を返されて、さらに馬車内の空気が悪化した。これは何とかしないと作戦に支障がでるレベルの問題な気がする。しかしいい手立ても思いつかないので、ティアに相談することにした。  念話をティアに繋ぎ、現状の説明をして、どうすれば彼女の機嫌を戻せるか尋ねてみた。 (彼女を抱いてあげるというのは駄目なのでしょうか?) (正直なところ抱きたくない。積極的なエルフは一人でもう沢山だ) (では仕方ありませんね。しかし、彼女の言い分も少しは聞いてあげなくてはいけないと思いますよ) (善処しよう)  念話を切って、再びエルに向き合う。彼女は不機嫌な表情を隠しもしないでこちらを見ている。 「エル、何が気に入らないのかは知らないが、言いたいことがあるなら言ってみろ」  エルはその言葉に、少し何かを考えるような顔をしていたが、すぐにこちらに向き直った。先程までとは違い、真面目な表情になっている。 「……マスターは私を女としては見てくれないのでしょうか?」 「……今はお前に魅力を感じていないが、絶対にお前に惚れることが無いとは言い切れない」 「では、私がナタリアさんのように積極的になれば、チャンスはあるということですか?」 「彼女のような攻め方では気が変わらないと思うが、チャンスはあるだろう」  その言葉に彼女は俯いて悩み始めたが、ため息を吐くと顔を上げた。その表情は先程までとは違い、何時もの表情に戻っている。 「分かりました。マスターが他の女の人と寝ていることは、もう忘れることにします」 「そうか」 「はい。これからは私も積極的に行きます」  そう言ってこちらに抱きついてくるエル。流石にここで彼女を突き放したら、今の会話が全て台無しになってしまうので、大人しく彼女がしたいようにさせている。  次の町に着くまで、そうして彼女はずっと抱きついたままだった。 ============================================================ 028. 第28話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/28/ ============================================================ 昨日の投稿は少し遅れてしまいました。 読んでいない方は気を付けてください。 ============================================================ 029. 第29話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/29/ ============================================================ 王都に帰って来ると王都中の人々が見物に集まっていた。既に王都中に勝利したことが伝えられていたらしい。そんな民衆の視線に耐え切れず、俺は引きつった笑みで手を振っていた。  城に戻ると、休む暇も無く謁見の間に通された。中には貴族達と国王、それにソフィがいた。 「砦の攻略、見事であった。あれほどの寡兵でイストリアを攻略するとは、そなたの実力は言葉通りの本物であったと言うことだな」 「いや、兵達もよく戦ってくれた。この勝利は私の力だけでは掴めなかっただろう」 「謙遜せずともよい。さて、褒美を受け取る前に、まずはそなたの帰還を誰よりも心待ちにしておった者に声を掛けてやれ」  国王の言葉にソフィの方を向くと、彼女は待ちきれなかったようにこちらに走り寄ってきて、俺の胸に飛び込んできた。大人しい性格の彼女が人前でこんなことをしてしまうほどには、俺の帰りが待ち遠しかったということだろう。 「ソフィア王女、約束通り戻ってきたぞ」 「ええ、ヤード様。必ず帰ってきてくれると信じていました」  彼女がこちらを抱きしめてきたので、こちらも抱きしめ返した。周囲の貴族からは感嘆の声が上がっているが、一部の人間は悔しそうな顔をしており、中には怒りに満ちた表情を隠しもしない奴もいる。 「仲が良いのは結構なことだ。子爵よ、今日より伯爵を名乗るがいい。娘との結婚も認めよう」 「有り難い」 「うむ、他の褒美は後で屋敷に送らせるので、先に屋敷に戻るといいぞ。結婚となれば色々と準備も必要だろうからな」 「そうさせてもらう事にしよう」 「うむ、式の日取りは後で知らせよう」  王の言葉を最後に謁見も終わり、俺はソフィを部屋に送った後屋敷に帰った。  地下室に入ると、未だそこにはフェアリスの姿があった。俺が帰ってくると笑顔でこちらを出迎えてくれた。 「お帰りなさいませ、ヤード様」 「ああ、ただ今戻った。ソフィア王女との結婚が決まったので、フェアリス殿も私も異端の疑いは晴れることだろう」 「まあ……それは良い知らせですね」  いつものフェアリスならもう少し喜ぶかと思っていたが、彼女は俺の言葉を聞いてぎこちない笑みを浮かべていた。何か気に掛かる事でもあったのかと眺めていると、ティアとナタリアが入ってきた。 「ご主人様、お帰りなさいませ」 「ヤード、帰ったなら先にこっちにも顔を出しなさいよ」  ティアは俺の帰りを心待ちにしていたようで、いつもは冷静な表情の彼女も今は喜んでいるのが分かる。ナタリアも強気の口調だが、俺の帰りが嬉しかったようで、口元が少し綻んでいた。  久しぶりにあったので色々と話したいことも会ったのだが、ティアに出かける前に伝えておいたことが気になっていたので、先に司教のことについて聞いてみた。 「あの司教は随分と慎重に行動していたのですが、やっと裏を掴めました。直接の繋がりはないのですが、どうやらランド第二王子と関係があるようです」 「第二王子だと?」  確か唯一側室から生まれた王子で、歳はソフィと同じぐらいの奴だった気がする。あまり印象に残っていないので、詳しいことは分からない。 「何故第二王子と組むことが私を襲うことに繋がるのだ?」 「王位継承権が下がることを恐れているのではないでしょうか?」  ティアの言葉を聞いて、その可能性を考え付かなかった事を反省する。確かにソフィと俺が結婚して一番困るのは奴かもしれない。  この国の王位継承権は、正室の男子から順に与えられ、その次に正室の子供の子供、つまりは正室の孫に王位継承権が与えられることとなっている。側室の子供は継承順的には最後となっているので、もし俺とソフィが男子を産めば、その子供は今の継承順では二番目になってしまうのだ。  今はランドがロベールの次に継承順位が高いが、正室の第一子であるロベールとは違って、奴の順位はかなり危うい状態にあるというわけだ。 「なるほど、そういえばそうだったな」 「さらに言えば、第二王子の母親アーシュラ様の実家であるサヴェレ家は、代々教会の枢機卿や司教を輩出してきた家系でもあります。王子も教会への影響力はかなり持っているのでしょう。ただフィルポット司教とは直接の関係がなかったので、そこまでたどり着くのに時間が掛かりました」  しかし今度は王子が敵か。はっきり言って公爵よりも厄介な相手だ。やはりあの司教を排除して終わる問題ではなかったな。 「何か良い手はないか?」 「王族を正面からどうこうしようとするのは無理があるかと……直接の面識は無いはずなので、司教との繋がりを立証しようとしても先に手を打たれると思います。ご主人様が直接手を下すしかないのでは?」 「仕方ないな。何か事を起こされる前に、王子の方に出向いてこよう」  奴も普段は城にいるのですぐに見つかるだろう。今夜にでも今回の件から手を引かせるように動こう。  俺がティアと話をし終わるのを見て、フェアリスがこちらの方に近づいてきた。その傍ではナタリアが暇そうにしている。彼女は一度襲われているのに、今回の事件にはあまり興味が無さそうだ。 「ヤード様、私もそろそろ家の方に戻ろうと思います」 「そうか、私がソフィア王女と結婚すると決まったのはつい先程だ。疑いが晴れるまでまだ時間が掛かると思うが、危険ではないのか?」 「いつまでもヤード様の好意に甘えるわけには行きません。これ以上足手まといになるのはもう嫌ですし、結婚の決まった男性の家にいつまでも厄介になっていては、別の噂も立つかもしれませんから」  こちらとしてはフェアリスが捕まってどうにかされる方が、面倒事になる可能性が高いのだが、彼女が言うことも正論なので止めようとは思わない。首謀者も割れた事だし、そろそろこの件も終わるだろうからな。 「そうか、また何かあったら連絡をくれ。出来る範囲でなら手を貸そう」 「ええ、長い間お世話になりました。有り難うございます」  ティアに彼女を送るように伝え、二人が出て行くのを見送った。先程から全く喋っていなかったナタリアは、二人がいなくなると同時にこちらに近寄ってきた。 「ヤード、随分長い間会えなくて寂しかったわ」 「済まなかった。戦闘自体はすぐに終わったのだが、引継ぎに手間取ってな」  割と長い間会えなかった分を取り戻すかのように、彼女は俺に抱きついて身体を撫で回している。俺を誘っているのは明白だが、今はそれよりも風呂に入りたい。  彼女をやんわりと引き剥がし、不満そうに見てくる彼女に口付けをする。しばらく舌を絡ませて、ゆっくりと口を離した。 「今はこれでお仕舞いだ。また後にしてくれ」 「……分かったわ、絶対だからね。今夜なら大丈夫よね?」 「私も一応婚約者のいる身なのだ。結婚を先に控えているのに、他の女性を妊娠させるわけには……」 「ん? 妊娠ならもうしてると思うわよ?」 「……待て、今なんと言った?」 「だから、もう妊娠してると思うわよ?」 「確かにあの時避妊していなかったのは事実だが、エルフの受精率は人間よりも低いと聞いている。それなのに何故そんなことが分かる?」 「だってあの媚薬を使ったじゃない。あれはただの媚薬じゃなくて、妊娠しにくいエルフのために、受精率を上げる効果もあるの。あれを使って妊娠しなかったっていうのは聞いたことが無いわ」 「なんでそんな物を使ったんだ……」  ただでさえ厄介事が重なっているのに、これ以上増やさないで欲しい。ストレスで胃が締め付けられるように痛くなってきた。  あの媚薬にそんな効果までついているとは普通思わないだろう。彼女が言っていることが本当なら、既に俺は彼女を孕ませている可能性が高い。  ついでにリリーだっけか、あいつも妊娠している可能性があるのか。彼女が妊娠するのは普通の女性が妊娠するのとは訳が違うので、後で念入りに調べておかなくてはいけない。 「エルフというのはどのぐらいで子供を産むのだ?」 「大体1年ぐらいよ」  これは面倒なことになってきた。とりあえずソフィには正直に話さないといけないだろう。貴族が子供を作る事は、民間人のそれとは訳が違う。何と言ってもお家騒動が巻き起こる可能性があるのだ。  特にソフィの子供よりも先に生まれたなら目も当てられない。一応ソフィの子供が次代の当主になるのが普通だが、そんな事はお構いなしに他の貴族共が群がってくる可能性が高い。 「出来てない可能性もあるのではないか?」 「そう思う?」 「……いや。先程の話が本当なら、それは無いな」  これは本格的に詰んだ。後はソフィの許しを得て、しばらくしてから妾や側室として入れるしかない。私生児などもっての外だ。  思考が泥沼に嵌まっていく様な錯覚を感じる。とりあえず彼女のことは後にして、今は司教と王子の件に集中しよう。そのためにはまず風呂に入りに行かねば。  混乱した思考のまま、何故かナタリアを連れて風呂に入った。彼女も風呂がお気に入りのようで、逆上せるまで長い間入っていた。俺も限界を間違えて意識を失ったので、風呂に入りに来たメイドに発見されるまで二人とも逆上せて倒れていた。  風呂での醜態の記憶を封印しつつ夜まで待ち、城に転移してランド王子の部屋に向かう。奴が城にいるのは門の所の兵士に尋ねたので確実だ。  部屋の前には見張りの兵士がいた。 幻惑 を使い幻惑状態にして、その隙に中に入る。  部屋の中にはロベールやソフィと同じ金髪だが、他の3人とは似ていない青年が一人。謁見の間で何度か見たことがあるので、奴がランド王子だと分かった。  奴一人しかいなかったので、叫ばれる前に 遮音結界 を張る。奴は突然の侵入者に驚き、口をパクパクと開閉させていた。そうしているのを見ると、馬鹿のようにしか見えない。 「夜分遅くに失礼する。話が会って来たのだが……」 「……っ! お前、ウェルナーか! 王族の部屋に勝手に入るとは不敬だぞ!」  やっと口を利けるようになったと思ったら、第一声はそんなどうでもいいことだった。不敬も何も、今からすることは不敬罪などという程度の話では無いのだが。 「あまり機嫌が良くないようだな。ならば単刀直入に言わせて貰おう。今すぐ私とフェアリスから手を引くように、司教に伝えておけ」 「な、ななな、何のことか分からないな」  俺の言葉に明らかに動揺した口ぶりで返してくる。ポーカーフェイスになれとまでは言わないが、少しは態度を取り繕うことを覚えた方がいい。こんなのがソフィと同じ王族だと思うと、涙が出てくるな。 「分からないならそれでいい。さて、話は変わるが、まずはこの椅子を見てくれ」 「ん? 椅子が何だと言うんだ……」  一番近くにあった椅子を掴んで、 劣化自壊 を発動する。しばらく何も変化が起こらなかったが、突然椅子がバラバラに四散してしまった。その光景を見たランドは、何が起こったのか理解できずに、バラバラになった椅子の破片を見て呆然としていた。  隙だらけの奴に近づき、肩を叩く。その感触で我に返った奴は、俺から急いで距離をとり怯えるような視線を向けてきた。 「い、一体何をしたんだ!」 「これは 劣化自壊 という術式でな、効果は見ての通り物体をバラバラに分解するというものだ。切断しているわけではないので、鎧を着ようが関係ない。発動条件はその物体に触っていること。効果が現れるタイミングは私にも分からない。ここまで言えば、もう分かるな?」 「わ、私にその魔法を掛けたのか! 早く解け、解いてくれ!」  もちろん奴に術式など使っていない。というよりも、先程の術式は、直接対象に触れていなければ駄目なので、服越しに肩を叩いた所で発動条件を満たすことが出来ない。  まあそこまで奴に教える気はない。言わなければ勝手に勘違いして、術式を解く事と引き換えにこちらに色々と譲歩してくれるだろう。 「そうだな、私の言うことに一度だけ従ってもらうというのはどうだ?」 「そ、それでいい! いいから、早く解いてくれ! まだ死にたくない!」 「そうか、確かに約束したぞ」  もう一度奴に近づいて、肩を叩いて適当な言葉を呟く。奴は俺がやっていることが分かっていないので、まだ死ぬかもしれない恐怖に怯えて震えている。 「術式は解いたぞ」 「そ、そうか……助かった……」 「では約束だ、私に従ってもらおう」 「……ああ、いいだろう。私に一体何を頼むつもりだ?」 「なに、難しいことではない。先程も言った通り、これ以上俺やフェアリスに関わろうとするな。これだけだ」 「わ、分かった。だが私が異端にするように頼んだのはお前だけだ。フェアリスだったか、彼女のことは何も知らない」 「お前は黙って私の言った通りにすればいいのだ。余計な口を叩くな」 「す、済まない、許してくれ……」  奴が謝っている姿を見ていくらか気分が晴れたが、これだけで終わらせても信用できない。  紙を取り出し、今回の約束を書き込んでいく。下の部分に俺の名前を書き込んで、奴に渡す。 「それに名前を書け。文字は何でも構わない」  奴はこくこくと頷いて、俺が渡したペンを取って名前を書き込んだ。書き終わった紙を受け取り、 誓約 を発動する。これで奴はこの紙に書かれた約束を破ると、約束の重さで決定した罰が下るようになった。ちなみに今回の罰は浄化、つまり火刑だな。 「よし、先程の約束を破ったなら、その瞬間にお前は全身を炎に焼かれて死ぬことになる。くれぐれも言動には気をつける事だな」 「ああ……」  これでこれ以上こいつが関わってくることはないだろう。紙をしまうと、奴を 恐怖 で昏倒させ、 記憶抽出 で先程の約束以外の、ここに俺がいた記憶を抜き出す。  まだ幻惑状態の兵士達の横を通り抜け部屋を出る。俺の姿が兵士達に見えなくなる所まで進んでから、術式を解除してやる。何が起こったのか分からない兵士達は、辺りをきょろきょろと見回していた。  城を出て屋敷に戻ってきた。相変わらず司教は俺のことを捕まえようとしているようで、屋敷の前に人影が見える。司教はまだ俺がソフィと婚約したことを知らないのであろう。しかしそれも明日明後日には解決できる事柄だ。  これで今回の件は収まるはずだが、まだ司教に復讐を遂げていない。フェアリスを助けたときにした事は、とても復讐したとは言いがたい。人を異端扱いし、ナタリアを使って俺を脅そうとした事を考えると、出来れば社会的に抹殺したい。  となると、やはり破門が妥当か。出来れば俺が直接働きかけない方がいいのだが、どうしようか。  地下室に戻りフィルポットを陥れる策を考えていると、ティアがやってきた。何やら困ったような表情を浮かべている。また問題が起きたのか。 「ご主人様、以前送ってこられたエルフのことなのですが……」 「ああ、あれか。どうかしたのか?」 「いえ、とりあえず世話はしておりますが、必要ないのであれば処分した方が妙な噂を立てられずにすむと思います」  まあ確かに捕まえたときは研究用に使えると思っていたが、持っているだけで疑われるので、今ではマイナスにしかならない。いっそのこと殺してしまった方がいいのかもしれない。  そう思っていると、ふといい考えが閃いた。あれを使えば司教に無実の罪を擦り付けることが出来るのではないだろうか。  そうと決まればフェアリスにも協力してもらおう。早速フェアリスに念話を送り、とある頼み事を伝えた。フェアリスは突然の話に驚いていたようだが、こちらの頼みは聞いてくれるようだった。 (それは構いませんが、司教様は本当にそんなことをされているのですか?) (ああ、これは確かな情報だ。司教が手を打つ前に動きたいので、悪いが急いで伝えてくれ) (分かりました)  フェアリスとの念話を切ると、こちらも準備のために屋敷の地下室に閉じ込めてあるダークエルフの様子を見に行った。 ============================================================ 030. 第30話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/30/ ============================================================ 階段を下り、以前ルーシアの施術をした地下室に入る。既に中は改築されており、人が一人ぐらいなら暮らすことができる空間になっている。今回はそこにいる人物に用があった。  明かりをつけると、暗闇に紛れ込んでいたその人物の姿が見えるようになった。全身にルーシアと同じ術式刻印を刻み込まれたダークエルフ、確か名前はリリーだったか。以前エルに屋敷に連れ帰るよう任せておいたのだが、世話をティアやエルにまかせっきりにしていたので、会うのはレシアーナ以来だ。 「……何?」 「久しぶりに会うのに、随分な台詞だな」  嫌悪しか感じられないといった表情でこちらを見てくるが、もう会うこともなくなるのでどうでもいい事だと無視する。逃亡防止のための鎖が付いていて逃げられないので、俺が近づいてもその場から動こうともしない。  それにしても部屋全体を見回しても、魔石が一つも落ちていないのが気になる。ティアが回収していないんだとすれば、考えられる要因は一つしかない。 「魔石が無いようだが……」 「は? ここは魔力溜まりじゃないのに、何を馬鹿なことを言っているの?」  こいつの様子からしても魔石を作り出していないことは確かなようだ。見たところ術式刻印にも間違いはないし、これは妊娠しているのが確実になったな。まさか一番最初に俺の子を身篭ったのがこいつだとは。  まあ妊娠している分には問題ない。俺との子供だというのは他の人間には知られていないから、これも司教のせいにでもすればいい。 「まあいい。それよりもお前に利用価値が出来た」 「……今度は何?」 「早い話が生け贄だ。とある男にあらぬ罪を被せるためのな」 「……そう、好きにすれば」  自暴自棄な態度を取っているが、こいつにはこちらに協力してもらわなくてはいけないのだ。演技でも何でもいいから、男に媚びた態度になってもらう必要がある。 催眠 を使い、彼女の意識を奪った。 「私の声が聞こえるな?」 「はい」 「よし、お前は男に奉仕するために生まれてきた雌奴隷だ。自分から進んで奉仕したくなり、奉仕して喜んでもらうことがお前の喜びだ。そして奉仕をして感じてもらうと、自分の事のようにお前も感じてしまう。分かったか?」 「はい、分かりました」 「では今から私が手を鳴らすとお前の意識は元に戻る。しかし、私が先程言ったことは決して忘れない。さらにもう一度私が手を叩けば、再びこの状態になる。分かったか?」 「はい、分かりました」  俺が手を叩くと、我に返って再びこちらを生気のない眼で見てくる。だが先程と違い、どんどんと頬に赤みが差していっている。 「どうした、何か言いたいことがあるなら言ってみろ」 「あの、私にあなたの肉棒を咥えさせて下さい。精一杯奉仕させて頂きますから」 「断る。お前が奉仕する相手は私ではない」  そう言って、彼女の頭の中に 排出 でフィルポットの姿を送る。これはナタリアを襲撃した男達から奪った記憶だ。  フィルポットの顔や姿を覚えたようなので、後はフェアリスが捕まっていた場所にでも放り込んでおけばいいか。フェアリスも今頃他の司教に話をつけている所だろう。 「今見た人に奉仕をすればいいのですね?」 「ああ、誰が何と言おうが、奴がお前のご主人様だ。口では嫌がるかもしれないが、そういう時は腹に子がいるとでも言ってやれ」 「分かりました」 「そうだ、物分かりがいいのは良い事だ」 「それで、どこに行けばあの人に会えるのですか?」 「安心しろ。私が連れて行ってやるから、少しの間眠っていろ」 「え?」  疑問の表情を浮かべた彼女を 恐怖 で気絶させた後、フェアリスに念話で連絡を取った。今他の司教を連れて教会の隠し部屋に向かっている最中だという話だ。これはこちらも急がなくては。 上級集団転移 で教会の近くにまで移動する。前回と同じ方法で結界内に入り、そこから今度はフェアリスが捕まっていた隠し部屋に転移した。  頬を叩いて彼女の意識を取り戻すと、彼女は先程とは違う部屋にいるのが分かり、周りをきょろきょろと見回し始めた。 「あの、もう着いたのですか?」 「ああ、少し待っていれば目当ての男がやってくるだろう。それまでは騒がずに大人しくしておけ」 「はい」  後は俺のことを言いふらさないようにすればいいな。記憶を抜くと俺が催眠を掛けた人物だと認識できなくなるので、もしものときに催眠状態に戻せなくなるかもしれない。仕方ないが、今回は別の方法にする。  俺の言うことを聞いて大人しく座った彼女を、手を叩いてまた催眠状態に戻す。 「お前は私のことを誰にも話せないし、話そうとも思わなくなる。もちろん私が知り合いだと分かるような態度もするな。分かったな?」 「はい」  手を叩いてまた元に戻すと、彼女にはここにいるよう指示をし、周りに人がいないかどうかを音で確かめて部屋の外に出る。今回は人がそれなりにいたので、見つからないように外まで出るのは大変だった。  教会の外に出た後、何食わぬ顔をしてフェアリスの到着を待っていると、少しして何人かの人間を連れた彼女がやってくるのが見えた。司教らしき服を着た男と一緒に来ている戦士風の男達は、俺の記憶ではあの服装は異端審問官のものだった。 「ヤード様、お話の通り司教様をお連れしました」 「あなたがウェルナー伯爵ですか。私はマルコと言います。異端審問所で司教位を勤めさせてもらっています」 「ヤード・レイ・ウェルナーだ。夜分遅くに済まないな、よろしく頼む」 「いえ、こういったことは相手が動く前に行動する方が良いのです。さあ、早く行きましょう」  挨拶もそこそこに、彼女らに加わってフィルポットの部屋まで行く。幸い奴は出かけていなかったようで、部屋で何かしているようだった。  扉を開けて、一緒に来ていた異端審問官達が一斉に奴を取り囲んだ。突然の出来事でしばらく硬直していたが、我に返ると怒りを顕にして椅子から立ち上がった。 「何だ、お前達は!」 「フィルポット司教、あなたに異端の疑いが掛かっている」 「な!? 馬鹿な! そんな訳があるはずがないだろう!」 「それはこちらが判断する。それに証人もいるのだ。そうでしょう、ウェルナー伯爵?」  俺を見つけた司教は、魚のようにパクパクと口を動かしている。まあ屋敷にまで入って見つからなかった男が目の前に来たら、奴のようになるのかもしれない。 「ああ、私の屋敷の者が見かけたのだが、先日フィルポット司教がここにダークエルフを連れ込んだというのだ」 「馬鹿な! この教会の何処にダークエルフがいるというのだ!」  ちなみに目撃者はティアという設定だ。先にティアには話を合わせるよう伝えてある。彼女はフィルポットを調べるためにこの辺りをうろついていたこともあるので、いくらか説得力もあるだろう。  奴は怒りで顔を真っ赤にしながら怒鳴っている。腹に一物抱えている奴は、皆同じような反応をするな、としみじみ思う。 「フェアリス殿、司教はあのように言っているが、何か隠し場所に心当たりは無いか?」 「え? あ、ああ、それでしたら一つ心当たりがありますけど……」  突然話を振られたフェアリスは、動揺しながらも返事をしてくれた。大方俺も知っているだろうにとでも思っているのだろうが、あの夜のことは秘密にしたいというこちらの意図に気付いてくれたようだ。  奴もフェアリスがあの部屋のことを言っているのが分かったのだろう、何とかしてこの場を切り抜けようと頭を悩ませている。 「そ、そうだ。そんなことよりも、この二人を異端として捕まえなくてはいけないのではないか? そうだろう、マルコ司教殿?」 「この二人に関しては無実であったと、つい先程異端審問所の所長が判断を下しました。あの噂は根も葉も無いただの噂であったということです」 「そ、そんな馬鹿な……」  マルコの言葉に呆然としているフィルポット。まあ奴にしてみれば寝耳に水のような事態だろう。先程まではランドの助力を信じていたのかもしれないが、それももはや潰えた。  隠し部屋に向かって進むフェアリスにフィルポットを含めた全員でついていく。フィルポットは隠し部屋にいるあの女のことは知らないので、まだ自分が有利だと信じてふてぶてしい態度を取っている。  隠し扉の前にやってくると、開けるよう指示されたフィルポットがしぶしぶと壁に鍵を差し込んだ。そしてゆっくりと扉を横に引いていくと、中には当然のごとくダークエルフが一人いた。 「なっ!?」 「ほう、ウェルナー伯爵の情報は正しかったようですな」  彼女は突然俺達がやってきたことに眼を瞬かせていたが、フィルポットの顔を見つけると途端に笑顔になり、奴の下へと近寄ってきた。 「ご主人様!」 「こ、こやつは何を言っているのだ? 誰か分かる者はいないか?」 「司教、このエルフはお前を主人と呼んでいるのだ」 「な!? 出鱈目を言うな!」 「そうか。では皆にも分かるようにしてやろう」  俺は彼女に向かって 翻訳 を発動する。これは俺に掛かっている翻訳能力と同じ効果を発揮する術式だ。必要になるかと思って前もって作成しておいた新術式だ。言語の問題もこれでカバー出来る。 「おい、そこのダークエルフ。今お前の言葉が皆に理解できるようにしてやった。もう一度先程の言葉を言ってみるといい」 「有り難うございます! ご主人様、私の言葉が分かりますか?」  彼女の言葉は翻訳能力によって全員に伝わるものとなった。彼女の言葉に、俺を除く全員が凍りつく。俺の言っていた通りにフィルポットを主人と呼ぶエルフが教会にいたのだ。  フェアリスもここに彼女がいることには疑問を抱いていないようだ。彼女が捕まってから捕らえられたことにしたので、時系列的には問題ない。 「ば、馬鹿な! 私はこのダークエルフなど知らん!」 「そんな……お腹の中にはご主人様の子供がいるのですよ!」  俺の言いつけ通りの言葉を彼女が言ったことで、奴は顔を真っ青に染めている。フェアリスも驚きで顔を青褪めさせ絶句しているし、マルコや他の異端審問官も険しい表情になっている。 「フィルポット司教、異教徒と交わり、あまつさえ孕ませてしまうことがどういうことか、あなたならば分かっていると思っていたのですが」 「違う! 私はそんな事はしていない!」 「それは彼女を調べれば分かることですし、異教徒と教会で交わっていることが分かれば、あなたはこの上ない禁忌を犯していることになります。これは忌むべき異端の行いですよ」 「そんな、こんな事があっていいはずが無い……」 「ご主人様、どうしたのですか? どうぞ私の身体に欲望を吐き出して下さい」  奴はガクリと膝をつきうな垂れている。彼女は奴に擦り寄ると、奴の肉棒を取り出し舐め始めた。ピチャピチャといやらしい音が響き、フェアリスは頬を赤く染めて顔を逸らしてしまった。 「何と言う……フェアリス殿をどこか別の場所で休ませてあげなさい」  マルコは未だ険しい顔で奴らを見ていたが、異端審問官達の方を見てフェアリスをここから離すように指示し、男達のうちの一人がフェアリスを連れて行った。 「硬くなってきましたね。ではここで奉仕させてもらいます」 「や、止めてくれ……」 「ああ、ご主人様の物が私の奥にまで入ってきます……」  二人の方を再び確認すると、蒼白な表情を見せている奴とは対照的に、彼女の方は完全に発情したように頬を赤くしている。奴の肉棒を股間に埋め腰を振っている彼女を見ていたマルコは、首を振ってから男達に何か指示を出した。  男達の一人が未だ繋がっている二人に近づき、剣を抜いて彼女の首を刎ねた。吹き上がる鮮血に一瞬呆然と見ていたフィルポットは、我に返ると驚くべき速さでマルコに近寄り、許しを乞い始めた。 「お願いだ、これは誰かの陰謀なのだ、命だけは助けてくれ!」 「……実際に耳にし、眼にしてしまっては、もはや誤魔化しも利きません。せめてもの慈悲で、苦しまぬよう天国へと送って差し上げましょう。やって下さい」  マルコの合図でフィルポットの首が刎ねられた。斬られた場所から血を噴出しながら、リリーの上に倒れる。二人の周りは血溜まりとなって、まさに地獄絵図といった光景だ。 「これが使命とはいえ、身内を手に掛けるのは何とも心が痛むものですね。さあ、後始末は私達がやりますので、伯爵殿はフェアリス殿の傍にいてあげて下さい」 「……ああ、分かった。感謝する」  飛んできた血で少し服が汚れてしまったが、そんなことは問題が解決した達成感に比べれば屁でもない。今すぐスキップで駆け出したい気分を抑え、神妙な顔をしてマルコの言葉に応えた。  離れた場所に転がっているリリーの生首を見て、少しだけ同情のような気持ちが湧いてくる。一度だけだが、彼女を抱いたせいだろうか。俺に敗れてからは悲惨としか言いようの無い出来事しかなかったが、これも自業自得だと思い直し、その場を去った。  フェアリスの所へ行き、傍にいた異端審問官に戻ってもいいと伝える。そうしてフェアリスと二人きりになると、彼女の方から話し始めた。 「……何故司教様はあのようなことをしたのでしょう?」 「知らん。そちらに逃げられて鬱憤が溜まっていたのではないか?」 「私が逃げなければ、あのエルフの女性は無事に過ごせたのでしょうか?」 「仮定の話を言っても仕方がない。奴がここに彼女を連れ込み、犯し、孕ませた。それだけだ」  やった人物を奴ではなく俺に替えれば、今言ったことは事実である。これぐらいのことで彼女に不信感を持たれては堪らないので、いたって真面目な口調で告げる。 「……あの、ヤード様。二人はどうなったのでしょうか?」 「二人とも殺された」 「そうですか……」  その言葉を聞いて落ち込む彼女。自分を襲った相手にまで同情しているようだ。殺すことは無いとでも思っているのだろうが、俺から言わせると、生かしておくよりもずっと良い。恨みを持った相手は放っておくと碌なことにならないからな。 「巻き込まれたエルフには同情するが、これで私達を疑う人間がいなくなったのだ。結果的には良い方向に行ったということで納得すればいいのではないか?」 「ヤード様は冷たいのですね……私は罰せられるにしても、殺されるような罪ではないと思っています」 「優しい考えだな。しかしその同情は、司教にとっては屈辱となっただろう。そして必ずまた私達を陥れようと画策してくるはずだ。罰で人の心が浄化されれば問題は無いのだが、実際には罰や慈悲では、そう簡単に人の心を変えることは出来ないのだ」 「そうですね、ですが私は自分の考えが間違っているとは思いません。やはりあの二人を殺すべきではなかったと思うのです」 「好きにしたら良い。私はそのようには考えられないが、人の意見を間違っていると言えるほど出来た人間ではないからな。自分の事だけで精一杯だ。そちらも自分の意思を貫き通せば良いと思う」 「有り難うございます……」  そう呟いて、それっきり黙りこんでしまうフェアリス。殺された二人について葛藤している様を見ると、若さゆえの悩みがあるのはいいことだと思う。  しかしそれ以上に、今フェアリスに対して語ったことを思い出して、あまりに臭い台詞に自己嫌悪してしまう。勢いで喋ってしまったが、俺は元々そういうタイプの人間ではないはずだ。ちょっとシリアスな場の空気に流されてしまっただけなんだ。先程の言葉を消し去りたいと猛烈に思っている。間違いなく黒歴史に残る発言だった。  俺が無言で悶えているのを見て、フェアリスは笑いを堪えきれず小さく噴き出した。まだ吹っ切れてはいないだろうが、彼女はアレクよりも遥かに場の空気が読める人間なので、これ以上落ち込んでいては雰囲気が悪くなると思ったのだろう。 「ヤード様、色々と有り難うございました。お礼に今度私の家に来て下さい。自慢できる腕ではありませんが、料理でも振舞わせて下さいね」 「それは断らせてもらう。あまり味にはこだわりが無いが、流石に人間の食べ物に限る」  残念ながら、何度か彼女の料理の腕を見る機会があったのだが、あれは料理と呼ぶには抵抗がある代物だった。口に入れた瞬間に吐き出しそうになるほどの味だった。 「な!? 何てことを言うのですか! 失礼ですよ!」 「失礼なのは私ではなく、あの料理だ。まずそちらが食材に謝った方が良いと思うぞ」 「言いましたね! 絶対に食べさせますから!」  顔を真っ赤にして怒っているフェアリス。先程までの雰囲気がぶち壊しだが、俺はこっちの方が楽でいい。  彼女がこちらに何か言っているのを聞き流しつつ、そろそろ夜が明ける頃だと暢気な事を考えていたのだった。 ============================================================ 031. 第31話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/31/ ============================================================ 二人の遺体を片付け終わったようで、俺達の所へマルコがやってきた。俺が浴びたよりも遥かに大量の血に塗れ、真っ赤に染まっていたはずの司教服も着替えていた。 「終わったようだな」 「お待たせして済みません。異端者の情報を伝えて頂き有り難うございました」  フェアリスは人を殺したというのに穏やかな表情のマルコに納得できない様子だったが、流石にここで議論しようとは思わなかったようで、悲しげな表情を浮かべているだけだった。 「そういえば伯爵殿、先程も言いましたが、あなたに掛けられていた異端の疑いは無実であったと通達が来ました。あらぬ罪で疑ったこと、申し訳ありませんでした」 「気にしなくていい。大方フィルポット司教が裏で手を引いていたのだろう」 「有り難うございます。ですが、疑われるような生活を送っているのもまた事実です。異教徒を回心させてくださるのはこちらとしても有り難いのですが、あまり距離が近いのも問題ですよ」 「……分かった。考えておこう」 「分かって戴けて何よりです。ああ、何でしたらあなたの弟子のエルフや他の方々も、入信してみませんか? 神は異種族だからといって信仰心を拒むようなことは致しませんよ。数は少ないですが、エルフの信徒もいるのですから」 「ふむ、それは……」  エルやナタリアのことを言っているのだろうが、唐突に釘を刺してきたのが何となく気になったので、 窃思 を使ってみた。 (……気付かれずに入れるとは、彼の力は並の魔導師とは比較にならない。出来れば国王や騎士達からは引き離しておきたいものだ。勇者を二人引き抜けば、異端審問庁の権力も更に上がることだろう。最悪、彼の身内に教徒がいればいい……)  まあわざわざフェアリスの言葉を信じて来てくれただけとは思っていなかったので、この男にも何かよからぬ考えがあることは覚悟していた。それでもマルコの考えはただの引き抜きのようなので、放っておいてもフィルポットのときのような問題は起こらないだろう。 「そうだな、彼女達にも勧めておこう」 「そうですか。ええ、それがいいでしょう」 「それではもう夜も明けたので、これで失礼させてもらう」 「おお、そうでした。引き止めてしまって申し訳ありませんね。またいつかお会いしましょう」  マルコに別れを告げ、フェアリスを連れて教会を出た。彼女も眠そうにしているので、一応家まで送っていくことにした。  減った体力と眠気を回復しながら屋敷に戻り、服を着替えてナタリアの所に向かった。彼女は既に起きているようで、部屋ではなく庭で弓の訓練をしていた。  基本的にウッドエルフは皆弓の扱いが上手いが、彼女の腕は平均以上だ。ほんの僅かな大きさにしか見えない的に次々と矢を命中させている。こうして一心に弓を引いている彼女は美しいと思う。 「ナタリア、ここにいたか」 「どうしたの? 何か私に用事でもあるのかしら」  彼女が一旦休憩を入れるまで待ってから声を掛けた。俺の存在に気付いていたようで、いきなり声を掛けても驚きはしなかった。 「ああ、教会に行くぞ。お前には洗礼を受けてもらう」 「え、この国の神を信仰しろっていうの? ヤードがどうしてもって言うならいいんだけど……」 「違う、このままだとまた異端審問に掛けられかねないので、表向きは回心したという事実を作るだけだ。別に信仰を変えろと言うつもりは無い」 「ああ、そうなの。分かったわ」  納得してくれたようでよかった。断られたらどうしようかと思ったが、その心配は無用だったようだ。  しばらく彼女の弓の訓練を眺めた後、軽く朝食を摂って彼女を連れて教会へと向かう。今回は転移を使わずに、普通に歩いていった。  街中を歩いていても、ナタリアには興味を引かれる物ばかりのようで、楽しそうにきょろきょろと辺りを見回していた。少し歩いていくと露天市をやっているようなので、ついでに寄ってみる。まだ早い時間だが既にかなりの数の店が出ており、人で賑わっていた。 「凄いわね、行商についていった所でもこんなに大勢の人はいなかったわ」 「まあ仮にも王都だからな。それよりあまりうろつくなよ」 「分かってるわ。子供じゃないんだから」  そうは言うものの、彼女は面白そうな物を見つけるたびにそちらの方へと行ってしまうので、俺も度々追いかける破目になっている。  結局欲しそうに眺めていた首飾りを買ってやり、露天市を後にした。彼女は首飾りを着けてとても上機嫌な様子だ。そんなに高い物でもないが、そこまで喜ばれるならば買った甲斐もある。  露天市を出てさらに歩き続け、結局そろそろ昼になるかという時間になってようやく教会に着いた。歩きでも行けるだろうと思っていたが、予想よりもかなり遠かった。  帰りは転移を使うことにして、近くにいた教会の人間に洗礼を受けに来たことを伝える。洗礼は結構な人数の人間が受けに来るようなので、相手の対応も慣れたものだった。  ナタリアはすぐに洗礼を受ける部屋に通され、俺は外で待っていた。しばらくして彼女が出てきた。どうやら無事に終わったようだ。 「何も変わってないけど、本当に出来たのよね?」 「洗礼の儀式など、商会の入会手続きのようなものだ。そんなに大それたものではない」 「ああ、そんなものなのね……期待して損したわ」  彼女は儀式と聞いて特別なイメージでも持っていたのかもしれないが、教会の儀式は形だけの物が多い。中には神の加護を得る物もあるらしいが、そんな人間には会ったことがないので眉唾物だ。  ともあれ、これで彼女も立派な教会の信徒だ。帰りに今回の洗礼を担当していた者に金貨を数枚握らせる。これは決して疚しいものではない。気持ちばかりのお布施だ。  あちらも分かっているので、ニコニコと笑みを浮かべながら受け取った金を服の中にしまう。ここまでが決まっている一連の流れだ。  彼女を連れて転移で屋敷に戻った。久しぶりに外に出られたので彼女も満足そうだ。遅い昼食を取った後、彼女と別れて部屋に戻った。  エルにはこちらに戻ってきたときにでも受けさせよう。そうすればもう妙な噂を流されることもなくなるだろう。  それから特に事件が起こることも無く、式の日がやってきた。直前まで式の準備で周りが忙しくなっていたが、何とか当日までには間に合った。  式は城の礼拝堂で行われる。周りには数々の参列者達が集まっており、俺とソフィは祈祷台で大司教とかいう奴の長々とした話を聞き祝福の言葉を貰うと、最後にソフィの指に指輪をはめた。  周りからは拍手と歓声が聞こえてきたが、こちらは場の雰囲気に飲まれないようにするのが精一杯で、お祝いの言葉も聞こえていなかった。  礼拝堂での式が終わると、今度は他の国の大使やその他著名な人物に挨拶をすることになった。  この時点ですでに俺は勘弁して欲しいと心の中で叫んでいたが、ソフィはまったく微笑を崩すことなく対応していた。やはり育ちの差は大きいようだ。  顔も名前も知らない人間達が俺達に祝いの言葉を掛けてくれるが、顔も知らない他人から祝われても嬉しくも何ともない。中には王族と結婚した俺に近付こうとしているのが丸分かりの人間もいて、心労で倒れそうだ。  何とか笑顔を崩さないように対応し、やっとの思いで乗り切ったときには身体はともかく精神的に疲労困憊していた。  これでまた夕方からは俺の屋敷でパーティーだ。分かっていたとはいえ、たった半日でかなりの精神力を消耗してしまった。現在は休憩のためソフィと共に彼女の部屋に避難しているが、もうすぐにでも出なくてはならない。 「ヤード様、大丈夫ですか?」 「ん、あまり大丈夫でもないが、これも君と結ばれるためだ」 「ヤード様……」  彼女が顔を近づけてきたので、口付けをする。化粧が落ちるかもしれないのでほんの軽く程度だが、それでも彼女は満足できたようだ。  ソフィと共に城を出て屋敷に戻り、今度は屋敷でパーティーを行う。今回はソフィと離れているため、いざという時に頼れる人間がいないので心労も加速している。  ここでも俺に近づいてくる奴が多く、奴らのあしらいに苦労していると、見知った顔がやってきた。アレクとサガミだ。 「ヤード殿、結婚おめでとう! まさかソフィア王女と、とは予想もしていなかった」 「ご成婚おめでとう。ヤード殿には言いたいこともあるが、この場では無粋だろう」  アレクは俺達の結婚を素直に祝福してくれているが、サガミは何か思う所があるようだ。まあこいつはナタリアとも関係を持った事を知っているからな。 「ああ、有り難い。フェアリス殿は一緒ではなかったのか?」 「彼女も後で来るそうだ。それにしてもヤード殿が一番先に結婚するとは、思ってもいなかった」 「まあ半分偶然のようなものだ」  その後も少し話をした後、二人は離れていった。そして少ししてフェアリスがやってきた。  彼女は祝いの席には似つかわしくない微妙な表情を浮かべていたが、こちらにやってくると笑顔に戻っていた。 「ヤード様、おめでとうございます」 「ああ、何やら浮かない表情をしていたが、何かあったのだろうか?」 「い、いえ、何でもありませんから!」  妙に慌てているが、まあいい。アレクやサガミがパーティー用に正装をしているのは何とも思わないが、彼女がそういった格好をしているのは珍しいので、思わず眺めてしまう。  今日の彼女は胸元が開いたドレスを身に着けている。彼女には珍しいと思ったが、メイドが勝手に決めた服らしいと聞き納得した。流石にソフィには叶わないが、彼女も十分に周りの目を引きつけている。主に男の視線だが。 「ヤード様、あの、似合っているでしょうか?」 「この場で私にそれを聞くとは、たいした勇気だ」 「あっ! その、そういう訳ではないのですが……」 「……まあいい。ソフィにも声を掛けてやってくれ。きっと喜ぶだろう」 「は、はい。では失礼しますね」  なれない衣装で時々転びそうになりながらも、ソフィの方へと向かっていった。これで俺の知り合いもいなくなったかと思っていたが、まだ残っていた人間がやってきた。 「お久しぶりです、ヤード様」 「マルガレーテ殿か。要塞の方は大丈夫なのか?」 「ご心配なく、この式が終わったらすぐに戻りますので」  不機嫌そうなオーラを出しながら俺に近寄ってきたマルガレーテを見て、周りの人間が一歩下がる。どう見ても険悪な雰囲気を醸し出している彼女に近づこうとはしないだろう。 「やめろ、マルガレーテ。ここは祝いの席だぞ」 「お兄様、いらしていたのですね」  俺とマルガレーテに近寄ってきたのはロベールだった。こいつも砦にいたはずなのに、一体どうしてここに来てしまったのか。 「久しぶりだな、ロベール殿」 「それほど久しぶりという訳でもない。それよりもソフィアとの結婚を祝わせてもらおう」 「あまり祝いたくはありませんね……」  ロベールも内心ではあまり面白くないのかもしれないが、マルガレーテのように態度に出したりはしていない。まあロベールの人間が出来ているというよりは、俺がマルガレーテにした仕打ちが、彼女にとってはそれ程のものだったということだ。 「伯爵、このパーティーが終わったら少し付き合え」 「ん? まあいいが」 「お兄様、このような男と話しているより、お姉様の所へ行きましょう」  マルガレーテに引っ張られる形で仕方ないといった風についていくロベール。どうやら家族の仲は悪くないようだ。ソフィも二人に気付いて嬉しそうにしていた。  その後もやってくる人間を適当にあしらいつつ、二度とパーティーなどしないことを決意していた。  結婚式の予定も全て終わり、招待客は殆どが帰っていった。残っているのはロベールぐらいだ。  ソフィは既に自分の部屋に荷物を運び込んでいた。俺が婿入りするわけではないので、これから彼女はここで生活していくことになる。まあ不自由はさせないようにしよう。  俺はロベールに呼び出され、庭に出ていた。辺りは月明かりで薄暗い程度なのだが、呼び出された目的を考えると、明かりのある場所でやった方がいいのではないかと思う。  俺が来たときには既に準備が整っていた。決闘用の模擬剣を持ったロベールが立っている。 「済まないな、ソフィの望みとはいえ、こうでもしないと私の中で納得がいかないのだ」 「……そんな気はしていた。これで気が済むというのなら付き合うのも吝かではない」 「有り難い。これは正式な決闘ではないので、そちらも魔術を使いたければ使ってくれ。手加減は無用だ」 「いいだろう。そこまで言うのならこちらも手加減はしないぞ」  ロベールから剣を受け取り、少し離れた場所に立つ。開始の合図など無いが、あちらが先に行動を起こし始めた。  ロベールは自己強化の術式をいくつも掛けている。術式も使えたのは意外だったが、強化をしている間にこちらも支援術式を自分に掛けていく。  先に強化が終わったこちらから動く。地面を蹴り一瞬で間合いを詰め剣を振り下ろす。音速に近い速度の剣撃に、しかし相手も対応して来た。剣同士がぶつかり甲高い音が響き渡る。普通ならどちらの剣も砕けている所だが、強化術式の掛かった両者の剣はその衝撃にも耐え切った。  すぐに引き戻し、今度は横から切りかかる。これも受け止められたが、衝撃は殺しきれなかったようで、受け止めた剣ごと奴を吹き飛ばした。  すぐに後を追い再び切りかかったが、今度は上手く受け流されて体勢が崩れてしまう。そこに反撃とばかり斜めに剣を振り下ろしてきたので、地面を転がってそれを回避する。  すぐに立ち上がって構えると、奴も構えたままこちらを睨んでいる。そのまま少しの間にらみ合いが続いたが、何かが落ちる音で二人とも走り出した。  最大限の力を込めて相手の剣とぶつかり合う。強化の掛かっている剣も耐え切れなかったのか、どちらも罅が入り始めている。そして先に剣が砕けたのはロベールの方だった。 「参った。やはりソフィアの選んだ男だ」 「まだ早いのではないか?」 「これ以上は無理だ。始めの一撃で両腕がボロボロだ」  剣を落とし降参してくるロベール。まだ戦えそうな気がしたが、奴の方は既に満身創痍だったようだ。その状態でも切りかかってくるとは、人間を止めているとしか思えない。  近づいて 上級治癒 をかけてやると、奴の腕も元通りになったようだ。 「しかし魔導師でここまで近接戦闘も出来るとは……まさに勇者の称号が相応しいな」 「その言葉は有り難く受け取っておこう」 「ああ、妹の事は任せた。どうか幸せにしてやってくれ」 「約束しよう」  ロベールはその言葉を聞くと満足そうな顔をして帰っていった。  俺は風呂に行って汗を流した後、おそらくソフィが待っているだろう部屋に向かった。 ============================================================ 032. 第32話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/32/ ============================================================ 風呂に寄っていたので少し遅くなってしまった。寝室に入ると、ソフィはベッドに腰掛けて待っていた。彼女の方に近付きながら、彼女の全身を眺めてみる。  下着が透けて見えそうなほど薄い寝間着を着ているので、薄明かりの中でも彼女のスタイルの良さがはっきりと分かる。その服の白さは、緊張で赤くなっている彼女の顔を際立たせていた。 「お待ちしていました」 「済まない、遅くなった」 「いえ、お兄様とのお話は無事に済んだようで何よりです」  何故彼女が知っているのかと言えば、この部屋からは先程俺とロベールが戦った場所が見える。彼女はこの部屋の窓からずっと俺達の戦いを見ていたのだ。  彼女に近づくと、香水の匂いとは違う良い香りがする。どうやら俺の前に風呂に入っていたようだ。香水の香りがあまり好きではない彼女にとっては、風呂に入るのがとても気に入ったようだ。  いつもよりも数段美しく見える彼女の姿に少しばかり見蕩れていると、彼女は恥ずかしがって顔を逸らしてしまった。身体を重ねるのは今日が初めてでもないのだが、いつもとは勝手が違うらしい。 「い、いつもは顔を見られても平気なのですが……今はとても恥ずかしいです……」 「そうか、しかしこれでは君と見つめ合うことも出来ないのだが」 「そうですね……はい、もう大丈夫です」  心の整理をつけるように少し息を吐いた後、少し照れたような顔でこちらの方を向いてきた。そのまま彼女と見つめ合い、自然と顔が近付いていき、唇を重ね合わせた。  彼女は俺の後ろに腕を回し、離さないように強く抱きしめてきた。俺の舌に自らの舌を絡め、その感触を確かめるように積極的に動かしてくるので、俺もそれに応えて舌を彼女の口に入れ、彼女の口の中を貪るように舐めた。  やがて舌を離すと、唾液が糸を引くようにお互いの舌を繋いでいた。彼女は口付けだけで顔をトロンと蕩かせており、普段は感じない艶かしさを醸し出している。 「ソフィ、記念すべき初夜だ。今日は最後までしよう」 「はい、やっとこのときが来たのですね……」  恥じらいながらも嬉しさを顔いっぱいに出しているソフィを見て、俺はもう我慢が出来なくなった。彼女をベッドに押し倒すと、服から覗いている首筋へと舌を這わせた。 「あ、はっ……ヤード様っ……」  服の上から胸を揉みしだきながら、彼女の透き通るように白い肌に俺の舌を這わせていく。  くすぐったさと気持ち良さで身を震わせながらも、彼女は俺の行為を受け入れてくれている。首筋を舐められただけでも感じ始めてきたのか、彼女の荒い息遣いが聞こえ、俺の興奮も高まってくる。 「ソフィ、脱がすぞ」 「はい……」  彼女の寝間着と下着を脱がせると、薄明かりの中に彼女の美しい肢体が晒される。特に胸は、ティアよりは小さいが、平均的な大きさを上回っている。顕になったそれを再び揉みながら、首筋から鎖骨の方へゆっくりと舌を進めていく。  胸の頂にまでたどり着くと、口に含んで舌で優しく舐め回す。胸の大きさと丁度いいバランスを持っているそこは、舌での愛撫に反応して少しずつ硬くなっている。 「んん……あぅ……」  ソフィは喘ぎ声を上げないように片手で口を押さえ、もう片方の手でシーツを握って快感に耐えている。眉を顰めて快楽に抗っている姿を見ると、もっと彼女に乱れた姿をさせたくなってきた。  彼女の乳首を唇と舌を使って扱くと、背筋を反らしながら泣きそうな顔でいやいやと首を振っている。余裕の無くなってきた彼女の顔を見ながらさらに激しくすると、とうとう彼女は手を口から放して喘ぎ声を出した。 「やっ……ヤード様ぁ、あっ……」  今まで堪えていたものが一気に吹き出てくるように、彼女はやってくる刺激に何度も切なそうな喘ぎ声を出している。その姿は俺の嗜虐心をそそるのに十分な効果を与えた。  乳首を弄っていた舌を下へと降ろし、臍の辺りに何度もキスをする。普通はたいしたことの無い刺激だろうが、興奮で全身が敏感になっている今の彼女にはそれだけでも快楽を感じることの出来るものになっていた。  気持ち良さそうなため息を吐いている彼女をちらりと確認して、さらに舌を下ろしていき、とうとう彼女の股間にまで到達した。 「嫌ぁ、あまり見ないで下さい……恥ずかしいです……」 「恥ずかしがることは無い。ソフィの身体は素晴らしいと思うぞ」 「そんな事……あ、んんっ……」  クリトリスを舌で突いてやると、快感で面白いように身体を震わせている。ここで感じている姿を見せたくないのか、彼女は顔を真っ赤にしてシーツを掴んで快感に耐えているが、そんな抵抗をされてはもっと淫らに喘がせたいと思ってしまう。  口に含んで舌で押し潰すように舐めてやるだけで、彼女は背筋を反らせて必死に快感を堪えている。一定のリズムで刺激しているので、彼女もだんだんと堪えるタイミングが分かってきた。そう彼女がリズムに慣れた所で急に彼女のクリトリスを甘噛みしてやった。 「あ、あぁああああ! んんぅ!」  どうやら軽くイってしまったようだ。その弾みで彼女は潮を吹き、俺の顔や首筋を彼女の体液が濡らしていった。  初めて潮を吹いたらしく、彼女は恥ずかしさのあまり両手で顔を塞いでいる。俺は身体に付いた液体を拭い取り、服を脱いだ。 「ソフィ、そろそろ私も我慢が出来ない。君の処女を頂こう」 「あ……はい、私の初めてを貰ってください……」  既に硬く反り返っている俺の肉棒を彼女の膣穴に当て、ゆっくりと挿入していく。初めてなので膣穴は狭く、少し入れるのにも力がいるが、加減を間違えないようにして彼女の処女膜にまで届かせた。  屈んで彼女を抱きしめながら、腰を突き入れて彼女の処女膜を破る。少しの抵抗の後、膜を破って彼女の奥にまで肉棒が入っていくのが分かった。 「いっ……あっ……」  彼女は声を押し殺して叫ぶのを堪えているようだが、その表情には破瓜の痛みに耐えていることが見て取れる。  しばらくは動かずに彼女の痛みが落ち着くまで待つ。その間は彼女に口付けをし、胸を弄って痛みを快楽で少しでも和らげるようにしておいた。術式を使えば痛みを紛らわせることも出来るのだが、こういう場面でそれを行うのは無粋だろう。 「ヤード様、どうぞお好きなように動いて下さい。私は大丈夫ですから……」 「済まないな、もう少し経てば痛みも引いてくると思う」  少し痛みが引いてきたようで、彼女の呼吸も落ち着いてきたので、ゆっくりと動き始めた。  彼女も動き始めたときは痛みを感じて顔を顰めていたが、少しするともうセックスの快感を味わえるようになったらしく、声に艶めいたものが混じり始めていた。  まだ初めての膣内は狭く、俺の肉棒を締め付けてくるのが気持ち良く、すぐにイってしまいそうになるが、何とか射精感を抑えて腰を振る。  お互い興奮してきたようで、口付けもだんだんと荒々しくなってきており、腰を振る速度もだんだんと速くなっていった。彼女は初めてなのにもう痛みは感じていないらしく、それどころか少しずつだが自ら腰を動かして快感を得ようとしている。  アナルセックスのときも思ったが、彼女は清楚な見た目や大人しい性格に反して、こういった行為に対しては才能があるとでも言うべきか、快楽に対して非常に貪欲と言える。  今も俺の腰に足を絡みつかせ俺の肉棒が抜けないようにしているのも、これが無意識で行っているのだとしたら、天性の淫乱だ。まあこんな美人が俺を求めてくれるのはむしろ嬉しいし、俺が彼女をこんな風にしたのだとしたら男冥利に尽きる。 「ああっ、これが夫婦の営みなのですねっ!」 「そうだっ、このまま中に私の精液を注ぎこんでやるからなっ!」 「んっ、嬉しいですっ、私にヤード様の子を、孕ませてください!」  他の女性が言うよりも俺の心を揺さぶったその言葉に、期待に応えるように激しく腰を動かして射精欲を高めていく。  俺のあまり彼女を省みない荒々しい動きにも、既に彼女は全く痛みを感じていないようだ。むしろ彼女の方から俺の動きに合わせて腰を振り、奥にまで届くようにして喘ぎ声を上げている。  彼女の顔は快感で蕩けきっており、俺の舌を求めて自ら舌を突き出しておねだりをしていた。もはや清楚な彼女の雰囲気は見る影もなくなっているが、逆にそれが退廃的な魅力を醸し出している。  彼女の求めに従い、舌を彼女の口に入れて口腔内を激しく舐め、こちらの唾液を注ぎ込む。彼女がそれを飲み込み、ごくりと喉を鳴らす度にまた唾液を注ぎ込むのを繰り返す。その間にも腰の動きは緩めず、むしろ絶頂に向けてどんどんと加速していた。  ソフィも限界が近づいているのだろう、こちらを強く抱きしめてきた。俺もそろそろ限界だったので、最後に思い切り腰を打ちつけ、彼女の中に俺の精液を注ぎこんだ。  同時に彼女も絶頂したようで、膣がきゅうっと締まってきた。その締め付けの気持ち良さに、俺の射精も途切れることなく、大量の精液を中出ししてしまった。  イった後も離れずにしばらく繋がったまま舌を絡め合って、口を離した頃には彼女の口周りは唾液でベトベトになってしまっていた。 「ヤード様の子種、いっぱい注いでもらったのが分かりました……」 「私もこれ程の量が出るとは思わなかった。これも愛情のおかげか」  最後に軽く口付けをして、彼女の中から肉棒を引き抜いた。彼女の愛液と破瓜の血と、俺の精液でベトベトになっている肉棒を綺麗にふき取る。  彼女の膣穴からも同じように色々な汁が混ざり合ったものが流れ出てきている。彼女の方はそれをふき取る力が入らないようなので、俺が代わりに拭いてやった。  しばらくはベッドに腰掛けて休憩していたが、彼女の体力が回復したようで、後ろから抱きついてこちらの耳を甘噛みしてきた。 「ヤード様、一回では妊娠するか分かりませんよ。私はもう大丈夫ですから、そろそろ……」 「私の妻は随分と積極的なようだな」 「私がこんな気持ちになるのは、ヤード様のせいですからね」  彼女も随分と積極的になったものだ。まあ俺もここに来た当初と比べると、随分と性格が丸くなったとは思っているが。  さて、彼女が誘ってきているのだから二回戦を始めるとするか。  新婚初夜はあの後三回やった所で彼女の体力が限界に来たので、合計四回したことになる。最後は彼女が俺の上に跨って腰を振っていたのだが、初めてにしては恐るべき性への貪欲さだ。  彼女が眠っているのを見て、そろそろ俺も横になろうとしていたのだが、その前に外が明るくなってきた。また夜通ししてしまったらしい。  昼まで寝ていようかと思っていたところ、不意に部屋の鍵が外され、扉が開いた。 「あら、ご主人様、起きていらしたのですか」  入ってきたのはティアだった。彼女はお湯が入った入れ物と身体を拭く布を持っていた。どうやら俺を起こしに来たようだ。 「ああ、風呂に入りに行くから、身体は拭かなくてもいい」 「そうですか、では……」 「ん? どうした?」  彼女はベッドに腰掛けている俺の足元に跪き、色々な汁で汚れている俺の肉棒を咥えて舐め始めた。丁寧な舌使いで俺の肉棒を舐め清めてくれたのはいいのだが、そんな彼女の痴態を見て、俺の肉棒は硬くなってしまった。  彼女はそれを狙っていたようで、今度は喉の奥深くにまで肉棒を飲み込み、口を窄めて激しいフェラを開始した。  彼女の技術はソフィの天性の淫乱さを凌ぐ程に素晴らしく、昨日何度も出していたはずなのに、また射精感がこみ上げてくるのを感じる。 「ご主人様、風呂に行かれる前に、溜まった欲望を私の口の中に吐き出していって下さい」 「建前はいい、本音を言ってみろ」 「……ソフィア様が羨ましいのです、私にもご主人様の熱い精液を飲ませて下さい」 「正直なのは良い事だ。褒美にお前の欲しがっている物を飲ませてやろう」 「有り難うございます!」  俺の言葉に笑顔になって、夢中で肉棒に奉仕を続けるティア。隣で寝ているソフィが起きないかどうか確かめつつ、彼女の技術ですぐに限界に近づいてきた。 「出すぞ、飲み込め!」 「んっ、んんぅ!」  彼女の頭を抱えて喉の奥に注ぎこむ。直接精液を出されているにも拘らず、彼女はむせることなく全て飲み込んでみせた。そして出し終わった後の肉棒に残った精液も全て飲み込もうとするかのように吸っている。  口を離し、俺に精液を全て飲み込んだのを見せ付けるように口を開いている。中で蠢く彼女の舌を見ていると、その艶かしさに思わずまた勃ちそうになったが、ギリギリの所で持ち堪えた。 「ソフィア様にも沢山注いだはずですのに、まだこんなに濃いものを出されるとは……流石はご主人様です」 「お世辞はいい。それより風呂に入ってくるから、ソフィが起きたらそう伝えてくれ」 「分かりました」  べたついている身体を少し拭い、服を着て風呂へ向かった。この時間ならば誰も入っていないので、ゆっくりと浸かることにする。  しばらくしてソフィが風呂にやってきたので、一緒に入ることにした。流石に風呂で四回戦目を始める体力は残っていないので、子供のように風呂ではしゃぐソフィを見ながら、のんびりと楽しむことにした。  その後も何事も無く月日が過ぎていった。エルは何日かに一度のペースでこちらにやってきて訓練をさせていたし、魔帝国に戻したオリンピアとも、同じぐらいの頻度で念話による通信を行っていた。  魔帝国は冬が終わるのと同時にまたこちらへと進軍してくる予定らしい。前回の反省点を踏まえ、今度は魔獣との混成部隊ではなく、魔獣を前面に押し出した形で後ろに帝国兵の部隊を置く陣形を取るようだ。  オリンピアの話では、今回は機動力を生かした黒狼などの魔獣ではなく、ドラゴンや丘巨人などの火力のある魔物が中心らしい。要塞では森の中でドラゴンの火力を生かせなかったのを反省したようだが、攻撃をする前に潰されたので、その判断はどうかと思う。  今度こそ王国と魔帝国の間で大規模な戦いが起こるかもしれないが、その前に俺は一つの策を実行中だ。報告ではまだ第一段階も終わっていないが、これが成功すれば王国側が非常に有利な展開となる。最終段階に入るのが楽しみだ。 ============================================================ 033. 第33話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/33/ ============================================================ 「帝都ですか?」 「そうだ。観光に行くわけではないのだがな」  三人は俺の言葉に不思議そうな顔をしていた。現在応接間で俺とソフィ、ナタリア、後はティアを入れて四人で話をしていた。先程の言葉は俺がいきなり帝都に行くと言ったのに対しソフィが言った言葉である。  帝都といえば魔帝国の首都以外にない。何故そんな敵地のど真ん中に行く必要があるかといえば、前もってオリンピアに命じておいた計画の為だ。  先日オリンピアからの連絡で計画の第一段階の準備が整ったとの報告を受けたので、早速帝都に行くことにしたのである。もちろん帝都には一度も行ったことが無いが、オリンピアの位置を探れば一発である。 「何かの任務でしょ、ヤードが魔法の実験以外で、わざわざそんな危険な場所へ行くとは思わないわ」 「それもそうですね、でも何の任務なのでしょうか?」 「……勝手に納得してくれた所で悪いが、詳しいことはまだ話せない」  まだ計画が成功すると決まったわけではないので、出来る限りこの事は他の人間に知られない方が良い。現在この計画を知っているのは俺とオリンピアだけだ。  二人ともとりあえず納得したように見えるが、内心では聞きたくて仕方が無いといった様子だ。その点ティアは最初から何も聞こうとはしてこない。知らない方がいい事もあるということを知っているのだ。この辺が機密情報を扱ったことのある者と、あまり経験が無い者の差である。 「砦の時のように一月ほどお出かけになるのでしょうか?」 「そんなに長くなるのですか?」 「またヤードと離れるの? いい加減に屋敷にいなよ」  二人の興味を反らすようにティアが俺に他の事を尋ねた。二人ともそこまで真剣に聞きたいとは思っていないだろうから、すぐにこちらの話題に乗ってきた。 「いや、今度の件はすぐに帰ることが出来ると思う。それでも何日か屋敷を留守にするので、ソフィとティアには、その間屋敷のことは任せたぞ」 「ちょっと、私は?」 「不審者を入れないようにしてくれれば、それでいい」  俺の返答に不満があるようで、ナタリアは少し顔をむくれさせている。しかし、今まで特に屋敷のためになるようなことをしてこなかった者に、一体何を期待出来るというのだろうか。 「いつ出発なさるのですか?」 「今日の午後に出る予定だ」  既にオリンピアの方ではこちらを迎える用意が整っているとの事なので、出来るだけ早く行きたいのだ。急にこのことを告げられた彼女達には悪いが、ここは計画の方を優先させてもらう。 「……分かりました。この屋敷は二人と力を合わせて守っていますので、安心して任務の方をなさって下さいね」  急な話にも笑顔で答えてくれるソフィ。既に彼女にはティアとナタリアの事を話している。初夜を迎えた次の日に謝ったのだが、貴族ならば妾を持つのは普通だと許してもらった。その代わり、彼女が妊娠するまでは側室も妾も取らないことを約束した。  ここに三人が集まっているのはそういうことだ。まだ婚約をしてはいないが、ソフィの妊娠が分かった後に二人とも嫁に迎えるつもりである。ソフィの心の広さを実感した瞬間であった。  昼食を食べ終わると部屋に戻って必要な荷物を袋に詰め、 上級転移 の魔法陣を描き始める。描いている途中でオリンピアに連絡を取り、誰もいない場所に移動してもらう。  あちらが移動し終わるのを待って魔法陣を起動する。魔法陣から光が溢れ、即座にオリンピアの元へと転移した。着いた場所は寝室のようだった。おそらくここが彼女の部屋なのだろう。 「お待ちしておりました、ご主人様」  オリンピアは貴族の女性が着ているような豪華なドレスに身を包んでいた。砦から王都へと戻った後、心身の休養のために一時軍属を外れて実家へと戻っていると言っていたので、今の彼女は王族としての格好なのだろう。  魔帝国でも比較的珍しい赤色の髪をしているが、これは彼女の実家であるグラン家によく見られる色だそうだ。 「ああ。早速で悪いが、面会の準備は出来ているか?」 「父は夕方までには戻るそうなので、少しお待ち頂くことになります」 「そうか、もう少しゆっくり来ても良かったな」 「父が戻るまでは、私が精一杯奉仕致しますね」  彼女自らドレスの裾をたくし上げると彼女の下半身が露わになったが、下着を着けておらず、既に愛液が太股まで垂れるほどに発情していた。 「下着も着けていないとは、とんだ変態だったというわけか」 「はい、ご主人様がいらっしゃると聞いただけで、身体の疼きが止まりませんでした……」  表情からは全く読み取れなかったが、彼女は俺がここに来ると聞いたときより発情していたらしい。淫乱設定はしてないので、これは彼女本来の性癖だ。娯楽が少ない故に、貴族には変わった性癖の者が多いと聞くが、彼女もその例に漏れなかったようだ。 「だが私がお前を求めるとでも思っていたのか? そうだとしたら勘違いも甚だしい」 「な、何かご不満でもあるのでしょうか?」 「単純にお前を抱きたいとは思わないだけだ。やるなら一人でやっている」 「そんな……」  彼女は悲しげな声を上げているが、そんな事にいちいち同情してはやらない。第一、彼女とやったとして、子供が出来てしまったらどうするというのだろうか。それだけで首を刎ねられかねないだけのスキャンダルだ。  とはいえ人を従わせるのは飴と鞭が必要だ。彼女の望みを断り続けていたら、いくら 支配 で記憶を書き換えたと言っても次第に心が離れていく。術式も万能ではないのだ。 「こっちに来い」 「は、はい」  俺は近くにあったベッドに腰掛け、近づいてきた彼女の秘部へと指を伸ばした。流石に処女膜を破りはしないが、適当な所にまで指を出し入れして中を掻き回してやった。 「あ、あ、ご主人様の指がぁ……」  彼女は指を入れられた瞬間にうっとりとした表情になって、俺の指を締め付けながら快楽を貪っている。次から次へと愛液が溢れて俺の手を濡らしていくが、構わずに彼女の膣を弄り回す。 「駄目です、ご主人様、イっちゃいますぅ……あ、あぁああっ!」  俺の腕を掴んだ瞬間に絶頂を迎えた彼女は、俺の指をきつく締め付けてくる。俺の手や腕にも大量の汁が飛んできて不快感を覚えたので、腕を振って水気を飛ばした。  彼女は足を震わせてこちらに倒れてきた。どうやら力が入らなくなったらしい。倒れてきた彼女を抱きとめ、未だ絶頂の余韻に浸っている彼女の尻を揉む。胸は標準だが、こちらの方の肉付きは良い。 「いいか、私に従い続ければ、いつかはお前を抱いてやろう。私の情けが欲しいなら、決して裏切りなどするなよ?」 「は、はい……私はご主人様の、んっ……忠実な僕ですから……」  蕩けた声でそう返事をしてくる彼女に概ね満足しつつ、こいつの父親が帰ってくるまでの間、存分に彼女を鳴かせ続けた。  やがて夕方になり、オリンピアの父親が帰ってきたので、早速彼女に面会の許可をとってもらうことにした。彼女を砦から逃がすのに協力した人物とだけ伝え、俺の正体は会うまで秘密にしてもらう。すぐに面会の許可が下り、彼女に付いて部屋へと向かった。  部屋に入ると、そこには赤毛の男がいた。雰囲気からして奴がオリンピアの父親であることは間違いないだろう。奴は読んでいた資料を置き、こちらの方へと顔を向けた。 「オリンピア、この男が話に聞いていた人物か?」 「ええ、そうです」 「お初にお目に掛かる。ヤード・ウェルナーだ」 「サイラス・リア・グラン・ダーロだ。娘を救ってくれたことは感謝する。しかし、どこかで聞いたような名前だな」 「ああ、それはそうだろう。私はアンリエント王国の勇者の一人だからな」 「何?」  奴は席から立ち上がり、こちらを睨みつけてきた。顔には驚きと怒りが混ざり、凄まじい表情となっている。 「オリンピア、これは一体どういうことか説明してもらおう」 「そう険しい顔をするな。彼女は私の頼みを聞き入れてくれただけだ」 「頼みだと? 敵国の貴族の頼み事を引き受けるとでも思っているのか?」 「判断するのは私の話を聞いてからにしてもらおう」 「……いいだろう」  来客用の席に勝手に座り、奴が俺の向かい側に座った。  奴の見た目は王族というよりは軍人だ。貴族が着るような華美な服は着ておらず、魔帝国の軍人が着ていた制服と似たような服を着ている。 「単刀直入に言おう。他の貴族共の一部を味方につけ、王国側に寝返れ。もしこちら側につくならば、今よりは国土も少なくなるが、貴様が帝王に就くよう働きかけてやるぞ」  グラン家は、昔は帝王を輩出したこともある由緒ある家系だそうだが、今は王族の中でも傍流の軍人家系らしく、オリンピアも含めて家族は全員軍務経験者だそうだ。王族という割には何とも残念な家系だが、帝王の一族とは血の繋がりが薄いため、分家の扱いを受けているという。  元々は帝王を輩出していたのに、今ではその辺の貴族と同じような扱いを受けている一族。これ程離間工作を仕掛けるのに向いている人間はいないだろう。  ただ厄介なのが、このサイラスという男は国王への忠誠心が非常に篤く、軍指揮などの実力もその辺の貴族以上にあるため、実力で軍の幹部に上り詰めたという兵だ。俺が適当な条件を出した所で裏切るような男だとは思えない。 「断る。私は皇位に就こうなどとは思っておらん。それにこの魔帝国の頂点に君臨するのは、帝王などではなく皇帝陛下だ。たかが王国の貴族が皇帝陛下の権威を愚弄するなど、身の程を弁えぬと言うのはこの事だ」  案の定取り付く島も無いほどすぐに断られてしまった。やはり餌を撒いたところで喰い付いてくるような奴ではなかったか。まあ半ばこうなることを予想はしていたので、気持ちを切り替えて次にいくことにする。 「どうしても駄目か? 現状を考えると、それ程悪い条件には見えないが」 「そもそも我らが王国に下ること事態がありえん。冬が終われば今度こそ王国を蹂躙することが出来るのだから、滅ぼされるのは王国の方だろう」 「いや、そうでもないぞ。勇者という存在が出てきたおかげで、王国の戦力は飛躍的に向上した。もはや魔帝国が覇権を握る時代は終わったのだ」 「下らんな。グルタ要塞やイストリア砦では敗北を喫したが、所詮は寡兵で戦っている王国では、圧倒的な物量差を埋めることは出来んだろう」 「そうか、どうあってもこちらに協力する気はないと言うことだな?」 「その通りだ。まさか敵の懐にやって来てまでそんな馬鹿な提案をする奴などがいるとはな。労せずして勇者を一人捕らえられるのは有り難い事だが」 「ほう、私を捕まえるつもりか?」 「当たり前だろう。お前がここに来た理由が何であれ、敵国の貴族がのこのこやって来たというのは、またとない好機ではないか。おい、誰かおらぬか!」  奴がそう叫ぶと、部屋の扉が勢いよく開き、完全武装した男達が数人入ってきた。奴は勝ち誇ったように笑みを見せているが、俺が全く動じていないことと、やって来た奴らが俺を捕らえようとしないことを見て怪訝な表情に変わった。 「お前達、何をやっているのだ。早くその者を……」 「サイラスを拘束しなさい」 「はっ!」  奴の言葉を遮ってオリンピアが命令を出すと、男達は直ちにサイラスを床に引き倒した。  既にサイラス以外の屋敷の人間は、オリンピアによって洗脳済みである。よく見ると腕に皆同じ腕輪をしているが、これは今回の作戦のために俺が渡した洗脳術式の掛かった腕輪だ。 「な、何をしている! オリンピア!」 「父上、残念ですが、既にこの屋敷の人間は掌握済みです。公務に励まれるのも結構ですが、少しは屋敷のことを省みた方が良かったと思いますよ」 「この親不孝者が! 敵に与して国を売るなど、お前はグラン家の恥だ!」 「何とでも仰ってください。もはや私の忠義はご主人様だけに捧げられていますので」  娘の言葉に驚愕し目を見開いていた奴は、次にこちらに向かって殺意むき出しの顔をして睨み付けてきた。 「私の娘に何をした!」 「何もかもだ。もはやお前の愛していた娘はどこにもいない。既に彼女は私の忠実な部下だ。魔帝国に忠義を尽くしていた昔の彼女は死んだと思え」  床に這い蹲っている奴を見下しながら言った言葉に、奴は屈辱でギリギリと音が聞こえるほどに激しい歯軋りをしている。傲慢な態度を取っていた奴の矜持を折ってやるのは楽しいな。  しかしまだ抵抗の意思が残っているので、オリンピアを片手で抱き寄せて奴に見せ付けるように彼女の胸を揉んだ。彼女も嫌がることなく、むしろ俺に身を預けて発情した雌の顔つきになった。快楽に顔を蕩かせた彼女を見て、奴の表情が真っ青になったのが面白い。  抵抗の意思が弱まり術式抵抗にも緩みが出たところで、こいつにも洗脳の腕輪をはめさせる。腕輪をはめられた途端に顔から怒りや絶望の表情が消え、何も感じていないような無表情になった。 「父上、父上には隠居してもらいます。この家の事は私にお任せ下さい」 「ああ、分かった」 「父上には病気で療養中ということにしますので、領地の屋敷にお帰り頂きますが宜しいですね?」 「ああ、分かった」 「軍務も私が代理として引き受けますので、安心して静養して下さい」 「ああ、分かった」 「ではあなた達、父をお送りして差し上げなさい」  男達に抱えられて部屋を出て行くサイラス。ちなみに領地の方にも手を回しているのは確認済みなので、奴はもうここに戻ってくることは無いだろう。娘に裏切られたのは可哀想だと思うが、変化に気付かなかった奴も悪い。 「これで邪魔者はいなくなりました。ご主人様はお好きなようにこの屋敷をお使い下さい」 「ああ、良い働きだ。その調子で私に尽くしてくれ」 「有り難うございます」  これで魔帝国にも活動拠点を作ることが出来た。少しは怪しまれるだろうが、彼女はそういったときの機転が利く方なので全て彼女任せにしておけばいい。最悪の場合でも俺は王国に戻ればいいだけだ。  次の計画に移るための手配もしてあるとのことなので、今は発情して俺に縋り付いてくる彼女の相手をすることにしよう。 ============================================================ 034. 第34話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/34/ ============================================================ オリンピアの父親であるサイラスを排除した後、帝都にあるグラン家の屋敷ではオリンピアが主人となり、サイラスの代理としてグラン家を取り仕切っている。俺は表向き客人として振舞っているが、実際には主人であるオリンピア以上に優遇されていた。  屋敷の人間は自由にしていいと言われているが、流石にそこまで横暴には振舞っていない。精々空き部屋を一つ借りて自分の部屋としているだけで、メイドにも手を出してはいない。後は頻繁にやってくるオリンピアの相手をしているぐらいだ。  しかし夜になると必ずやってくる彼女の積極的な態度には少々面倒臭さも感じる。一回抱いてやればいいのかもしれないが、計画が完了するまではお預けにしておくつもりだったので、今はただ彼女の誘惑に耐えるのみである。  色ボケしているように見える彼女も自分と父親の仕事を全てこなしており、それどころか俺の計画に関しても順調に進めているのだから、俺に対する態度を除けばかなり優秀な人物だ。  現在俺は一人で帝都を歩いているところだ。魔帝国の人間にはまだ顔が割れていないようなので、話しかけさえしなければばれることは無い。ただ正体がばれるリスクは当然ながらあるので、 隠密 によって術式による探知を無効化し、存在感を限りなく低くしている。  こんな面倒な真似をしてまで帝都を歩いている理由はもちろんある。オリンピアに貰った地図の通りに進んでいき、目当ての建物を発見した。そこにあるのはグラン家の屋敷に勝るとも劣らない立派な屋敷だった。ここが今回の目的地であるエヴァーツ家の屋敷だ。  魔帝国の貴族にもいろいろな派閥があるが、特に人間を至上とする派閥と人種に因らない完全な実力主義を掲げる派閥の二つが有力だ。前者はグラン家の所属している派閥で、エヴァーツ家は後者の代表ともいえる貴族だ。  当主はアイオン・ディア・エヴァーツというダークエルフで、こいつは人間以外の種族の地位向上を推進しようとしている人物でもある。エルフらしく武芸に優れて知略もあるという実にハイスペックな人物だ。  今回はそいつも含めてこの家に用がある。すでに屋敷に帰っているということは調べてもらっているので、後は俺が失敗しなければいいだけの話だ。  此処の屋敷は侵入者防止用に、正門以外の出入り口に許可した人間以外が通れない結界が張ってあった。結界を破ると気付かれる可能性があるので、門の所で気配を殺してじっと待ち、出入りの際に扉が開いた瞬間を見て中に入った。  門衛に一瞬気付かれそうになったので、門衛の後ろを狙って 幻音 を発動させる。ガッという音が響いて門衛の注意を逸らし、その隙に奴から見えない所まで一気に走り抜けた。  丁度屋敷の庭を通っていたメイドがいたので、 恐怖 で気絶させてこの屋敷の間取りや大体の人員配置などの記憶を調べる。どうやら窓のある部屋らしいので、そこから侵入させてもらうことにしよう。  ついでに公爵の弱点は無いかどうか記憶を探ってみると、一ついいものが見つかった。どうやら公爵の家族には妻のメルヴィナと長女のセリア、次女のクレアがいるらしく、三人とも非常に美しい容姿をしているらしい。公爵もそんな家族をとても大事にしているようだ。  一応息子もいるそうだが、領主の勉強のために領地の方へと戻っているらしいので、今回は関係ないだろう。  早速その家族を確保しにゆくため、俺は公爵の部屋の方向から少し外れ、まずは公爵夫人がいる部屋へと向かった。  窓の外から部屋の様子を確認すると、伯爵夫人らしき女性とメイドの二人がいた。噂通り、王国で結構な数の美人を見てきた俺ですら、一瞬目を奪われるほどの美しさだ。銀髪に褐色の肌という、標準的なダークエルフの見た目なのだが、エルとは圧倒的に色気が違う。  見たところ二人とも戦闘には慣れていなさそうな感じがするが、相手の一人はエルフなので油断は禁物だ。どうしようかと悩んでいると、誰かの足音が近づいてきたので、すぐに近くの茂みに隠れた。  近づいてきたのはこれまた美人のダークエルフだった。確か記憶では公爵の子供のうち姉の方、セリアだった。彼女はお供を付けずに一人で歩いている。これはチャンスだ。  姉に 恐怖 を使って気絶させ、急いで茂みの中に入れる。辺りを見渡し誰にも見られていないことを確かめつつ、探知でばれないように 隠密 を掛けた。こいつでメルヴィナを脅せばいい。  窓を少し開け、部屋の中に 遮音結界 を張り、セリアを担いで中に入る。いきなり窓から入ってきた男に驚愕の表情を浮かべている二人を見ながら、逃げられないように窓を閉め 施錠 を掛ける。 「セ、セリア!」  どうやらメルヴィナの方が先に我に返ったようだ。俺が担いでいるのがセリアだと分かったらしく、口を手で押さえてわなわなと震えている。 「こんにちは、伯爵夫人。窓からで悪いが失礼する」 「何者です! セリアを離しなさい!」 「心配するな、彼女に危害を加えようとは思っていない。ただしお前が私の言うことを聞くならば、だが」 「な……何を馬鹿なことを言うのですか!」 「ん? 別にお前が嫌なら構わないぞ。そのときは仕方ないので彼女を貰っていくことにする」 「この屋敷に入り込んで、無事に逃げられるとでも思っているのですか?」 「そうだな、逃げられなかったときは彼女にも道連れになってもらおう」  俺と彼女が話している間に、手を後ろに回して何かの魔道具を使おうとしているメイドに、 恐怖 を使って昏倒させる。術式抵抗が低いのか、いきなり倒れてしまったメイドを見て、メルヴィナはまた驚きの表情を見せている。 「いいか、隙を見て逃げ出そうとしたりこちらに危害を加えようとしたりすれば、そこで倒れているメイドのようになる」 「わ、分かりました」 「では返事を聞こう。娘の代わりとなるか、娘を犠牲にするか、どちらが良い?」 「……セリアを離してください。あなたの言うことに従いましょう」 「そっちを選んだか。まあいい、これをはめろ」  彼女に指輪を渡す。魔道具を作ったときの残りで作った、 適合 が掛かっているだけの指輪だ。誰にでも装着出来るようにしただけなので、他の効果は一切無い。  彼女がその指輪をはめるのを確認して、 支配 を発動する。今回も俺への忠誠心は最大値にしておくことにして、この後の目的のために色々と他の所も弄っておく。  術式抵抗が高いのか、少し弄るたびにビクビクと身体を痙攣させている。これを無視して弄りすぎると壊れてしまうので、適当な所で止めておいた。 「さて、メルヴィナ。気分はどうだ?」 「はい、最高の気分です」 「そうか、ではこの後も私の仕事を手伝ってくれ」 「分かりました」  これでメルヴィナは攻略した。次は二人の娘だな。姉の方を先に始めておくとして、妹も早く呼んできてもらった方がいいか。 施錠 を解除して、メイドに洗脳用の腕輪をつけて起こす。彼女にクレアを呼んでくるよう頼み、クレアの部屋の方へと向かったのを確認してまた 施錠 をし、セリアの方へと向き直る。  まだ気絶している彼女を 覚醒 で起こすと、ガバッと勢いよく起き上がった彼女は、何が起きたのか分からずに呆然とした表情を見せていたが、俺に気付いて距離をとり、警戒心をむき出しにしている。 「あなた誰よ! 私に何をしたの!」 「セリア、そんな大きな声を出すのはお止めなさい。もっと淑女らしく振舞うようにしなければいけませんよ」 「お母様、ですが、この男が……」 「この方は庭で倒れていたあなたをここまで連れてきて下さったのですよ」 「あ、そうなの……? えっと……」 「これは失礼、私はヤード・ウェルナーと言う者だ」 「あの、セリア・エヴァーツです……」  メルヴィナが俺のことを全く警戒していない所か、こちらに微笑みながら対応しているのを見て、彼女も俺に対する警戒心が解けたようだ。全く持って危機意識が足りていない。気付かれないうちに、彼女に 思考誘導 を掛ける。 「さて、セリア殿。あのままではあなたは命の危険すらあったのだ」 「え、本当な……本当ですか?」 「ああ、今度外に出るときは誰かを連れて行った方がいいぞ」 「あ、はい、気をつけます……」  いきなり庭で倒れたのに、一体何が危険なのか。あのまま放っておいても、屋敷の誰かがじきに見つけただろうに。 「そうですよ、セリア。命の恩人であるヤード様にちゃんとお礼をしなさい」 「は、はい。助けてくれて有り難うございます」 「感謝の言葉だけではまだ十分ではないですよ。命を救って頂いたのだから、もっとこの方に尽くしなさい」  俺達の会話に入ってきたメルヴィナは、実の娘に向かって何とも無茶な要求をしている。しかし 思考誘導 で思考が上手く働いていない今の彼女には、信頼している母親の言葉に素直に従ってしまう。 「分かりました。ヤード様、私に出来ることなら何でも言って下さい」 「そうか、それならば私の言うことに従って欲しいのだが」 「従うのですか? ん……分かりました」 「それでこそ私の娘です。ちゃんと尽くしてあげるのですよ」  少し戸惑いの表情を浮かべたが、俺の提案を飲んでくれた。早速彼女にも指輪を渡し、 支配 を使って母親と同じように彼女の頭の中を弄る。少し不快感を示しているが、この程度ならば作業に支障は無い。これで二人目の手駒も完成だ。 施錠 を解除し、そろそろ妹の方もやってくる頃かと扉に近づくと、丁度良いタイミングで扉が開き、先ほどのメイドとクレアが入ってきた。  彼女は母親の部屋にいる俺に不思議そうな顔をしていた。まだ幼いが十分に美人になる素質を秘めた顔立ちをしている。やはり美人一家というのは本当らしいな。 「お母様、この男の人は誰ですか?」 「この方はあなたのために新しく雇った家庭教師のヤード様です。あなたに紹介しようと思ってここに連れてこさせたのですよ」  娘に俺のことを説明しているが、メルヴィナとは協力しろと言っただけで、先ほどからの彼女の発言は全てアドリブだ。雰囲気からはあまりしたたかな女性には見えないのだが、彼女も伊達に貴族社会で生きてはいないということか。 「そうなのですね。初めまして、クレア・エヴァーツです」 「これはご丁寧に。ヤード・ウェルナーと言う者だ。今度から家庭教師としてここで働くことになっている」 「クレア、立派な淑女になりたいのなら、ヤード様の言うことをちゃんと聞くのですよ」 「そうよ、ヤード様は素晴らしい方だから、ヤード様の言うことは絶対に従いなさいよ?」 「分かりました、お母様、お姉様。ヤード様、ちゃんと言うことを聞くので、私を立派なレディーにして下さいね?」 「ああ、了解した。ではまずはこれを指にはめてくれ」  何とも素直なことだ。まあ母と姉が既に俺の手の内に落ちている事など、彼女には全く知る由も無いので、仕方ないと言えばその通りなのだが。  ともかく指輪をはめたのを確認して、クレアにも 支配 を使う。彼女の場合はまだ術式抵抗が低く、記憶の改竄にも全く影響が出ていない。ダークエルフとはいえ彼女ほどの年齢ではまだまだということか。 「さて、今から公爵の所に行くが、お前達には俺に捕まっている演技をしてもらう。セリアとクレアは演技が下手そうなので、実際に声を出すのはメルヴィナだけだ。分かったな?」 「分かりました」「はい」「はい」  三人とも完全に術式が掛かっているようだ。これで残すは公爵だけとなった。人質も手に入れていることだし、もう楽勝だな。俺は三人の影に潜んで公爵の部屋へと向かった。  無事に公爵の部屋へとたどり着き、ノックをする。ややあって中から入れと聞こえたので、三人の影に隠れながら、メルヴィナに扉を開けさせて中の様子を確認する。どうやら公爵一人のようだ。 「三人揃って尋ねてくるとは、何かあったのか?」 「いえ、それは……」  中に入るとすぐに 遮音結界 と 施錠 を使う。流石に術式を発動すれば 隠密 中といえども公爵に俺の存在を気付かれてしまった。 「そこから動くな、動けばこの三人を殺す」 「何者だ!」 「意外と知られていないのだな。グラン家の者だ」 「グラン家だと……? 一体何の真似だ?」 「見れば分かるだろう。お前を脅迫しに来た。この三人を使ってな」 「何が望みだ?」 「これを読め」  奴に向かってオリンピアに書かせた契約書を投げる。そこにはいくつかの約束が書いてあるが、簡単に言えば、グラン家とその関係者に物理的・精神的・社会的な危害を加えず、第三者に対しグラン家やその関係者に不利となる情報を洩らさず、エヴァーツ家の所属する派閥の情報をグラン家に渡すこと、この辺りが書いてある。  当然ながら奴に有利な点など一つもない。紙に書かれた文字を読んでいくにつれ、奴の表情はどんどんと険しくなっていった。 「何ともふざけた契約だな。断ると言ったら?」 「そのときは仕方が無い、彼女達と共に殺されよう。一つ言っておくが、彼女達のしている指輪は、俺が死ぬと同時に彼女達の命を奪う呪いが掛かっている。そしてこの部屋の音は外に漏れないようにしておいた。下手な真似はするなよ?」  俺の言葉に、奴は後ろに回していた手を下ろした。表情はいたって冷静そのものだが、頭の中ではどうやって家族を助け出そうか考えていることだろう。一筋の汗が頬を伝っているのが見えた。  少し待ってみたが全く動かないので、挑発の意味も込めてセリアの胸を鷲掴みにした。母親には及ばないものの、それなりに豊かな胸に俺の指が沈んでいく。声を出すなと言っておいたので、彼女は悲鳴一つ上げなかったが、俺の手を振り払おうともがいている。  奴の方を見ると、唇を強く噛んで必死に怒りを抑えているといった感じだ。だがまだ返事が返ってこないので、今度はメルヴィナの胸を掴む。こちらは素晴らしい大きさの胸なので、かなりの揉み応えがあった。 「……止めろ、その二人から手を離せ」 「ならば早くその契約書にサインすることだ。その気になるように、次はクレアの処女でも奪ってみるか」 「クレア! あなた、どうかクレアを助けて下さい!」 「止めろ、分かった、この契約を受けよう。だからその三人を解放しろ」 「契約が先だ、はやくサインしろ」  俺の言葉に促されて奴が契約書にサインをしたのを確認して、 強制 を発動する。これは 誓約 とは違い、所定の契約書に定められた事を強制的に行わせる。これで奴は俺のやることにも何一つ反抗できなくなった。 「書いたぞ、早く私の家族を放せ」 「ああ、もういいぞ、お前達」 「はい、ご主人様」 「ご主人様、胸がお好きなら、好きなだけ揉んで下さいね」 「お姉様達だけずるいです。ご主人様、私の身体も触って下さい」  俺の言葉と共に、先ほどまでの態度から一変して媚びた声で俺にくっ付いてくる三人。そんな様子を見た公爵は、一体何が起きたのか分からずに呆然とした様子で三人を眺めている。 「い、一体これはどういうことだ……」 「見て分からないのですか? 私達はご主人様に忠誠を誓ったのです。もうあなたはただの邪魔者ということですよ」 「っ! 貴様、私を騙したな!」 「騙される奴が悪い。もう少し観察眼があれば、家族の様子がおかしいことにも気付けたかもしれないのだが、所詮お前はその程度の愛情しか持っていなかったということだ」 「ご主人様、あんな男に構うぐらいなら、私達と楽しいことをしましょうよ」 「そうです、ご主人様。私だけまだなのですから、私の身体を触って欲しいです」  俺の身体にすがり付いて自分の匂いを擦り付けるようにしている三人の胸や尻を揉んでやると、それだけで顔を蕩かせて嬉しそうな声を上げている。  俺と三人が睦み合っている姿を見て崩れ落ちる公爵。愛する妻や娘達に裏切られた心の痛みは想像を絶するだろう。その表情は絶望に満ちており、口からは言葉にならない呟きが漏れ出ている。  そんな姿を見ているのも楽しいのだが、こいつはまだまだ利用価値がある。これ以上精神が壊れないように 鎮静 を使い、落ち着かせる。  後は公爵に屋敷から他者転移で取り寄せた洗脳用の腕輪を渡し、これを屋敷の者全員に付けるように指示しておく。  これでここでの目的は達成した。この後はオリンピアからの報告待ちだが、そう遠くないうちに次の段階へと入ることが出来るだろう。 ============================================================ 035. 第35話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/35/ ============================================================ エヴァーツ家の屋敷から戻り、そのまま二、三日の間は計画の準備をしていた。ひとまず準備が終わったことをオリンピアに告げたところ、丁度明日の晩に次の宴の機会があることを聞いた。 「今回の参加者のリストは出来ているな?」 「は、はい、んっ……これをどうぞ……っ、あんっ」  仕事の褒美を欲しがっていたので、彼女のスカートの中に手を入れて、愛液の滴っている秘部を存分に弄り倒している。彼女はマゾの気があるのか、少々手荒に扱った方が感じるらしいので、彼女への褒美は大体こんな感じだ。  彼女の渡してきたリストを受け取り、参加者を確認する。十人ほどの名前が上がっているが、有名な所ではオルビー辺境伯やケンジット侯爵、それにスターク公爵まで参加している。参加者全員がこの国の有力な貴族であり、また彼ら全員が人間至上主義の派閥に属している。  今回の宴の目的は、彼らの派閥全員を王国側に寝返らせることである。もちろん彼らの地位では生半可な餌では食いついてこないので、術式を使って言うことを聞かせるのが前提だ。 「オリンピア、宴の方の準備は出来ているのか?」 「全て、順調でっ、んんぅっ」 「流石だな。よし、もうイっていいぞ」 「はい、い、イキます、あ、あ、あぁあああ!」  今までイクのを必死に堪えていた分だけ、彼女は潮を吹きながら激しく絶頂した。汁がドレスや床を汚し、俺の手も彼女の汁でベトベトになっている。それを彼女のドレスで拭いつつ、リストをしまった。 「明日の夜か、今夜は早めに寝ておくことにするかな」  どうせ明日の宴は遅くまで行われるのだから、今日の所は彼女で遊んだり魔道具を作ったりするのは止めておこう。  次の日、夕方までは宴の準備で屋敷の中が慌しかったが、日が落ちる前に全ての準備が整い、後は招待客がやってくるのを待つばかりとなっていた。  俺は今回オリンピアの秘書兼護衛役ということになっている。一応俺のことを知っている奴がいるかもしれないので、試しに作ったサングラスを装着しており、名前も偽名を使っている。  日が完全に落ち、外が暗闇に包まれた頃、宴の参加者の乗る馬車が次々とやって来た。あまり派手な馬車が無いのは、一応今回の宴はお忍びということになっているからである。他の貴族には集まっていることがばれていると思うが、中で何をやっているかまでは掴めないだろう。  オリンピアは玄関ホールで彼ら一人ひとりを歓迎していた。俺は近くで待機して、貴族達の護衛がどれ程のものなのかを観察していたが、あまり強そうなのはいなかった。一番強そうに見えた公爵の護衛もアドリアナほどの威圧感を感じない。  ここにやってくるどの貴族も、護衛には皆人間を選んでいる。しかし護衛に雇うなら人間よりもエルフの方が遥かに良い。人間に比べて能力も高いし、性格も割と律儀で交わした約束は守ろうとするからな。  ふとオリンピアの方を見ると、一人の貴族と仲が良さそうに談笑している。時折俺の方をちらちらと見てくるのは、このサングラスが珍しいからか。 「オリンピア殿、貴殿の護衛役は顔に妙な物を着けているようだが?」 「あの者が着けている物は、視力を補うための魔道具です」 「ほう、そんな魔道具もあるのか。何処で手に入れられたのかね?」 「残念ですが、護衛任務に支障が出る恐れがあると、断られまして……」 「ふむ、それは仕方ないな。あれを手に入れる機会があったら教えてくれ」  今オリンピアと話している奴は、確かケンジット侯爵だ。魔道具のコレクターとしても有名だったはずだから、このサングラスにも興味を示しているのだろう。残念ながら、視力補正の効果はないが。  侯爵は執事に促されて会場である大広間へと向かっていった。その後も何人かの貴族がやってきて、最後にスターク公爵が来たことで今回招待した全ての貴族がこの屋敷に集まった。  彼らは宴が始まるまで、大広間で食事と談笑を楽しんでいる。傍から見ると全員仲が良さそうに見えるが、話を聞いていると実際はつけ入る隙を窺っているのが分かる。貴族とは自らの欲望に正直な奴らしかいない。  皆の食事がひと段落したのを見て、オリンピアが前に出た。既にサイラスが病に倒れたという情報は貴族中に広まっており、代理の彼女が前に出ることに疑問を持っている奴はいなかった。 「皆様、お待たせしました。今夜は我がグラン家の食事会にお越し頂き、誠に有り難うございます。我らの派閥が今後も更なる発展をするよう、この機会に我らの結束が深まることを望んでおります」  その後もオリンピアによる長々とした前口上が続き、早くもその話に飽きた俺は、彼女の話を聞かずにさっさと次の準備を始めることにした。  俺が死角に隠れ、こっそりと魔法陣を描き始めた丁度そのとき、貴族達の中から一人の老人が進み出た。かなりの高齢だが、その雰囲気や態度からは全く老いを感じさせない。奴がスターク公爵か。 「オリンピア殿、その辺でいいだろう。サイラス候が倒れたとは言え、代理でしかない貴女が我々を呼び出したからには、それに見合うだけの話があると言うことだろうな?」 「その通りです、スターク公爵様。今日皆様をお呼びしたのは、我らの派閥に関する重大な情報と、一つの提案があるからなのです」 「ほう? なかなかの自信だな。ではその情報とやらを聞かせてもらおうか」 「はい。そこのあなた、あれを連れてきなさい」  近くにいたメイド一人を捕まえて、今回の宴の目玉の一つを取りに行かせる。程なくしてメイドがその人物を連れてきた。入ってきた者を見た瞬間、会場中の動きが止まった。銀髪に褐色の肌を持つダークエルフの貴族、その中でも特に有名な人物であるエヴァーツ公爵だ。  奴は喋れないよう口に布を噛まされ、首輪に繋がっている鎖を引っ張られながら入ってきた。目にはこの会場内の貴族達への憎しみが浮かんでいるが、メイドが鎖を引っ張って、半ば引きずられるように前へと連れてこられた。 「いかがでしょう? エヴァーツ公爵は我々の派閥に屈し、これからは彼らの派閥の情報を流させることを誓わせました。ダークエルフの分際で、我らの派閥に楯突こうとしたならば当然の結果と言えるでしょう」 「……これは驚いた。サイラス殿も知略に長けた人物であったが、貴殿はその上を行く才能があると見える」 「お褒めの言葉、有り難く頂戴します」  貴族達は信じられない物を見るような目でオリンピアを見ている。そんな視線を意にも介さず、彼女は余裕のある態度で公爵の言葉に返答している。  まあ奴を実際に陥れたのは俺なのだが、そんな事は言うはずも無い。それよりも完成した魔法陣を誰かに見られないよう、誰かが近づいてくるたびに立ち位置を変えるのが面倒だ。 「皆様、これが今回お伝えしたかった情報です。さて、次に皆様に一つ提案をしたいのですが、その前に一つ余興を用意させて頂きました。お気に召されるかは分かりませんが、どうぞお楽しみ下さい」  オリンピアの言葉と共に大広間の扉が再び開き、招待客と同じ数のダークエルフが入ってきた。皆顔が見えないように被り物をしているが、それ以外は一切の服を着ていない。年齢も少女らしき者からそれなりの年齢の者まで様々だ。 「皆様には彼女達を一人ずつ選んで頂きます。選ばれた者は今夜、皆様の玩具として好きなようにお使い下さい。治癒師も用意しているので、過激な行為もどうぞご自由に」 「ほう、まだ若いがなかなか分かっているな」  下種な笑みを浮かべてオリンピアに話しかける公爵。生理的嫌悪感を催す表情だが、彼女は完璧な営業スマイルでそれを受け止め、にこやかな態度を崩さなかった。 「有り難うございます。ではここは爵位順に選んで頂きましょう。公爵様、どうぞ好きな玩具をお選び下さい」 「それでは……ふむ、こやつもなかなか……」  老人の癖にまだ精力が衰えていないらしい。彼女達を触りながらどれが良いかを真剣に考えている姿を見ると、先ほどまでの老獪な人物というイメージが完全に崩れた。  そんなことを考えている間にも公爵はお目当ての玩具を見つけたらしい。一人のダークエルフの腕を掴んで、自分が元いた場所へと連れて行った。  どうやら公爵の審美眼は確かなようだ。他のエルフ達も負けてはいないが、選んだエルフは彼女達の中でも一番の体つきだ。一発目で当たりを引かれたので、他の奴らには少し同情しておく。 「まだ被り物は外さないようにお願いします。さあ、次は……ケンジット侯爵様ですね。どうぞお好きなのをお選び下さい」 「そうかね? では……これにしよう」  侯爵は躊躇いもせずに一番幼そうなエルフを掴んだ。魔道具コレクターな上に幼女が好きとは、何とも業の深い奴である。当の本人はとてもいい笑顔を浮かべているが、正直係わり合いになりたくない類の人物だ。  侯爵が選んだエルフを抱きかかえて戻っていったのを見て、オリンピアは次の貴族を選んでいった。そして全員にそれぞれのエルフが行き渡ったのを確認して、再びオリンピアが前に出た。 「皆様お待たせ致しました。それでは今晩の玩具とご対面の時間です。どうぞ被り物をお取り下さい」  皆自分の選んだ者が興味津々のようで、待ってましたといわんばかりに一斉に被り物を外した。中から出てきた顔を見た彼らの反応は色々だったが、当たりを引いた者は一様に驚きの表情を浮かべていた。 「これは……」 「こんばんは、今夜のお相手を勤めさせて頂きます、メルヴィナと申します」 「……くっ、くくく、いや、オリンピア殿は私の思っていた以上に優秀な人物だったようだな」  公爵にすがり付いているダークエルフは、メルヴィナ・エヴァーツその人だ。元夫が近くにいるにも関わらず、媚びた声を出して公爵に触れている。美人なだけにその色気を十分に発揮した今の彼女は、思わず息が詰まるほどに妖艶な魅力に溢れている。  今回用意した当たりは彼女の他に、二人の娘であるセリアとクレアだ。それぞれを手にした貴族達は一瞬驚愕の表情を浮かべ、その後ニタリと邪悪な笑みを浮かべている。 「今回の当たりはスターク公爵様、ケンジット侯爵様、それにオルビー辺境伯様ですね。皆様にはエヴァーツ家の美人親子の身体を堪能して頂きましょう。よろしければこの惨めなエヴァーツ公に、存分に彼女達の痴態を見せつけてやって下さい」 「素晴らしい。貴殿は女にしておくのが勿体ないくらいの逸材だな」  下卑た表情のままオリンピアに賞賛の言葉を送っているが、当の彼女は営業スマイルをまったく崩さずに対応している。全く見上げた精神力だ。俺なら奴への嫌悪感が顔に出ていたことだろう。  当たりを引いた三人はそれぞれの女を連れてエヴァーツ公の前へとやって来た。他の連中も、自分の女を弄りながら、彼らの様子を面白そうに見守っている。  そんな様子を傍目に見ながら、俺は先に描いておいた魔法陣を起動させた。使ったのは 白昼夢 だ。護衛達の抵抗を抜くために術式抵抗を阻害する記述も入れたので完成まで時間が掛かったが、どうやら上手くいったようだ。  全員掛かったことにすら気付いていない。しかし、彼らの意識は既に俺やオリンピアの言葉を盲目的に信じるレベルにまで落ちているはずだ。 「二人の娘はまだ処女です。皆様の立派な肉棒で処女を散らす様を見せ付けてやろうではありませんか」 「素晴らしい趣向だ。オリンピア殿、貴殿のことはよく覚えておくことにするよ」 「ああ、辺境伯様のオチンポで、セリアの処女を奪って下さい」  セリアはここ二日間の調教で、すっかり淫乱な本性が現れてしまった。今日の夕方まで後ろの穴を広げるために俺の腕ほどもある棒をくわえ込んでいたぐらいだ。 「この張りのある肌、ぷにぷにとした感触が何とも心地よい。エヴァーツ公もこれ程の娘を育て上げたことは褒めてやろう。その礼にこの娘の処女は、有り難く頂いていくぞ」 「侯爵様ぁ……もっとクレアの身体に触って下さい……」  クレアは愛撫が好きなようで、肌を敏感にする薬をずっと塗り続けたおかげで、どこを撫でても感じる身体になってしまった。彼女の穴は非常に小さいので、痛みを少しでも和らげようと思った結果がこの有様だ。 「公爵様、メルヴィナにはエルフの媚薬を飲ませてあります。彼女の中に出してやれば、確実に公爵様の子を孕むでしょう」 「うむ、どうだ、エヴァーツ公? 愛しの妻の中に、思う存分私の子種を注ぎこんで、私の子を孕ませてやるぞ」 「ああ、凄い、熱くて硬いのが当たっています……」  メルヴィナは今回の一番の当たりなので、趣向もそれなりにこなそうと思って薬を盛った。彼女の精神力はかなりのもので、薬の発情にも理性を保っていたが、それでも身体の疼きは抑えられないようだ。  エヴァーツ公は必死に妻の下へと近づこうとしているが、オリンピアが鎖を引っ張り、近づくことを許さなかった。奴は無様に転んで妻とスターク公を見ている。 「さあ、皆様! 我が国でさも人間と同格のように振舞っているダークエルフ達に、その身の浅ましさを思い出させてあげて下さい!」  オリンピアの掛け声で、貴族達が一斉に女達を犯し始めた。嬌声と腰のぶつかり合う音が響き、貴族の護衛達の中にも興奮で勃起している奴がいた。それに気付いたオリンピアは、護衛達にも何人かのダークエルフを渡し、好きにしていいと言っていた。  エヴァーツ親子は三人とも快楽に蕩けきった表情で自ら腰を動かして、エヴァーツ公に見せつけるように結合部を晒していた。 「見て、お父様! 私のオマンコ、辺境伯様に犯されて喜んでいるの、処女なのに感じちゃうの!」 「侯爵様ぁ……クレアのオマンコで、侯爵様のオチンポ気持ちよくなってますかぁ?」 「ああっ、公爵様のものが入ってきています! 主人のものより、あんっ、ずっと気持ちいいです!」  あられもない姿を晒している三人を、エヴァーツ公は焦点の合わない目で見ている。これはまずいと思ったので、適度に 鎮静 で理性を戻させ、精神崩壊しないように調整する。  結合部から粘着質な水音が響き、部屋に漂ういやらしい雌の匂いと嬌声が合わさって、俺ですら場酔いしそうになるほどに淫らな宴が繰り広げられている。  ふとオリンピアを見ると、彼女もまた会場の空気に当てられたのか、股間を押さえて俺に切なそうな視線を送ってくる。押さえている部分の生地は愛液で染みが出来ており、彼女の発情具合を容易に知らせてくれる。  貴族達もそろそろ一発目を出す頃だろう。彼女に目線で指示を出すと、こくりと頷いて営業スマイルを取り戻した。 「皆様、今や魔帝国はこのようなダークエルフを人間と同じように扱い、あまつさえ貴族位を与えて国政にも関わらせています。このままではいつ人間に牙を剥くかも分かりません」  興奮している貴族達は、彼女の言葉に賛同を示している。場の雰囲気と勢いに飲まれ、普段ならば言わないようなことでも簡単に口走ってしまう。 「このような原因を作ったのは、今の皇帝家にあります。彼らがダークエルフを重用しなければ、ダークエルフ達もここまで図に乗ることは無かったのでしょう。全ては皇帝の一族が元凶なのです」 「そうだ、皇帝の一族のせいだったのだ! 私や他の公爵を侮り、こんな下賎な種族を公爵位などに就かせたのだ!」 「もはやこの国は限界でしょう。そこで提案です。我らの手で現皇帝を誅し、人間を至上の存在とする新帝国を立ち上げようではありませんか!」 「それはいい! だが、我らの力だけでは難しいぞ?」 「ご心配なく。そのために王国と一時的に手を組むのです。今の領土をいくらか渡してやれば、王国側も納得するでしょう。王国へ魔帝国軍を出兵させた隙に、我らで帝都を落とし、皇族を捕えるのです」 「なるほど、しかし奴らも他種族を受け入れているのだが、それはどうなのだ?」 「だから一時的なのです。私の試算では仮に王国に領土を渡しても、5年もすれば今の軍事力を取り戻し、王国へと進軍することが出来るようになります。それまでは奴らに従うフリをしておけば大丈夫でしょう。細かい話は後ほどお伝えします」 「そうか、ではこの件はオリンピア殿に任せたぞ」 「有り難うございます」  明らかに無理のある話なのだが、術式の影響で今の話を完全に信じ込んだ奴らには、さぞ魅力的な提案に映ったことだろう。  あちこちからうめき声が聞こえ、女達の中に次々と中出しをしている貴族達。前にいる三人もそろそろ限界のようで、彼女達の中に同時に精液を注ぎこんでいた。  一回出して落ち着いている貴族達に、契約書を配っていく。今回の話に乗るならばサインを描いてくれと言い、まだ術式の効果が残っている奴らは、躊躇いもせずに書き込んでいった。  全員分の紙を集め、 強制 をかける。これで奴らもこの話に乗るしかなくなった。これで今回の目的は達成した。あとはオリンピアに王国との接触を図らせればいい。  一回出した後は乱交が始まった。お互いの玩具を交換し、同時に犯し、中には護衛も交えて享楽に耽っている者もいた。あまり良い光景ではないが、これが朝まで続くかもしれないことを思い、憂さ晴らしにオリンピアと戯れることにした。 ============================================================ 036. 第36話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/36/ ============================================================ 次の日、朝日が昇る前に貴族達は帰っていき、今はメイド達が慌しく後片付けを行っているところだ。昨日は年甲斐も無くはしゃいでいた貴族達のせいで一睡も出来なかった。  ケンジット侯爵など、お持ち帰りしたいと言い出す始末だったのだが、それは断らせてもらった。公爵の娘が消えたら流石に問題になる可能性がある。 「ご主人様、王国に密使を出そうと思っているのですが、ご主人様はどうされますか?」 「ああ、それなら私が王国に戻る際に連れて行こう。二、三日ほど休みを取れるならばお前も一緒に連れて行くが、どうする?」 「それは是非お願いします。残りの仕事を終わらせてきますので、少々お待ち下さい」  彼女も俺に付いてくるようだ。まあ王国へ連れていった方がいちいち両国間を移動しなくて済むので、やり取りが非常に楽になる。  彼女は昼前に仕事を終わらせたので、彼女と密使役の男と共に、俺の屋敷へと転移した。  王国へと戻ってくると、丁度ティアが俺の部屋を掃除していた所だった。彼女は俺に気付いたが、隣にいる見たことも無い二人を警戒して近寄ってこなかった。 「お帰りなさいませ、ご主人様。ところでその二人は一体どなたでしょうか?」 「この女は魔帝国のグラン侯爵の娘オリンピアだ。今は病に倒れたグラン侯爵の代理を務めている。そして隣の男は国王陛下に出す密使だ」 「……内通の手引きですか? これがご主人様の言っておられた計画なのでしょうか?」 「そんな所だ。とりあえず昼食がまだなので、食事の準備を頼む」 「畏まりました、少々お待ち下さい」  部屋を出て行く彼女を見ながら、オリンピアは困惑した表情で俺のことを見ていた。何か気になる点でもあったのだろうか。 「ご主人様、あの者はメイドのようですが、それにしては仲が良さそうな感じを受けました。もしやご主人様の妾だったのでしょうか?」 「妾ではないが、似たようなものだ」  説明するのが面倒なので適当なことを言いつつ、まだ納得いっていない彼女と密使を連れて食堂に向かった。  食堂には既にソフィとナタリアがいた。仲良く談笑していたが、俺の姿を見つけると二人とも近寄ってきた。顔には嬉しそうな表情を浮かべている。 「お帰りなさいませ。そちらの方々はお客様でしょうか?」 「数日ぶりだけど寂しかったわ。それで、また女を捕まえてきたのかしら?」  王国語で話しかける二人だが、オリンピア達には言葉が通じないので、苦笑しながらこちらを見てきた。そういえば 翻訳 を掛けるのを忘れていたので二人に掛けてやると、王国語が自分達の言葉に変換されて聞こえてきたので少し驚いていた。 「初めまして、私は魔帝国の皇族の一人、グラン侯爵の娘、オリンピア・リア・グラン・ダーロです。以後お見知りおきを」 「まあ、王族の方ですか。私はそこにいるウェルナー伯爵の妻で、王国の第一王女、ソフィア・ル・アンリエント・ウェルナーです。魔帝国の方とお話しするのは初めてですので、失礼な振舞いがあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いしますね」 「王女殿下でしたか、これは失礼を致しました」  膝をついて魔帝国式の礼をするオリンピアに、まあまあと言いながら彼女に割と砕けた様子で話しかけているソフィ。二人とも王族だが、一応はソフィの方が格が上なのだろうか。国が違うので何とも言えないが、二人の態度を見る限りそうなのだろう。 「丁度良かった。実は国王陛下に密使を遣わそうとしていた所なのですが、王女殿下の方からも口添えして頂けませんか?」 「ええと……」 「そういう話は食事の後にしましょう。折角ヤードが帰ってきたんだから、ソフィアも私も、まずはヤードと話したいわ」 「そうだな、まずは食事にしよう。仕事の話はその後でも出来る」  ナタリアが助け舟を出してくれたので、有り難く話に乗って会話を一旦終わらせた。このままだとソフィの機嫌が悪くなるかもしれないからな。  少し待っているとメイドが次々と食事を運んできたので、全員席について昼食を摂ることにした。俺がいない間の屋敷についていろいろ話を聞いたが、特にこれといった問題は出ていないようで安心した。  食事が終わると、オリンピアは話し合いのためにソフィと共に食堂を出ていった。俺も付いていこうかと考えたが、久しぶりの屋敷なので先に風呂に入ろうと思い、ナタリアと分かれて風呂へと向かった。  脱衣所に入ると、そこにはティアがいた。手には掃除用具を持っているので、丁度風呂の清掃をしようとしていた所だったらしいことが分かる。 「今から入られるのですか? それでしたら掃除はまた後にしますが」 「そうだな……ティア、一緒に入るか」 「え?」  俺の発言が予想外だったのか、きょとんとした顔でこちらを見てきた。今言われたことを確認しようとしているが、俺が自分の服を脱ぎ始めたので、どうすれば良いのか分からないようだ。脱衣所を出ようとして止めたりを繰り返している。 「どうした? 用事がないなら一緒に入ってもいいだろう。早く服を脱げ」 「あ、はい」  急いで服を脱いだ彼女と一緒に風呂場へと入る。まずは身体を洗い、久しぶりに湯船につかる。彼女も俺の隣へ座ったので、抱き寄せて口付けをしてやった。この後風呂の清掃をするようだし、少しぐらい湯を汚してもいいだろう。  彼女も期待していたようで、俺の上に跨って膣穴に俺の肉棒をくわえ込んだ。既に濡れていた膣内は、湯の温度よりも高いような気がした。  風呂の中でするのは、ベッドでするのとはまた違った感覚だ。お互いの身体が熱く火照っているので抱き心地もよく、まるで全身を包まれているかのような気持ちよさがある。それは彼女も同じようで、俺をぎゅっと抱きしめ放さなかった。  もうそろそろイキそうかなと感じたとき、脱衣所の方から声がして扉が開いた。入ってきたのはソフィとオリンピアだった。二人とも俺達がいるとは思っていなかったようで、こちらを見て固まっている。 「どうした、二人とも。そんな所で固まっていないで、入って来い」 「あ、そうですね。さあ、オリンピア様、ここが風呂ですよ」 「あ、ああ、ここが風呂なのですか……想像以上ですね」  二人に見られたのは仕方が無いが、よく考えると俺とティアの仲はソフィの知るところだ。別段気に病むようなことをしている訳ではないので堂々としておく。しかしティアはソフィに見られたのを気にして風呂から出ようとしていたので、慌てて止める。 「そうだ、ソフィ。一緒に入らないか?」 「ええ、是非」 「ヤード様、私もご一緒してよろしいですか?」  ソフィは俺の提案に快く乗ってきた。オリンピアも参加したいようなので、折角だし一緒に入れてやることにした。ちなみにオリンピアには王国にいる間、俺のことを名前で呼ぶように指示しておいた。そうしないと平気でご主人様などと言い出すからだ。 「それにしても、ヤード様、やっぱりオリンピア様にも手を付けていらしたのですね。別にするなとは言いませんが、手を付ける前に一言ぐらい声を掛けてくれませんと、こちらもどなたがお手付きなのか分からなくなりますので」 「ああ、済まないな。まだ本番をしたわけではないが、今度からはそうさせてもらう」  二人がこちらに来たので、ティアを上に乗せたまま二人を抱き寄せた。こうやって美女を三人侍らしていると、何とも言えぬ優越感が込み上げてくる。ソフィに口付けをし、オリンピアの胸を揉む。こうしているだけでもかなり精神的な興奮が得られる。 「あの、ご主人様……やはり私はいない方が……」 「大丈夫ですよ、あなたとヤード様の仲は分かっていますから」  ティアは王族二人に囲まれて肩身の狭い思いをしているが、ソフィの方はティアと俺がしていることに特に文句は無いようだ。夫が妾としているのを笑顔で受け流すあたり、彼女も相当に理解があるようだ。後で彼女も可愛がってやることにしよう。  先ほどはイク手前で止められていたので、すぐに射精感が高まってきた。ティアも同じようで、自分からも激しく腰を動かして快感を得ようとしている。 「ティア、そろそろイクぞ!」 「私もっ、も、もうイってしまいます!」  ティアの中に精液を注ぎこむと同時に、彼女も絶頂した。絶頂の余韻に浸っている俺にソフィがまた口付けをしてきたので、そのまま彼女と舌を絡ませる。  ティアが上から退くと、今度は彼女のようだ。出したばかりの肉棒を手で優しく包み込み、硬くなるように刺激している。まだまだ満足はしていなさそうだ。そちらがその気ならば、とことん付き合ってやることにしよう。  風呂から上がった後、密使の件についてどうなったのかを聞くと、ソフィが手紙を届けることになっていた。流石に敵国の人間を城の中に入れることは躊躇われたようだが、オリンピアとしては十分な申し出だったようだ。  ソフィが城へと手紙を持っていくと、すぐに国王から面会の許可が出たようだ。まだ確定はしていないが、秘密同盟が結ばれるのはほぼ確実だろう。  レシアーナと同盟を結んだとはいえ、今の状態ではまだ王国の戦力は魔帝国の戦力の3割程度しかない。今までは何とか要塞で足止め出来ていたが、次に両者がぶつかり合えば王国の敗北は必至だと考えるのが当然である。  今回寝返らせた貴族の戦力を考えると、王国と魔帝国の戦力差は6対4程度になり、王国側が逆転して有利になる。寝返らせた貴族は色ボケした奴らばかりだったが、あれでもかなりの財力と武力を抱えている奴らだったのだ。  この好条件を王国が断るはずもなく、オリンピアの派閥は王国側に付くこととなった。冬が開けてすぐの出兵に参加するフリをして、城を守る戦力がいなくなった隙を狙って帝都を占拠するという流れである。その間、王国は囮となって魔帝国の注意をオリンピア達から逸らし、帝都が落ちるまでの間、魔帝国軍を足止めするのが役割だ。  密約を結ぶのはいいのだが、何故かオリンピアとの密談に俺も呼ばれた。仕方が無いので城まで出向き、会議室へと案内された。  今回は他の大臣の姿は無く、国王とオリンピア、それに俺の三人だけしかいないようだ。一応監視や盗聴を防ぐ為にいくつかの結界を張り、外部との連絡を完全に遮断しておいた。 「ウェルナー伯爵。急に呼び出して済まなかったな」 「気にするな。それより何故私が呼ばれたのだろうか?」 「うむ、実は密約を破られないようにする魔法が無いかどうか聞きたくてな。そなたの魔法の知識は他の魔法使いよりも格段に優れているそうなので呼ばせてもらったのだ」 「そういうことだったら、丁度いい術式がある。先にその密約について話し合うといい」 「そうか、分かった。そなたのことは信じておるが、そなたの身が危うくなるような話をするやも知れん。話が終わったらまた呼ぶので、隣の部屋で待機していてくれんか?」 「ああ、了解した」  話し合いに参加する気はなかったので、隣の部屋へと移る。防音も完璧なので一切の話し声が聞こえない。これならば誰かに監視されていたということは起こらないだろう。  しばらくしてまた呼ばれたので、会議室に戻ってきた。密約の内容はあらかじめオリンピア側から提案してあったので、一から話し合うほど長くはならなかったようだ。 「さて、先ほど言った魔法を使ってもらいたいのだが、どういった魔法なのだ?」 「その術式用に調整した契約書に書き込んだ内容を遵守させるものだ。もし破ったなら相応の罰が下る」 「ではその契約書とやらを準備しなくてはならんのか?」 「いや、それは私が持っている。内容を見せたくないのなら私に見えない所で書き写してくれ」 「いや、そなたのことは信じておるといったはずだ。この内容だけならばそなたに見られても問題ないので、書き写すのを任せてもよいか? 魔道具は魔法使いが一番扱いに慣れておるだろうからな」 「了解した」 誓約 用の誓約書を取り出し、今回の密約を書き込んでいく。最後に二人にサインを書かせ、 誓約 を発動した。 「これでいいだろう。ここに書かれたことを破ろうとすれば相応の罰が与えられる」 「ふむ、どんな罰なのだ? あまり軽い罰では意味が無いと思うが」 「今回は断絶、簡単に言えば約束を破った者は死に、その者の勢力もそれに順ずるほどの不幸に見舞われる。妥当な罰だろう」 「勢力というのは、やはり国のことでしょうか?」 「いや、大体は親族とその関係者だ」 「まあそれならば裏切られる心配は殆ど無くなるか。伯爵よ、わざわざ済まなかったな」  二人とも納得したようなので、これで俺の仕事は終わりだ。後は春になって戦争が再開したら、この密約通りに動いてくれることだろう。後は戦争に勝利して、裏切った貴族を殺し魔帝国の首都を押さえれば魔帝国を滅ぼすことが出来る。  魔帝国との戦争が終われば勇者としての役目も無くなり、後は平穏に暮らすことも出来るだろう。その未来まであと少しだ。 ============================================================ 037. 第37話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/37/ ============================================================ 密約が結び終わってからまたしばらくの時が流れ、そろそろ冬が終わる時期になった。オリンピアは魔帝国に戻ってあちらの軍の動きを教えてくれている。既に魔帝国軍は準備を整え、近々王国との戦争を再開するそうだ。  その情報はソフィを通じて国王に流されている。こちらも来たるべき戦に備え、物資の準備や兵数の確保は終わっているので、後は戦いが始まるのを待つだけとなっていた。  そしてそんな中で、遂に魔帝国軍が動き出したという情報が入ってきた。奴らはまずイストリア砦奪還に向けて、前回の要塞戦を上回る一万人という大軍勢を出しているらしい。現在砦には500人ほどの兵士がいるが、戦力差は絶望的だ。  ただあそこにはエルがいる。最近は術式の腕も上がり、戦術級術式も普通に撃てるぐらいにまで成長しているので、いざとなっても彼女一人で大丈夫だろう。  まあ砦が攻められる前に、手前の平野を突破されないようにそこで戦線を開く予定のようだ。確かにあちらがドラゴンを投入してくるなら、集団戦のしやすいこちらの地形の方が有利だ。  勇者の四人はもちろん前線に立たされることになっている。その中でもフェアリスは後方支援担当だが、今回俺は魔導師部隊を一つ率いて戦わされることになった。正直この世界の魔導師のレベルに合わせた指揮が出来るとは思えないが、一人でも何とか出来るので大丈夫だろう。  そう言えばエルは冬が終わる前に帰ってくる的な話を聞いた気がするが、未だに砦にいるらしい。少し気になったので連絡を取ってみることにした。 (エル、聞こえるか?) (……マスターですか。何ですか?)  エルは念話に出てきたが、エルの持つ魔道具の魔力反応からして砦とは別の場所にいた。砦から少し王都の方に来た位置だったので、こちらに戻ってくる途中なのかもしれない。転移で戻ってこない所を見ると、道中で観光でもしているのかもしれないな。 (今は王都に戻ってきている最中なのか?) (ええ、まあ。早くマスターにお会いしたいです) (そうか、それならばいい。手間を取らせたな)  エルとの通信を切った時、丁度国王からの知らせが届いた。既に魔帝国軍がこちらへと進軍しているので、こちらも直ちに出撃しろとのことらしい。既に国境近くに軍を待機させているので、出発と言っても勇者達四人だけだ。サガミやフェアリスに見られるのは面倒だが、転移で飛んだ方が早いか。  急いでティアと出立の準備をしているとソフィとナタリアがやって来た。出発前の挨拶にきたようだ。 「ヤード様、今回の戦いは大丈夫なのでしょうか……?」 「大丈夫だ、勝率はそれなりにある。勇者達の力もあることだし、負けることは無いだろう」 「そうですか……危ないときは逃げ出してもいいですから、必ず帰ってきて下さいね」 「それじゃ駄目よ、ソフィ。いい、ヤード、ちゃんと勝って帰ってきなさいよ。負けたりしたら許さないからね?」 「ああ、安心しろ。帰ってくるときは勝利の知らせを持ってくることを誓おう」  なるべく普段通りの態度を見せているが、それでも彼女達は心配してしまうのだろう。二人が心配してくれるのは素直に有り難いと思う。ただそれ程気負っている訳ではないので、二人に心配をさせているのは申し訳ない気がする。  二人を抱きしめてから、準備を手伝ってくれたティアも抱きしめてやった。皆心配で顔が曇っているのが残念だ。帰ってくるときは笑顔になっていることを願おう。  屋敷を出て城に向かうと、既に他の三人は集まっていた。こいつらはいつも行動が早いので、勇者達が集まる際はいつも俺が最後のような気がする。 「遅かったな、ヤード殿」 「済まないな。皆もう準備は出来ているのか?」 「ああ、後はヤード殿が来るのを待っていたのだ。では早速出発しよう」 「国王に挨拶などはしなくてもいいのか?」 「何でも他の用事があるようで、構わずに出発してくれとの事だ」  用事とは密約に関することだろうか。既にオリンピア達も動き出しているそうだし、そのことで何か問題が起きているのかもしれない。ただオリンピアは何も言ってこないので、計画に支障は出ていないと思うが。 「そうか」 「今から向かっても着くのは両軍が衝突する少し前ぐらいらしい。急いで行こう」 「そのことだが、砦まで一気に跳ぶ術式がある。時間が無いならそれで行くぞ」 「……そんな物があるならば、以前から使っていればよかったのではないか?」 「色々と面倒な制約があるのだ。私がいいと言うまで全員目を瞑っていろ」  全員が目を閉じたのを確認し、急いで魔法陣を描き上げ、起動する。 上級集団転移 が発動し、次の瞬間には砦のすぐ近くに転移していた。 「もういいぞ」  俺の言葉に目を開けた三人は、見たことの無い場所にいることに驚きの表情を浮かべていた。フェアリスは以前にも転移を経験したことがあったので、すぐにここが目的地の近くだとすぐに察したが、アレクとサガミはしばらくの間、周りを呆然とした表情で見回していた。 「ここはイストリア砦の近くだ。ここから前線までは一日も掛からないだろう」 「……いや、ヤード殿には驚かされる。まさかこんな素晴らしい魔法を使えたとは……」 「転移か……これは私にも使えるようになるだろうか?」 「難しいな。悪用もし放題なので、弟子以外の人間に教える気はない」 「そうか、仕方ないな」  サガミはやはりこの術式に興味を示してきたが、断っておいた。諜報関係の人間にこの術式を教えるなど、後で何が起こるか分かったものではない。  二、三時間歩くと、前線の拠点がある場所にまでたどり着くことが出来た。まだ魔帝国軍はここまでたどり着いていないようなので、どうやらこちらの方が先に着くことが出来たようだ。  アレクとサガミは現地の指揮官達の所へ行ったので、俺は担当の魔導師部隊でも探すことにした。一応城で会ったことのある連中なので意思疎通には問題は無いが、一応指示の練習でもしておかないと話にならない。  魔導師部隊のいる場所を聞きそちらへ向かうと、魔導師用のローブを着た集団を発見した。多分あれで合っているだろうと思い、彼らに近づいていったところ、見知った顔がいることに気付いた。 「あら、ヤード様。お久しぶりです」  周りの人間よりも圧倒的な美しさを誇っているハイエルフ、エレインがいた。魔導師用の野暮ったいローブを着ているが、彼女の完璧な美しさを見ると気にならなくなるほどだ。  今回の作戦にレシアーナのエルフが参加するのは聞いていたが、他のハイエルフが派遣されてくるのだとばかり思っていた。 「久しぶりだな。しかしどうしてエレイン殿がここに? 他の者でよかったのではないだろうか?」 「ふふ、私の我が侭です。レシアーナにばかりいては退屈ですから。それに私は一番年上なだけで、ハイエルフの代表というわけではありませんからね?」  くすくすと笑う表情にも気品が満ちているが、言っていることは滅茶苦茶だ。仮にもトップにあるまじき言動だが、レシアーナに長年引きこもっていた反動なのだろう。何とも行動的な性格になったものだ。 「今回は無理を言ってヤード様の部隊に入れて頂きました。お弟子のエルマイアさんでさえ素晴らしい魔法をお使いになっていたのですから、師匠であるあなたがどんな魔法を見せてくれるのか楽しみにしています」 「指揮官は正面切って戦う役割ではないのだが……」  まあ彼女が来てくれたのは有り難い。これならば多少派手な行動をしても、俺が目立ちすぎることは無いだろう。  彼女と少し話をした後、魔導師部隊の隊員を呼んで簡単に指示の説明をした。こいつらがまともに魔法を撃てるとは思っていないので、防御術式担当と攻撃術式担当に分けて、攻撃担当のリーダーを元隊長の男に、防御担当のリーダーをエレインに任せ、エレインには 翻訳 をかけておいた。  俺が戦闘で細かい指示など出来るわけが無いので、戦闘中は基本的にリーダーの命令を聞き、俺はリーダーに大まかな指示を飛ばすだけということにした。二人とも俺よりは指揮が出来るだろう。  魔帝国軍が到着するまでは部隊指揮の訓練と運動ばかりしていた。他にやることが無かったのも事実だが、実験しようにも設備が揃っていないので不可能だったからだ。早く来ないかと思い続けて三日後、魔帝国軍の姿が確認された。  遠目からでも分かる巨大な人型生物を何体も引き連れており、空には結構な数のドラゴンが飛んでいる。報告通りの戦力だったが、以前見たときよりも遥かに多数の魔物が群れをなしている様は、王国兵達に恐怖を与えていた。  このままでは兵士達がまともに戦えないので、我が魔導師部隊は先にあの巨人とドラゴンを潰すことにする。エレインだけでどうにかできそうだが、彼女に任せきりなのは良くないので、魔導師達にもそれなりに頑張ってもらう。  これだけの戦力差ならばすぐに攻めてくるだろうと思っていたのだが、魔帝国側は思ったよりも慎重だったらしく、二日ほどにらみ合ったまま時間が過ぎていった。  偵察部隊などは時々現れたが、魔導師達の探知に引っかかるような程度の奴らだったので、たいした情報は漏れていないだろう。  そしてその日の昼間に敵が動き始めた。どうやらまず魔物部隊だけを突撃させる作戦のようだ。巨人とドラゴンの大軍が襲ってくる様はなかなかに威圧感があるが、距離が開いた状態ではこちらに手を打つ時間を与えているようなものだ。 「エレイン殿、精神力上昇と汎用防御用の術式を。防御部隊は対物理防御の結界を張れ」 「了解しました!」 「効果対象は王国兵全員でいいのですね?」 「ああ、そうだ」  まだ乱戦中ではないので、ここは俺の指示に従ってもらうことにしている。俺の言葉を聞いてエレインは即座に術式を発動した。王国の兵士全員を対象にしているので一人に掛かる効果は小さいものだが、兵士達の動揺は治まったようだ。 「攻撃部隊はまずドラゴンを狙え。冷気や電気のような鱗を貫通できる術式を使うように」 「了解しました!」  俺の指示で一斉に詠唱を始め、ドラゴンの群れに向かって次々と術式を放っている。ただ多少の攻撃が通ったところで、ドラゴンの速度では一瞬でこちらの軍にまで到達されてしまう。  俺は魔法陣を描き、起動した。第4種戦術級術式、 遅滞 が発動し、凄まじい速さでこちらへと向かっていたドラゴン達の速度が、まるでカタツムリが這っているかのような、殆ど動いていないように見えるほどにまで落ちた。  ついでに巨人達の速度も落ち、魔帝国軍は魔物達が突然動きを止めたことに動揺しているようだ。一応魔物達の間を縫って相手の矢や攻撃術式が飛んでくるが、こちらの結界を突き破ることが出来ずに霧散している。 「今のうちにドラゴンを落とせ。巨人はこちらが足止めしておく」 「了解しました!」  一発や二発程度の術式では全く効果が無かったが、身動きがとれず回避すらままならないドラゴン達は、魔導師達の放つ術式を大量に食らい、どんどんとその数を減らしていった。  それなりの魔導師を数十人集めてやっと討伐出来るような魔物が次々とやられているのを見て、王国兵の士気も上がってきている。逆に魔帝国軍の間には動揺が広がっており、術式を放ってくる弓兵や魔導師達も上手く連携が取れていないようだ。 「魔導師部隊が押さえてくれている今が好機だ!」  指揮官が弓兵部隊に指示を出し、動かないドラゴンや巨人に向かって次々と矢を放っていく。ドラゴンは硬い鱗のおかげで弓は効いていないようだが、巨人の方はドラゴンほど肌が硬くないので、少しずつ矢が刺さり始めている。 「身体を狙うな、弾かれてしまうぞ! 目だ、目を狙え!」  指揮官が大声で指示を出しているのを見ながら魔帝国の方を確認すると、相手は黒狼や同じぐらいの大きさの魔物を大量に放ってきた。あれを全部止めるのは難しいな。ここはアレク達に頑張ってもらおう。  こちらまで到達してきた魔物達と前衛の部隊が激しい戦いを繰り広げている。エレインの防御術式のおかげで互角以上の戦いが出来ているようで、負傷者を出しながらも少しずつ魔物達を討ち取っていった。  この頃にはドラゴンや巨人は4分の3程度にまで減っており、ようやく不利を悟った魔帝国の指揮官が一時撤退を始めた。結局こちらの負傷者はそれなりの数になったが、敵の虎の子である魔物部隊に大打撃を与えるというなかなかの結果となった。  オリンピア達の援軍のことも考えると、この調子でいけば勝利は確実だろう。  次の日、優勢だったにも関わらず、王国軍は少しずつ魔帝国軍に押されていた。相手も一気に数の力で押した方が言いと判断したのだろう。確かに魔物だけで手一杯になってしまう程の人数差なので、数で攻めるのは有効だ。  指揮官は必死に兵達を鼓舞していたが、昨日の戦いで疲労している兵士達は、昨日以上の数でやってくる魔帝国兵達の攻撃を凌ぐので精一杯だった。  このままではあと少しもすれば前線が崩壊してしまうと思うが、魔導師部隊は防御にのみ専念させていた。俺の判断を訝しがっている者もいるが、そもそも王国軍だけでは勝てないのは想定済みなのである。  魔帝国の兵達はさらに勢いづき、このままでは前線を突破されてしまうかもしれないと皆が思い始めたそのとき、魔帝国の後ろから更なる部隊がやってくる声がした。術式の援護が無ければ、この声で王国兵達の士気はゼロになっていただろう。  援軍に来た魔帝国の兵達はグラン家の旗を掲げていたので、誰が援軍に来たのかはすぐに分かった。部隊の殆どが魔導師で構成されている、オリンピア率いる魔帝国の第二魔導師団だ。その数は1000人にもなり、王国の5倍以上の魔導師を有している魔帝国屈指の部隊だ。 「グラン侯が援軍に来てくれたぞ! 今こそ王国軍を倒すのだ!」  魔帝国軍は更なる援軍の到着に活気付いて王国軍を蹂躙しようとしていたが、その援軍と思っていた部隊が同じ魔帝国軍を襲い始めた。味方であるはずの部隊に襲われた魔帝国軍は混乱し、王国軍への攻撃も止まってしまった。  俺はこの機会を逃さずに攻撃担当の魔導師達に全力で攻撃するよう指示を出し、前へと出て行った。前線で戦っているアレクにこのことを伝え、王国兵達の士気を回復させるためである。 「アレク殿、今が好機だ。魔帝国は裏切りによって混乱している。これは国王陛下の認めた秘密作戦だったのだ」 「そうなのか! よし、皆! 先ほどの部隊はこちらの援軍だ! 魔帝国軍を挟撃で追い込むぞ!」  アレクの言葉に俄かに活気付いた王国兵達は、未だ混乱の極みにある魔帝国軍に突撃していった。魔導師部隊には魔物を集中的に狙うよう指示してあったので、士気の下がっている魔帝国兵だけでは勢いづいた王国兵達を止めることは出来ず、その数の有利を失っていた。  戦いが終わった後には魔帝国軍は壊滅状態であり、王国の勝利は誰の目で見ても分かることであった。  援軍に来た魔帝国軍と王国軍はにらみ合いの状態が続いていたので、急いで前に出て敵でないことを伝える。国王からの指示だということを伝え、王国の証印が入った紙を見せると、頑なだった指揮官も納得の表情を見せた。  オリンピアが前に出てきたので、アレクやサガミ、指揮官らと共にこちらから近づいていく。こちらに気付いた彼女は軽く手を振っていた。 「あなたが魔帝国側の協力者ですね? 私はアレク・レイ・ギルフレイアと申します」 「始めまして、オリンピア・リア・グラン・ダーロと申します。帝都の防衛に当たっている人員が思ったより少なかったので、予定よりも早く到着することが出来ましたが、危ない所だったようですね」 「有り難うございました。この後はどうされるのでしょうか?」 「この後の事を聞いていないのですか? 帝都は現在スターク派の貴族と2000人程の兵士が押さえています。王国のことは味方だと思って油断しているようですが、そこを叩きます」 「そうなのですか……ヤード殿は何か聞いているか?」 「ああ、そういう予定だったとは聞いている。一応ギリギリまで秘密にしておくよう言われていたが」  あの日国王とオリンピアが結んだのは、グラン家のみを助けてくれるようにするための密約だった。魔帝国の貴族共は帝国のトップが入れ替わることを承認したと思っているようだが、王国がそのようなことを認めても何の益も無いことは分かりきっていた。騙される方が悪いのである。 「オリンピア殿、早速帝都へと向かおう」 「ええ」  魔導師団を先頭として、両軍が帝都に向けて進軍を開始した。幸い魔帝国軍の用意していた物資が大量に残っていたので、進軍には影響は無い。行軍速度は遅いが、遅くても一週間後以内には帝都に着くだろう。 ============================================================ 038. 第38話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/38/ ============================================================ 5日後、王国軍とオリンピア率いる魔帝国軍の両軍は、予定通り帝都に到着した。帝都の人間達は事情を知らされていないらしく、王国軍が帝都にやってきたことに困惑していた。  その前にもスターク派の貴族が反乱を起こしているので警戒しているのは当然だろう。  逆にスターク派の兵士達は王国軍が来たことを歓迎していた。城に着くやいなや、スターク公爵自身が出迎えに来た。こうして歓迎されているということは、まだ作戦がばれていないことが分かる。  現在俺達は帝都の城にある謁見の間にいる。呼び出されたのはオリンピアだけだ。王国の者はまた後で会う予定となっていたが、俺はどさくさに紛れて、オリンピアの護衛役として入り込んでいた。 「おお、オリンピア殿。ご苦労であった」 「お出迎え有り難うございます。皇帝はどうなされたのでしょうか?」 「奴は城の地下牢に放り込んでおる。後日処刑を行おうと思ってな。そちらの方は大丈夫だったようだな」 「そうですか。この後のことも含めて伝えておきましたので、安心なさって下さい」 「この後のことだと……?」 「ええ、こういうことです」  オリンピアが腰に下げた剣を抜き、そのまま流れるような動きで公爵の首を刎ねた。いきなりの出来事に凍りつくスターク派の貴族達を放っておいて、王国軍と魔帝国魔導師団の兵士達が行動を開始した。  奴らは気付いていないだろうが、既に帝都の周囲は王国軍によって封鎖してある。後はオリンピアの合図一つで、魔導師団の連中はスターク派の貴族とそれに従う兵士達を皆殺しにかかった。  まさか自分達がはめられていたとは露程も知らなかった貴族達は、突然の事態にうろたえているだけで、さしたる抵抗も出来ずに次々と捕らえられ、殺されていった。 「オリンピア、貴様……!」  謀ったな、とでも言おうとしたのだろうが、 強制 の効果でその発言を封じられ、ぱくぱくと口を動かすだけになっている貴族を見て、オリンピアは嘲笑を浮かべた。 「違いますよ。私は元々グラン家のことのみを考えていましたので。それに魔帝国などに忠誠心は持ち合わせていませんから、あなた方を利用させて頂くことにしたのです」 「くそ、許してくれ、私は……!」  襲ってくる魔導師達に命乞いをしようとしているが、俺達に関することを口走ろうとしても全て途中でキャンセルされている。傍から見ると、酷く滑稽な光景だ。  こうして城にいた貴族共のうち、何人かは捕らえられ、殆どの者は殺されてしまった。帝都内でも兵士達が次々と殺されているということなので、帝都を占領出来るのも時間の問題だろう。  貴族達が捕らえられている部屋に行くと、そこにはオリンピアの屋敷で出会った貴族が何人かいた。オリンピアが入っていくと、全員が血走った目で彼女を睨み付けている。  そんな視線を意にも介さずに、彼女は貴族達に見下したような視線を投げかけながら、俺のすぐ傍に近寄ってくる。 「ご主人様、上手くいきましたね」 「ああ、お前の協力のおかげだ。感謝する」 「嬉しいです、これからもご主人様のためなら何だってしますからね」  甘えるように俺の腕に抱きついた彼女を見て、貴族たちも大体の事情は飲み込めたようだ。だが術式の効果でそれを口に出すことが出来ず、ただ俺を睨み付けるだけとなっている。  そんな貴族達に見せ付けるように、彼女は俺の首筋を舐め始めた。どうやら血を見てきたせいで興奮しているようだ。吐く息にも熱が篭っており、彼女の発情具合がよく分かる。落ち着かせるために一度イカせてしまおうか。  そのとき部屋の中に一人の兵士が入ってきた。突然の乱入者に驚いて、彼女を引き離してしまう。そのせいで彼女の機嫌も悪くなったようだ。急いできたようで息が上がっているが、何か問題でも起こったのだろうか。 「……何ですか? 早く報告しなさい。くだらない用事は聞きたくありませんよ?」  邪魔をされたのが腹立たしいようで、報告に来た兵士に冷たい言葉を投げつけている。何時もよりも低い声は、兵士に彼女の機嫌を分からせるのには十分だったようで、報告をしようと口を動かしているのだが、上手く声が出ていない。 「こ……皇帝、陛下が……」 「皇帝がどうしたのです?」 「あの……帝都から逃げ出したようで……」 「は? ど、どういうことですか!?」  予想外の事態に素っ頓狂な声を上げてしまうオリンピア。確か皇帝は地下牢に閉じ込めてあるといっていたが、何故そんな場所から逃げられたのだろうか。 「どうやら牢屋内に秘密の通路があったらしく……見張りの者が気付いたときには、皇帝陛下は既に逃げ出していたようで……」 「何故常に見張っておかないのですか! 脱出用の通路があることが分からなくても、誰かの手引きで逃げられる可能性があることぐらい分かっているでしょう!」 「仰る通りです……」 「ああもう、早く跡を追いなさい! 通路を進めばどちらの方角に逃げたかぐらい分かるでしょう!」 「は、はいっ、了解しました!」  オリンピアの剣幕に気圧されていた兵士は、すぐに部屋を出て行った。今から追っても追いつける可能性は低いだろう。だが逃げた所で軍隊はあらかた潰したし、エヴァーツ家のような親皇帝派の貴族もスターク公爵達に殺されている。もはや帝国に、抗う力は残っていないだろう。  貴族達はその辺の魔導師達に任せて、俺達はその牢屋に向かってみた。  牢屋の中には人が一人分通れるほどの奥へと続く穴が開いており、皇帝がここから脱出したことがよく分かる。奥へと進んでいくと、やがて帝都の外に出た。出入り口は岩で巧妙に隠してあったので、ここに通路があると知らない人間には分からないだろう。 「こちらの方角からすると……ネイラー辺境伯の所に逃げたのでしょうね」  ここの出口は帝都からは北の方角になる。他の方角にいけば王国兵がいる可能性があるので、逃げるのなら彼女の言うとおり北になるのだろう。  北の方はスターク派の貴族が少なく、逆にエヴァーツ公爵派の貴族が多くなっている。大体は殺されたらしいのだが、今回の出兵に参加しなかった貴族もいるので、彼女が言った辺境伯もその一人なのだろう。 「その辺境伯領はそれなりの戦力があるのだろうか?」 「まさか。あちらは他国からの侵略が殆ど無いので、戦力も殆ど割かれていませんでした。今回の出兵に参加しなかったのも、戦力が殆ど無かったからです」 「そうか、帝王もそれが分かっていながら、本当に仕方なく逃げたのだろうな……」  彼女の言うとおりならばすぐにその辺境伯領も潰せるだろう。ただ俺の仕事は帝都の占領までだ。皇帝の捕縛は任務外なので、後は王国の方でやってもらうことにする。  帝都の入り口に戻ると、既に占領が終わっていたようだ。相変わらず平民達には何が起こっているのか理解出来ていないようだが、こちらが襲ってくることが無いので、ひとまず静観しているといった様子だ。  これで今回の任務は完了だ。王国軍の指揮官に後を任せて、俺や他の勇者はひとまず王都に戻ることとなっている。  オリンピアはここに残ると思っていたのだが、彼女は俺に付いてくると言い出した。 「魔導師団のことはどうするのだ。そのうち王国所属になるだろうが、師団長がどこかへ行っていいはずがないだろうに」 「大丈夫です。私はただの父の代理ですし、後のことは次代の当主になる弟に任せてきました。このために弟を帝都に呼び出しましたので」  まあ確かにグラン家の次代当主は彼女の弟になるのだが、まだ20にもなっていない若者だった気がする。そんな奴に後を任せてもいいのだろうか。少し悩んだが、俺の責任ではないので気にしないことにした。 「それにしても、何故わざわざ手間を掛けてまで王都に来るのだ?」 「もちろん、ご主人様の側室に入れてもらおうと……」 「は?」 「え?」  彼女の発言が上手く認識できず、馬鹿みたいな声を出してしまう。彼女も俺の反応が意外だったようで、同じような反応を返してきた。 「そんなことは一言も言った覚えが無いが……」 「そんな、この作戦が終わったなら褒美を下さると仰られたではありませんか!」 「それだけで側室に入れるなんて解釈は、普通はしないだろう……」  何ということだ、まさか彼女がそんなことを思っていたとは全く思わなかった。彼女の好意が忠誠心だけでは納まっていないのは分かっていたが、褒美を側室迎え入れることだと思うほどに目を曇らせていたとは。  彼女は俺の態度で拒否されたと分かってこの世の終わりのような表情を浮かべている。目からは涙が溢れて本格的に泣き出しそうだ。気のせいでなければ剣の柄にも手が掛かっている。 「な、何か他に欲しい褒美はないのか?」 「ならばせめて、奴隷としてでもいいですから、お傍において下さい……それすら無理なのだとしたら、もはやこの世に生きている意味はありません……」 「わ、分かった。メイドとしてならおいてやる。側室の話は俺の一存で決めるわけにはいかないからな」 「本当ですか!」  俺の返答に涙を止め、一瞬で笑顔となった。何となく騙されたような気がするが、騙された俺にも責任があるだろうと思い、無理やり納得することにした。まあメイドとしてなら問題ないだろう。 「あ、ヤード様、こんなところにいたのですか。アレク様達が探していましたよ」  声がした方を向くと、フェアリスがこちらへと近付いてきていた。彼女も今回の戦いでも回復などの後方支援を担当していたので、あまり会う機会が無かった。 「済まないな、帝都の占領は終わったのか?」 「そのようです。思ったよりも負傷者が少なくて良かったです」 「そうか、そういえば何の用事だ?」 「あ、はい、軍の一部を残して王都に帰還するそうなのでその準備をしておくように、とのことです」 「ああ、了解した」  準備といってもすることは無いのだが、帝都には王国軍を収容出来るほどの場所はないのですぐに出発するそうだ。フェアリスに促されて俺達は王国軍の下に向かおうとした。  しかし何かが引っかかる。帝王は何故わざわざ勝てる見込みもない味方の所へ逃げ込んだのだろうか。俺がそいつの立場ならば、まずはほとぼりが冷めるまで別の隠れ家に潜む。逃げ込む先がばれているなど話にもならない。  帝王がよほどの馬鹿でない限り、可能性は一つ。そこには王国の侵攻に対抗できるだけの何かがあるということだ。密かに虎の子の師団を隠していたとか、帝都にいる王国軍を薙ぎ払うことが出来る兵器があるとか、そういった類のものである可能性が高い。  しかしオリンピアもエヴァーツ公も、そういった物を魔帝国が準備していたとは報告していない。流石にあの二人の目を掻い潜って帝都にいる王国軍を倒すだけの戦力を保持しているとも思えない。  となるとやはり帝王は馬鹿だったのだろうか。あるいは突然の事態に思考停止したまま本能のままに動いているとか。もしくは、この世界のレベルではありえないと思うが、俺に匹敵するだけの術式を使う奴がいるとかだ。  そこまで考えて、とりあえずエヴァーツ公にもう一度話を聞いてみようと思い、フェアリスに断ってオリンピアにエヴァーツ公がいる場所まで案内してもらった。  エヴァーツ公は帝都での反乱に乗じて、グラン家の地下室に妻や娘共々放り込んであるということだった。反乱が終わった際に帝国内の他の貴族に対する見せしめとして使うために、誤って王国兵や他の者達に殺されないようにするためである。  部屋に入ると、俺が入ってきたことに気付いた女三人が近づいてきたが、これを無視してエヴァーツ公へと近寄る。奴は立て続けに起こる問題にすっかり疲労し、初めて会ったときのような覇気は感じられなくなっていた。 「エヴァーツ公爵、一つ聞きたい。帝王がネイラー辺境伯の領地へと向かったが、何か心当たりはあるか?」 「奴は私達の派閥ではなかった。私も何をしているのかは知らん」  微妙な言い方で返してくる奴にじれったさを感じ、 記憶閲覧 で直接情報を見ることにした。奴の言うとおり、ネイラー辺境伯に関することは殆ど無かった。ただ気になる点が一つあった。 「辺境伯領はあの『紅鱗』のいた場所に近いのか……ドラゴンの住む領域に近いということは、竜殺し達にも影響力があったと見ていいのだろう、違うか?」 「いや、その通りだ。レシアーナへ冒険者を向かわせたのは奴の提案だった。何人か子飼いの冒険者もいたようだ」 「となると、冒険者の戦力を当てにしているのか? だがそれでは流石に数が少なすぎる……竜殺しほど実力のある冒険者ならば話は別なのだが……」 「魔帝国で竜殺しを名乗っている者は10人もいない。それもレシアーナで半分以上がやられたので、生き残っている可能性があるのはアドリアナ、オーヴァン、それにシンクレアの3人だけだ」 「そうか……」  聞き覚えのある名前が出てきたが、そのうち一人は死んでいる。となると残りは多くとも2人、戦力的にはまだ全然足りない。しかし先ほど言われた名前のうち、もう一人もどこかで聞いたような名前だ。 「……オーヴァンというのはどういう人物だ?」 「さあ、私も顔は見たことが無い。魔法使いとしては一流で、竜殺しを名乗り始めた最初の一人だ。放浪癖があるとも聞いている」  放浪癖か、あの男も放浪癖があったようなことを言っていたので、疑いが強くなる。  ふと気になって、魔力探知を使ってみる。何故そうしたのかは分からないが、直感的に思ったのだ。  探ったのはエルの持つ魔道具の反応である。それはつい最近もエルの反応を感じ取った場所にあった。よく考えれば、そこは要塞のある辺りではないか。あれから全く動いていないということは、俺を騙してまでそこで何かをしているということだ。 (エル、お前、今何をしている?) (……やっと気付いてくれましたね。このまま放っておかれたらどうしようかと思っていたところです) (無駄口を叩くな。いいから今何をしているのかを答えろ) (丁度一人目が終わった所なので、今は何もしていませんよ。また後で二人目を取りに行きますが) (……ヴァンに何か吹き込まれたのか?) (まあ彼にも色々と言われましたが、これは私の意志ですよ)  やはりヴァンは冒険者のオーヴァンと同一人物と見てもよさそうだ。とにかく今はエルの暴走を止めなくては。急いで魔法陣を描き、転移でエルの待つ要塞へと向かった。 ============================================================ 039. 第39話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/39/ ============================================================ この話には残酷な描写が含まれています。 ============================================================ 040. 第40話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/40/ ============================================================ 本日1つ目の投稿です。この後少し時間をおいて次話投稿します。 ============================================================ 041. 第41話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/41/ ============================================================ 本日2つ目の投稿です。前の話を読んでいない方はご注意下さい。 一応最終話となります。 ============================================================ 042. 番外編・第1話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/42/ ============================================================ 思えばヤード様は不思議な方でした。前の世界では私の魔法の腕は素晴らしいと評価されていましたし、私もその評価に恥じないよう毎日の祈りも魔法の勉強も欠かさずやってきていたのです。  それなのに始めて会ったときからヤード様は見たことも無いような魔法を使われていました。頭の中に響くような声を聞いたとき、託宣が降りてきたのかと勘違いしたほどでした。  グルタ要塞に向かう馬車の中で思わず魔法について尋ねたときも、とても難しいことを仰っていたのでしょうが、魔法の知識には自信のあった私でも彼の言っていることの意味が全く分かりませんでした。  見たことも無いような現象にも詳しく、アレク様の持っていた魔法剣の隠された力も見抜いていました。  出会って間もない頃は、まるで聞けば何でも応えてくれる鏡のような人だと思っていました。もちろん物という意味ではなくて、それ程に多くの知識を持っているという意味です。  ただ、女性関係に関してはあまり分別のある方では無さそうでした。要塞へと出発する際にはソフィア様を泣かせていましたし、マルガレーテ様には嫌われていたそうです。旅の途中ではいきなりエルさんを連れてきたこともありました。  そんなヤード様ですが、レシアーナから帰ってきた際に、またエルフの女性を連れ帰ってきたそうです。教会の方々は彼を異端だと仰っています。私はそうは思いませんが、この国の教会では人間以外の他種族の方はあまりよく思われていないようです。  なのでエルフと付き合っているという噂を聞いたとき、私はヤード様に異端の疑いが掛かっていることをお知らせしました。私に出来ることといえばそれぐらいしかありませんでしたから。  ヤード様はそれ程焦っているようには見えませんでした。きっと何か策があるのだと思います。  ヤード様はフィルポット司教様のことについて尋ねてきました。確かあの司教様は数少ないヤード様の噂に否定的だった方だったはずなので、そのように伝えました。きっとヤード様はあの方に疑いを晴らすよう協力を願い出るのだと思います。  ヤード様の屋敷を出た後、私も微力ながら協力させて頂こうと思い、司教様の下へと向かいました。  教会の中は普段よりも騒がしいようでした。これもヤード様に関することなのでしょうか。もしそうだったとしたら大変です。教会が動き出す前に司教様にお話を通しておかなくては。  二階にある司教様のお部屋の前に着くと、いつもはいないはずの武装した方達がいました。不思議に思いつつもノックをして出かけていないかどうかを確かめたところ、返事が返ってきたので中に入りました。 「済みません、フィルポット司教様、協同司教のフェアリスです。お話があって参りました」 「どうぞ」  良かった、ちょうどご在室のようです。部屋の中に入ると、フィルポット司教様は椅子を勧めてくれたので、お礼を言って座らせてもらいました。 「それで、今日は何の用ですかな?」 「ヤード様の噂についてなのですが、あの噂はやはり誤解だと思います。彼は異端と呼ばれるような行いをする人ではありません。何とか彼の無実を証明する方法はありませんか?」  噂には否定的だった司教様ならば、今回の件に力を貸してくれるはず、そう思って言ったのですが、司教様は私の話を聞いてやれやれといった感じで首を振りました。 「彼に関しては、私の力を貸すことは出来かねますな。実際エルフを連れ歩いている所も目撃されていることだし、無実を主張するにはいささか行動が軽率だとは思いませんかな?」 「それは……」  司教様の返事に思わず言葉が詰まりました。エルさんは弟子だと信じるにしても、他にナタリアさんを連れ帰っているのは確かです。彼女の方が強引に付いてきたと聞きましたが、私はそれを証明出来るものを持っていません。 「それよりもフェアリス殿、いくら同じ勇者だからと言っても、どうして彼にそこまで肩入れをしているのですかな? はっきり申し上げると、教会はあなたのことも疑っていますぞ」 「そんな、私に疚しい事などありません。ヤード様の疑いを晴らしたいと思うのは、同じ召喚された勇者として当然の気持ちではありませんか?」 「そういった言い訳ならまた後で詳しく伺いましょう。おい、誰かいないか!」  司教様の言葉で外にいた方達が部屋の中へと入ってきました。そして私を取り囲み、私が動かないよう槍をこちらへと向けてきました。 「こ、これは一体どういうことなのですか!?」 「先ほども伝えましたが、あなたには異端と通じている疑いが掛かっております。異端に故意に肩入れするのも教会の教えでは許されていないことですぞ?」 「ですから、ヤード様は異端ではないと申し上げているのではありませんか!」 「そうやって弱者を庇う姿勢は立派なものですが、状況に合わせて立ち回るのも時には必要だと、そう私は思いますぞ? さて、あなたにはしばらくの間、教会にて謹慎をしてもらいます。連れて行け」 「待って下さい! 私もヤード様も異端などではないのです! 司教様、どうか信じて下さい!」  私の声を無視するかのように机へと戻って仕事を再開する司教様を見ながら、私は引きずられるように部屋を出されてました。  広い教会内を歩き、見たことも無い部屋の前に着きました。確かここは壁だったような気がしたのですが、私の記憶が間違っていたのでしょうか。  中に入ると、そこにはベッドと机しかない簡素な部屋でした。窓がなく明かりは蝋燭のみなので、室内は暗くてジメジメとした空気がします。  私を中に入れると部屋の扉が閉まりました。中から開けてみようと思いましたが、外側からも鍵が掛けられているようです。  こんな所に閉じ込められている間にも、教会の方々はヤード様を捕まえているかもしれません。静かで暗い室内のせいもあって、不安が押し寄せてきました。こんなことになるのならば、ヤード様に壁を壊せるような魔法の一つも習っておくべきでした。  少しして、司教様が部屋に入ってきました。お供を一人もつけていないので、お忍びでやってきたのかもしれません。 「フェアリス殿、異端に肩入れするという馬鹿な考えは改めましたか?」 「ヤード様は異端ではないと、何度も申し上げているはずです!」 「疑われるような行動をしているのが悪いのですな。エルフとの付き合いを止め、教徒として誰にも恥じない行いをすれば、自然と噂もなくなるでしょうが」 「ヤード様の信仰心は素晴らしいものです。本当に神を信じない者ならば、彼のように魔導師として優れた実力は持てないでしょう」  私が元いた世界でも、こちらの世界でも、ヤード様ほど素晴らしい魔法使いはいませんでした。祈りや詠唱すら無しに魔法を使えるということは、もはや彼は祈りすら不要なほどに神を信じているのだと思っています。 「異教の神官なのではないですかな? 実に憎たらしいことですが、奴らも魔法を使えますぞ。エルフとも仲が良いことですし、その可能性も考えられますぞ?」 「そ、そんなことはありません!」  司教様の言葉に、一瞬だけヤード様への信頼が薄れてしまいました。確かにヤード様がどのような神を信仰しているのかは聞いたことがありませんでした。  私がうろたえているのを見て、司教様は然もありなんといった風に頷いていました。 「まあ今のあなたが何を言おうと、誰も信じてくれはしないでしょうな。先に身の潔白を証明する方が先だと思うのですが?」 「私は神に誓って、嘘偽りを申したことはありません。私の信仰を疑うのなら、どうぞ好きなだけお調べになって下さい」 「言葉では何とでも言えますからな。ここは分かりやすい方法を使われるのがいいかと」 「どんな方法ですか?」 「簡単です。異端でないのならば、敬虔な教徒と婚姻を結ぶことが出来るはずです。もちろん徳の高い教徒であればあるほど説得力も増すでしょうな。つまりは私のような……」 「っ! 婚姻をそのような証明の手段に使うなどと、よくも言えたものですね!」  あまりにありえない提案に思わず怒鳴ってしまいました。これには司教様も驚いたのか、僅かに後ろに下がっています。しかしそんな理由での婚姻など人を馬鹿にしているとしか思えません。司教様の提案はとても受け入れることが出来ないものです。  それにいきなり婚姻を結べといわれた所で、お相手がいません。ぱっと思い浮かんだ人は勇者様三人でしたが、皆私とは少し年が離れていると思うので、恋愛対象と見做してはいないのではないでしょうか。  落ち着きを取り戻した私を見て、司教様も先ほどまでの余裕を取り戻しました。しかし手で汗を拭っているのが見えたので、私なんかの剣幕に押されたのが分かってしまいました。見た目の割にはあまり度胸がないようです。 「しかしですな、もはやそれしか方法は残されていませんぞ。このままでは身の潔白を証明するどころか、このまま一生幽閉されるか異端の罪で処刑されるかのどちらかでしょうな。意地を張らずとも良いのではありませんかな?」 「お断りします! 皆いつかは真実に気付くはずです! 司教様がそんな人だとは思ってもいませんでしたが、幻滅しました!」 「っ、し、失礼する!」  私の怒りが伝わったのか、司教様は再び怯んだように下がりながら部屋を出て行ってしまいました。もっと誠実な人かと思っていましたが、こんなことを言うとは思いもしませんでした。  再び扉が閉まり、部屋の中はまた薄暗い蝋燭の明かりのみとなってしまいました。今が昼か夜かも分かりません。  この部屋に閉じ込められている以上、今私に出来ることは何もないですが、せめてヤード様の無事を神に祈ることにします。  運ばれてきた食事を摂り、今が宵であることが分かりました。私がここに入ってから一日ほど経つようです。そんな時、頭の中に突如私を呼ぶ声が聞こえてきました。どうやらヤード様が魔法で話しかけてきているようです。  どうやら司教様に会いに来たようなので、もう疑いを晴らす方法を考え付いたのかもしれません。私などこんな場所に捕まってしまったというのに、流石はヤード様です。司教様は部屋に戻られているかもしれないと伝え、部屋の場所を、お教えしました。  少しして、またヤード様が頭の中に話しかけてきました。今度は先ほど司教様とお話したことを尋ねられましたので、精神的な疲れを感じつつも事実をお話しました。  ヤード様のお話では、司教様はまだ私のことを諦めてはいないようです。先ほどの執着心といい、あまり徳の高そうな人物ではないと思うのですが、どうして司教位にまで上がれたのでしょうか。  ヤード様とのお話が終わり、そろそろ眠気を感じてきました。ベッドに横になると、瞼が落ちてきました。あまり動いていないのでそれほど疲れてはいないはずなのですが。  そのままウトウトしていると、部屋の扉が開く音がしました。入ってきたのは司教様です。こんな時間にまたあの話をしに来たのでしょうか。 「司教様、こんな時間に女性の部屋に入るとは、感心しませんよ」 「起きていたのか……効かなかったのか……?」  私の言葉に返事を返さずにぶつぶつと独り言を呟いている姿は、いつもの司教様とは別人のような雰囲気を感じます。言いようのない恐怖を感じ、無意識に身を強張らせてしまいます。 「あの、どのようなご用件でしょうか?」 「用件? 用件は一つだ!」  司教様は叫び声と共に私に覆いかぶさってきました。咄嗟のことに身体が動かず、そのままベッドの上で押し倒され、両手を押さえられてしまいました。  司教様の目はまるで飢えた狼のような血走った目をしていました。こうして男の人に襲われるのは始めての経験で、司教様の獣のような視線に怯えた私は、恐怖と混乱で全く身体が動かせませんでした。 「大人しい娘だと思っていたが、私を拒むとは、とんだ跳ねっ返りのようだ。だがそういう娘を従順にさせるのも面白いだろう」 「な、何を言っているのですか!? 放してください、放して!」 「おお、こら、大人しくしておれ。あまり暴れると傷がつくかも知れんぞ?」  司教様は私の身体に手を這わせ、撫でるように動かしました。何とも言いがたい感触に身震いしながら抵抗していると、司教様が顔を近づけてきたので、私は唇を奪われないよう必死に顔を背けました。 「可愛い抵抗だな、それならばこちらを弄ってやろう」 「え? ひゃあぁああ!」  突然耳の穴に舌を差し込まれ、そのまま中を舌で弄られました。あまりのおぞましさに鳥肌が立ちましたが、それと同時に全身の力が抜けてしまい、いいように耳を舐められ続けました。 「フェアリス殿は耳が弱いのか。ほれほれ、もっと舐めてやろう」 「ひゃ、止めて下さいぃ……」  気持ち悪いはずなのに、どうしてか身体に力が入らず、司教様にされるがままに弄られ続け、とうとう全身の力が抜け切って抵抗するのを止めてしまいました。そんな私の様子を見て満足げな表情を浮かべた司教様は、私の服に手を掛けると、一気に引き裂いてしまいました。 「きゃあぁあああああ!」 「ほう、フェアリス殿の身体は想像以上に美しいな」  司教様は破れた服を剥ぎ取り、胸に顔を埋めてきました。生暖かい息と舌の這う感触が気持ち悪く、どうにか逃げ出そうと暴れましたが、私の力では司教様をどかすことも出来ませせん。  股の辺りにも何か熱いものが押し付けられているのを感じ、これから行われることに恐怖心しか覚えませんでした。 「誰か、誰か助けて下さい! ヤード様ぁ!」 「……この期に及んで、まだその名を口にするとは、そこまで私をコケにしたいのだな。これは調教のし甲斐がありそうだ」  先ほどヤード様とお話をしたせいで、おもわず彼の名前を呼んでしまいましたが、それが司教様の癇に障ったようです。私の恥ずかしい所に手を入れて、下着の上から撫でてきました。このまま司教様に貞操を奪われてしまうのでしょうか。  そのとき突然扉ごと壁が消え去り、その奥からヤード様の姿が現れました。しかし何だか影が薄いような、視界に入っているのに気を逸らすと気がつかなくなってしまうようなあやふやな存在感でした。  あまりにも突然の出来事に、私は司教様に襲われているのも忘れて、呆然とその光景を眺めていることしか出来ませんでした。司教様も同じ気持ちだったようで、ヤード様のことを呆けた表情で見ていました。  私達が見ている中、ヤード様が少し顔を顰めると、途端に司教様の身体から力が抜けて私に倒れこんできました。  ヤード様は司教様をどかし、私にローブを掛けてくださいました。そのとき初めて自分が助かったのだということを認識し、自然と涙が溢れてきました。 「や、ヤード様、有り難うございます……」 「礼なら後でしろ。誰かが来る前に急いでここを離れるぞ」 「は、はい」  司教様に何か魔法を使うと、珠が出てきました。それを掴んで地面に叩きつけると、粉々になった破片は消えてしまいました。一体何をやっているのでしょうか。  急げといった彼の不思議な行動を見守っていると、私の手を取って走り出しました。時間が時間ですので通路に人影は無く、時折人の姿が見えるのですが、結構な速さで走っているこちらに気がつかない様子でした。  そうして教会の外にまで出てきて、辺りに誰もいないことを確認したヤード様は、ようやく止まってくれました。  私もやっと助けてもらったという実感が湧いてきて、涙が溢れてくるのを堪えながらヤード様にお礼をしようと思ったのですが、その瞬間首筋に衝撃を感じ、そこで意識が途切れてしまいました。  気がつくと、私には毛布が掛けられていました。どうやら誰かが寝床にまで運んでくれたようです。ここがどこなのかを確認しようとしたとき、すぐ近くから誰かの声が聞こえ、こっそりとそちらの方を窺いました。  そこにはヤード様がメイドの女性と睦み合っている姿がありました。私の視線を感じたのか。こちらに顔を向けてきたので、慌てて顔を背けて寝ているフリをしました。ヤード様の視線はしばらくこちらに向いていたようでしたが、気付かれなかったでしょうか。 「ティア、入れて欲しかったら精一杯いやらしく強請ってみろ」 「はい……ご主人様の熱く滾っているその肉棒で、私のいやらしい雌穴を突いて、中を掻き回して下さい……」  二人の会話に、私の顔が一気に顔が赤くなったのが分かりました。そしてティアさんの押し殺した声とお二人の身体がぶつかる音が聞こえてきて、気になってちらちらと様子を確認してしまいました。  そうした後でよくよく考えてみると、私に非は無いのだから、寝ている人間の傍でそんなことをするなと怒るのはこちらの方ではないでしょうか。というか、私が襲われたのは知っているのに、すぐ傍で見せ付けるようにするのはあんまりではないでしょうか。  でも流石にこの状況で起き上がって抗議をする勇気はなく、私自身そういった行為に全く興味が無いわけではなかったので、お二人の姿を見て興奮してしまいました。 「くっ、ティア、そろそろ出すぞ!」 「はいっ、私の子宮にっ、熱い精液たっぷり注ぎこんでぇ!」 「だ、出すぞ、くぅっ!」 「あぁあああっ! ご主人様のが入ってきますぅ!」  次第に腰を打ち付けている速度が上がり、お二人の声にも余裕がなくなってきました。そしてティアさんが一際高い声を上げた後、お二人の動きが止まりました。どうやらこれで終わりのようです。  居心地の悪い状況から解放された安心感と、お二人に当てられて持て余した身体の僅かに残念な気持ちが入り混じって、なんとも言えない微妙な気持ちでした。  私がそう思っていると、お二人はいつの間にか動き始めたようです。今度はどちらも最初から声を出しています。私が起きる可能性を考えないのでしょうか。  もう一回し終わった後、ティアさんは部屋を出て行かれました。やっと静かな状態が戻ってきたのですが、先ほどまでの行為の音や声が耳に残っているのと、未だ部屋に漂う情事の残り香があるので、私の体の火照りは治まっていませんでした。  ヤード様はティアさんが出て行った後、こちらをじっと見ていました。もしかして次は私がやられてしまうのでしょうか。そうなった時のことを考えましたが、司教様の時にはあれほど嫌だったものが、ヤード様の時ではそれ程嫌なことには感じませんでした。  思えばヤード様は私をあそこから助け出してくれた恩人で、恥ずかしながら、助けも期待出来ないあの状況で私を助けに来てくれたことに、今まで感じたことの無いときめきを感じていたのです。  もし今、彼が私を抱こうとしても、抵抗出来ないかもしれません。いえ、きっと抵抗はしないでしょう。ふしだらな女と思われるかもしれませんが、この気持ちは初めてなのです。  私がそう覚悟して待っていると、なんとヤード様はそのまま寝てしまわれました。こんなのはあんまりです。  高まった欲求を発散しようと無意識に手が下へと伸びていきます。いけないことだとは分かっていますが、やり場のない気持ちを抑えられなかったのです。  指で触ると、既にそこは熱く湿っていました。割れ目に沿って指を動かしつつ、敏感な陰核を指で弄ります。そうするとそこから気持ちの良い波が全身に広がっていくような感覚を味わえます。  お二人の情事を思い出しながら刺激を続け、次第に余裕がなくなってきました。声を洩らさないよう気をつけているのですが、僅かな吐息の漏れが出てしまいます。  そして絶頂に達し、身体をピンと張ってその快感を味わいました。何かが出ている気もしましたが、そんなことが気にならないくらいには気持ちが良いものでした。そしてその心地よさのまま次第に睡魔が襲ってきて、抗えずに眠ってしまいました。  次の日、寝床に出来た染みを見て、恥ずかしさのあまり身を投げたくなりました。ここはどうやらヤード様の隠れ家のようですが、そんな場所でこんな失態を犯してしまうとは。  うろたえている私を見て、ヤード様は風呂と呼ばれる場所に行くよう言われました。そこはお湯がとめどなく流れる入れ物がある広い場所だったのですが、そこで用を足し、ティアさんに身体を洗ってもらいました。初めての経験でしたが、とても気持ちが良かったです。  部屋に戻るとヤード様は私の寝床を既に片付けていました。アレを見られたかと思うと、今すぐ先ほどの穴に飛び込みたくなりました。もうお嫁にはいけません。 ============================================================ 043. 番外編・第2話 https://novel18.syosetu.com/n5389bx/43/ ============================================================ ご主人様がお屋敷を購入なされてしばらくの時が経ちました。貴族の方々の中には、ご主人様が伯爵になった今でも準男爵の際に買ったお屋敷を使っていることに疑問を持っている者もいますが、中を見ればその理由にも納得がいくかと思います。  他の貴族屋敷とは違い、魔道具がそこかしこに設置されています。普通は公爵の方でさえ屋敷の明かりは蝋燭を使い、水は井戸から、暖房には暖炉を使い、湿らせた布で身体を拭いて香水で多少の臭いを誤魔化すといったような暮らしぶりの方が多いのですが、このお屋敷の場合には全て魔道具とご主人様のお作りになった素敵な道具で賄われています。  それだけではなく、ご主人様はメイドや使用人にまで魔道具の使用を許可しています。特に洗濯や掃除などにはご主人様のお作りになった道具のおかげで、劇的に作業効率が上がりました。  普通これだけの魔道具をお買い求めになった場合、並みの貴族であれば家が潰れ、上級貴族でも家が傾きかねないほどの金額になります。精霊石を用意することも含め、これを自作することが出来るというのは、それだけで一財産を築ける技能です。  私は何度かご主人様に魔道具の販売を提案してみましたが、返事はあまり良いものではありませんでした。何でも暮らしに困らない以上の金を稼ぐより、自作した魔道具の技術拡散を防ぎたいということでした。  他にも風呂と呼ばれる場所をお作りになって、決まった時間の間はそこを屋敷の人間に開放しています。始めは皆用途が分からずに戸惑っていたのですが、今では休憩時間中のメイド達で賑わっています。  このようにお屋敷の価値が計り知れないものになっているため、もっと上級の貴族街に屋敷を移そうとは思っていないようです。他の使用人やメイド達も、この設備が無くなるかもしれないので、他に移ろうと提案する者はおりません。  さらに使用人達の待遇もかなり良いものになっております。  貴族の屋敷で働くメイドには休憩時間など寝るぐらいの時間しかない者もいる中で、ここのお屋敷ではしっかりと休憩時間も作られています。それだけではなく、賄いもちゃんとしたものが出され、お給金も他の屋敷のメイドよりも貰っています。もちろん使用人も同じ待遇です。  ご主人様が言うには、労働環境を整えた方が労働する意欲も増すだろうということでしたが、全く持ってその通りだと思います。現にここのメイドを止めたがっている者は一人もいないどころか、新規のメイドが入ることにも危機感を覚える者がいるほどです。  ご主人様が伯爵に上がった際に、二人ほど欠員が出たので少し追加の人員を募集した所、定員を遥かに超える希望者が集まりました。使用人やメイド達の間では、ここのお屋敷の待遇はかなりの噂になっています。  この好待遇を逃さないように、屋敷の者達は皆一生懸命に働いております。まさにご主人様の思惑通りになっていると言えます。  ご主人様の意向でこのような待遇となっている分、使用人に選ばれた者達も人並み以上に仕事が出来る者を入れておりますが、そんな中でもいまいち使えない者はいます。  このお屋敷で働く人間の中で一番使えない者はルーシアです。彼女はこのお屋敷で最初から働いている人間の一人ですが、私が選んだのではなく、ご主人様の推薦です。  最初に会ったときはどこかで見たことがある顔だとは思いました。立ち振る舞いからして貴族の子女であることは分かりましたが、平民の服装をしていることから、家が没落したか、もしくは家を追い出されたかのどちらかだということも分かりました。  てっきりご主人様が妾か何かにするように連れてきたのだと思っていたのですが、メイドとして雇って欲しいと言われたときは驚きを隠せませんでした。もちろん身分の問題ではなく、単に仕事に関する技量の差を考えた上での驚きです。  本音では反対だったのですが、ご主人様が仰ったのならば逆らおうとも思わないので、仕方なく彼女をメイドの一人として雇いました。その後すぐに彼女の顔に刺青が入ったのを見て、やはり彼女で遊ぶ目的もあったのだと思っておりました。  彼女にも仕事を分担したはいいのですが、メイドとして最低限のことすら把握してないので大変でした。それなのに何故かご主人様には度々呼び出され、殆どエル様と同じ扱いを受けていたのが不思議でした。  あの頃の私は内心彼女に嫉妬していたのかもしれません。彼女が大切にされている理由が分かった頃には、彼女も仕事を覚えてどうにか一人前のメイドとして振舞えるようになり、私の彼女に対する感情も消えていました。  ソフィ様と結婚したにも拘らず、今もご主人様は私を愛していると仰ってくれますので、もうあのような嫉妬をすることもないでしょう。  寒さが和らぎ、冬もそろそろ終わりかという頃、所用で町へと出かけているときに面白いものを見つけました。私の元後輩、ロザリーです。彼女はディアン公爵家が没落した後すぐに姿をくらませていたのであの後どうなっていたのかは全く分かりませんでしたが、野垂れ死にだけは避けられたようです。  私の視線に気がついたのか、彼女もこちらの姿を見つけて近寄ってきました。着ている服はメイド服ではないので、今は別の仕事をしているのでしょうか。 「先輩、お久しぶりです」 「……私を裏切り者と罵っていたのに、やけに素直な態度ですね。何か悪い物でも食べましたか?」 「ち、違いますよ。あのときから人に逆らうと興奮しちゃって……こんな街中で、それはちょっと……」  そういえばご主人様は彼女にそんな催眠を掛けていました。まだ魔法の効果が解けていないのを見ると、ご主人様の魔法はかなり強力なものだったようです。  いつもはもっと煩かった彼女がここまで大人しくなっているのを見ると、自分の教育はなんだったのかと思いたくもなりますが、彼女をこうさせたのがご主人様である以上は仕方が無いことなのだと考えることにしました。 「そうですか……それはそうと、今は何をしているのですか?」  彼女は私の質問に困ったような顔をして俯いてしまいました。何か聞かれたくない職にでも就いたのでしょうか。彼女の技量では密偵などになれるわけが無いので、大方娼婦か何かそういった職にでも就いているのでしょう。 「あの、あまり人に自慢できる職ではないので……」  予想は当たったようです。改めて彼女をよく観察してみると、町の娘にしては少々肌の露出が多い服と、仄かに香水の匂いが漂っています。裕福な家でもない限り、町の娘が香水をつけることなどありませんから、娼婦というのも当たっていると思います。  一時とはいえ、仮にも公爵家で働かせてもらっていた者が何とも落ちぶれたものだとは思いましたが、これも全て元公爵側についた彼女が悪いのです。ご主人様に忠実なメイドとしてこちらについていれば、このような事態は避けられたはずですから。 「分かりました。足止めして済みませんでしたね」  昔は先輩として彼女の教育を担当したこともありましたが、今ではこうして出会わなければ思い出さなかった程度の関係となっているので、もはや聞きたいこともありません。挨拶をして別れようとすると、彼女が私の腕を掴んできました。 「何か?」 「あの、先輩はまだあの勇者様の所でメイドとして働いているのでしょうか?」 「ええ、もちろんです。しかし、それがどうかしましたか?」  彼女は何かいいたいことがあるのか、悩んでいるような顔をしていましたが、私の返事を聞いて覚悟が決まったのか、俯きがちだった顔を上げました。 「先輩! 私も勇者様の所で働かせてもらえるよう口添えをしてもらえませんか?」 「駄目です」  私の即答にガクッと肩を落とした彼女ですが、諦めが悪いのですぐさま姿勢を正してこちらに詰め寄ってきました。 「お願いします、今では勇者様にしたことは凄く反省しています! もう二度と勇者様に害を成すことはしませんから!」 「それ以前の問題です。あなたはメイドとしては全く仕事が出来ませんでしたから」 「なっ、そ、それはそうですが……」  彼女は身も蓋も無い私の返答に言葉を詰まらせてしまいました。私は彼女の様子を見て、話は終わりとばかりに首を振って立ち去ろうとしましたが、彼女が腕を離してくれないので少し不機嫌そうな表情を作りました。 「放しなさい。たとえ昔はあなたの教育係だったとはいえ、今はもう違うのです。あなたの仕事を斡旋する義理など、今の私にはないのですよ?」 「お願いします、もう男に媚を売って日々を暮らすのは嫌なんです!」  あなたにはお似合いの末路です、そう言い返したくなるのを堪え、彼女に向き直りました。彼女も真剣な表情をしていましたが、今そこまでの覚悟ができるのならば、もっと前にしておけばよかったのだと思います。  彼女にはまだ甘えがあるようなので、元先輩として最後に一つ忠告をしてあげることにします。 「何度言われようが答えは否です。元公爵に仕えていたので貴族の屋敷で雇われる可能性は低いでしょうが、裕福な商人の家ならばメイドとして仕事が見つかったはずです。それなのにまともな仕事に就けないのは、あなたがこれまで自堕落に暮らしてきた報いです」 「そんな……」 「今からでも遅くありません。給仕でも仕出し女でも何でもして、もっと技術を付けなさい。既に屋敷にはあなたのように使えない者がいるのですから、これ以上負担を増やすことは出来ません」 「……」 「もういいでしょうか? 私もこうして長々と話しているほど暇ではないのです」  彼女の腕を振り払い、目的の物を買いに歩き出しました。後ろからは彼女の恨めしげな視線が来ているのを感じますが、私は決して振り返らずにそのまま歩き去りました。  買い物を終えて屋敷に戻り、ご主人様に頼まれていた物を渡しました。ご主人様は相変わらず魔法の研究をしているようで、今も机に向かって複雑な文字を書いていたところでした。 「済まないな、わざわざ町にまで買いに行かせて」 「ご主人様の望みなら迷惑なわけがありません。いつでもお申し付け下さい」  私は何時ものようにそう返しましたが、ご主人様は私が何時もと違う様子だったのを鋭敏に感じたのか、作業を止めて私の方を振り向かれました。 「何か不機嫌そうだが、どうかしたのか?」 「いえ、何でもありません……」 「そうか?」  ご主人様は納得のいかない顔をされていましたが、私の返事をとりあえずは信じてもらえたようです。ロザリーが見せた別れ際の態度が、私の癇に障っただけのことなのですが、ご主人様に気づかれてしまうほど態度に出てしまっていたようです。  しかし、ふと彼女のことをご主人様が覚えて心配されていたらどうしようかという気持ちが芽生え、ご主人様の意思を確認してみたいという気持ちが出てきてしまいました。 「……あの、ロザリーという人物に心当たりはありますか?」 「ん? ロザリー……誰だったか」  ご主人様は彼女のことを忘れているようで、必死に心当たりを思い出そうとしておりました。やはり彼女はご主人様にとって、取るに足らない存在だったということです。ご主人様は意外なところで同情心を感じられるので、彼女のことも気にかかっているかもしれないと思ったのですが、どうやら杞憂だったようです。 「いえ、こちらの勘違いでした」 「そうか、それならいいんだが」  ご主人様は怪訝な表情をしつつも机の方に向かい、研究を再開しようとしていました。しかし、ふと動きを止め、何かを探すように机の上を漁り始め、とある箱を取り出しました。 「丁度良い、お前に渡しておきたい物があったのだ」 「私にですか? 何でしょうか?」  箱を受け取り開くと、中には指輪が一つ入っていました。宝石の代わりに精霊石がはまっていますが、全体の意匠はとても素晴らしい物でした。 「あの、これは……?」 「ソフィにも許しをもらったからな。まだ公には出来ないが、婚約指輪だ」  ご主人様の言葉を聞いて、私の胸はいっぱいになってしまいました。ご主人様は指輪を手に取り、私の指にはめて下さいました。それは私の指の大きさにぴたりとはまっており、私のために作られた物だということがよく分かりました。  私は思わずご主人様に抱きついてしまいましたが、ご主人様は少し慌てながらも私を優しく抱きしめ返してくれました。 「あ、有り難うございます……」  私が今にも泣き出しそうな声で言うと、ご主人様は優しく笑って私の頭を撫でて下さいました。あまりの嬉しさで思わず涙がこぼれてしまいましたが、それを拭う余裕も無いほどに嬉しさでいっぱいでした。 「あまり見せびらかすなよ? ソフィが妊娠するまでは待ってくれ」 「はいっ」  ご主人様に精一杯の笑顔で笑い返すと、ご主人様は意外そうな顔をした後、にこりと笑って私に口付けをして下さいました。そのまましばらくは仕事を忘れ、ご主人様との甘いひと時を楽しみました。  今日の夜はご主人様に精一杯尽くそうと思います。